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2016年01月12日

酪農学園大学長解任無効訴訟、訴状

訴状(2016年1月8日)

請求の趣旨

1 原告は、被告の酪農学園大学学長の地位にあることを確認する。
2 被告は原告に対し、金 5,125,000 円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払い済みに至るまで年 5 分の割合による金員を支払え
3 被告は原告に対し、2017 年年 3 月まで、毎月末日限り金 1,025,000 円を支 払え
4 訴訟費用は被告の負担とする
との判決並びに 2 項について仮執行の宣言を求める。

請求の原因

1原告は酪農学園大学の学長に選出された

 原告は、農学博士であり、畜産学及び農業工学を専門分野とする学者である。 原告は、1995 年 4 月から被告の酪農学園大学酪農学部の教授に就任し、教育、
研究に従事していた。
 また、原告は 2013 年 4 月から酪農学園大学の教職員による選挙によって学長 に選出され、以後学長に就任していた。
 2013 年当時の被告の学長選挙手続きは旧「酪農学園大学学長候補者選定手続規程」(甲第 1 号証、左側欄)に規定されており、学内に選挙管理委員会が設置され(同規程 3 条)、教授会及び事務職会の選挙が行われたものである(同規程5 条)。原告は、この手続きに則って学長に就任した。当時の学長の任期は 4 年 間であったから、2017 年 3 月まで学長としての地位を有している。
 なお、この学長の選挙手続きは 2015 年 3 月に改正され、教職員の選挙に代わ って理事会が設置する「学長候補者選考委員会」が選定して理事長が任命する手 続きに変更された(甲 1、中央欄)。

2被告による学長の「解任」の経緯緯

 被告は、2015 年 7 月 14 日、原告に対して学長を解任したと通知した。その経 緯は大要以下のとおりである。

(1)札幌地裁における判決を根拠の一つとする
 2015 年 5 月 27 日、被告理事長は、被告評議員会において「5 月 11 日の札幌 地裁での判決において干場学長、荒木評議委員の不法行為が成立したことで、寄 付行為に違反があった場合には、学長、評議員の解任が規定されていることから、 評議員会終了後の理事会において協議することになった」と報告された。
 この判決は、原告他 5 名が被告の常務理事であった日下雅順から提訴され事件で、原告ら 5 名が頒布した文書が日下雅順の名誉を棄損する文言があるとして連帯して金 330 万円を支払えとする訴えであった。これに対して、札幌地方裁判所は、連帯して金 6 万円を支払うように命じたものの現在札幌高裁に係 属中である。理事長の上記発言はこの判決をさしている。
 理事長は、民事上の紛争も「法令の規定に違反」して学長の解任理由になるこ とを明言したことになる。

(2)教職員説明会(7月3日)での出来事
 理事長は 2015 年 7 月 3 日開催の教職員説明会において、6 月 30 日に開かれた理事会での会議内容を説明した。理事長は、この教職員説明会において、6 月 30 日の「理事会で協議した結果、学長には退いてもらうことが決まった」と告げた。 同日の説明では、学長解任の理由は、上記の名誉棄損事件での判決の他に、2015 年の監査所見において原告の学長としての執行能力に疑問が呈されたこと、教員採用の遅延、入学者の確保に関して被告に莫大な損害を与えた、等が述べられ た。

(3) 7月 14 日開催の理事会での原告解任決議
 2015 年 7 月 14 日、被告理事会において甲第 2 号証が配布され、この理事会に おいて原告の学長解任が決議された。理事長は同日原告に対し学長を解任した 旨を通知した。

3 学長解任の違法性

 原告に対する上記学長解任は、甲 2 においても具体的事実が不明な上に、当 該理事長(あるいは理事ら)が考える事実が、職務上の義務違反、あるいは法令 等の規定に違反するとの判断が全く不分明である。これらの事実関係は、被告か ら詳細な事実が明らかにされた時点で反論をする予定であり、ここでは理事会 が決議した際の学長解任理由が事実に基づかない解任であることを指摘するに とどめておく。
 本訴状においては、上記の学長解任理由が事実に基づかない、という主張のほ かに、寄附行為における手続上、学長解任の手続きがないにもかかわらず、2015 年 3 月に理事会において「学校法人酪農学園寄附行為施行細則」なるものを改 正して、学長解任手続きを新設し、この新設した施行細則によって原告をして学 長の解任に至らしめた、という点を中心にその違法性を主張するものである。

(1)寄付行為における学長の地位
 学校法人である被告において、寄附行為はその存立の基礎となる規定である (甲第 3 号証)。この寄附行為において、学長に関する規定は以下のとおりであ る。
ア 7 条 1 項(1)において、理事の資格者として、酪農学園大学長が規定されて いる。
イ 13 条 1 項において、役員の任期として 3 年とされているところ、括弧書きで、7 条 1 項 1 号の学長は除くとされている。
ウ 15 条 1 項において、役員の解任が規定されているところ、この解任される
 役員には、7 条 1 項 1 号に規定される学長は除かれている。 以上から、寄附行為上、学長は理事という役員になりつつも、任期は通常の理事とは異なる上に、理事の解任規定も学長には及ばないこととなっている(ただ し、さらにその後学長任期についても他の役員と同じとする施行細則の変更が あった)。したがって、寄附行為では、学長の解任については認めていないこと になる。

(2)本件における学長解任手続き
 寄附行為上は、学長の解任が認められていないにもかかわらず本件において被告が原告を解任した手続きは、甲第 2 号証本文のとおり、寄附行為施行細則 3条 1 項に基づいて解任をしたとされている。
 寄附行為施行細則(以下「施行細則」という)は 2015 年 3 月に理事会によっ て改正され、それまで存在しなかった学長の解任手続き、解任の要件等について、 3 条として新しく学長解任規定が新設された。施行細則 3 条によると、以下の一 つに該当すれば学長解任理由になるとされている。
ア 法令の規定又は寄附行為に違反したとき、イ 心身の故障にため職務の 執行に堪えないとき、ウ 職務上の義務に違反したとき、エ 学長たるにふさわ しくない非行があったとき、が解任理由とされ、前記のとおり、民事上の紛争も「法令違反」に該当するとされたのである。
 甲第 2 号証、2 項の(3)のとおり、本件においては、これらア、ウ及びエに該 当するとされて、評議員会の意見を聞いたうえで、理事会の議決によって解任さ れた。

(3)学長解任は違法行為である

 本件において、原告を学長から解任した手続きは、以下のとおり明らかに違法である。
ア 寄付行為に違反する施行細則に基づく解任
 上記のように、寄附行為においては学長の解任は認められていない。
 甲 4 の施行細則 1 条は、「寄附行為 47 条の規定に基づき」「必要な事項を定める」としており、甲 3 の寄附行為 47 条は、「この寄附行為の施行についての細則 その他・・・学校の運営に関し必要な事項」についての定めを施行細則に委任し ているに過ぎない。
 つまり、施行細則は文字通り寄附行為を施行する際に、その具体的な細目を定 めるものにすぎないのであるから、寄附行為がそもそも認めてない事項につい て施行細則で定めることはできない。特に、学長の解任という重大な人事につい て、寄附行為が認めていない以上、施行細則で定めることはできない。これは寄 附行為が施行細則に委任している範囲を逸脱するものである。したがって、寄附 行為に違反する施行細則に基づく本件解任は違法であることを免れない。
 特に、後記するように学長の解任という大学の人事に関する内容は憲法 23 条 の定める大学の自治によってその自主性、自律性が保障されており、理事会によ って一方的に学長が解任される手続きを容認することは憲法 23 条の保障する学 問の自由、大学の自治に違反するものである。したがって、新設された施行細則 3 条自身が無効であり、かつこの 3 条に基づく原告の学長解任自体が、憲法 23 条に違反し公序良俗に反することが著しいのである。

イ 寄付行為と施行細則では改正手続きが違う
 もし被告が、寄附行為に認められていない学長の解任手続きを定めようと考えるのであれば寄附行為そのものの変更を行うべきであり、施行細則をもって新たに解任手続き定め、その手続きによって本件解任をなした被告の行為は、寄 附行為の脱法として違法無効である。
 そもそも、寄附行為でなんら定めていない事項について、新たに何らかの手続を新設しようとする場合には、寄附行為そのものを改正することが考えられる(ただし、その改正が公序良俗に反することはできないのは当然である)。 甲第 3 号証の 44 条 1 項は、寄附行為の変更手続きを定めているが、「理事現員の 3 分の 2 以上の議決」を得て、「文部科学大臣の認可」を受けなければならない。つまり寄附行為を変更しようとする場合には厳格な手続きが必要である。これに対して、施行細則の変更は、甲第 4 号証の 14 条で、理事会において決定することができるところ、理事会の議決は、甲 3 の 17 条 9 項によって、「理事現員の 3 分の 2 以上の出席」で、出席理事の過半数で議決できる(同条 11 項) ことになっている。寄附行為の変更と異なり比較的容易な手続きで施行細則は 変更することができる。
 つまり、本来、学長の解任手続きの新設は、寄附行為の変更事項として行うべ きものであるところ、被告はあえて施行細則の変更という安易な手続きで学長 の解任手続きを新設し、原告を解任したのであり、脱法行為によって本件解任が なされたのである。なお、繰り返すが次項で述べる憲法に違反する寄附行為の変 更は公序良俗に反して無効となることは言うまでもない。

(4)本件の学長解任は、憲法23条に違反する行為である
 憲法 23 条は、学問の自由を保障するために、大学の自治を認めている。「この 自治は、とくに大学の教授その他の研究者の人事に関して認められ、大学の学長、 教授その他の研究者が大学の自主的判断に基づいて選任される」(最高裁ポポロ 事件判決)。この最高裁判決は国立大学(当時)についての判決であるが、私立 学校も公の性質をもち、(教育基本法 6 条 1 項)、大学は、「学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造 し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するもの」 (同法 7 条 1 項)とされ、同条 2 項では、「大学については、自主性、自律性その 他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない」と規定さ れていることからも、私立大学においても大学の自治が保障されていると解さ れている。そして、この大学の自治の重要な内容として人事の自治があるのであ る。
 ところで、私立大学の場合、大学の自治は誰との関係における自治であるのか が問題である。大学の自治が学問の自由を守るための保障であるならば、各教員、 教授等を雇用する私立大学の設置者、経営者、理事者の介入に対する保障でなけ ればならないのは当然である。これらの者からの不当な介入によって学問の自 由が侵害されてはならないからである。つまり、本来的に大学研究者、学長等の 人事が、理事者等によって、適正な手続きによらず、一方的な介入によって左右 される事態は、憲法が保障する大学の自治の保障を侵害するものなのである。
 本件では、教職員の選挙によって学長として選出された原告が、理事会が寄附 行為に反して理事会によって新設した施行細則に基づいて、適正な手続きによ らず解任されるという、まさに大学の学長の人事に関する自治が理事会の一方 的な介入によって侵害されたものであって、本件解任は憲法 23 条に違反する重 大な違法行為なのである。これは明らかに公序良俗に反する違法、無効な解任で しかない。

4原告の報酬
 原原告の報酬は、月額 1,025,000 円である(甲第 5 号証)。被告は原告に対し、2015 年 7 月分までの報酬を支払ったが、それ以降は解任を理由として支払っていない。この未払い報酬額は、2015 年 12 月まで、合計金 5,125,000 円である。
 また、原告は、任期が満了する 2017 年 3 月分まで、毎月末日限り金 1,025,000 円の報酬を受け取る権利がある。

5 結論
 以上から、原告は被告に対し、第1に原告が被告の酪農学園大学学長の地位にあることの確認、第2に 2015 年における受けるべき報酬額金 5,125,000 円とこれに対する訴状送達の日の翌日から支払い済みに至るまで民法所定の年 5 分の割合による遅延損害金、第 3 に学長の任期が満了する 2017 年 3 月分までの間、毎月末日限り月額金 1,025,000 円の報酬の支払いを求めるものである。


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