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2016年02月07日

全大教、声明「法と事実を枉(ま)げる高裁、地裁の不当判決に抗議し、徹底審理と公正な判断、また国立大学法人労働者の労使自治確立を改めて強く求める」

全大教

(声明)
法と事実を枉(ま)げる高裁、地裁の不当判決に抗議し、徹底審理と公正な判断、また国立大学法人労働者の労使自治確立を改めて強く求める

全国大学高専教職員組合中央執行委員会

2016年2月4日

 2012 年途中から約2年間にわたって、国立大学、高専、大学共同利用機関で働く教職員の賃金の一方的な減額が行われた。この賃下げが政府の国立大学法人制度、独 立行政法人制度の枠を超えた法的根拠なき要請と無法な運営費交付金の減額、これらに安易に追従する法人側の対応によって引き起こされた不当な措置であった こと、もともと例外的に認められるにすぎない就業規則変更による労働条件不利益変更の要件を充たさない違法無効な措置であったこと、震災復興財源捻出を賃 下げ実施及び運営費交付金減額の理由としながら、賃下げ実施後の各法人及び政府の財政運営はその説明を裏切るものであったことは、これまでに発表した声明 等(*1)でも明らかにしてきたし、全大教が全国闘争として取り組んでいる全国11の未払い賃金請求訴訟(*2)のたたかいの中で、ますます現実に明らかになってきている。

 ところがこの間、裁判所は国立大学法人等に求められる自主的・自律的な経営や労使自治による労働条件決定の原則を事実上骨抜きにするかのような誤った法解 釈と事実認定を通じて、違法無効な賃下げを行った法人側、ひいてはそのような措置を行わせた政府を救済する判断を下してきた。
 
 昨年後半に出された二つの第一審判決(高エネルギー加速器研究機構事件2015年7月17日水戸地裁土浦支部判決、富山大学事件2015年12月24日富山地裁判決)の うち、前者では法人財政に占める運営費交付金の割合が高いことを理由に政府の要請に反する措置は困難であったとして、また逆に法人財政に占める運営費交付 金の割合が相対的に低い後者では、中期目標・中期計画に基づく施設整備の必要性や剰余金の使途の拘束性などを著しく過大に見積もることを通じて、賃金の不 利益変更を行う「高度の必要性」を肯定した。いずれの判決も、それ以前に出された3判決(国立高専機構事件2015年1月21日東京地裁判決、福岡教育大学事件2015年1月28日福岡地裁判決、京都大学事件2015年5月7日京都地裁判決)と 同じく、単に労働者の生活と権利を軽く扱うだけでなく、各法人が自主的な経営努力と健全な労使自治に基づいてその設置目的を果たすことを求めた国立大学法 人等の制度趣旨を否定しかねない点でも不当な判決である。また、高エネ研事件の判決については、労働協約の拘束力の軽視、賃下げに並行して行われた退職金 減額の不利益の甚大さや退職給与の持つ賃金の後払い的性質の軽視とい、点でも看過しえない不当性をもつ。
 
 我々は、先行する訴訟の判断や国立大学法人等と政府との関係への通俗的な理解に寄りかかったこれらの地裁判決に抗議するとともに、なお続行する第一審訴訟で各地の地方裁判所が裁判官の独立と良心にかけて、公正な判断をすることを強く求めるものである。
 
 上に挙げた5つの第一審での不当判決に対しては、いずれも原告団がこれを不服として控訴し、審理は高等裁判所に移された。そのうち2つの事件について、原 告側からの証人申請の却下、新たな主張立証のための弁論続行の申入れの却下、さらに弁論再開申立の却下など一方的かつ強権的な訴訟指揮がされる中で、控訴 審判決が出されている(福岡教育大学事件2015年11月30日福岡高裁判決、国立高専機構事件2016年1月13日東京高裁判決)。

 これら判決の内容は、上に述べたような審理を尽くそうとしない訴訟指揮のあり方が判断にそのまま現われたものであった。第一審判決をほぼ丸ごと肯定し、原 告側の控訴審での追加的な主張・立証――原判決での法人の中期計画に関する事実認定の誤り、法人財務諸表等に基づけば賃下げ回避は可能であったとの専門家 の意見、原判決は労働法令の従来の解釈を逸脱するものであるとの専門家の意見など――を原判決と同様な論理立てで切り捨てるのみで、良くも悪くも控訴審独 自の判断はほとんど見当たらない。つまり、それぞれの事件の第一審判決の不当性がそのまま維持されたものであった。
 
 我々は、裁判を受ける権利を十分保障せず、控訴審の審理を一方的に打ち切って第一審の不当な判断を擁護したこれら高裁判決に抗議するとともに、現在続行中 の京都大、高エネ研の各控訴審訴訟、これから開始される富山大の控訴審訴訟で、裁判所が徹底して審理を尽くし、第一審の不当な判断を覆すことを強く求める ものである。

 我々が給与臨時減額措置に対する未払い賃金請求訴訟を全国闘争として取り組む目的の根本は、さきの声明でも述べた非公務員化、法人化された国立大学法人等 の運営と労使関係を支える次のような当然の基本的原理を確認し、かつ大学・高等教育の現場、労使関係の現場においてこれらを現実のものにすることにある。「国 立大学法人等は、高等教育を行い学術研究を推進するというその設置の目的を果たすべく、国の中期目標・中期計画を通じた関与や事業実施に必要な財政措置を 受けながらもみずから自律的な経営判断を行う当事者能力をそなえた、独立した経営体である。そこで働く労働者の権利は、労働基準法、労働契約法等の一般労 働法制のもとで適切な保護を受けるものであり、その中での労働条件の決定は労使間の自治によって行われなければならない。国立大学法人等のこうした自主 性・自律性、そのもとでの労使自治、また高等教育機関に保障されるべき自治の精神に基づいて、独立行政法人通則法など関係法令の規定が解釈され、そのもと での政府の措置が規律されなければならない。」 全大教は、これらの基本的原理の確認の上に立って国立大学、高専、大学共同利用機関でらくすべての労働者の生活と権利を擁護するために、法廷の中でも、またそれぞれの職場や地域社会など法廷の外でも、たたかいを継続する決意を表明する。


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