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2016年02月15日

大学 地方私大、相次ぎ公立化 定員割れで経営難 地元自治体が「救済」

■毎日新聞東京版(2016年2月9日)

 若者の流出を食い止めようと、定員割れで経営難に陥った地方の私立大学を、地元の自治体が公立大学法人化する動きが各地で起きている。私大より学費は下がり、志願者は大幅に増えるという。しかし「大学間の公正な競争を妨げる」と懸念する声もある。今年4月から公立大学法人をスタートさせる2自治体の例から、自治体と大学のあり方を考える。

●国の交付金で学費半減

 山口県山陽小野田市の「山口東京理科大」は工学部の単科大学。地元自治体の協力で学校法人東京理科大(東京)が1987年に設立した短大が前身だ。95年に4年制大学となった。近年は定員割れが慢性化し、累積赤字は約90億円に上っていた。

 市成長戦略室によると、2014年7月に理科大側が「市の公立大学法人にできないか。駄目な場合は廃校も視野に入れている」と申し入れてきた。公立大学法人になると国から学生数に応じた交付金を受けられる。市の試算では、一番厳しく見積もっても公立化後の9年間は赤字にならないとの結果が出た。

 県内には国立の山口大に工学部があることもあり、市は単科大学のままでは公立化する必要性が弱いと判断し、県内初の薬学部新設を打ち出した。白井博文市長は「公立大学法人への選択こそ『地方創生』に役立つ。学費が半減し、県内唯一の薬学部が誕生すれば、進路の選択肢を増やし、市の産業力強化や定住促進につながる」(昨年1月の市民向けメッセージ)と強調。直後の昨年の入試(15年度入学者選抜)は受験生が定員200人の7倍を超えたという。市の担当者は「今年(16年度入学者選抜)は市長が高校を回り、テレビCMでもPRし、昨年以上の志願者が集まっている。卒業生の6割に県内に就職してもらうことを目指す」と話す。

●若者人口確保するため

 京都府福知山市の成美大学も今年4月から公立化され、「福知山公立大学」に改称する。

 成美大は学校法人成美学園が2000年に設置した京都創成大学が前身。福知山市も設置時から27億円を負担して支援し、経営情報学部のみの単独学部で運営してきた。

 開学当時は定員195人に106人が入学したが、近年は入学者が50人を下回るように。赤字決算が続き、複数の重大な問題があるとして、文部科学省の認証機関「大学基準協会」から「不適合」の判定を受けていた。学園や市民団体などの要望を受け、市が有識者会議を設置。その報告書は市内での4年制大学の存在意義を認めて公立化も一つの選択肢と判断したが、「抜本的な改革をしなければ公立化しても成功しないのではないか」との懸念も示した。

 公立化を決めた市は、市民説明会で「大学は若者人口を確保する最も効果的な装置で、地方公立大学だからこそ学生が集まる」と理解を呼び掛けた。

 新大学は「1学部、定員50人」を踏襲し、4月から学部名を「地域経営学部」に改称する。市大学政策課の担当者は「一年でも早く定員を200人に増やしたい」と話す。今年の入試では推薦入試の志願者が約6倍になるなど、定員を上回る志願者が集まっているという。

●補助金の国公立偏在に批判も

 文科省によると、これまでに計5私大が公立法人化された。このほか、新潟産業大(新潟県柏崎市)、長野大(長野県上田市)、旭川大(北海道旭川市)、諏訪東京理科大(長野県茅野市)などが自治体に公立化を要望している。

 こうした動きに批判的な声もある。約410大学が加盟する「日本私立大学協会」の小出秀文常務理事は「公立化して志願者が増えるのは学費が安くなるから。安易に公立大学を増やせば、努力している周辺の私立大の経営を圧迫する。国の補助が国公立大に偏っている現状や、公立大の存在意義を問う時にきている」と指摘する。【高木香奈】

私立から公立大学法人になった大学

大学名    所在地       開学年  公立化年

高知工科   高知県香美市など  1997 2009

静岡文化芸術 浜松市       2000 2010

名桜     沖縄県名護市    1994 2010

公立鳥取環境 鳥取市       2001 2012

長岡造形   新潟県長岡市    1994 2014

山口東京理科 山口県山陽小野田市 1995 2016(予定)

福知山公立  京都府福知山市   2000 2016(予定)


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