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2016年03月14日

酪農学園大学、損害賠償等請求事件・控訴審判決,干場前学長など6名の教員の逆転勝訴 日下雅順元常務理事の完全敗訴

酪農大学はやっぱり素晴らしい
 ∟●札幌高裁・判決文全文(2016年3月11日)

祝 逆転勝訴!

今回の酪農学園大学に係わる損害賠償等請求控訴、同附帯控訴事件(二審)の判決の要約は,以下の通り。

2016.3.11 損害賠償等請求控訴、同附帯控訴事件(二審)の判決の要約


主文
1 本件控訴に基づき,原判決中控訴人兼付帯被控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分につき、被控訴人兼付帯控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 本件付帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人兼付帯控訴人の負担とする。

注意)控訴人兼付帯被控訴人とは6名の前・現評議員,被控訴人兼付帯控訴人とは日下氏のこと。

判決内容の要旨としては,
1.今回の事件のもととなった,A教授への日下氏の事情聴取において,A教授をことさら非難し,畏怖させるような一方的なものであった事 実,および被控訴人が「お前は首だ」といった事実について,事実と信じる相当の理由があると裁判所が判断した。

2.損害賠償の主因である,名誉毀損の故意または過失は上記の理由により成立しない。
3.評議員が出した文書については,①単なる憶測ではない,②配布先が学内にとどまる,③作成者が明記されている,以上の点から評議員として の正当な行為であり,したがって不法行為は成立しない。
4.被控訴人の請求はいずれも棄却すべきところ,一審はそうでなかったので, 一審のうち控訴人らを敗訴とした部分は取り消し,また被控訴人が 請求した部分については,すべて棄却。
5.付帯控訴(日下氏が要求した330万+αの慰謝料と,全教職員への謝罪文配布など)についてはすべて却下。
6.訴訟諸費用については,すべて日下氏負担。
以上

[見解]
これまで,理事会は単なる外部の争いであるが,不法行為等があれば厳正に対処するとしてきた。
今回の高裁判決は不法行為については,一切認められないとの判断であり,理事会における前学長の解任決議事由が崩れることとなった。

「解説」
酪農学園大学元常務理事・日下雅順による同大学学長,教員に対する訴訟事件

1.裁判の経過

(1) 裁判の基本的性格
 学校法人酪農学園の常務理事が,教授会選出の評議員6名に対して,「名誉毀損」を理由に謝罪と慰謝料を求めた事件。北海道私大教連は,学校法人トップによる特定教員への「スラップ訴訟」とも表現している。なぜなら,学校法人の常務理事が,同法人の理事である現役の学長及び評議員会の教員メンバー5人に対して「名誉毀損」で訴えるようなことは,一般にはあり得ないからである。しかも,一旦両者には「和解」があったにも拘わらず,3年経って突然訴訟になったのである。したがって,この事件は,提訴の意図(目的)から判断するに,単に「名誉毀損」の存否そのものが問題ではなかったことは明らかである。

(2) 札幌地裁
(原告)日下雅順(学校法人酪農学園・前常務理事,現在公益財団法人酪農学園育英会常務理事)
    代理人弁護士は,同法人の法律顧問,尾崎英雄
(被告)干場信司前学長を含む大学(教学サイド)から選出された教員・評議員6名

2013年9月31日,提訴(慰謝料300万円と謝罪等を請求)
2015年5月11日 不当判決(慰謝料5万円等で,原告の訴えを認めた)

(3) 札幌高裁
2015年5月25日 控訴
2016年3月11日 判決
名誉毀損に当たらないと判事し,干場学長等の教員評議員は逆転勝訴した。

2.事件の概要

 この事件は,学校法人酪農学園の常務理事(当時)であった日下雅順が,干場信司学長(当時)及び教学側選出の教員評議員5名に対して,評議員会で配布した文書,及び同一内容の文書が添付されたメールを酪農学園大学及び同短期大学部の教員に送信したことについて,「名誉を毀損された」と主張し,慰謝料300万円及び謝罪文の配布を求めて札幌地裁に提訴した事件である。

 この訴訟事件そのものについては,以下の『財界さっぽろ』(2015年5月号)で取り上げられたことがある。参照されたい。
http://university.main.jp/blog/bunsyo/201505zaikaisapporo.pdf

 この事件は,元北海道副知事・麻田信二が2007年に学校法人酪農学園の理事長に就任して以降,今日まで進められてきた専断的学園支配体制構築(理事長・常務理事の任期廃止,学長,学群長の公選制度の廃止など)のプロセスに位置づく訴訟事件である。実際,理事長の麻田信二は本件地裁判決(2015年5月11日)で,被告側が敗訴したことを理由に(すなわち,干場学長が常務理事の「名誉を毀損した」ということを理由に)干場信司学長を解任をした。

 今回の「名誉毀損」事件が,学長解任事件及び理事会の専断体制の構築とどう絡んで推移したかは,以下のように一連の出来事を年表にするとよく理解できる。麻田理事長は,これまで,マスコミ等対しても,当該訴訟問題は「個人と個人の争い」(「財界さっぽろ」2015年5月号)との見解を示してきた。しかし,①日下氏は麻田理事長の就任と同時に常務理事に昇格したこと,②また,日下氏が常務理事を降りて以降現在に至るも学園の関連組織である「酪農育英会」(7億円余の奨学資金を運用している)の常務理事の役職にあり,麻田理事長もその役員のひとりであること,③発端から3年もたって突然「名誉毀損」問題を持ち出し提訴してきたこと,④学校法人の顧問弁護士自らが,大学を3年前に退職した日下氏の代理人弁護士を担当し続けてきた事実(これは極めて不自然である),⑤さらに待っていたかように地裁判決の直後,任期の途上であった干場学長に学長職の「辞職」を「勧告」し,さらに理事会を開催して強引に学長を解任した事実などから判断して,理事長と被控訴人・日下雅順が一体となり,当該事件を利用して下記に示されるような理事会専断体制をつくりあげてきたことは明らかだと思われる。

2007年
 元北海道副知事の麻田信二が学校法人酪農学園の理事長に就任。

2009年
 大学名変更問題,旅費不正請求処分問題等が発生
 干場信司前学長(当時大学院研究科長)は教授会選出の評議員7名の1人として行動。

2010年
 4月 干場氏を含む評議員の教授6名が,「旅費不正請求処分」問題に関する文書「酪農学園の三愛精神を憂う」を配布。同文書内で,批判を受けたと感じた常務理事・日下雅順が抗議文を配布。教授会はこの常務理事の文書に対し,謝罪と内容の一部撤回を要求する決議をあげた。
 5月 学内評議会懇談会で理事長が「自粛要請」,教授会と常務理事の争いは沈静化。
 6月 日下常務理事,任期満了で退任。

2013年
 4月 干場信司氏が,理事会依リの対立候補者を僅差で破り,学長に就任。
 6月 日下雅順(元常務)が,3年の期間をおいて,突然,干場学長ら6名に対して「名誉毀損」を理由に慰謝料を求める「通知書」を送付
 6月30日 日下雅順(元常務)は慰謝料340万円を求め名誉毀損で札幌地裁に提訴。

2014年
 4月 理事会は寄付行為等検討委員会を設置。
 10月 全学教授会は,理事長と常務理事の任期を廃止する寄付行為改正案(第1回目)について反対決議をあげた。また,教授会構成員の87%による反対署名を麻田理事長宛に提出。
 11月 理事会は教授会の反対と評議員会からの慎重審議の要求をはねつけ寄付行為改正案を決定。
 12月 全学教授会は,上記理事会決定を批判する決議案を採決。

2015年
 1月 理事会 第二回目の寄附行為を改定する答申案(学長,学群長,研究科長の選挙制度を廃するなど)の提出。
 2月 全学教授会は,上記答申の反対決議案を採択。
 3月 全学教授会は,上記答申への継続審議を要求する声明書を決議。
 3月25日 理事会・評議員会は,上記答申に基づく寄附行為改定を決定。
 5月11日 「名誉毀損」事件の地裁判決。
 判決内容は,名誉毀損を容認,慰謝料6万円,訴訟費用の95%は原告負担,謝罪文の提示は必要ない
 5月25日 「名誉毀損」事件について,札幌高裁に控訴。
 5月25日 理事長が干場学長に,口頭で辞職勧告。示された理由は,「財界さっぽろ」5月号の記事と名誉毀損の地裁での成立など。
 7月14日 理事会は学長の解任を決定。

(出所)「学長解任に関する経緯」(特別講演会「酪農学園大学学長解任事件とその背景を考える」配布資料)に基づき一部加筆

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