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2016年06月14日

東北大学3200名雇い止め通告の概要

首都圏大学非常勤講師組合・速報
 ∟●東北大学 3200 名雇い止め通告の概要(記者会見の質疑を踏まえ一部修正)

東北大学3200名雇い止め通告の概要

(記者会見の質疑を踏まえ一部修正)


○ 2016年6月6日 記者会見資料(PDF)

http://yahoo.jp/box/oSb8uC


【教職員の構成】

正職員4686名、非正規5771名。非正規教職員が多数。
非正規の内訳は、特定有期職員(有期契約の常勤職員)1621名、再雇用職員122名、準職員(フルタイム)1721名、時間雇用職員(パート)2307名。
*2015年5月1日現在、人数は東北大職組2015年度定期大会議案による。

無期転換される予定の非正規職員約400人
(准職員や時間雇用職員のうち法人化以前から勤務している人など)
雇い止の対象となりうる非正規教職員3243人
(准職員1493人、時間雇用職員1750人)

就業規則では非正規の職員と教員とが一括されているので、非常勤講師を含む。

時間雇用職員の職種(事務補佐員、技術補佐員、技能補佐員、臨時用務員、リサーチ・アシスタント、ティーチング・アシスタント、特別教育研究教員、教育研究支援者、産学連携研究員、研究支援者、科学技術振興研究員、事務補佐員(科学技術振興)、技術補佐員(科学技術振興)、リサーチ・アシスタント(科学技術振興)、厚生科研費研究員、事務補佐員(厚生科研費)、技術補佐員(厚生科研費)、技能補佐員(厚生科研費)、寄附講座教員、寄附研究部門教員、実務家教員(教授または准教授)、非常勤講師、サイエンス・エンジェル、医員、医員(研修医)、スチューデント・ラーニング・アドバイザー、グローバルキャンパスサポーター、アドミニストレイティブ・アシスタント(以上、就業規則掲載の別表より引用)。

部局推薦の「無期転換候補者」の数は、不明だが、ごく少数と推測しうる。

【経過】

○2012年
雇用の安定のため労働契約法改正、有期契約の労働者が5年以上継続勤務した場合、無期転換申込権が生じることに。

○2013年4月1日
改正労働契約法施行
(この日から5年を超えて継続勤務した場合、無期転換申込権が生じるようになった)。
この時点では、東北大学に5年上限はまだ存在していない。

この時点では、1年ごとの更新で3年上限とされていたが、実際には5年を超える人が40%、3年以上が半分以上いると見込まれ状態で、厳密な一律の上限は存在しなかった(2014年8月6日東北大職組団交記録より)。

○2014年1月
部局長連絡会議に東北大学は、「改正労働契約法を踏まえた対応方針案の概要」を提出。「准職員と時間雇用職員について、通算契約期間の上限は原則として5年(研究開発力強化法による労働契約法の特例の対象となるものについては10年)以内とする」との記載。

○2014年2月20日
大学は、東北大職組(専任中心の組合)に対して、「今後、時間雇用職員就業規則は、通算契約期間は5年以内とするという改正を予定している」と回答。

その後、就業規則の変更前に、当該の非正規労働者に対して具体的な説明はなく、その意見を聞くどころか、職組との労使協議さえされた形跡がほとんど見当たらない。労働者過半数代表の選出も行われたどうか不明。また、労基署に提出した就業規則に過半数代表の意見書が付いていたかどうかも不明。

○2014年4月1日
関連する就業規則が改訂され、「准職員と時間雇用職員について、通算契約期間の上限は原則として5年(研究開発力強化法による労働契約法の特例の対象となるものについては10年)以内とする」された。つまり、改正労働契約法が施行されてから1年後に、後出しで就業規則を改正し、原則として5年上限が設定され、1年間遡及して2013年4月1日からカウントされることになったことになる。

○2016年1月25日
東北大職組との団交で、大学は「1980年(昭和55年)7月以前採用の准職員、法人化前採用の時間雇用職員」について「雇用の更新限度がない」と整理されていることを明確に周知することを確認(確認書は2月18日付)。

○2016年2月16日
東北大当局「准職員・時間雇用職員の無期転換者の選考について」を作成。

①法人化以前から勤務している元々雇用上限のない非正規職員(約400名)は、引き続き更新の限度なしとされた。

②法人化後に勤務した非正規職員(約3200名)については、2013年4月1日からカウントして原則5年上限で、雇い止めすると通告した。

③例外として、部局推薦で「無期転換候補者」となる基準は、「現在各部署に配置されている事務一般職員に替わり同程度の職務を担当させた際に、これと同等、あるいは同等以上の成果を出すと見込まれる者」であることとされた。

○2016年3月31日
雇用条件通知書に雇い止めの時期を記載。

○2016年3月22日?4月6日
無期転換に関する説明会を開催し、説明の文書配布。

○2016年4月22日
職組がポスター作製「希望する人全員を無期雇用に!」

○2016年4月26日
首都圏大学非常勤講師組合と東北非正規教職員組合が共同で団交要求。

○2016年5月
説明会を踏まえた東北大当局の質問と回答が公表される。

○同 5月31日
首都圏大学非常勤講師組合ブログに「3200名雇い止め問題」の情報拡散開始。


【東北大の5年上限の問題点】


東北大当局は、「無期転換制度の活用」と称して、大部分の非正規教職員を雇い止めにし、正規職員と「同等あるいは同等以上」という無理な基準でごく少数の非正規職員のみを「無期転換候補者」としようとしているが、これは、5年以上継続勤務した労働者全員に無期転換申込権を認めた改正労働契約法第18条の趣旨(雇用の安定)に反している。

2012年7月25日の衆議院厚生労働委員会で示された政府解釈によれば、改正労働契約法第18条は「雇用の安定を図るという趣旨で設けたもの」(金子政府参考人)であり、「今回の無期転換ルールの趣旨からしても、5年のところで雇い止めが起きてしまうと、この狙いとは全く違うことになってしまいます」(小宮山厚生労働大臣)とされている。東北大学の就業規則は、まさに「5年のところで雇い止め」にして「雇用期間が無期転換の時期を迎える前に雇い止めをする」ものであり改正法の趣旨と「全く違う」行為である。
(第180回国会 厚生労働委員会 第15号(平成24年7月25日(水曜日))議事録より)


5年上限の就業規則は、その作成の手続きにも疑問がある。
たとえば、パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)第7条では「事業主は、短時間労働者に係る事項について就業規則を作成し、又は変更しようとするときは、当該事業所において雇用する短時間労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めるものとする」とされているが、今回の5年上限の就業規則は、非正規教職員の意見を全く聞かずに作成されている。
また、最近の最高裁判決(山梨県民信用組合事件・第二小判2016年2月19日)では、「労働条件を不利に変更する場合は、〔…〕、変更によってどんな不利益があるかなどを、雇用主から具体的に説明する必要がある」とされているが、5年上限の就業規則の制定の際には、事前の具体的な説明や意見聴取は行われていない。


早稲田大学の島田陽一副総長(労働法)は、改正労働契約法の第18条について「本条の施行時期〔2013年3月31日以前〕に有期労働契約の終期〔雇用上限〕を定めることができないと、この猶予期間〔制度整備の準備を含む猶予〕の意義が失われる」(『ジュリスト』2012年12月号)と述べ、5年上限を付ける場合には、少なくとも2013年3月31日よりも前でなければならないという趣旨の見解を示している。実際、早稲田大学は、非常勤講師に5年上限を付けるために、2013年の2月に労働者過半数代表を選出し、3月中に労働基準監督署に意見書を付けた就業規則を労基署に提出している。

ところが、東北大学では、改正労働契約法が施行された2013年4月1日の時点では、明確な上限がなかったにもかかわらず、無期転換を恐れて、2014年1月の部局長連絡会議に「改正労働法を踏まえた対応方針案の概要」が提出され、2014年4月1日に就業規則を変更し、厳格な一律5年上限を決めている。

したがって、後出しで5年上限を設けたという点では、東北大学は早稲田大学よりもはるかに悪質であり、無期転換を逃れるための脱法行為である疑いは、早稲田大学以上に濃厚である。


就業規則の変更は、2014年4月1日であるから、5年上限のカウントの開始は、それ以降でなければならない。ところが、東北大学は、1年間さかのぼって、2013年4月1日からカウントするとしており、一方的な不利益変更であるだけでなく、無期転換を逃れるための不利益変更の遡及であり、違法である。


東北大を含め、一部の大学は、「法〔労働契約法〕改正により、無期雇用の可能性が広がりました。しかし、基盤的経費が削減された大学にはその要請にこたえる余力はなく」(「学術研究懇談会(RU11)」の平成25年5月の提言)などと言って、財政難を理由に法律を無視することを示唆してきた。しかし、改正労働契約法第18条は、「別段の定めがない限り、申し込み時点の有期労働契約と同一の条件」としており、人件費が増えるわけではないので、財政難は口実にさえならない。

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東北大学では、非正規職員数が正規職員よりも多いと言われおり、非正規職員の大多数を雇い止めにした場合、職場が大混乱に陥る。それだけでなく、非常勤講師の雇用の不安定化を進めた場合、今でさえ「博士課程の進学数・率が低下し」、「望ましい能力を持つ人材が博士課程を目指していない」(前述の「RU11」の提言)というのに、ますます研究者が育たなくなることは明らかである。


大学の公式ホームページには、「東北大学は、被災地域の中心にある総合大学として、復興に全力を傾けていく歴史的使命があります」と書かれている。しかし、必要もないのに3200名を雇用不安にさらすことは、「復興に全力を傾けていく歴史的使命」に反するのではないだろうか。


最近の調査によれば、民間の営利企業でも、労働契約法の5年ルールによる2018年の無期転換に備えて、パートや契約社員を、無期契約に変える動きが目立っている(2016年3月11日『朝日新聞』参照)。また、2015年7月のJILPTの調査によれば、「有期契約が更新を含めて通算5年を超えないように運用していく」企業がわずか6.0%(フルタイム有期契約労働者)および5.8%(パートタイム有期契約労働者)しかないのに対して、「通算5年を超える有期契約労働者から申し込みがなされた段階で無期契約に転換」という企業が45.4%(フルタイム有期契約労働者)および50.8%(パートタイム有期契約労働者)であり、「有期契約労働者の適性を見ながら5年を超える前に無期契約にしていく」という企業も19.6%(フルタイム有期契約労働者)および11.1%(パートタイム有期契約労働者)ある。

さらに、大学関係でも、早稲田大学をはじめ、日大、慶応大、明大、法政大、千葉大、一橋大、琉球大など、全国のほとんどの大学が、組合との交渉の結果、非常勤講師に関しては5年上限を撤回し、将来の無期転換を認めている。

有期契約の職員に関しても、徳島大学と信州大学が無期転換を認めている。それ以外にも、国立高等専門学校機構(51校)の就業規則では、「非常勤教職員」の「雇用期間」が5年を超えた場合、労働契約法第18条の規定に基づき、当該非常勤教職員からの申し出により、「雇用期間の定めない雇用」(無期雇用)へ転換するものとする(第13章第54条)と明記されている。

以上のように、財政的に「余力」があるかどうかには全くかかわりなく、多数の企業や教育機関が法令順守の努力をしている。このことに東北大学も学ぶべきである。

<会見概要は以上>

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