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2016年06月14日

岡山大学の研究不正と解雇無効決定-不正な科学者は誰だ?-

アゴラ

岡山大学の研究不正と解雇無効決定-不正な科学者は誰だ?-

2016年06月10日 06:00

筒井 冨美

大学に「最高学府~Fランク大」があるように、科学雑誌にもランクがある。大学ランクを示す数値が偏差値ならば、科学雑誌ランクを示すのがインパクトファクター(Impact Factor, 以下IF)である。ざっくりいうと、「その雑誌に掲載された論文が、どのぐらい他の論文で引用されたか」というのを数値化したものであり、一般人ならば「IF>30の雑誌に掲載≒スゴい発見」と理解しておけばよいだろう…「偏差値>70の大学を卒業≒エリート」みたいなものである。ちなみに、STAP騒動で有名になったNature誌はIF=41である。また、この数字は研究者の業績の目安でもある。私自身はIF=1~6の雑誌に5回の掲載経験があり、合計IF=12である。

 現在、日本で最も医師のフリーランス化が進行している診療科は麻酔科だが、教授たちには不評らしい。「自分が上司の靴をせっせと舐めて教授になったら、自分の靴を舐めるはずの部下がドンドン辞めてゆく」のは、面白くないのだろう。2009年、日本麻酔科学会理事長(当時)の森田潔教授は、学会ニュースレターで「モラルの喪失と感じさせる案件」としてフリーランス医師を公然と非難した。それは、「理事長の遠吠え」として業界では話題になった。というのも、森田氏が筆頭著書の英文論文は2本で、合計IF=6…(私を含む)多数のフリーランス医師に研究業績で負けており、下手すると大学院生にすら負けるレベルだったからである。インターネットの発達は、研究者の業績を数分間で丸裸にする。教授やら学会幹部の中には「エラそうにしてるけど、実はめぼしい研究業績がない」=「腕や研究よりも、政治力や年功序列で教授になった人材」がソコソコ存在することがバレるようになった。

 そもそも、「大学医局で10~20年間修業→独立開業」というのは、医者としてはごくありふれたキャリアパスであり、眼科や内科の学会トップがそれを非難することはない。また、日本麻酔科学会は学術団体であり、学問・研究・人材育成などを行う団体である。学会員が非正規雇用に転じると「モラルの喪失」と責めるのは、学術団体のやることではない。部下がどんどん辞めるからといって、辞めた人間を非難するだけで、辞めた理由を分析して問題点を改善しなければ、さらに部下が辞めるだけのことだ。

 2011年、日本麻酔科学会理事長だった森田教授は、岡山大学の学長になった。「論文二本で教授になる方法」とか「インパクトファクター6で学長になった僕」といったハウツー本でも書けば、かなり売れるんじゃないだろうか。2012年、同大学薬学部の教授2名が「論文31本の捏造疑惑」というかなり大規模な研究不正を告発し、調査が行われた。森田学長は「異なる画像を誤って掲載しただけ」という、どこかで聞いたような釈明とともに「不正はなかった」と結論づけた。2014年に、森田学長は「パワハラ行為があった」として告発者2名を停職処分とし、2015年にそのまま解雇した。橋下元大阪市長もビックリの強引な国家公務員解雇劇だったが、関係者に小保方晴子氏のようなビジュアル系人材がいなかったせいか、世間からはあまり注目されなかった。

 事件は法廷闘争となり、2016年6月6日に岡山地裁は「解雇無効と給与保全の仮処分」命令を下した。世間は「都知事の釈明記者会見」で大騒ぎだったせいか、これまたあまり注目されずに終わった。森田学長は大学ホームページで「本学の正当性を主張」しているが、炎上騒ぎも無いようだ。

 ところで、森田氏の論文の一つは2002年の「不整脈原性右室異形成2例に対するフォンタン手術の周術期管理」だが、「フォンタン手術」の麻酔管理とはトップクラスに高難度で、これがこなせる麻酔科専門医は1%未満である。ゆえに、こういうハイリスク症例が得意な高スキル人材は、この分野の教育講演や学会シンポジウムや医学書執筆などを頼まれることが多いはずだ…が、ネット検索しても森田氏が2002年前後にそういう学術活動をした形跡はなく…他人に書かせた論文を横取り(=ギフト・オーサーシップという研究不正行為)した可能性が高い。という訳で、解雇された元教授と関係者は、当時の麻酔台帳などを調べて「森田氏が本当にフォンタン手術などの高難度心臓手術に関与していたか」を確認すると、興味深いデータが得られるのではないだろうか。(一部、再訂正しました)

画像は岡山大学ホームページより

筒井冨美

フリーランス麻酔科医、医学博士

1966年生まれ。フリーランス麻酔科医。地方の非医師家庭に生まれ、某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、2012年から、「ドクターX~外科医・大門未知子~」「医師たちの恋愛事情」など医療ドラマの制作協力に携わる。2013年から、東洋経済オンライン「ノマドドクターは見た! 」で論壇デビューし、執筆活動も行う。近著の「フリーランス女医が教える 「名医」と「迷医」の見分け方」では、STAP騒動や岡山大研究不正を「オバサン系リケジョ」として分析している。

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