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2017年01月18日

明治学院大学事件、盗聴される授業 検閲される教科書

■寄川条路「盗聴される大学の授業」

相手に知られることなく無断で会話や電話を録音する「秘密録音」が社会に急速に広がっている。「クローズアップ現代」で特集された「広がる〈秘密録音〉社会」が、いまでは、会社や家庭を超えて学校にまで入ってきた。

大学の授業も例外ではない。熱心な学生が復習のために授業を録音するのではない。休んだ学生のために録音するのでもない。そうではなく、教授が何を話しているのかをチェックするために、大学が授業を録音するのだ。

大学では、教室にこっそり忍び込んで、学生に気づかれないように授業を録音して、教員を処分するための証拠に仕立て上げる。録音資料は本人のいないところで使用し、だれが録音したのかはわからないように隠しとおす。

先生たちは、自分の授業が録音され、ほかの先生たちに聞かれているのではないかと、おびえながら授業を進めていく。教員同士の信頼関係はくずれ、そこに学生たちも巻き込まれていく。

特定秘密保護法に反対して声を上げた学生たちがいた。安全保障法案に反対して国会を包囲した学生たちがいた。「シールズ」が誕生した、まさに同じ大学で、授業が盗聴され、録音資料が使い回されている。

大学の講義を盗聴しても、秘密録音しても、録音テープをかってに使用しても、何とも思わない大学教授の集団が、体制に順応し、組織を守り、規則に従い、国家に奉仕する、そうした模範的な青年を作り上げていく。

標的とされるのはまずは思想系の教員で、哲学や倫理学を担当する教員が大学から排除される。空いたポストに実務経験者が学長推薦で採用され、就職のための教育を施す。

実務教育に馴らされた学生たちは、飼育されて去勢され、りっぱな大人となって社会へ送り出されていく。異様な光景を見た若い先生は別の大学に移っていき、ベテランの先生はうつ病で辞めていく。こころの病で休んでいる先生は大学にも多い。

かつて、授業の盗聴をめぐって裁判があった。録音資料をもとに教員を解雇した学校は違法ではないと主張し、解雇された教員は違法だと主張した。裁判所の判決は、教員の同意なく授業を録音することは適切な手段ではなく、そのようなことをすれば、「教育の自由の空気」が失われ、「教員の授業における自由および自主性」も損なわれるから、不当な支配に当たるというものだった。

まっとうな判決だが、ことは法律の問題だけではないだろう。

授業を盗聴しても秘密録音しても、録音資料を無断で使用しても、まったくかまわないと開き直る大学人もいる。だが、信頼関係を確立すべき教育の場では、授業を隠れて録音するようなことはやめるべきだ。

いつだれがどこで自分の声を録音しているのかわからない。大学のキャンパスからは、雑談や世間話をする声が消えてしまった。教室とは盗聴とか秘密録音とかをするところではなく、安心して教員と学生が自由に議論のできる場でなければならない。

寄川条路

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