研究者の地位と権利を守るための全国的ネットワークをつくろう!

2017年03月07日

公益通報者の教員解雇 県警OB使った常葉学園の「危機管理」

大学オンブズマン
∟●公益通報者の教員解雇 県警OB使った常葉学園の「危機管理」

 大学から幼稚園まで14校を運営。約1万1000人が学び年15億円の利益をあげる静岡最大の学校法人常葉学園(とこはがくえん・木宮健二理事長)が、補助金不正の内部通報者解雇で揺れている。
 解雇されたのは、常葉大学短期大学部で社会学を教えていた准教授のMさん(43)だ。
 Mさんは、学園が、実際には講義をしていないK教授が講義したことにして、私学助成金の補助金を不正受給していることに気づいた。「私が問題を指摘し、不正受給のための書類は作れないと言ったら、パワハラを受けたのです」とMさん。
 「パワハラ」した、一人は、不正受給の張本人のK教授だ。「多数の教職員の面前で、『お前はクズ』などとの叱責を受け、うつ病になってしまいました。そこでハラスメント対策委員会に助けを求めたのです」(Mさん)。
 Mさんは、研究室の前に、県警の連絡先を記したハラスメント防止啓発ポスターを貼り出し、学園側にも掲示を依頼する。すると、危機管理担当者のO総務課長補佐が研究室にやってきた。
 暴力団対策などを担当し、学園に天下った県警OBのO氏は「暴力団と政治家、公務員を専門にやってきただもんで、顔は利く」「親分たちがみんな電話してくる」と暴力団との付き合いを明言。 Mさんが静岡労働局に行った際も同行し、自分が勤める学園を告発すれば「組織を全体に敵に回しますよ」などと述べた。

【県警OBが「圧力」】
 告発をつぶすための脅しではないか。そう感じたMさんは、O課長補佐とともに、O氏を差し向けた責任者として木宮理事長らを「強要罪」の疑いで告訴する。静岡地検は告訴を受理するが、不起訴処分となった。常葉学園は「(補助金不正問題を)もみ消すという意図は全くない」(木宮岳志常務理事、静岡朝日テレビ2月2日放送)と説明する。
 Mさんの通報を受け、学園は補助金不正を認めたが、告訴が「学園の秩序を乱した」とされ、Mさんは12年8月、懲戒解雇。暴力団との関係を公言したO氏は、逆に「昇格」した。
 ある学園関係者は、「不祥事対応に当たるOさんは、暴力団との関係もよく口にしてましたね」。O氏自身、裁判所に出した陳述書で、「ヤクザの話をすることにはあまり抵抗がなく……」と認めている。
 Mさんが起こした裁判で、静岡地裁は1月20日、Mさんの准教授としての地位を認める判決を言い渡した。関口剛弘裁判長は判決で、懲戒解雇は補助金不正の公益通報に対する報復とまではいえないが、その「問題が大きくなるのを防ぐために性急に行った」とした。
dogli学園側は控訴するとともに、Mさんに新たに普通解雇を言い渡し、争いは長期化の様相を見せている。

【Mさんへの支援の輪】
 「圧力をかけられるほど、屈するわけにはいかないという気持ちが強くなる」と話すMさんへの支援は、静岡県内外に広がりつつある。
 県警OBを使って「危機管理」する学園。特異な体質の源をたどると、2代目理事長・木宮和彦(故人)に行きつく。
 「木宮氏は自民党参議院議員も務め、学園職員も「選挙に動員」されたものです。許認可や自治体からの土地所得で、政治力は学園経営にも大いに役立った」と事情に詳しい学園関係者は振り返る。
 木宮氏の葬儀には、中曽根康弘元首相や安倍首相の供花もあり、政界人脈の広さをうかがわせた。
 常葉学園の名は「万葉集」に収められた歌に因み、霜雪に耐えて青い葉を茂らせる橘(たちばな)のように、困難に克ち高みを目指す人間の育成が建学の精神だ。
 政治家や暴力団との関係を振りかざして「真実の声」をつぶそうとする学園に、創立者は草葉の影で泣いている。(ジャーナリスト・北健一)
 メモ:公益通報者・・労働者が勤務先などの違法や不正を、勤務先や監督官庁、マスコミなどに知らせること。現在でも通報者への解雇や不利益取り扱いは禁止されているが、公益通報者への報復は跡を絶たない。通報者の権利がより守られる方向での改革が急務だ。


|