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2017年04月01日

宮崎大ハラスメント訴訟、「無実」確定も現職戻れず

■「週刊金曜日」2017年3月31日号より転載

宮崎大ハラスメント訴訟、「無実」確定も現職戻れず

中嶋啓明

 在職中に学生に対しハラスメント行為を行なったとする大学側の調査結果は事実無根だとして,元准教授の男性が大学を訴えていた裁判で,男性の「無実」がこのほど,最高裁で確定した。

 男性は,宮崎大学で准教授を務めていた早野慎吾さん。

 宮崎大学では2012年2月,早野さんが指導教員を務めていた女子学生が精神疾患で自殺した。大学側は,その調査の過程で早野さんが,別の女子学生の半裸写真を卒業論文に掲載させるなど,学生にさまざまなハラスメント行為を行なっていたことが発覚したと主張。懲戒解雇処分に相当するとして,退職金の不支給を決め,同年6月,原田宏理事(当時)らが記者会見して公表した。早野さんが宮崎大を退職し,都留文科大学の教授として勤務し始めた直後だった。調査結果は報道されて,都留文科大はそれだけを理由に早野さんを解雇。このため早野さんは,退職金の支給を求めて宮崎大を相手に裁判を起こした。

 裁判で早野さんは,大学の調査は早野さんに悪意を抱いていた学生らの虚偽の証言にのみ依拠して行なわれたと主張。だが,一審宮崎地裁は14年11月,大学側の主張をそのままなぞり,早野さんの請求を退けた。これに対し,福岡高裁宮崎支部は15年10月,一転して大学側の主張をことごとく否定。男子学生の"証言"は伝聞証拠であり,信用性に乏しいと指摘した上で「女子学生を半裸状態にしたり,半裸状態の女子学生の写真撮影をし,卒業論文に掲載させたりしたことを認めるべき証拠はない」などと早野さんの主張をほぼ全面的に認め,16年10月,最高裁で確定した。

 早野さんによると「無実」を主張したり大学側に不利な証言をしたりする学生には意図的に事情を聴かないなど,大学の態度は初めに結論ありきだった。大学は男子学生の虚偽証言のまま,あたかも早野さんに自殺の原因があったかのように,一方的に女子学生の家族に告げた。大学は調査の過程で,女子学生から避けられていたと男子学生が自認していたことを把握していたにもかかわらずだ。

 宮崎大総務課の坂元博巳課長は私の取材に「残念だが,本学の主張は認められなかった。最高裁判決を踏まえ,当時の調査を検証する準備を進めている。資料をそろえ,早ければ年度内には第三者に検証を依頼するなどしたい」と話した。文部科学省の指導が入ったようだ。

 メディアは当時,「学生の半裸写真 卒論に」/元准教授を「懲戒解雇」/宮崎大」(『宮崎日日新聞』12年6月29日),「下着の学生撮影/卒論に複数掲載/宮崎大元准教授」(『朝日新聞』西部本社版同日),「卒論に裸写真掲載される/宮崎大元准教授,女子学生に」(『読売新聞』同),「学内誌にも女学生写真/浴衣姿など09年に掲載/「不適切」抗議受ける/宮崎大元准教授」(『西日本新聞』同年7月19日)などと大々的に報道。共同通信も6月28日に「学生の半裸写真を卒論掲載/宮崎大の元准教授」と配信するなどした。

 だが,最高裁での「無実」の確定についてはつい最近まで一切,報道されなかった。今年3月7日になってやっと『宮崎日日』が「宮大の敗訴確定/元准教授へ退職金」と伝えただけだ。共同通信は,高裁判決で「宮崎大に退職金支給命令/セクハラ訴訟、高裁支部」と報じたものの,早野さんは「灰色無罪的な書き方で,まったく名誉回復になっていない」と憤っている。

 報道の影響は続いている。都留文科大の解雇処分は一応撤回されたが,早野さんは今も現職復帰できず不安定なままだ。

なかじま ひろあき「人権と報道・連絡会」会員。

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