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2017年04月09日

千歳科学技術大学不当解雇事件、最高裁が上告を棄却

 千歳科学技術大学において,若手の専任教員が,学生対応あるいは学内行政の問題に関し,学長に抗議のメールを送った,ただそれだけの理由で懲戒解雇された千歳科学技術大学不当解雇事件は,2017年3月30日,最高裁第一小法廷(裁判長裁判官山口厚,以下裁判官・池上政幸,大谷直人,小池裕,木澤克之)が上告を棄却した。これで,原告教員の敗訴が確定してしまった。非常に残念に思う。

【この事件の流れ】
解雇された日  2013年2月28日
札幌地裁に提訴 2013年4月 5日
札幌地裁・判決 2015年5月28日 不当判決
札幌高裁・判決 2016年1月29日 不当判決
最高裁     2017年3月30日 上告棄却

 この解雇事件では,私は「支援する会」の呼びかけ人として活動した。この事件と裁判に対する私の意見は,「千歳科学技術大学不当解雇事件の控訴審を支援する会」会報,第二号(2015年12月10日発行)に載せられている。あらためて,以下に掲載する。

 この事件の裁判において,たとえ最高裁が解雇無効の訴えを棄却したとしても,千歳科学技術大学が「試用期間」を悪用して解雇した事実は変わらない。このやり方は今後全国の大学に悪影響を及ぼしかねない。したがって,私は当該大学の不当性について,引き続きあらゆる機会あるいは場を通して問い続けたい。(2017年4月9日ホームページ管理人・UC,Berkeleyにて)

千歳科学技術大学事件は紛れもなく解雇権の濫用である

 千歳科学技術大学で原告教員が解雇された事件は,紛れもなく解雇権の濫用である。これまで日本の大学において,学内で権力を持つ人物(理事長,学長など)が様々な理由から教職員を学外に排除するために「教員不適格」のレッテルを張って解雇する事件は数多い。しかし,大学教員が学長に抗議のメールを送ったことで解雇され,それを裁判所が合法と認めた事案はない。そもそも,抗議メールとそれに対する解雇という報復措置は,与えた影響において全く釣り合わない。その意味で本件解雇事件は,まさに解雇権の濫用にほかならない。

 このことは,裁判所の判断を待つまでもなく,初めから大学当局でさえ十分にわかっていた。したがって,原告教員を解雇するためには,抗議メールを送ったという事実だけでは極めて不十分であり,別の事由を探さなければならなかった。そこで見つけたのが,大学教員には全く馴染みのない「試用期間」という就業規則の一文である。

 札幌地裁の判決文では,原告の採用にあたり,当該教員人事の公募書類には「試用期間の存在を明示していなかった」が,事務職員の公募書類には「試用期間の存在を明示していた」。また,採用面接の際にも「試用期間の存在を説明しなかった」し,採用通知書の交付においても,同通知書に「試用期間の存在の記載はなかった。」これらは,地裁判決で裁判所が認めた客観的事実である。

 ところが,札幌地裁の裁判官は,大学は「事務手続きについて説明する文書に就業規則を添付」して原告に渡したが,ここで添付された就業規則の中に「試用期間の記載がある」との形式を唯一の判断材料にして,解雇権の濫用法理を適用しなかった。私は,この点こそ札幌地裁判決(2015年5月28日)を「不当判決」と呼ぶ最大の根拠と考える。

 そもそも,大学教員においては,「6ヶ月の試用期間」を設定すること自体が形式的にも実質的にも意味をなさない。この点を裁判官は全く理解していないか,無視している。大学の教員は,一般に4単位講義科目の場合,通年で授業を行う。その期間の途中で担当者を変更することは,単位認定の問題と係わって,死亡や病気など特別な場合を除きあり得ないし,そうした変更を想定していない。もちろん,「試用期間」の結果に備えて代用教員など用意していない。したがって,大学事務職員に一般に適用する「試用期間」をそのまま教員に適用できないし,できないからこそ採用にあたり委員会を設置して研究業績を詳細に判断し,模擬授業で教育能力を評価するなど厳格な手続がとられるのである。千歳科学技術大学においても,「試用期間」が公募書類上で事務職員の場合に「明示され」,他方教員には「明示がなかった」のは,その意味で当然なのである。実際,同大学に在籍する教員うち,「採用後6ヶ月間は試用期間である」旨説明されて採用された者など恐らく皆無であろう。

 また,同大学では,卒論研究のための教授指導は3年生の11月から始まる。原告教員の場合も例外ではなかった。着任後の11月に,卒論研究の学生7名について原告研究室への配属が教授会決定された。卒論研究という長期間の指導責任を任せられたこと自体,原告が「試用期間」中と扱われていなかった証左である。

 以上のことは,大学当局自ら知っていることである。したがって,それをすべて知りながら姑息にも「試用期間」を悪用して解雇し,ゼミ学習や卒論指導など学生の教育権(教育を受ける権利)をも突然奪った千歳科学技術大学は,真理を探究し知を創造する大学の名に値しない。札幌高裁は,地裁のように就業規則の記載文言の形式面だけをもって判断を下さないよう切に希望する。

千歳科技大不当解雇事件の控訴審を支援する会・呼びかけ人
札幌学院大学
片山一義

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