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2017年06月21日

宮崎大、パワハラを捏造し解雇 メディアも攻撃加担

人権と報道連絡会ニュース(2017年6月10日)第325号

パワハラを捏造し、解雇-宮崎大、メディアも攻撃加担

 早野さんの事件については、ジャーナリストの田中圭太郎さんが「ルポ・大学解雇②/国立大にパワハラを捏造され、解雇通告を受けた教授の告白」として、ネットに詳細なレポートを発表している。例会で早野さんはこれをもとに、パワハラ捏造・報道被害体験を詳しく話した。(以下、山口が要約)

◆ある日突然、懲戒解雇に

 私は2012年4月に約8年間勤めた宮崎大学を退職し、山梨県の都留文科大学教授に就任することが決まっていました。ところが、退職直前の3月12日、宮崎大学から「特別調査委員会に出席するように」との通知が来たのです。嫌な予感がし、私は弁護士を通じ、「なぜ調査委に出席しなければならないのか」質問しました。すると大学から私が指導した女子学生の卒業論文に、女子学生の半裸写真が載っているので調査すると文書で回答がありました。

 「ハラスメント質問事項」という文書がその後に届き、14項目にわたる質問が書かれていました。たとえば「あなたの研究室の女子学生に、遅い時間帯、二人だけで研究室にいるよう勧めたことはあるか」など、どれも思い当たる節がないものばかりでした。女子学生のゼミに常に同席していた学生に連絡したら、その学生も意味がわからないと言う。私は質問に対して「一切ありません。内容が抽象的で分からないので具体的に教えてほしい」と文書で回答しました。

 予定通り宮崎大学を退職し、都留文科大学に赴任した直後、宮崎大学の菅沼龍夫学長名で「懲戒解雇する」との文書が送られてきました。退職後にもかかわらず、懲戒解雇するというのです。6月には「退職金は支払わない」との通知も送られてきました。宮崎大学の内部でいったい何が起きているのか、私には理解できませんでした。

◆メディアが一斉に報道

 宮崎大学は6月、私に対する処分を記者会見して公表しました。メディアはこれを大々的に報道しました。(《学生の半裸写真卒論に/元準教授を「懲戒解雇」/宮崎大》=6月29日『宮崎日日新聞』、《下着の学生撮影/卒論に複数掲載/宮崎大元準教授》=同『朝日新聞』西部本社版、《卒論に裸写真掲載させる/宮崎大元準教授、女子学生に》=同『読売新聞』、《学内誌にも女学生写真/浴衣姿など09年に掲載/宮崎大元準教授》=7月19日『西日本新聞』など)。

 私の代理人に事実関係を確認する取材が来たとのことで、代理人は会見を開き「全く身に覚えがない、事実誤認の決めつけ」と答えたのですが、大学側の言い分が大きく報道されました。後に東京高裁の岡口基一裁判官は「マスコミが大学当局からいいように利用された例」とツイッターでコメントしています。この報道後、私は都留文科大学の理事から呼び出され、「私は何もしていない」と説明したのに、一方的に解雇されました。

 私は12月、解雇無効を求めて宮崎地裁に提訴しますが、提訴の前に宮崎地裁に申し立てた証拠保全が通り、宮崎大学から証拠資料を押収しました。この証拠資料で、宮崎大学がなぜ私を懲戒解雇に追い込んだのか、わかってきました。

◆ハラスメントの訴え捏造

 実は私が退職する前の2月、私がゼミで指導していた4年生の女子学生が自殺する痛ましい事件が起きました。彼女は重度の精神疾患に罹患しており、私は彼女の精神科への通院もサポートしていました。自殺の前日、彼女は私の机に学生間でトラブルがあったことなどを書いたメモを残していました。

 証拠保全した資料で、そのメモに名前のあった学生が彼女の自殺の5日後、大学側に「早野は、自殺した女子学生には性的関係があった」と報告していたことがわかりました。大学は私の言い分も聞かず、この学生の言葉に沿って動き、自殺した女子学生の家族にも私が原因だったかのように告げました。

 大学は私を解雇した後「複数の学生から『早野からハラスメントを受けた』という申し立てがあった」とマスコミ発表しました。ところが、この申立書は学生自身が書いたものではなく、大学内で捏造されたものでした。

 大学が私の懲戒処分を決めた最大の理由が半裸写真の卒論ですが、この卒論を書いたのは私のゼミ生ではなく、別の教員のゼミに所属する女子学生です。

 大学は3月27日に開かれた処分を検討する会議で、この卒論を「自殺した学生のもの」と捏造して、「早野がこの卒論を指導し、半裸写真の撮影をした」と認定しました。それらの経過が、証拠保全で押収された資料から明らかになったのです。

◆二審で逆転勝訴、確定

 ところが、裁判では大学側は「ハラスメントは事実だ」と主張し、一審の宮崎地裁は14年11月、大学側の主張をなぞり、請求を棄却しました。

 しかし二審の福岡高裁宮崎支部15年10月、私の主張を聞き入れ、大学側による「ハラスメント捏造」を認定しました。判決は「半裸状態の女子学生の写真撮影をし、卒業論文に掲載させたりしたことを認めるべき証拠はない」と、私の主張をほぼ全面的に認め、大学側に慰謝料と退職手当、合わせて約313万円の支払いを命じました。

 大学側が主張したセクハラ・パワハラなどもすべて事実無根と認定され、判決は16年10月、最高裁で確定しました。

 都留文科大学の解雇処分も無効になり、私は都留文科大学教授に復帰しました。現在、処遇について話し合いをしています。

 最高裁の判決が出た後、ネットでは宮崎大学への批判、ツイートが一気に広がりました。それでも大学側は、「捏造」関係者に対して何の処分もしていません。しかし、文科省は今年3月、大学側に一連の解雇手続き、事実認定などの問題点を検証するよう、指導しました。詳しくはウェブ「全国国公私立大学の事件情報」を参照してください。

◆宮崎大学に公開質問状も

 最高裁で勝訴が確定しても、そのことは最近まで、報道されませんでした。今年3月7日になってやっと『宮崎日日』が、《宮大の敗訴確定/最高裁決定/元準教授へ退職金》と報道したぐらいです。ただ、文科省が「再発防止」に向けた第三者の検証を求めたことで、『西日本』は5月3日、《元准教授へのセクハラ処分敗訴の宮大検証へ》という記事を載せました。『朝日』も5月10日の宮崎県版に《宮大、「処分」第三者検証へ/退職めぐる訴訟、逆転敗訴受け》という記事を掲載しています。

 しかし、この記事では「結果は公表しない」となっています。

 私は、なぜこんな捏造事件が起きたのか、大学に対して公開質問状を出すつもりです。私を「セクハラ教員」に仕立てた大学の特別調査委員会の「調査」経過、ハラスメント認定過程で捏造されたさまざまな文書の作成経過など、裁判で明らかになった事実をもとに詳細な質問をぶつけ、その結果を公表したいと思っています。今後の大学改善と私の名誉回復のためです。


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