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2018年06月23日

奈良学園大学、学部再編失敗で教員一斉強制解雇…学部新設で虚偽申請も

Business Journal(2018.06.11)

奈良学園大学、学部再編失敗で教員一斉強制解雇…学部新設で虚偽申請も

文=田中圭太郎/ジャーナリスト

 大学に入学する年齢である18歳の人口が、今年から減少する「2018年問題」。私立大学の約4割がすでに定員割れの状態にあり、これから本格的な淘汰の時代がやってくる。大学が再編や統合を迫られた時、大学で働く教職員はどうなるのか――。

 この点で注目されているのが、奈良学園大学をめぐる裁判だ。この大学では約40人の教員がリストラにあい、最終的に解雇された8人が大学を運営する法人を訴えている。筆者は奈良学園大学を訪れ、解雇された元教員を取材した。

教員約40人をリストラ

「私たちは、大学による学部の再編失敗のしわ寄せによって解雇されました。こんな解雇が許されたら、大学改革や再編の名の下で理不尽な解雇が可能になります。絶対に許すわけにはいきません」

 こう憤るのは、2017年3月末に奈良学園大学を解雇された川本正知さん(64)。京都大学大学院文学研究科博士後期課程を単位取得退学し、複数の大学・短大で非常勤講師を勤めたあと、1989年に奈良学園大学の前身、奈良産業大学に講師として勤務。1999年からは教授の立場にあった。

 実は、同じ時期に職を失った教員は川本さんだけではない。13年11月、約40人の教員が17年3月までに転退職するよう迫られた。多くの教員は他大学に移るなどして若干の優遇措置とひきかえに大学を去ったが、その他の教員は雇い止めされたほか、教職員組合を結成して最後まで交渉を試みた川本さんら8人が解雇された。

 8人は大学を運営する学校法人奈良学園を相手取り、地位の確認などを求めて17年4月に奈良地方裁判所に提訴。16年11月には、奈良県労働委員会に不当労働行為の救済の申し立てもしている。しかし、両者の主張は対立したままで、いまだ解決の糸口を見いだせていない。

 明確なのは、川本さんをはじめ、リストラされた約40人に非がないことだ。リストラの直接的な原因は、学部の再編の失敗にあった。

学部再編を申請するも文部科学省から「警告」

 奈良学園大学は1984年、奈良県生駒郡三郷町に奈良産業大学として開学。硬式野球部は過去に多くのプロ野球選手を輩出している強豪チームで、今年6月に開催される全日本大学野球選手権大会にも出場する。筆者が訪れた日は3月の春休み中だったが、練習があるのか、ユニフォーム姿の部員がキャンパス内を歩いていた。

 名称が奈良学園大学になったのは14年4月。名称が変わる直前はビジネス学部と情報学部を有していたが、法人は名称変更に合わせてこの2つの学部を「現代社会学部」に改編することと、「人間教育学部」と「保健医療学部」の新設を13年に文部科学省に申請した。

 しかし、新設する2学部は設置が認可されたが、「現代社会学部」は要件を満たしていないとして文部科学省から同年8月に「警告」を受けた。すると、法人は申請をやり直すのではなく、すぐさま申請を取り下げてしまった。

「現代社会学部」を申請する時点では、再編が成立しない時にはビジネス学部と情報学部に戻して募集を継続することを、教授会だけでなく、理事会も大学評議会も決議していた。申請を取り下げても、既存の2学部は存続するはずだった。

 ところがこの年の11月、法人は突然、教員向けの説明会を開催。ビジネス学部と情報学部の廃止を告げるとともに、教員約40人に対し転退職を迫ったのだ。

法人側は「警備員なら雇う

 川本さんは、法人側の説明に唖然とした。2学部を廃止することも、自分たちがリストラされることも、まったく想像していなかったからだ。

 法人側が説明した解雇の理由は「過員」。新設の2学部のために、すでに約40人の教員を新規に採用していたので、教員が多すぎるというのだ。しかし既存の2学部を廃止するのは法人側の一方的な決定であり、教員にとって「過員」という理由は納得できるものではなかった。さらに、この説明会で法人側が言い放った言葉に川本さんは驚いた。

「法人側は私たちに、警備員なら雇用継続が可能だと言いました。この発言には耳を疑いました。既存の学部を残すという決定があったにもかかわらずリストラをするのは、道義的にも許されることではありませんし、教育機関とは思えない行為です」

 大学を運営する学校法人奈良学園は、幼稚園から大学まで10の学校を運営し、約200億円を超える流動資産を保有。ここ10年間で300億円以上の設備投資もしている。経営難を理由としない大量リストラは異例だ。

 このリストラを止めようと、川本さんらは教職員組合を結成して、奈良県労働委員会にあっせんを申請。16年7月には、奈良県労働委員会から「互いの主張を真摯に受け止め、早期に問題解決が図られるよう努力する」ことと、「労使双方は組合員の雇用継続・転退職等の具体的な処遇について、誠実に協議する」とのあっせん案が示された。労使双方がこのあっせんに合意し、団体交渉を進めるはずだった。

 ところが法人はこの合意に反して、8月には「事務職員への配置転換の募集のお知らせ」を一方的に配布。さらに11月には組合員に退職勧奨をすることを理事会で決定した。

 組合は退職勧奨を受けてすぐに、奈良県労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた。すると法人は、翌17年2月に解雇予告通知書を出して、3月末に組合員全員の解雇を強行。翌月、川本さんら組合員が提訴して、裁判と労働委員会の審判は現在も続いている。

大学や学部新設で2度にわたる虚偽申請

 学部の新設などをめぐる法人の不手際は、今回に限ったことではない。法人は06年に奈良文化女子短期大学を改組して「関西科学大学」を設立する申請をしたが、申請書類に虚偽の記載があったことが文部科学省から指摘され、取り下げざるを得なくなった。すでに亡くなっていた初代理事長を理事会の構成員として申請していたのだ。

 申請を取り下げた時には、すでに200人以上の入学者の内定を出していて、大きな問題となった。内定者には1人あたり30万円の補償金を支払ったほか、文部科学省から処分を受けて、新たな学部の申請は3年間禁じられた。

 さらに07年にビジネス学部の開設を申請した際にも、またも書類に虚偽記載があったほか、虚偽の教員名簿を提出したことが判明した。そして今回の「現代社会学部」では、設置計画に多くの欠陥が指摘された。

 これだけ大学設立や学部の再編に失敗しても、法人や大学の幹部はなんの総括もしていないし、責任も取っていないと川本さんは指摘する。

「自分たちは失敗の責任を取らずに、教員にリストラを押し付けたのが今回の問題の構図です。こんなことが許されたら、大学の経営陣が赤字学部の教員を一方的に解雇することが可能になってしまいます」

 川本さんら解雇された多くの教員は、収入がゼロになり、貯金を崩しながらなんとか生活している。なかには他の大学で非常勤講師をしている教員もいるが、収入は以前の半分にも満たない。それでも裁判は続けると川本さんは話す。

「私たちが泣き寝入りしたら悪しき前例になり、日本の私立大学全体に影響してしまうでしょう。大学教員の労働者としての権利が蹂躙されているのは明らかです。大学教育を守るためにも、諦めずに訴えていきます」

 筆者の取材に対し、学校法人奈良学園は「係争中にあるのでお答えできません」と話すのみだった。裁判の結果は、これからの私立大学教員の雇用を左右する。

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)


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