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2018年09月24日

彼らは何を隠しているのか?(3) 下関市立大学トイレ改修工事損害賠償事件の調査報告書より

長周新聞
 ∟●彼らは何を隠しているのか? (3) 下関市立大学トイレ改修工事損害賠償事件の調査報告書より

彼らは何を隠しているのか? (3) 下関市立大学トイレ改修工事損害賠償事件の調査報告書より

山口県2018年9月19日

1、市民からの主要な意見等

・この件は市大での出来事なのに、どうして市大が議会に出て説明しないのか。その方が話が早い。
・市大は法律的には市とは別団体かも知れないが、市民から見たら市役所内の一組織である。
・荻野理事長と砂原事務局長の発言には腹が立った。無責任のうえに人を小馬鹿にしている。市大への愛情を感じない。10月に市大の議会審議があるというので、どのようなことが聞けるのか楽しみだ。
・U事務局長、Sグループ長のみに責任を負わせ、それで済ませようとするのはおかしい。M元理事長、荻野元副理事長にも責任がある。UとSに責任を押しつけたのか。
・市大はどうなっているのか。高い報酬をもらっているというが、M元理事長も荻野現理事長も組織管理が出来ていないし責任もとっていない。会社で不祥事があればトップが謝罪し、トップがそれなりの責任をとっている。
・調査報告書を読むと、市大にとっては公金を失い、その回収の処理がまずく、その後の市大幹部の対応も最悪。市大にとってはお金の損失であり、名誉の大損失である。こんな時に理事長や事務局長が積極的に表に出てこないでどうする。事態収拾や名誉回復に向けて、誤解が生じているのなら誤解の解消に向けて、汗をかくのが常識的対応ではないか。その為の地位であり、高額報酬ではないか。このような時に役に立たない理事長や事務局長なら不要だ。一生懸命頑張っている市大の教職員のためにもトップが早く積極的に出てきて事態収拾を図ってほしい。
・和解をした当人の答弁が和解内容を知らない人の「知らない」という答弁と同じだということはあり得ません。ウソです。荻野理事長は学長から理事長になったということですから教育者です。教育者のトップを勤められた人が礼儀を失したことをする、ウソを云うでは困ったものです。
・今回の調査報告書では荻野理事長の責任論を厳しく指摘しているが、これまでこの問題の一番の責任者である荻野理事長に対する責任論が余り言われてこなかったのはおかしかった。万一、全額(1610万5000円)の返済が終わっていなかったら、荻野理事長の背任的行為が原因であり、荻野理事長が賠償責任を負うべきである。

2、市民の疑問、意見等をお聞きして

 責任を負うべきは市大なのに、市大はなぜ議会に出てこないのか。U事務局長、Sグループ長のみに責任を負わせてそれで済むのか。責任を負うべき者がいるのになぜ責任を負わせないのか。なぜ表に出てこないのか、というご意見をいただいたが、その通りだと思う。

 市大の市議会への出席であるが、市大も以前は市の一組織として議会審議に出ていたが、独立行政法人化してからは議会には出なくなった。このため市大に関する議会対応は市総務部、総務課が行うこととなっている。しかし、市が全額出資している団体、法人が市議会のチェックを何も受けないのはおかしいということで、毎年特別委員会を設置し、年1回審査していた。この時は市大が議会に出席した。

 しかし、今年はどのような理由からか分からないが、特別委員会の設置はやめて、総務委員会で審査することにしたとのことである。当初は9月議会の後、10月に開催するといわれていたが、先日の総務委員会のなかで「市大の要望により」急遽9月19日、つまり9月定例会の会期中に開催することが決まったようである。日程からすると一般質問よりも先になる。ここに市大の理事長、事務局長が出席する予定のようである。

 本事件は、その損害の発生から和解まで全て市大での事件である。この点では、新旧総務部長と元総務課長は市大が起こした事件のとばっちりを受けたともいえよう。そのとばっちりを上手に処理できなかった、議会での答弁がまずかったという責任はあるが、本件の責任論からいえば2次的立場である。

 これまでは議会対応がまずかったのは市の責任であると考えていた。多くの市民もそのように思っていたが、実際には市よりまだ重い責任を負うべきなのは市大であるということが明確になった。

 先の調査報告書にあるように、砂原事務局長は本池市議が荻野理事長への面会を要請した際、質問内容まで聞いたうえ「荻野理事長も総務部長答弁と同じだから面会しない」と明言した。砂原事務局長自身も質問事項を知ったうえで、「総務部長答弁と同じ」と明言した。調べればすぐ分かることを「知らない」と。荻野理事長は和解した当事者である。和解内容は当然知っているはずである。その人が「和解内容は知らない、市大から聞いていない」という答弁をした市総務部長と同じと考えられないようなことを明言した。荻野、砂原答弁で本件についての議会対応は総務部の責任と考えていたが、市大と総務部に共同責任があることが分かった。

 荻野理事長はこれまで議会にも出ず発言しなくて済んだし、大学という高い壁に守られて表に出ることが少ないため、議員や市民の批判を直接受けることもなくて済んだ。責任を問う声を受けたこともなかったと思う。しかし、ここにきてやっと本人の自覚はともかく、重い責任を負っているということがはっきりしてきた。市大が出席する市議会総務委員会に期待したい。

 次にM元理事長の責任については、調査報告書でも述べたように990万円の損害については、前払金支払いの書類を見ていなくても、組織のトップとしての責任がある。620万5000円の損害については、業者決定の書類を決裁しているのだから、直接的責任があった。賠償責任金額については別途精査する必要があるだろう。本人がなぜ賠償しようとしなかったのか、市大がなぜ損害賠償の請求をしなかったのか不思議である。

 M元理事長の責任問題については、平成24年7月17日の市議会総務委員会に市は「損害賠償にかかる訴えの提起について(下関市立大学A講義棟トイレ改修工事)」を報告したが、その際、議員(当時)C氏が「理事長がすべての責任があるにもかかわらず、3人ではなく、なぜ2人を提訴するのか」と発言している。損害賠償請求の相手方(被告)としてU事務局長、Sグループ長だけではなくM理事長も入れるべきだと主張している。市民からもそのような声は寄せられている。M元理事長がどのように考えているのか、一度聞いてみたいものである。

 市民からの意見にもあった損害賠償金が全額回収できなかった場合の荻野理事長の責任についてであるが、まず回収状況、遅延損害金の状況などを明確にすることが第一である。明確にすることは荻野理事長の責務である。そして、万一損害賠償金が全額完納されていない場合の荻野理事長の賠償責任であるが、990万円については裁判上の和解であり、強制執行ができるので完納はされるはずである。ただ、当然もらうべき遅延損害金がどうなっているかは問題である。

 620万5000円については、どのような賠償条件になっているのかが解らないが(先の報告書でも触れているが、620万5000円については議会での質問に答える義務があるのに答えていない。下関市議会では極めて不適正な議会・議員無視のようなことが何年にもわたって行われている)、強制徴収はできないと思われる。平成25年7月16日の和解からすでに5年が経過している。この間、何回も回収状況を問われ、賠償金の確実な回収を言われながら回収状況は答えず、賠償金の確実な回収策も取らなかった。従って、もしも全額完納されていないなら、荻野理事長に賠償責任が生じるのは当然である。職務を果たさなかったために損害金の回収ができなかったのだから。

 民間会社では、似たようなケースで民法644条で規定された善管注意義務違反にあたるとして賠償するよう命じた判決もある。本件のケースは賠償されない可能性があることが十分に予見され、指摘されながら放置したため、損害が発生し、市大の名誉も傷つけられたというケースなので、賠償はもちろんのこと、引責辞任も求められるものであろう。そうでなければ下関市民の理解は得られない。下関市民は納得しない。それほど責任の重いものだと考える。9月19日の開かれる市議会総務委員会でどのような進展を見せるのか注視したい。

 なお、先の報告書の「市立大学の不誠実かつ不可解な対応」の中でも書いているが、本池市議が砂原事務局長に荻野理事長への面会を要請したが、結局、拒否された。そのため本池市議が7月下旬頃「面会拒否の理由をちゃんと書いてもらいたい」と頼んだら、砂原事務局長は「わかった」と答えた。ここまでが先の調査報告書に書いたやりとりである。あれから相当時間が経つし、どうなったか本池市議に聞いたところ、9月11日現在、未だにもらっていないということだった。どうしてこのようなことができるのかよく分からない。一般社会の感覚では理解し難いが、公務員の世界、あるいは下関市役所ではこのようなことは普通のことなのだろうか。

「秘密条項付の和解」は本当に秘密が保たれていたのか

 市と市大の論理は破たんしている。いや、最初から論理などなかったと思われる。市と市大は次のように考えたのではないか。

 裁判上(訴訟上)の和解であり、裁判所で和解内容は非公表ということが決まったと裁判所の名前を出せば、市議会も市民も権威ある決定と思い、何も言わないだろう。たとえ質問があっても「裁判所で非公表が決まったので公表できない」と言えばしのげるだろう。そのように安易に考えたとしか思えない。

 そして、和解内容を少しでも答えると、矛盾が次々に生じ、次々に答えないといけないようになり、結局隠すことが難しくなってしまう。もし、和解内容がバレると「公益(市大の利益)より私益(被告の利益)を優先した和解だ」と市議会や市民から批判、追及される恐れがある。また、和解条項の中に「和解内容は非公表とする。ただし、原告が議会に報告する場合はこの限りではないが(以下略)」という条項もある。これも隠す必要がある。

 このようなことから「裁判上の和解で非公表に決まった」と裁判(所)を強調し、これを盾にすれば完全黙秘で議会をすり抜けることが出来るはずだ。このように考えたのではないか。

 裁判上の和解とは、訴訟中であっても、裁判所の関与のもとで、両当事者が譲り合い、和解して訴訟が終了する。そして、和解の条件を裁判所の調書に記載すると、その記載は「和解調書」となり、確定判決と同じ効力を有する、というものである。

 あくまでも和解は両当事者が納得しないと成立しないものである。本件は、裁判所が非公表にせよと言ったのではない。市大が被告との話し合いの中で非公表を支持したのである。それを裁判所が認め、いわばそれにお墨付きを与えたというものである。

 議会も、和解内容を議会にも一切言わないというのは納得がいかないという議員もいたが、大勢にはならず、結局抑えられてしまった。議会もなめられてしまったものである。法律専門家を自負する議員や論客を自負する議員もいるのに。

 市も市大もこれで完全黙秘が成功したと思ったに違いない。しかし、市民はそう簡単には騙されない。市民の中には本当の法律専門家もいるし、理屈、理論に鋭い人もいる。あるいは真実は何か、本来どうあるべきなのかを冷静に判断できる人もいる。

 このたび調査チームを結成してみて、改めてそのように実感した。調査チームに多くの情報が寄せられるが、その中で分かったことは、市や市大が隠し通していると思っていた和解内容は、すでに一部市民にはもれていたようである。

 市も市大も、真実を話さないと大変なことになるということを自覚した方が良い。もう無責任答弁が許される状況ではないことを自覚した方が良い。今井総務部長も従来の答弁に縛られるのではなく、自分がその答弁に責任を負えると確信できる答弁をするようにした方が良い。本件について、その犠牲者を少なくし、市民の理解を得るためには、まず関係職員が真実を隠さず話すことが第一。事実関係を明確にすることが第一。それに向けて議長が尽力すべきである。市長がリーダーシップを発揮するべきである。

 和解(秘密条項付の和解)は、平成25年7月16日に成立した。

 この和解内容の一部を、平成25年8月29日にY新聞が報道した。

 原告、被告ともに裁判上の秘密条項付の和解なので、新聞報道があるまでは和解内容が外部に漏れることはないと考えていたようである。しかし、民事訴訟法ではだれでも訴訟記録の閲覧ができると規定されており、たとえ秘密条項付の和解であっても訴訟記録は原則公開である。閲覧等の制限は別途、裁判所の決定を必要としている。

 Y新聞は閲覧制限のかかっていない訴訟記録を見て和解内容を報道したものと思われる。ここで早くも和解内容は漏れているのである。このため原告、被告ともにあわてて閲覧等の制限の決定を得るための諸手続きを行い、その後、ようやく閲覧等の制限の決定がなされた。

 しかし、和解成立から訴訟記録等の閲覧制限の決定までおよそ2カ月の期間を要し、この間は訴訟記録の閲覧は自由であった。この間は和解の内容を見ることは自由であった。とても完全に秘密を保てる状況ではなかったということである。

 訴訟記録等の閲覧制限については、民事訴訟法92条に規定されている。本件は92条第1項を適用したと思われるが、92条第1項は次のようになっている。

 「訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記載されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」。このように訴訟記録の閲覧制限にはかなり厳しい要件が必要になっている。本件は何度も述べているように職員の違法かつ不適正な行為、事務処理による公金の損害賠償請求事件である。その違法行為や不適正な事務処理は議会にも報告されている。新聞にも報じられている。その和解についての訴訟記録が閲覧されるとどうして、どのような「当事者が社会生活を営むのに著しい支障が生じる恐れがある」というのか疑問である。

 本件は再三主張しているように、一定の被告のプライバシーに配慮することは必要だろうが、本来、議会(市民)に和解内容を言って、議会にその和解内容を理解してもらうようにすべきであって、こっそりと都合よく内緒に処理すべき事案ではない。事態は本来のあるべき方向に進みつつあるように感じる。また、進めなければならない。

 国政においては、虚偽答弁で結局辞職に追い込まれた官僚もいたが、私たちはそのようなことが目的ではない。また、本件は議会答弁にあたった市職員の責任が最も重いとは考えていない。たしかに実質的な答弁拒否の連続で議会審議の停滞を招いたことには大きな責任があるが、市大から答弁できる資料の提示がなかったということで、積極的に隠そうとしたのではないような印象も受ける。ただ、資料の提出を求めたのに市大に拒否されたのか、それとも最初から資料の提出を求めなかったのか如何によって責任は大きく変わってくるが。

 本件で最も重い責任を負っているのは市大である。もう他人事のような対応は許されないことを自覚してほしい。市大の責任者は、市大がどれほど市民から高く評価されているか。市民からの高い評価を得られる今日の市大を築くまでに、どれほどの先輩教職員が努力し頑張ってきたかに思いを巡らせてほしい。本件については、損害の発生からその処理に至るまで大学の対応は最低で、大学に対する市民の評価を著しく傷つけるものになっている。

 市大のために一生懸命頑張っている現職の教職員をがっかりさせているという声が多く聞こえてくる。本件以外のことについても「責任の自覚」という声が多く聞こえてくる。いずれにしろ、市民のための市政である。関係者は真実を述べ、反省すべきは反省していただきたい。

 これ以上真実が隠されると、市民感情がますます厳しくなって、責任追及論になってきそうである。そのようなことにならないことを願っている。


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