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2019年01月31日

東工大・芸大の学費値上げ、高学費は国による人権侵害 無償化を進める立法が必要

「しんぶん赤旗」(2019年1月15日)

東工大・芸大の学費値上げ
高学費は国による人権侵害 無償化を進める立法が必要

渡部 昭男

 国立大学の授業料等は、2004年の法人化以降、国の定める標準額(53万5800円)を据え置くとともに、各法人がそれを超えない形で節度を保ってきました。ところが昨秋、東京工業大学、東京芸術大学が2019年度からの約10万円もの値上げを通告しました。これに対して国は、容認ないし推奨する姿勢です。ここには、次のような人権侵害が認められます。

 負担軽減こそが国際法上の義務

 2012年9月、日本政府は国際人権A規約13条2項(b)(C)の「特に、無償教育の漸進的な導入」にかかる留保を撤回しました。以降、日本国憲法98条2項が「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守する」と求めているように、中等教育及び高等教育の漸進的無償化を進める義務を負うことになりました。国が負うべき義務には、学費負担の軽減を速やかに進めるという作為義務(すべきこと)と、これ以上の学費負担の加重を行わないという不作為義務(してはならないこと)の2種類があります。
 国立大学の授業料に関して言えば、12年以降、①標準額自体を次第に下げる②減額収入分を大学法人宛ての基盤的経費においてしっかり補填する③標準額を上限とするとともに、それを下回る授業料設定をしたり学内奨学金を拡充した法人に対してインセンティブ(報奨)を与える仕阻みを整備する、などに踏み込むべきでした。しかし、実際には運営費交付金を減額し続けて、競争の名の下に各法人や学生たちを追い詰めたのです。
 日本弁護士連合会は、子どもの貧困、学習権の保障などに関して、これまで複数の意見書・会長声明を出しています。直近の「若者が未来に希望を抱くことができる社会の実現を求める決議」(18年10月5日)においては、「『生まれた家庭』の経済力によって受けられる教育が左右されており、高等教育における学費の高騰等により進学できない若者も少なくない」と指摘した上で、「全ての教育の無償化」を提言しています。

 各地域・学園で連帯を広げよう

 昨年11月1日、私ども「中等教育及び高等教育の漸進的無償化立法を求める会」(代表世話人・重本直利、三輪定宣)は、日弁連の人権擁護委員会に対して「人権救済申立て」を行いました。
 加害者は国であり、被害者は中等教育・高等教育段階で修学する意思及び能力があるにもかかわらず、主に経済的な負担のために、①進学を断念した②中途退学を余儀なくされた③修学のための費用を得るための労働等により修学のための時間を奪われるなど充実した学生生活を送ることができない、または④修学のための負債の返済に困難を抱える人々です。
 最終的には、人権侵害救済のために、立法措置その他のすべての適当な方法により、A規約の「中等教育及び高等教育への権利及び漸進的無償化実施義務」の完全な実現を達成するため、国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、行動する義務があることを確認し、その迅速な実現のために中等教育及び高等教育の漸進的無償化を促進する法案(仮称)の立法を含め、その他適切な措置をとるよう、国に勧告することを求めています。
 日本では障害者権利条約の批准に伴って、障害者基本法を改正し、障害者差別解消法を実現するなど、当事者参画による権利保障運動の経験があります。子育てや教育を共同的に営む豊かな社会を展望しっつ、漸進的無償化が市民と野党の共闘テーマになり、各地域」学園で連帯の輪が広がることを期待しています。
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 日弁連への申立書や関連情報は同会のHPで公開中

 わたなべこ・あきお
 神戸大学教授(教育行政学)。中等教育及び高等教育の漸進的無償化立法を求める会事務局長。『格差問題と「教育の機会均等」』ほか


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