研究者の地位と権利を守るための全国的ネットワークをつくろう!

2019年03月09日

九州保健福祉大不当雇止め事件、助教夫妻 同時に無職に 第2子出産…大学と争った1年

朝日新聞(2019年3月6日)

 九州保健福祉大学(宮崎県延岡市)薬学部で不当な「雇い止め」を受けたとして、宮崎地裁延岡支部が雇い止めを無効とする仮処分決定を出した。雇い止めを受けた元助教ら4人のうち2人は助教夫妻だった。夫妻は突然、同時に職を失うことになった。

 7年目の任期更新を目前に控えた2018年1月5日。助教夫妻(いずれも修士号)は大学側から雇い止めを通告された。

 30代の夫は福岡県内の大学院を卒業後、一度は薬剤師として働いたが、誘いを受けて09年に母校の九州保健福祉大に助手として勤め、12年に助教に昇格した。同大で職場結婚をした40代の妻とともに、博士号の取得に向け、研究に没頭していた。

 雇い止め通告後、夫妻は大学を追われ、同時に収入がなくなった。長男が通っていた保育園も、就労証明がなくなったことで一時保育に切り替えることになった。昨年10月には第2子が誕生。お金が必要な中、大学との争いを優位に進めるために、ほかの仕事に就くこともできず、生活が立ち行かなくなっていった。

 ログイン前の続き夫妻が無職になってから4月で1年になる。この間、預金も底をつきかけた。夫の留学や子供の将来のために始めた貯蓄も切り崩した。「解雇を認めるようで使いたくなかった」という退職金にも手をつけざるを得なくなった。

 助教の任期は2年更新だが、夫妻は採用時、大学幹部から「助教には10年間の任期がある」と口頭で説明を受けていた。しかし、解雇通告後、大学側は「独自の見解を述べただけ。明文化された規定は存在せず、10年間の雇用が保証されるものではない」と説明した。

 夫妻は大学との争いで、「助教の任期10年間は大多数の教員が持っていたごく当然の共通認識」と主張。代理人弁護士は「特別な事情もない中、任期中ならいつでも解雇できると考えるのは解雇権の濫用」と訴えた。

 これに対し、大学側は仮処分を巡る争いの中で、17年4月の薬学部入学者が定員を大きく割り込んだことから、「経営難による人員削減」と雇い止めの理由を説明していた。夫妻に対しては「早期に博士号取得を奨励していたのに、取得できていなかった」と主張した。

 延岡支部は2月、「10年間は契約が更新されるものと期待することは合理的」として夫妻らの訴えを認め、雇い止めを無効とする仮処分決定を出した。

 さらに「(夫妻に)雇い止めが伝えられた18年1月時点から4月以降の仕事を探すのは困難」として賃金の仮払いも認めた。夫妻が同時に職を失う事態に対し「雇い止めの影響は極めて大きかった」と指摘した。

 元助教や代理人弁護士は6日、延岡市で記者会見を開いた。

 仮処分決定で助教の地位保全は認められたものの、夫妻は「私たちが復帰できたとしても、大学が変わらない限り同じようなことはまた続く」と危惧する。「未来の学生たちのためにも経営陣には、これを機に大学の体質を見直してほしい」と話している。

 大学側は取材に対し、地位保全と賃金仮払いを命じる決定を不服として異議申し立ての手続きをとったことを明らかにしている。

 「研究者として復帰できるのか」。夫妻の不安はいまもぬぐえないままだ。(大山稜)


|