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2019年12月14日

【明治学院大学事件】が「科学者の権利と学問・思想の自由を守る闘い」として紹介されました。

髙木秀男『基本的人権としての自由をめぐる攻防――大学人・知識人・文化人たちの戦前・戦中・戦後』科学堂、2019年12月9日、707-708頁。

「第4の事件として、2015年に起きた明治学院大学不当解雇事件を紹介したい。この事件は、大学当局が寄川条路教授に無断で授業を録音し、無断録音を告発した寄川教授を逆に懲戒解雇した事件である。大学当局の真の狙いは、大学の運営方針に批判的な教員をマークし、授業内容を盗聴し、使用している教科書の検閲を行なって弾圧の材料とし、大学から排除することにあった。そのため、この事件はまさに学問の自由や教育の自由が争点となって裁判で争われた。事件の核心については、寄川条路編著の『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』(135)に詳しいので参照されたい。この本は、主として裁判所に提出された憲法学者の、この事件に対する優れた意見書によって構成されている。
 中でも志田陽子武蔵野美術大学教授の「懲戒における適正手続の観点から見た解雇の有効性」は、私立大学教授の懲戒解雇事件という「学問の自由」や「教育の自由」に直接関わる問題を、日本国憲法と労働関係法に基づいてまず判断のための原則を論じたうえで、その原則に照らして懲戒処分手続が適正であったかどうか、詳細かつ丁寧に理路整然と論を進めて「本件解雇は無効」との結論を出しており、筆者の憲法学者としての並々ならぬ力量が一読してわかる傑出した論文となっている。
 大学教員も労働法による各種の権利保障を受ける被雇用者である。労働者の権利保障の背後には、日本国憲法による人権保障の要請が存在する。また一方で、大学教員の職務には、憲法23条によって保障される「学問の自由」という枠組みの中で研究および教育活動を行なうという特殊性があるために、その雇用のあり方や勤務実態についても特有の要素を考慮すべき部分がある(135)。
 本件はこうした複合的な要素を含む事件であり、ここで生じている法的論点は、大学内部における慣習的対処と、労働者としての大学教員に対する法的権利保障という両者の背後に存する、憲法論上の緊張関係が顕在化したものである。したがって、本件における労働法上の論点を考察する際にも、憲法を議論の射程に含めなければならない。このような観点から志田教授は、この意見書で被告による原告への処遇が、憲法上の基本的人権、具体的には「法の適正手続」「表現の自由」および「人格権」に照らして不当なものでなかったかという点を考察した(135)。この意見書は、いま多くの大学で起きている不当解雇事件(110)に普遍的に使える貴重な内容を含んでいるので、基本文献としてぜひ多くの人に読んでもらいたいと思う。
 なおこの裁判で東京地裁(江原健志裁判長)は2018年6月28日、被告が原告に対してなした解雇は、解雇権の濫用にあたり無効であると判示し、原告が労働契約上の権利を有する地位にあることを確認し給与の支払いを命じた。ただしこの裁判は、現在も東京高裁で引き続き争われている(136)。

 参考文献
(110)ホームページ「全国国公私立大学の事件情報」(http://university.main.jp/blog/)
(135)寄川条路編『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』法律文化社(2018)
(136)寄川条路「明治学院大学――実況中継「明治学院大学事件」」『情況』2019年冬号」


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