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2020年05月02日

コロナで困窮する大学生、国は救済してくれないのか あまりに少ない予算措置、このままでは大量の中退者を生むことに

JBpress:2020.4.30(木)

2020.4.30(木)
玉木 俊明

 令和2年度文部科学省補正予算(案)が発表された。GIGAスクール構想の加速による学びの保障への2292億円という大型予算、学校における感染症対策事業への137億円、学校等衛生環境改善(トイレ・給食施設等)への106億円といった比較的大型の予算も組まれている。

 ところが、国立大学における授業料減免(案)が4億円、私立大学等授業料減免等支援(案)が3億円でしかない。このコントラストには、唖然とするばかりである。

 国立大学の授業料減免の目的が、「新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、意欲のある学生が、経済的理由により修学を断念することがないよう、国立大学が行う授業料減免を支援する」となっており、私立大学授業料減免支援に関しては、「新型コロナウイルスの影響により家計が急変した家庭の学生に対して、授業料減免等を実施した大学等に対し、私立大学等経常費補助金により所要額の一部を補助(補助率1/2)」とある。

 国立と私立を合わせてわずか7億円である。これはあまりに少額であり、焼け石に水にすらならない。石はずっと焼け続けるであろう。ほとんどの学生にとって、この援助では役に立たない。
多くの学生はアルバイト収入なしでは生活できない

 国立大学の授業料は年間53万5000円、私立大学の学費は、文系で100万円を超え、理系で150万円を超えるのが普通である。

 そのため自宅生の比率が増え、私の学生時代には自宅か下宿かは通学に2時間かかるかどうかで決められたが、現在ではそれが2時間半になっている。

 今年度からはじまった高等教育無償化の対象となる世帯収入は、380万円であり、それは学生が高等教育を受ける機会をより広げたものの、十分ではないことは明らかである。私見によれば、せめて600万円にまで引き上げる必要がある。

 多くの学生は、決して贅沢な暮らしをしているわけではない。これは、学生と日常的に接触している私の偽らざる気持ちである。授業料は保護者に出してもらっているが、生活費は自分で稼いでいる学生は決して稀ではない。

 高校生の時から奨学金を借りており、大学卒業時には1000万円以上の借金を背負っている学生もいる。そういう学生は、たくさんのアルバイトを入れていたりする。たとえば、授業料を奨学金で支払い、生活費はアルバイトにより賄っているのである。貸与型の奨学金が大半を占める現在においては、そうして生活するしかなく、彼らには、卒業後、重い借金が課せられるのである。

 しかも、受験生人口が激減したため、私の学生時代だった1980年代とは違って、家庭教師や塾講師などのアルバイトで高賃金を得ることはきわめて難しい。学生のアルバイト先は、コンビニや飲食業が圧倒的に多い。そこに今回の新型コロナウイルスの蔓延で日本全国に緊急事態宣言が出されたために、学生のアルバイト先も急速に縮小しており、彼らが生活していくこと自体困難になっているのが現状である。

 その彼らに対する援助額が7億円しかないなら、「国はほとんど援助する気がない」とか「文科省は学生の学習権をかなり軽視している」と受け止められても仕方がないであろう。

 しかも、多くの私立大学側にも、生活に窮するすべての学生に対して、授業料を減免してあげるだけの経済的余裕はない。

教職員の負担も激増

 教員も、決して安楽な生活をしているわけではない。これまで動画配信やオンライン授業などまったく興味がなかった60歳代の教員も、突然それらを使った授業を余儀なくされ、膨大な時間をかけて試行錯誤している状態だ。

 教員は、自分のことだけを考えているわけではない。学生がちゃんとオンライン授業に参加できるためにはどうしたら良いのかと、絶えず悩んでいる。オンライン授業に参加できない学生が一人でもいることは、大学としてきちんとした教育を提供する義務を放棄しているということになるからである。

 さらに、外国人教員の中には、日本語があまりできない人がいるが、そういう人たちのために日本語のマニュアルを苦心惨憺して読み、英語やドイツ語やフランス語やイタリア語や中国語やロシア語などに訳すことに膨大なエネルギーをとられている日本人教員もいる。そのために土日返上で働いて、自分の授業の準備すらままならない有様だ。本当に倒れそうになって働いている同僚を見るにつけ、身体を壊さないかどうか心配になる。

 オンライン授業に慣れていないというだけではなく、これまでの対面形式の授業がいかに効果的・効率的であるかということを実感しながらも、どうすればそれに劣らない授業を提供できるのかと悩んでいるのが、平均的な教員の姿なのである。

 大学の職員も、在宅勤務状態にあり、以前ほどには効率よく働けない。しかし、緊急事態が発生したからこそ、確実に学生に、特に新入生に情報が伝わるよう、じつに苦労している。

 一番大変なのはこの春入学した新入生だろう。そもそも高校生から大学生になるだけで、生活は大きく変化する。これは、多くの読者にも経験があろう。それに加えて今回は、おそらくこれまで経験したことがないオンライン授業で大学の講義が始まる。新入生はかなり混乱するはずであるが、その混乱をできる限り抑えるべく、職員も尽力しているのである。

ほとんどの私学は授業料減免する体力ない

 国立大学においては、学生は授業料を大学に収めるのではなく、国庫に納める。そして国は、学生数などに応じて国立大学運営交付金が支給される。したがって、授業料そのもので運営されている、というわけではないが、国立大学も経営力が問われる時代になっていると言える。

 だが、私立大学の経営環境はそれ以上に厳しい。約4割が定員割れしているといわれ、そのような大学の中には、危機的な財政状況に置かれている大学もある。実際、すでにリストラ、賃金カットが進んでいる私立大学は、決して珍しくはない。定年の年齢が引き下げられた大学も少なくはない。任期制の教員は当たり前のことになった。教員の多くが、数年間の契約である場合すらある。このような傾向は、一般企業と同じである。

「豊かな私学」というイメージは、大規模私学の一部にのみあてはまるのである。多くの私学には、少数の学生だけならまだしも、多くの学生に授業料減免を実行する経済的余裕はない。

 仮に、収入が200億円程度で、そのうち授業料収入が100億円の大学があると仮定しよう。もし総額30億円の授業料減免をすることとし、それを教職員の賃金カットで補おうとすれば、専任教職員が500人というこの規模では普通の大学の場合、一人当たり600万円の賃金カットになる。これでは、教職員はとても生きていけない。十分な流動資産がある大学なら、賃金カットは不必要かもしれないが、そのような大学はほとんどあるまい。今回の文科省(案)は、それを理解しているとは思えないのである。

国は学生にもっと多くの財政的支援を

 もし、政府の方針通り、私立大学の学生には3億円の援助があったとしよう。しかし、文科省の指針を文面通り読むとするなら、授業料減免などをした大学の所属する学生しかこの特典に与かることはできず、それは恵まれた数少ない私学の学生に限定される。さらにそうした私学に通う学生の家庭は、むしろ比較的裕福だと推測される。であれば、文科省の政策は格差を助長することになり、明らかに間違っていると思うのである。

 政府のすべきことは、困っている学生に財政的支援をすることにほかならない。アルバイトで生活していた学生に対する給付金を支給することが必要なのである。そこに目を向けてくれるならば、国立と私立を合わせて7億円というような金額ではなく、最低でも数百億円単位となるはずだ。もちろん私立大学は、それに加えて、授業料減免の学生数を増やす取り組みもしなければならない。

 それで少なからぬ学生が退学しなくてすみ、日本社会は安定し、将来有望な若者の芽を摘み取ることがなくなるのならば、社会にとっても大きなメリットがある。このメリットを、わが国は、もっと重要視すべきではないか。

 このままいけば、就職氷河期のため正社員として就職できなかったロストジェネレーションと呼ばれる人々を再生産することになってしましかねない。いや、正確には「中退ジェネレーション」と呼ぶべきであり、彼らの境遇はさらに悪い。

 そうならないためにも、国は学生にもっと多くの財政的支援をすべきだと訴えたい。学生の学習権を保障することこそ、このような緊急事態における国家の責任ではないだろうか。

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