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2020年09月20日

明治学院大学事件、日本倫理学会で取りあげられる!

https://sites.google.com/edogawa-u.ac.jp/jse

■日本倫理学会第71回大会
・日時:2020年10月4日(日)10時20分~11時00分
・会場:オンライン(ZOOM)https://sites.google.com/edogawa-u.ac.jp/jse
・テーマ:明治学院大学「授業盗聴」事件を倫理学的に考える
・発表者:寄川条路(yorikawa@gmail.com)

■発表要旨:
法律上の問題はクリアしていても倫理上の問題が残る場合がある。一例として大学当局が教員に無断で授業を盗聴し録音していた事件を検討する。

1.「明治学院大学事件」の概要
・授業の盗聴:授業を調査するため大学が教員に無断で授業を録音したところ、教員が大学の録音行為を不法行為として告発したため大学は同教員を懲戒解雇した。
・教科書の検閲:倫理学の教科書が大学の教育方針(キリスト教)に反し、倫理学の教員が私立大学の教員倫理に反するとして大学は同教員を普通解雇した。

2.裁判の結果
・地裁の判決:大学による解雇は客観的合理性と社会的相当性を欠き違法である。教員の地位と賃金を認める。ただし大学による録音は1回目の授業のガイダンス部分であるから授業の録音とはいえない。教員が使用していた教科書はキリスト教を批判していて倫理学の教科書として不適切とはいえない。
・高裁で和解:授業の無断録音について大学が教員に謝罪し5000万円を支払うことで和解が成立した。

3.法律上の問題
法律上の問題として本件を見ると、
・憲法学では「学問の自由の侵害」(小林節)となり、
・教育法では「教育の自由の侵害」「不当な支配」(丹羽徹)となり、
・表現法では「表現の自由の侵害」(志田陽子)となり、
・労働法では「労働者のプライバシーの侵害」(山田省三)となり、
・刑事法では「監督のための点検行為」(清野惇)となる。

4.思想上の問題
思想上の問題として本件を見ると、
・教育上は「教育者の人権侵害」(細井克彦、島崎隆)となり、
・哲学上は「理性の公共性の侵害」(福吉勝男、小川仁志)となり、
・宗教上は「宗教による学問の自由の否定」(幸津國生)となり、
・思想上は「集団思考による多様性の排除」(宇波彰)となり、
・学問上は「学問の自由以前と以後の問題」(末木文美士)となる。

5.倫理上の問題
倫理上の問題として発表者は本件を見ている。裁判所は、無断録音を「当・不当の問題」として法律判断の枠外においた。無断録音それ自体は違法行為ではないが、「良くないこと」であり、「褒められたものではない」から、「申し訳なかった」と大学側が謝罪するように提案した。発表者はこの提案を、法律上の問題(適法か違法かの判断)ではなく、倫理上の問題(善し悪しの判断)としてとらえ、事件の結末を倫理学的に考えるものである。

6.参考文献
・寄川条路編『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』(法律文化社、2018年)。
・寄川条路編『大学の危機と学問の自由』(法律文化社、2019年)。
・紀川しのろ『シノロ教授の大学事件』(世界書院、2019年)。
・寄川条路編『大学の自治と学問の自由』(晃洋書房、2020年)。
・寄川条路編『表現の自由と学問の自由』(近刊)。
・寄川条路編『実録「明治学院大学事件」』(近刊)。

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