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2020年10月29日

札幌国際大学懲戒解雇事件、札幌地裁第1回口頭弁論 原告・大月隆寛教授の冒頭意見陳述

 札幌国際大学懲戒解雇事件に係わり,10月27日,札幌地裁にて,第1回口頭弁論が行われた。原告である札幌国際大学教授・大月隆寛氏の冒頭意見陳述(全文)をここに掲載。

2020年10月27日  於・札幌地方裁判所

第1回口頭弁論 冒頭意見陳述

大月隆寛です。

 裁判を始めていただくにあたって、冒頭、少しだけ自分の今の気持ちを述べさせていただきます。

 自分は1989年以来、大学や研究所の教員として生活してきました。2007年以来、縁あってご当地の札幌国際大学に教員として勤めてまいりました。同時にもちろん、研究者としての研究も行なってきました。

 それらがおよそ正当な理由と手続きのないまま、しかも懲戒解雇という労働者としては最も厳しい処分で職を追われることになった、そのことについては言うまでもなく非常なショックを受け、困惑し、大きな憤りも感じています。

 ただ、ひとつはっきり申上げておきたいのは、それらと共に、あるいはそれ以上に、公益法人である大学という機関がこのような異常とも言える処分をくだすにいたった、その背景の詳細とその是非について、この法廷の場で、法と正義に基づいたまっとうな判断を下していただくこと、そしてその過程において、大学の中でどのようなことがおこっていたのかについて、社会に、世間の方々にも広く知っていただくこと、を目的としているつもりであります。

 さらに、この6月末に自分がいきなり解雇されたことによって、自分が受け持っていた講義科目や演習の学生たちに著しい不利益が生じていることも申し添えておきます。今年に入ってからのコロナ禍でいわゆる遠隔授業が実施されていたことで、4月に入学したものの大学に顔を出すことも禁じられ、同級生やクラスメートとも顔をちゃんと合わせたこともないままだった1年生も含めて、あるいは他方、就職活動を行ない、卒業論文の執筆にもとりかかっていた4年生に至るまで、何の予告もそのための準備もないまま前期半ばでいきなり放り出されてしまいました。その後も誠実な対応をしないまま推移している大学側の態度と、それによって生じてしまった学生たちの不利益についてもまた、この場で明らかにして、それらの是非もまっとうに判断していただけることを、彼ら彼女らの名誉のためにも希望いたします。

 大学という場所が本来どういう場所であるべきか。少なくとも自分は、憲法で保障された「学問の自由」を教員も学生も共に、同じ「学生」、古い言い方を敢えてするならば平等な「書生」という立場で、保障されるべき場所だろうと思ってきましたし、今もそう信じています。それはその大学が有名か無名か、国立か私立か、文系か理系か、大規模なものかささやかなものか、といった違いを越えて、未だに国際的に共通する認識であり、前提だろうと思います。そして、そのような場所を持続的に、安定して維持してゆくのが大学経営の本来であるはずです。

 そのような経営側と、現場の教員を中心とした教学側の、良い意味での緊張関係をもってあるべき大学の姿をめざして努力して行く、立場の違いはあれど、大学という場所に関わり、それを仕事とする者にとってはみな同じ認識だと思っていましたし、今もそれは変わりません。

 経営側と教学側がそのような風通しの良い信頼関係を取り戻して、あるべき大学の姿に少しでももう一度近づくことができるような環境を、自分は何よりも望んでいます。それは、自分ひとりでなく、奇しくもこのような事態に巻き込まれてしまったこの札幌国際大学の、今いる教員や職員などの多くのもの言わぬ想いでもあるはずです。今回の自分の「懲戒解雇」とそこに至る過程は、この大学の教職員はもとより、いま在籍して学ぶ学生たちの、さらにはこれまでこの大学で学んで社会に出て行った卒業生のOBOGも含めた人たちの、大学に対する信頼も大きく損ねてしまった、そのことを教員のひとりとして残念に思いますし、またできるだけすみやかにそれらの信頼を回復できるよう、努力したいと強く思っています。大学としてのまっとうなあり方とはどんなものか、たとえ北海道の小さな私立大学あっても、それは世界的に共通する「学問の自由」という価値に向って開かれたものである、ということを示したいと願っています。

 大学の規定でフルタイム雇用の定年は63歳。自分はいま61歳ですから、あと2年で自分は時間切れになります。この裁判の結果が出る頃には、自分は大学に戻れなくなっているかも知れない。今いる学生たちとももう大学で会えなくなっているかも知れない。そういう意味で今の自分に残されている時間はもう少なくなっています。なので、縁あって大学で出会って共に学ぶことになった、今の学生たちとの関係をまずできるだけ早く取り戻したいと考えていますし、そのために公正な判断をできるだけ早くいただきたいと思っています。そしてそれは、学生たちのため、という一点において、大学本来の目的とも合致しているはずです。

 これはしょせん、地方の一私大のできごと、見る人によってはよくある内紛に過ぎないと思われているかも知れません。ただ、背後にある構造はどうやらいま、この国のさまざまな組織で起こっていることとも、陰に陽に関連しているようですし、その意味では案外厄介で根の深い問題も引きずり出しかねない案件だと、自分としては腹をくくってこの場に臨ませていただいております。

 「懲戒解雇」という異常で不当な処分を、「学問の自由」を保障するべき公益法人である大学が一方的に行なったことの是非。そして、そこに至った背景にある昨年来の留学生をめぐるさまざまな問題の経緯も含めて、どうか法と正義に基づいてご判断をしていただけるよう、裁判官のみなさま、心からよろしくお願いいたします。

 以上です。

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