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2021年01月30日

早稲田大学の教員採用をめぐる裁判(続報)

Facebook(Okayama Shigeru,2021/01/30)

早稲田大学の教員採用をめぐる裁判(続報)

大学はいまや終身雇用ではなくなっています。多くの大学で任期制が導入され、3年とか5年で首を切られるようになりました。採用の5年後にテニュア(終身在職権)が取れるかどうかの審査があるテニュア・トラック制も導入されています。また私立大学でも教員の採用が公募で行われることが多くなっています。

そのなかで、教員の採用をどうすれば透明で公正なものにできるかが問われています。大学が一部の学閥エリートによって支配される閉ざされた空間ではなく、すべての人に開かれた自由な空間になるにはどうすればよいのかが、いま問われているのです。

ここにいる原告の明治大学教員の石井さんは、早稲田大学政治経済学部の非常勤講師でもあり、早稲田大学のアジア太平洋研究科の専任教員の公募に応募したのですが、第一次選考で落とされました。応募の要件はみたしていたはずなので納得のいかなかった石井さんは、研究科長に宛てて事実確認を求めました。しかし研究科長が回答を拒否したため、こんどは大学の総長あてにそれを求めましたが、それも拒否されたため、石井さんは労働組合東京ユニオンに加盟し、早稲田大学の労働者(非常勤講師)として早稲田大学と団交を行いました。しかし早稲田大学はこの団交においても教員の採用は団交事項には当たらないとして話し合いを拒否したのです。石井さんと労働組合東京ユニオンはこうして早稲田大学を相手に訴訟を起こすことになりました。

たしかに「大学の自治」は保障されるべきです。しかし大学の自治は「学問の自由」を守るためにあります。そして「学問の自由」は「労働権」とともに憲法によって護られているすべての人の権利です。それをあたかも大学の権利であるかのように語る早稲田大学は、なにか考え違いをしているとしか思えません。

教員および研究者の採用は思想の検閲であってはいけません。昨年来、菅首相は日本学術会議の6名の新会員候補者の任命を拒んでいます。理由をいわないので想像するしかないのですが、6名の候補者の思想・信条が日本学術会議にふさわしくないと考えてのことでしょう。ところで早稲田大学は菅首相と同じことを学内の教員採用においておこなっているのです。

たしかに原告は、中国政治というたいへんセンシティブな分野の研究者です。中国の政権におもねり、中国からの留学生をふやし、孔子学院という中国の体制側の機関の事務所を大学の構内に招き、江沢民や胡錦涛などの国家主席に大隈講堂で講演させている早稲田大学にとって、原告はちょっとやっかいな人物です。しかしそういう候補者を第一次選考ではじくということは、早稲田大学が自由な学問のための場ではなくなってしまっているということを意味します。

私たちは早稲田大学の田中総長を相手取って裁判をしています。田中総長は、自らの思想・信条によって大学の構成員になろうとするものの思想・信条の自由を踏みにじることを許されるのでしょうか。大学のなかのアジア太平洋研究科という箇所が、そのような教員採用をしていることを許しておいてよいのでしょうか。

大学側の弁護士は、大学は自治がみとめられているがゆえに一般の企業よりも大きな採用の自由をもつと言います。そういう弁護士を雇っておいて、早稲田大学は自由な研究のための空間であり続けることができるのでしょうか。早稲田大学はそこで学び問おうとする者の「学問の自由」を、これからも護りつづけることはできるのでしょうか。私たちはいまそういう闘いを行っています。どうかご支援をよろしくお願いします。

岡山茂(早稲田大学政経学部教授、東京ユニオン早稲田大学支部長、2021年1月28日東京地裁前)


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