研究者の地位と権利を守るための全国的ネットワークをつくろう!

2022年01月04日

私立大学をこわさないで!教育研究の現場を疲弊させる恐れのある大学法人ガバナンス改革案に反対します!

Change.orgの署名サイト

私立大学をこわさないで!教育研究の現場を疲弊させる恐れのある大学法人ガバナンス改革案に反対します!

私たちは全国の教育関連機関で教育に携わった経験のあるメンバーから構成されたグループです。この数年間、母校である私立の中学・高校、大学や、勤務先であった教育機関が「コストカット」の方針のもと、非常勤、非正規の教職員を増やし、労働環境の悪化が進み、現場は疲弊しています。

ここで、現場を知る私たちからのお願いです。私立大学の自治を脅かし、現場にいる学生や教職員の声を蹂躙する恐れのある「大学法人ガバナンス改革案」に断固として反対します。来年国会で審議されることとなっている、改革案を見送ってください!

1.私たちの問題意識:学生、教職員、卒業生たちの現場の声を大学に反映させるために。

日大の理事長の事件により、世間に明るみになったことでもありますが、日本の多くの私立大学において、権力を持つ立場の人物から、恣意的な理由で重用された一部の人物が、組織全体の人事権や予算の執行についての権限を掌握し、必ずしも学生にとって望ましいとは言えない決定が次々と下されてしまうケースが相次いでいます。もはや学校法人の「私物化」とも言える状況です。

学生と教職員、卒業生たちの声が軽んじられ、ごく一部の人物たちが権力を振りかざし、これまで学生、生徒のために真摯に教育と向き合ってきた関係者たちが、不当に低い評価を受けたり、雇用そのものを脅かされている事例も、複数報告されています。

今回、文科省に提出された「大学法人ガバナンス改革案」は、一見、その理事会の問題にメスを入れる改革のように見えますが、実のところは、学生教職員の声が、さらにないがしろにされる危険性が大きい法案です。

”文部科学省の「学校法人ガバナンス改革会議」(座長:日本公認会計士協会・増田宏一相談役)の報告書は、評議員会を「最高監督・議決機関」とし、権限を集中させることが柱になっている。理事による評議員の兼務を禁止し、学内関係者は評議員になれない。理事会・理事による評議員の選任・解任を認めない一方、評議員会は理事を選任・解任する権限を持つ。”

(引用元:http://between.shinken-ad.co.jp/univ/2021/12/governance.html

現場の声がないがしろにされてきたのは、近年始まったことではありません。非正規雇用の増加により、多くの組織が、分断されています。

理事長にメガネの色を変えるように強要された教職員、理事長の思いつきによるキャンパス改変計画による、学生にとって思い入れのある校舎や学生寮を取り壊し、関係者が全く望まない数百億円にものぼるキャンパス開発を進め、かつての公共事業のようなことが進められる一方で、学費を徐々に上げていく、そんな現場を目の当たりにしたメンバーもいます。経営陣から日々厳しい叱責を浴びた大学の教員、職員が、教育にやりがいを見いだせなくなり失望し、心身ともに疲弊してしまっている現場もあります。

理事会だけが絶対的な権限を持つ現状は、変える必要があると思います。それには、権力の分散化、形骸化しない教授会の運営や、学生や職員の声をもっと反映させるような会合の開催など、工夫が必要だと考えます。現場目線からすると、外部の評議員に絶対的な権力を持たせるのは、更なる権力の腐敗を招くだけのように思われます。

2.大学における権力の一極集中化の問題

そもそも、なぜこれほどまでに学校法人の「理事長」が権限を持つようになったのでしょうか?

今回の大学ガバナンス改革案の、8年前の2013年に、財界出身の私立大学理事長らが自民党の会合に出席し、法律改定を要求した背景があるようです。

「教授会の権限を限定 中教審素案、学長主導の大学改革促す」(2013年11月19日 日本経済新聞記事)

https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1903Z_Z11C13A1CR8000/

「中教審 教授会権限はく奪案 分科会 異例の再審議へ」(2013年12月31日 しんぶん赤旗記事)

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-12-31/2013123102_03_0.html

*この動きに対して、日弁連は、「憲法の保証する大学の自治を危うくし、大学の自主性、自立性を損なうおそれが強いと言わざるを得ず、これに反対する」という意見書を出しています。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2014/opinion_140619.pdf

この動きの結果、改定案が出され、大学の重要事項を審議する権限が教授会から奪われ、学長の諮問機関に変質させることなどが盛り込まれたのです。そこからたった8年で、この時の改定案とは全く異なる「評議員」が権限を持つように変える提案が出されたというのは、一体どういうことでしょうか。

これは、教育現場の実態を知る立場の人々を最高決定機関から外す動きであり、権力の分散どころか、非常に限られた「現在の教育機関とは関係のない」外部の立場の人物たちが、あらゆることを決めることになる、恐ろしい法改正です。

教育組織の実態と乖離しており、大学で評議員となれる立場の人々を選定することが困難になることが予想されます。結果的に、現在「経営陣」として要職についている、限られた人々からの「非常に個人的な」推薦によって、新たに評議員が選ばれ続けることになりかねません。さらに新しい法案では、現職の理事、教職員は評議員になれないようにすることまで盛り込まれていますが、これでは、私立大学の運営そのものが困難になりかねません。

大学における主役である学生と教職員から非常に遠い立場にいる、外部の評議員の機関に絶対的な権力をもたせる現在の案は、現実の私立大学の実態を完全に無視したものです。

3.競技の選手の顔も知らず、練習風景を見たこともなく、競技を経験したことのない人が最高責任者に!?

この法案が行おうとしていることを、スポーツに例えるならば、ある競技において、その競技の選手の顔も知らず、練習風景を見たこともなく、そもそもルールを一切知らず、その競技を経験したこともない数名の「評議員」たちが、選手の采配を全て決定できる最高権力を持つ「監督」の立場に就任し、あらゆることを決めていく、そんなチームのようなものです。

教育機関における教員、職員たちがスポーツにおける「監督」だとするなら、その人たちから一切の選手の采配の権限を奪い、完全に外部の人間が全ての権限を持つ。そのようなチームで練習を積んだ選手たちが、世界で強豪チームと渡り合える選手となれるでしょうか。野球のルールを知らず、プロ野球のチーム名すら知らず、普段は別の「社会的に非常に高い立場かつ高収入の」職業に就きながら、年に数回だけ、会議に顔を出す「監督たち」が決めた方針によって練習した野球チームがあるとして、そのようなチームから、現在大リーグで活躍する、世界にも名を轟かせる大谷翔平選手のような選手を育成できるでしょうか。

研究者や教職員たちの存在をスポーツ競技に例えるのは少し強引だと思われるかもしれませんが、教育機関の基本的な成り立ちや、社会的な役割の重要性、学生や教員たちの実態を一切知らない方々が、年に数回しかない「評議員会」という会合によって、全ての運営を決定する・・・、そんなことが許されるのでしょうか。

現場を知る教職員を評議員から外すという、あまりにも無謀な教育ガバナンス改革委員によって提案された法改正の異様さを、わかっていただきたく、このように例えました。

なぜ、「評議員」の権限を強化し、大学の重要事項を「外部」の方が決められるようにするのでしょうか?現在「評議員」に就任している方の権力をますます強めようとする動きではないかと懸念します。

4.民主的なプロセスを遵守してください!

また、「大学ガバナンス会議」において決めた内容に関して、パブリックコメントを頑なに拒むのはなぜでしょうか?

「学校法人ガバナンス会議、意見公募巡り紛糾 文科省」

(2021年12月3日 日本経済新聞記事)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE039HF0T01C21A2000000/

民主主義社会においては、様々な立場の人々から広く意見を公募するというのは当たり前のことに思えます。こうしたプロセスを拒否するような考えを持つ一部の人々により、重要な決定がなされることに危機感を感じます。今度は、「評議員」と呼ばれる人々がハイエナのように大学に取り憑き、学生の声を無視し、現場で働く教職員の待遇をさらに過酷なものとし、学費の値上げなどを進めていくのではないかと危惧するのです。

その点で、「株式会社の最大のステークホルダーは株主であるのに対し、私立大学において最も重要なステークホルダーは学生とその保護者です。上記の提案は学生の視点が完全に欠落しています。学生と日頃接していない学外評議員だけで、私立大学の教育研究に関する運営の責任は取れません」とする私大連の声明に、私たちは現場を知る一員として、賛意を示したいと思います。

「学校法人ガバナンス改革会議の最終報告に対する意見声明 、その他の意見」(一般社団法人 日本私立大学連盟HPより)

https://www.shidairen.or.jp/topics_details/id=3442

https://www.shidairen.or.jp/files/user/20211206governance_seimei.pdf

私たちは、「大学法人ガバナンス改革案」に断固として反対します。来年国会で審議されることとなっている、改革案を見送り、教育機関の主役である教員たち、学生たちが、熱意を持って、研究活動に取り組めるような環境を守ってください!

|