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2005年06月22日

弘前学院大学不当解雇事件、学校法人側 上告取下げ 教員の勝訴が確定

 弘前学院大学不当解雇問題において,1審・2審とも解雇の不当性を認められ勝訴した教員に対し,学園側が上告および上告受理申立していた事件で,6月9日,学校法人弘前学院はこれらの上告・上告受理申立を取り下げました。以下がその書面です。その結果,仙台高裁での勝訴判決が確定したことになり,弘前学院大学不当解雇事件裁判は,ついに教員の勝訴で終結を向かえることになりました。

 この不当解雇事件は,そもそも今から4年以上も前の2001年4月16日に,弘前学院大学におけるある一人の教員が突然に解雇されたところから発生しました。具体的には,予告なく経営上の理由による退職を個人的に勧奨され,これを拒否したところ,一方的に解雇されたというものです。当初は「整理解雇」という事由がつけられていましたが,この教員が地位確認等を求めた裁判所への提訴(青森地裁弘前支部2002年2月7日)の過程において,学校法人側から12項目にわたる教員不適格というご本人にとっては耐え難い屈辱的な汚名が着せられ,それも解雇の事由とされました。
 この事件について,第1審の青森地裁弘前支部は,2004年3月18日,原告教員の訴えを認めて,雇用契約上の地位確認,未払い給与支払い,損害賠償を被告大学に命じました。同地裁の判決は,整理解雇の点について,「本件解雇時に,人員整理を行うべき高度の必要性があったものとは到底認められないし,解雇回避努力がほとんどされていないことからしても,被解雇者選定の合理性や解雇手続の妥当性について考慮するまでもなく,整理解雇に合理的な理由があったものと認めることはできない」と法人側主張を退け,また12点にわたる教員の不適格性にについては,そのうちのいくつか点で事実を否定し、または被告側の表現に誇張があるとした上で、これらは解雇事由を正当化するものではなく,解雇権の濫用と判断し,きっぱりとこの解雇は不当解雇である旨決定を出しました。
 ところが,被告法人側は,この地裁決定を不服として仙台高裁秋田支部に即日控訴しました。高裁では法人側提出の証人尋問も含めて計4回の口頭弁論が開催されました。証人尋問では,この教員が教えた元学生まで法人側は証人として出廷させるなど,ある意味教員のみならず学生のプライバシー公開に近いことも行われました。しかし,仙台高裁は,2005年3月30日,法人の控訴棄却を決定。1審・2審とも不当解雇された教員の勝訴になりました。法人側はこれら2つの裁判で自らの解雇の不当性を認定されたにも拘わらず,2005年4月20日付で,さらに最高裁への上告および上告受理申立を行いました。ところが,冒頭に触れたように,6月9日付をもって,上告および上告受理申立を取り下げた。その結果,高裁決定が確定し,この不当解雇裁判は教員の勝訴をもって終結となりました。

 原告教員は,この不当解雇裁判を3年4ヶ月に渡り,また不当解雇されてから4年と2ヶ月もの長期間,たたかってきました。このたたかいは,基本的に1人でありました。解雇辞令交付当初,緊急避難的に東京にあるインターネット労組に加入。この労組から当該教員は裁判そのほかの助言を受け,また,この労組が特に教育関係のものではない一般労組であることから,労組を通じて日本私大教連などの協力要請等が行なわれました。しかしながら,日本私大教連からの支援も実質的なところゼロに等しいものでした(1人の単独加盟も認めていない)。
 今回のような解雇裁判において,特に地方の私立大学で事件が発生した場合,私は既存の労働組合による支援の限界性,脆弱性ということを痛切に感じています。ほとんど頼りにならないというリアルな実態があります。今の私立大学は,弱小私大あるいは短大が多い地方から経営危機が深刻化しています。都市部では,ある程度組合の連合体が組織されていますが,地方では皆目ゼロに近い。今後,私学危機による「整理解雇」やそれに付随した人権侵害事件の多発は,大いに予想されます。その際,日本の全国の大学人はこれをどのように問題化し,いかに支援していくのか,この重い課題を考えて行かねばならないのではないか。今回の解雇事件は,そのあり方を問うという面で教訓を残した事件であったと思います。

 この事件については,事件そのものの存在も含めて,このサイトと「鹿児島国際大学解雇事件の裁判と資料」HPの以外,ビラ1枚公にされた媒体物はありませんでした。このサイトでは,2004年3月30日付の地裁判決結果に関する記事以降,この問題を継続して掲載してきましたが,勝訴を勝ち取った教員の実名は,ご本人の今後のこともあり,最後まで公表することはできませんでした。この教員にあっては,本当にこの4年間は長かったと思います。無給状態のまま,よくここまで耐えて来られたと思います。心より,敬意を表したいと思います。

 なお,裁判に勝ったとはいえ,そのまますんなり元の教壇に立てるかどうかは別の問題があります。日本の判例体系では就労請求権がほとんど認められていないからです(大学教員の就労請求権の判例はこちら)。今後,法人側がどのような措置をとってくるのか,その成り行きにも注目していきたいと思います。読者の皆様方で,いろいろなエールやアドバイスがありましたら,ホームページ管理人宛,よろしくお願いしたいと存じます。責任をもって,当人にお伝えしたいと思います。(ホームページ管理人)

弘前学院大学不当解雇事件のこれまでの経過については,以下にあります。
カテゴリー 弘前学院大学(2004年10月まで)
カテゴリー 弘前学院大学(2004年11月以降から現在まで)

平成17年(ネオ)第6号 地位確認等請求上告事件
平成17年(ネ受)第6号 地位確認等請求上告受理申立事件
上告人(上告受理申立人)  学校法人  弘 前 学 院
被上告人 〈相手方)   (匿名)

上告・上告受理申立の取下書

平成17年6月9日

最 高 裁 判 所  御 中

上告人(上告受理申立人)訴訟代理人
弁護土  俵     正 市
同    小  川  洋 一

 上記当事者間の頭書事件について,上告人(上告受理申立人)は都合により上告及び上告受理申立の全部を取り下げます。


投稿者 管理者 : 2005年06月22日 02:33

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