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2005年11月24日

守山キャンパスをめぐる立命館と平安女学院との間の「交換条件」

 立命館への平安女学院大学守山キャンパス無償譲渡をめぐり,住民から譲渡差止と補助金返還を求める監査請求が21日出された。新聞各社は,この問題を一斉に報道した。

立命館:平安女学院に10億円の財政支援へ(毎日新聞11月21日)
補助金返還求め市民が監査請求 守山・平女大の跡地譲渡(京都新聞11月22)
市立守山女子高の移管問題:守る会が住民監査請求「市の損害放っておけない」(毎日新聞11月22日)
立命館 平女に10億円支援へ 守山の校地移転めぐり(京都新聞11月22)

この中では重大な事実が判明している。

 若干,核心に関わる問題の経緯から触れておこう。
 立命館に対する守山キャンパス無償譲渡問題をめぐっては,市立守山女子高校の立命館への移管問題とも絡んで,今年の春,平安女学院と立命館の両理事長,および守山市長との三者間で,水面下の「密室協議」が展開された。このことはすでに多くの新聞報道が明らかしてきた。しかし,その内容については,これまで両大学から一切公式に説明されることはなかった。ただし,立命館大学校友会は,すでに5月18日段階において,「立命館守山高校」開設の「覚書調印」に触れて,全く唐突ともいえる「平安女学院との間ではさらに別途協力関係を強化する方針」との文言を自らのネットで配信していた。

 また7月20日付日本経済新聞「滋賀の公立高、立命館に移管」は,高校移管問題にふれつつ,「交渉の結果、立命館は市から無償譲渡された女子校の建物、土地で男女共学の普通科高校を立ち上げ、1年後に中・高の一貫校として女子大跡に移転。立命館が平安女学院(学校法人)を支援する見返りの形で市は大学の土地、建物の返還を受け、女子校跡地(更地)と再度交換する話を成立させた。」と説明した。この記事では,はっきりと立命館が平安女学院に「支援する見返り」として,キャンパス返還が成立したと述べている。この立命館の「支援」,そしてその「見返り」による市へのキャンパス返還と立命館への無償譲渡を指摘したのは,この日経記事が最初であったと考えられる。ただし,ここでは「支援」の内容も,また何故に立命の「支援する見返り」なくしてキャンパス返還があり得なかったのかも説明していない。したがって,このサイトでもいろいろ推論した経過がある(おかしな「交換関係」)

 まず,ここにきて,上記問題のうち立命館の平安への「支援」の内容が明かとなった。毎日新聞(11月21日)によれば,まさに10億円にものぼる「財政支援(「教育研究支援」としての「7億円の寄付」と3億円を貸し付け)という名の金による取引であった。つまり,立命館は,7億円を平安に寄付(プラス3億円の貸与)し,その「見返り」として,守山キャンパスを市に返還させ,再度今度は市から無償譲渡させてそのまま自分のものにした。しかも,自治体からの補助金33億円分については,全て市が負担するという条件付きで。

 この問題について,立命館内部では,すでに今年8月以降,「職員に『財政支援はキャンパス跡地譲渡の交換条件の一つ』などと説明」していたという。「教育研究支援」という立派な名前をつけているが,内実は守山市を一通過点とする「守山キャンパスの立命への無償譲渡」と「10億円」の「交換」=取引を表現するものに過ぎない。こうした「交換条件」が今年の春の「密室協議」において,取り決められたことは間違いない。なぜなら,この「交換条件」がなければ,平安女学院のキャンパス返還はあり得なかったからである。

 一方,平安女学院の側の方に視点を変えてみよう。時期をさかのぼって,キャンパス移転問題が大きな議論になっていた2004年9月24日に開催された守山市定例市議会において,山川明男市議は以下のような質問を市長に投げかけていた。

「2つ目は、平安女学院大学理事長山岡景一郎氏の本来の思惑は何かであります。  平成15年4月に平安女学院大学の理事長に山岡景一郎氏が就任されたと聞き及んでいます。当然、企業が経営を立て直す場合、経営責任者が交代することはあり得ると思います。もし、学校経営を立て直すことが重要とすれば、私たちに経営に関するすべて、資産内容、経営実績、経理内容、生徒募集の内容等、実績などを明らかにして再建計画に同意を求めるべきであります。いまだ私たちは何も聞かされていません。守山市からの補助金25億6,000万円と滋賀県の補助金8億円、合わせて33億6,000万円が重要な再建資金だとすれば問題です。  理事長山岡景一郎氏の思惑が守山びわ湖キャンパスの用地、建築物を他の教育企業に売却して、平安女学院大学の再建資金に充てるとの疑った見方もあるわけです。」

 平安女学院大学はわずか5年で守山市から撤退するにあたり,大学開設の際に受けた補助金は一貫して「返還しない」ような態度を取り続けた。この点に関して市と平安との間で訴訟事件にもなりかねない状況があった。最終的には,上記山川氏が疑った見方と述べたような「守山びわ湖キャンパスの用地、建築物を他の教育企業に売却して、平安女学院大学の再建資金に充てる」ことは不可能であったが,その代わり,立命館が10億円の「財政支援」を行うことで,その目的の多くは達成されたことになる。しかも,「密室協議」の結果から,総額33億6000万円もの補助金についても,返還する義務から一切開放された。見方を変えれば,平安女学院は,10億円もの「再建資金」を,キャンパス撤退問題を通じて,立命館から引き出したということもできよう。立命館・平安女学院,両者にとってこれほどうまい話はなかったと思われる(この2大学の関係は尋常ではない)。この点が今年春の「密室協議」の1つの内実であったのだろうと推測する。

 一番のツケを回されたのは,守山市民である。莫大な価値資産を,当初の事業計画(第4次守山市総合計画にも入っていた大学を核とする地域振興計画)とは大きくかけ離れた目的,すなわち立命館の高校拡張事業のために,いわば無償で「横流し」され,しかも,自分たちとは何の関係もない滋賀県からの平安への補助金6億円も,守山市民が肩代わりさせられた。住民監査請求が起こって当然である。しかし,こうした取り決めや手続きを率先して進めた山田守山市長の責任も極めて重大である。同様に,それに圧倒的多数でGOサインを出した市議会の議員たちも全く良識というものを持たない(市立守山女子高校の立命への移管を決議した5月12日の市議会は一種異様なものである)。また,毎日・京都新聞報道では,「市は『関知していない』」とコメントを出したとされるが,これは全くの虚偽発言であろう。市へのキャンパス返還は,その条件とともに「立命館の側から」提案されたであろうことは明らかであるからである。

 一連の新聞報道の記事内容から,またいろいろな疑問点も浮かんでくる。それは両大学の対応である。立命館側は今年8月以降、職員に「財政支援はキャンパス跡地譲渡の交換条件の一つ」などと説明したいうが,立命館内部では学生父母から集めた公的な流動資産(授業料)がこうした平安女学院への「財政的支援」と称して支出されることを,重大な問題であると認識して議論されなかったのだろうか,という疑問である。理事会は別にして,説明を受けた教職員は,このお金がキャンパス無償取得に対する一つの「対価」と認識したのだろうか。また,なぜ「10億円」なのか,ということに疑問を持たなかったのだろうか(立命館大学の教職員組合はすでにこの問題を知っていたと聞く。自らの機関紙に特集号を組んで,全組合員に配布したとも噂に聞く。労使間でどのような話し合いがなされたのだろうか)。10億円というのは,たとえ立命館であったとしても,莫大な金額であり,これは学生父母のいわば「血税」と同じである。これが「交換条件の一つとして」「寄付」名目で7億円も他大学に流れるのである。普通のまともな大学であれば,大問題となる。
 因みに,平安女学院理事長の京都新聞11月22日付コメントは「寄付は本学の新学部設立など教育改革のためで、立命館の好意は大変ありがたい。これを問題にすることは私学振興に対する妨害行為だ」」と述べている。これを額面通り受け取るならば,立命館の学生父母はなぜ平安女学院の「新学部設立」のために金を寄付しなければならないのか。立命館側においてもこれを問題にすることは「私学振興に対する妨害行為」と捉えるのであろうか。立命館内部では,この種の説明を「なるほど」と聞いていたのだろうか。ただ,両大学の公式コメントにおいてチグハグさが見え隠れする。これは後で必ずやボロが出るに違いない。

 平安女学院の場合も同様である。同キャンパスは初期投資における総価値が50億とも60億とも言われる(就学権確認訴訟,大津地裁「訴状」より)。この中には約20億円以上の自己資金も含まれている。これを,現在では一部減価しているとはいえ,無償で渡してしまったのである。いわば,大半が学生父母の授業料からなるお金を立命館に渡してしまった。しかし,相互に渡した授業料部分が,立命と平安との今回の「交換」で,実質的に「相殺される」などと呑気に捉えることはできない。毎日新聞報道でも「平安女学院でも説明があったが、公表されていなかった。」とあるように,全体として通常ではあり得ない,極めて不明朗なやり方であるからである。

 同時に,この「密室協議」の結果,何も知らされない平安女学院大学の学生と市立守山女子高校の生徒たちの多くが泣いたことは言うまでもない。学生や生徒たちには一生心に残る傷と苦い体験を与えたことも間違いない。「平安女学院大学守山キャンパス就学権確認訴訟」原告の川戸さんは,「11月21日、毎日新聞のホームページで「立命館:平安女学院に10億円の財政支援へ」という記事が掲載されていました。開学からたった5年で移転。なぜ、私たちがびわ湖守山キャンパスを追い出されることになったのか、私はこの記事を読んでようやくその原因がわかった気がします。私たちと同じように守山女子高校の生徒が署名活動をしていた事を思い出し、また、心の傷が痛みます。」との短いコメントを出した。

投稿者 管理者 : 2005年11月24日 00:39

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