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2008年3月24日

鹿児島国際大学不当解雇事件,最高裁が学園の上告を棄却 三教授側勝訴が最終確定

 鹿児島国際大学不当解雇事件に関わり,3月21日,最高裁第二小法廷(裁判長裁判官・古田佑紀)は,下記の通り学園側の上告および上告受理申立の棄却を決定した。これで2002年3月末に同事件が発生してからまる6年かけて全ての裁判は終わった。その間,下記「鹿児島国際大学での三教授懲戒解雇処分に関する裁判経過」に記載したように,この事件に関わり,12の裁判が闘われたが,全て3教授側の勝訴,学園側の完全な敗北に終わった。

 この解雇事件が紛れもない不当解雇事件であったことは,すべての裁判において立証され尽くした。こうした不当解雇事件を引き起こし,いたずらに6年もの間,引き延ばし続けた津曲学園理事会,特にその中心的役割を果たした当時の学長菱山泉(2007年2月17日死亡,死亡時は理事長),および理事の伊東光晴(京都大学名誉教授,福井県立大学名誉教授),その他関係理事の責任は重大である。6年間教育と研究を奪われ,多大な苦痛を負わした三教授に対して心から謝罪するとともに,自らの非を社会的に公にして辞任すべきである。そして,今回の最高裁決定を踏まえ教授らの職場復帰を即時実現すべきである。

 さらに,事件の発端となった経済学部教員選考委員会と当該教授会審議を巡り,理事会に上申書を提出するなどこの解雇事件を導き,かつ未だ自ら作成したHP「坂の上通信」鹿児島国際大学教員有志)において三教授への名誉毀損行為を執拗に繰り返している当該大学の教員7名についても,三教授に謝罪し,その責任を取って当該大学を辞職すべきである。なお,HP上での名誉毀損行為は,当該大学の公式HPも同様である(未だにHPを掲載し続けている)。

最高裁決定(2008年3月21日)書面全文

当該解雇事件の経緯の全体像については,以下を参照のこと。
鹿国大解雇事件はこのようにして起こった!
鹿児島国際大学懲戒解雇事件の事実経過と解雇の不当性
以下に鹿児島国際大学解雇事件に関して当サイトが扱った全記録を掲載する。
鹿児島国際大学解雇事件(その1)
鹿児島国際大学解雇事件(その2)
鹿児島国際大学解雇事件(その3)

平成19年(オ)第207号
平成19年(受)第240号

決定

鹿児島市城西3丁目8番9号
上告人兼申立人    学校法人津曲学園
同代表理事長     菱山  泉
同訴訟代理人弁護士  金井塚 修
           金井塚康弘
           畠田 健治

鹿児島市○○
  被上告人兼相手方   田尻 利
鹿児島市○○
  被上告人兼相手方   馬頭忠治
鹿児島市○○
  被上告人兼相手方   八尾信光

 上記当事者間の福岡高等裁判所宮崎支部平成17年(ネ)第165号、第206号解雇無効、地位確認等請求控訴、同付帯控訴事件について、同裁判所が平成18年10月27日に言い渡した判決に対し、上告人兼申立人から上告及び上告受理の申立てがあった。よって、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文


 本件上告を棄却する。
 本件を上告審として受理しない。
 上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。

理由

1 上告について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、違憲及び理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。
2 上告受理申立てについて
 本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

平成20年3月21日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官  古田佑紀
    裁判官   津野 修
    裁判官   今井 功
    裁判官   中川了滋

鹿児島国際大学での三教授懲戒解雇処分に関する裁判経過

 平成14年3月29日、鹿児島国際大学を経営する津曲学園理事会が、経済学部の三名の教授を3月31日付で懲戒解雇処分とする決定を行った。(他に1名の教授を減給処分とし、もう1名の教授も後に減給処分とした)。主な処分理由は平成11年度に経済学部が行った教員公募での採用候補者の審査と決定が不当であったというものである。経済学部教員選考委員会での選考と教授会での決定に基づいて推薦された採用候補者を当時の学長の判断で不採用とした上、学園理事長の下に調査委員会や懲罰委員会を設け、教員選考委員会メンバーと経済学部長を処分した。

 なお、理事長の下に設置された二つの委員会は、教授会や大学評議会での審議や承認を経ることもなしに設けられた。調査委員会の委員長には学長自身が就き、懲戒処分案の理事会への提案も学長自身が行った。学長は選考委員会が選定した採用候補者は「科目不適合」であったと喧伝したが、同候補が抜群の業績を有する優れた研究者であったことは後に学長側も認めており、その科目適合性については当該分野屈指の代表的学者たちが裁判所に提出した「意見書」で幾重にも証言している。
 この懲戒解雇処分をめぐって以下の裁判が行われた。

(1)地位保全等仮処分申立事件〔平成14年(ヨ)84号〕
 平成14年4月5日に三教授側が、鹿児島地裁に提訴、同年9月30日に地位保全等の仮処分決定。担当:平田豊裁判官
(2)地位保全等仮処分異議申立事件〔平成14年(モ)1538号〕
 平成14年12月25日に学園当局側が鹿児島地裁に提訴、これについての審尋は後述する本訴口頭弁論の中で行われ、平成16年年3月31日に上記仮処分認可を決定。「決定」の中では「学問的立場の違いを理由に懲戒処分」すべきではないことが説示されている。担当:(池谷泉裁判長、審尋終了後退職)・山本善彦・平井健一郎裁判官
(3)保全抗告申立事件〔平成16年(ラ)43号〕
 上記決定を不服として平成16年4月17日に学園側が高裁に抗告。大量の書面を提出したあと9月13日に学園側が提訴取下げ。
(4)損害賠償等請求事件〔平成15年(ワ)357号〕
 本件処分と地位保全等仮処分決定に関する南日本新聞の報道内容と、地位保全決定後同紙に掲載された八尾論稿での肩書記載が学園に対する名誉毀損に当たるとして、平成15年4月22日に学園側が鹿児島地裁に提訴。平成16年1月14日に学園側全面敗訴の判決。 担当:池谷泉裁判官
(5)賃金仮払い仮処分命令申立事件〔平成15年(ヨ)161号〕
 平成15年10月以降の賃金仮払いを求めて平成15年10月15日に三教授側が鹿児島地裁に提訴。平成16年8月27日、地裁は平成16年6月から本訴第1審判決言い渡し月までの賃金仮払いを命じた。 担当:平田豊裁判官
(6)解雇無効・地位確認等請求事件〔平成14年(ワ)1028号=本訴第1審〕
 平成14年11月19日、三教授側が鹿児島地裁に提訴。被告学園側の外薗、韓、原口、衣川氏ら四証人と被告代表菱山泉理事長(前学長)本人への尋問、原告側の亀丸証人と三教授本人への尋問などを含む15回の口頭弁論(他に3回の円卓協議)を経て、平成17年8月30日に三教授側全面勝訴の判決。判決は「原告らにはいずれも懲戒事由に該当する事実が認められない」から「懲戒解雇」も「普通解雇」も「無効である」として、雇用契約上の地位を確認するとともに解雇処分後の給与と賞与の全額を支払うよう命じた。担当:池谷泉裁判長、市原義孝・平井健一郎裁判官、佐藤武彦裁判長らによる審理を経て、高野裕裁判長・山本善彦・大島広規裁判官が担当し判決を言い渡した。
(7)解雇無効・地位確認等控訴事件〔平成17年(ネ)165号=本訴第2審〕
 平成17年9月8日に学園側が控訴。2回の口頭弁論(と3回の電話協議)を経て平成18年10月27日に三教授側全面勝訴の判決。高裁判決は、事実と争点について地裁判決よりもさらに踏み込んだ判断を示し上、地裁判決と同旨の判決を言い渡した。判決理由の中では、大学の将来について教職員や学部長が意見や要望を述べることは「何ら問題とされるべきものではなく」「被控訴人八尾の経営介入行為なるものは同被控訴人に対する本件懲戒解雇の口実にすぎない」とした。 担当:横山秀憲裁判長、浅井憲・林潤裁判官
(8)強制執行停止申立事件〔平成17年(モ)588号〕
 平成17年年9月16日、学園側が控訴を理由として地裁判決に基づく強制執行の停止を申立てた。地裁は三教授らへの未払い賃金の総額を超える巨額の担保を学園側に供託させた上でこれを認めた。 担当:高野裕裁判長、松本圭史・大島広規裁判官
(9)賃金仮払い申立事件〔平成17年(ウ)58号〕
 地裁判決に基づく賃金支払いに学園側が応じなかったため、平成17年10月7日、三教授側が賃金の仮払いを申立てた。高裁の斡旋で同年12月分から賃金仮払いが再開された。 担当:浅井憲裁判官
(10)事情変更による保全取消申立事件〔平成18年(モ)第370号〕
 平成18年6月28日、学園側が新しい定年規定を理由に田尻教授の研究室退去を求めて研究室利用妨害禁止命令の取り消しを鹿児島地裁に申し立てた。地裁は同年10月26日に学園側の申立を却下した。 担当:山本善彦裁判官
(11)保全抗告事件〔平成18年(ラ)第62号〕
 上記決定を不服として学園側が平成18年12月13日に高裁に保全抗告。平成19年2月9日、浅井憲裁判官の斡旋で既に新規程が定める定年を1年以上過ぎていた田尻教授に同年7月31日まで研究室利用を認めることとした。 受命裁判官:林潤裁判官
(12)解雇無効・地位確認等上告提起事件〔平成19年(オ)207号=本訴上告審〕平成19年(受)240号=本訴上告受理申立事件〕
 本訴控訴審判決を不服として平成18年11月10日付で学園側が高裁を通して最高裁に上告。平成19年2月9日、最高裁第二小法廷に「事件記録」が到着し、その後「事件記録」について審理が開始された。

 以上のように、この懲戒解雇事件をめぐる裁判では三教授側の勝訴が続いた。特に重要な4つの裁判〔(1)、(2)、(6)、(7)〕については地裁と高裁で延べ14名の裁判官が担当。それらの全てで、三教授らには懲戒事由に該当する事実が認められないから解雇は無効であり、三教授らの地位を保全し確認するという三教授側全面勝訴の判断が示されている。


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