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 カテゴリー 外国の高等教育

2005年02月14日

イギリスの大学と高等教育政策

 イギリスの大学と高等教育政策の現状について,下記シンポジウムで報告されたもののうち,アール・キンモンス氏の指摘は,日本の大学の将来を一部予感させるものがある。

国際シンポジウム「大学と社会」
大阪読売新聞(2005/02/12)より一部抜粋

◇世界経済における高等教育の再定義――OECD加盟国の傾向 リチャード・イェランド氏
◆マネジメントが重要

 
 OECD(経済協力開発機構)の教育部門は、経済だけに焦点を当てるのではなく、生涯全体を見渡す観点から、教育政策や経済政策、他の社会的な政策を考える使命を持っている。
 高等教育に関してOECDには様々な統計があるが、だれが教育のコストを担うかということから考えると、国際的な視野も必要になっている。留学生市場をみると、アメリカが30%でやはり一番大きな割合を占め、英国は12%で続く。そして各国の政策立案者、大学の経営者らにとって留学生への関心は重要になっているのが現状だ。
 また、大学など研究が重視される高等教育機関では、連携と協力も様々な形で行われている。しかし、競争も同時にある。バイオテクノロジー、ナノテクノロジーなど国家間の競争があり、研究者同士が資金を競い合うこともある。
 政府はますます成果を重視して競争を促進しようとしている。
 英国で顕著なのは、優れた最高のリサーチャー(研究者)を誘致して、財政面での優位性を確保しようという動きだ。
 我々の最近の調査では、高等教育の管理・運営に関する新しいアプローチとして、国の権限と市場の力を新たな形で組み合わせていこうという動きが出てきている。多くの国の大学がより大きな財源を確保し、運営などに自由度を獲得しつつあるが、自立の代わりに政府は説明責任を求めている。公的な評価も求める。これが大学に圧力をかける結果ともなっている。
 高等教育機関は、マーケットでの地位を確固たるものにすべく、努力しなければならなくなったわけだ。マネジメントはますます重要になり、現在の大学運営者は今まで迫られることのなかった決断を迫られることになったのだ。
 
 ◇大学――人々、経済、そして地域社会の成長に向けて マイケル・ビチャード卿
 ◆サービス提供がカギ

 英国の大学は一九九〇年からの十五年間で、これまでにない大きな変化を遂げている。
 まず大学の数と学生の数の増加、そして資金調達の在り方が変わった。労働党政権になり、九八年に授業料制度を導入した。大学の収入源は学生、あるいはその親からのものが地方教育局からのものを上回り、その結果、大学には説明責任に関するとらえ方も変化した。学生の学習経験や達成度など教育の質が外部から評価を受ける必要に迫られたのだ。
 さらに、二十一世紀には政府、市民、社会全般が大学に何を求めているかによって変化が起きるはずだ。特に学生の雇用ということと関連して、企業との連携はさらに深まり、就職をにらんだ学生たちのスキル養成にも力を入れるようになるだろう。教育が地域とのつながりを重視し、研究に国際的な視点を盛り込むことも求められるだろう。
 英国ではこの春、全国規模の学生調査が行われる予定だ。夏には初めて全国の学生についての比較調査結果が出る。また、大学自体も情報公開を求められており、学生ら大学にとっての「顧客」は、より多くの情報を入手できるようになる。
 しかし、このように意義ある進展があるのに、大学自らが自らの活動やシステムを、「顧客」の観点も入れて見直すという動きは少ないというのが実情だ。
 結局、大学の存在価値を決めていくのはどれだけ「顧客」の求めるサービスを提供するかによる。例えば、経済の活性化のためには学生にビジネス界が求めるスキルを身につけさせるということだ。つまり、教育を内向きではなく社会経済の変化の原動力の一つとして、大学自らが位置付けることがこれから求められると思う。
 
 ◇イギリスにおける研究評価の動向 アール・キンモンス氏
 ◆補助金集中化で悪影響

 英国の研究評価システムであるリサーチ・アセスメント・エクササイズ(RAE)は、特定大学への「公的補助金の集中化」を図る試みだが、コストがかかり過ぎるうえ、さまざまな悪影響が生まれている。
 例えば、研究をきちんと審査せず、論文数を数えるケースが多い。しかし、医学や科学分野では結果が出なくても論文を出せるが、人文、社会科学分野では出せない。RAEはこうした研究に配慮していない。
 また、提出された論文すべてを読まないし、論文の掲載学術誌が有名なら、優れた内容と結論付ける。米国では学術出版物とは認められないものまで認めており、これによって論文数を膨らませる学部もある。
 評価ランクが気になる学部が、多くの論文を出している別の大学の学者を審査時点の前にスカウトして雇用し、その成果も論文数に加えることができる点も納得できない。
 別の重要な問題は、評価が下がった学部・学科を閉鎖する大学が多い事実。これは一番悪い側面だ。
 多くの大学では、十分な研究資金が入らないとして化学科を閉鎖した。英国医師会はRAEに対し、今後の臨床医を育てる意味で非常に重要な放射線科や麻酔学の教員数を減らす事態になったと批判している。日本学科が閉鎖された大学もある。ケンブリッジ大の建築学科も規模を縮小せざるを得なくなった。
 RAEによって大学の目指す方向がゆがんだことが後でわかっても、立て直すには非常にコストがかかり、努力が必要になる。これもRAEがもたらした非常に深刻な影響だ。研究中心で、教育の側面が配慮されていないことも非常にマイナスの影響があり、学生にとってもよくない結果になっている。RAEはコストに合わない試みだ。


Posted by 管理者 : 掲載日時 2005年02月14日 00:54 | コメント (0) | トラックバック (0)
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