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 カテゴリー 裁量労働制

2005年06月03日

埼玉大学、「非常勤講師の兼業は2コマまで」 工学部教員に圧力 裁量労働制研究会で報告

埼玉大学ウォッチ

「非常勤講師の兼業は2コマまで」
工学部教員に圧力
裁量労働制研究会で報告

裁量労働制導入の可否をめぐる労使協議をまえに、埼玉大学裁量労働制研究会の第1回の会合が5月31日にひらかれた。その報告書が6月2日配布された。

その報告書の中で、「『週に2コマ以上の非常勤をやってはならない』という圧力が工学部教員にかけられているようだ」と伝えられた。

裁量労働制を教員にのませる手段として、大学執行部が他校での非常勤講師の兼業を切り札に使おうとしている。

しかし「週に2コマ」という基準はどこで、どう決められたものなのか。どのような場で、誰が、誰に対して圧力をかけたのか、詳しい調査が必要であろう。まんいち、この圧力の源泉が法人執行部にあったとすれば、2005年3月28日の本城昇・過半数代表と田隅三生・埼玉大学長の確認書に違反する行為、就業規則違反と同等の違反行為へと発展する。

(花崎泰雄  2005.6.2)


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2005年06月02日

埼玉大学、いよいよ始まった裁量労働制導入の可否めぐる労使攻防

埼玉大学ウォッチより

導入でなにかいいことあるのか?

使用者側はいざ知らず、裁量労働制が導入されることで、労働者側に何かいいことがあるのか?

通常いわれている利点は①深夜・休日を除き、出・退勤時間の自由な設定ができる②休憩時間の自由な管理、である。

逆に、不利になる点は①深夜・休日労働以外には超過勤務手当ての請求ができない(教員はこれまでも超過勤務手当てをもらっていないので関係ない。しかし、将来の労働負担増に歯止めがなくなり、たやすく労働強化を背負い込まされる恐れがある)②民間会社の場合、使用者側が裁量労働制を労働強化の道具として使っており、過労死と結びつくとして批判されている③そのため、出・退勤時間の管理が厳しく義務付けられている、などがあげられている。

国立大学教員が公務員だったころ、教員は教育公務員特例法第17条によって教育に関する他の職を兼ねることが可能だった。また、第22条によって、勤務場所を離れて研修をおこなうことができた。

埼玉大学教員の場合、教育公務員特例法第17条の規定は、新しい国立大学法人埼玉大学兼業規程第2条の、兼業によって職務遂行に支障が生じるおそれがない場合、兼業を「許可するものとする」という規定に引き継がれている。

また、教育公務員特例法22条の研修規定は、埼玉大学就業規則第39条2項の「教員は、教育研究に支障のない限り、組織の長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修をおこなうことができる」に引き継がれている。さらに、2004年度の就業規則を大学側と協議した当時の過半数代表は、2004年3月31日に大学側と「法人化後の勤務時間については、法人化直前の慣行を尊重する。また、同様に、本学以外の場所での研究、教育、社会貢献その他の活動も法人化直前の慣行どおりに遂行できる」という確認を交わした。さらに、この確認は1年後の2005年3月28日、あらためて、過半数代表の本城昇氏と埼玉大学長の田隅三生氏との間で、「大学当局と過半数代表は、2004年3月31日の確認事項を就業規則と同等のものとして取り扱うことを確認する」という確認書となって、両者捺印のうえ取り交わされた。

したがって、埼玉大学教員は勤務形態と、非常勤講師やその他教育に関する兼業に関しては、教育公務員特例法が適用されていた時代と同じ条件下にあり、裁量労働制導入によって手にする新しい利点はまったくない。あるのは、裁量労働制を利用して法人が労働強化を押し付けてくるのではないか、という不安だけである。

<資料>
大学教員の裁量労働制に関する資料のサイト

(花崎泰雄 2005.6.1)

さあ、いよいよ始まった
導入の可否めぐる労使攻防

埼玉大学各学部の教授会で教員を対象にした裁量労働制導入の説明が始まっている。労働者と使用者間の協議事項を教授会で説明するというのは、どことなく腑に落ちない話である。法人化後の教授会は学部によっては、議事よりもむしろ役員会が部局長会で通達した事項の一般教員への再伝達の場になっているので、大学執行部も改めて教授会以外の会合をセットして説明する必要を感じないのだろう。

一方、埼玉大学労組のよびかけで5月31日夕、裁量労働制についての集会が学内で開かれた。例によって、参加者はまばらだった。参加者の発言の雰囲気は、理学、工学は導入に賛成、教養、教育、経済はどちらかというと警戒気味であった。

6月半ばには新しい過半数代表が決まるので、それを待って、裁量労働制の本格論議が始まる。そこで『埼玉大学ウォッチ』はここしばらく、裁量労働制に関する資料の紹介に専念する。

<資料> 
● なぜ大学教員が裁量労働制の適用対象になったか。「国立大 裁量労働制の功罪」についての東京新聞2004年4月5日の記事
● 第21回労働政策審議会労働条件分科会議事録(2002年10月1日)
○今企業の社員に対する裁量労働ということになっていますが、大学教員に対しての適用除外といいますか、これから国立大学などが独立行政法人になりますが、そういった時に労働基準法の適用を受けるという範疇に入ってくると思うのです。専門職とか技術職的なものの裁量労働というのは、厚生労働省としてどうお考えになっているのでしょうか。
○事務局 現在のことを申し上げますと、まず研究者の方については、専門型の裁量労働制が適用になるわけです。問題は、教員の方でも、実際にはかなり教育のコマを持っておられます。それは人によってかなり違います。ごく少ない方もいらっしゃいますし、たくさん持っておられる方もいる。また、教授会の時間であるとか。ですから、こういう時間帯にはちゃんと出てきてくれという決めがかなりあるわけです。労働時間に関して、完全に裁量があるということではないと、我々としては考えています。そういう意味では、現時点では、一挙に教員の方に対して、企画型の裁量労働制が適用できるというような見解には至っておりません。
● 「裁量労働制を選択する必要はありません」広島大学教職員組合の教宣ビラ

(花崎泰雄  2005.5.31)


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2005年05月06日

埼玉大、裁量労働制が焦点に

埼玉大学の将来を考える会より

裁量労働制が焦点に―2005年度の労使交渉

5月の連休明けを目標に埼玉大学の各部局で過半数代表の改選作業が進んでいる。今回選出される代表は、2006年度の就業規則に盛り込まれるさまざまな労働条件に関して、使用者側と話し合うことになる。なかでも教員に対する裁量労働制の適用の可否に関する議論が、非常勤職員の処遇をめぐる問題とともに、交渉の焦点として浮上してくることになろう。

教員に対する裁量労働制の適用は、2004年4月の法人発足に先駆けて、前執行部と過半数代表の間で議論された。そのときの過半数代表は①民間会社では裁量労働制は時間外賃金減らし・労働強化の一環として導入する例がめだつ②以前は裁量労働制適用外職種であった大学教員に法人化と時を同じくして適用されることになったいきさつが明確でない③裁量労働制の適用の条件である「研究時間が総職務時間の50パーセント超」に該当する教員が埼玉大学にどのくらいいるのか不明である。まず、教員の労働時間調査を行う必要がある――などの理由で、大学執行部の提案を拒否していた。

2005年度就業規則をめぐる交渉を終えるにあたって、過半数代表と埼玉大学学長の間で、「教員の裁量労働制の導入の可否については、今後速やかに検討を行う」という確認書が2005年3月28日付で取り交わされた。大学執行部は引き続き裁量労働制導入に執着しているようである。いずれ新しい過半数代表に提案することになろう(参考)。

一般的な大学教員がはたして総労働時間の半分以上を研究に使っているだろうか。筆者の周囲を見渡したところ、半分以上は教育関連業務に費やしているように見受けられる。ざっとした感触では以下のような計算になる。1回の授業時間は1時間30分だが、①ハンドアウト作りなど直前の準備に30分②授業後の残務整理に1時間③資料収集、関連文献閲覧、授業の詳しい進行計画など1回の授業の事前準備に2時間、と1回の授業に必要な時間は合計5時間となる。週4コマの授業をもつと20時間。これに加え、毎週のオフィスアワーのための待機が最低2時間、会議が平均2時間、学部、院生の論文指導などが4時間で8時間。毎週合計28時間が授業関連にあてられる。そうした週が年間30週あるから計840時間となる。また、授業が行われない年間20余週についていえば、中間・期末試験のレポート採点、成績結果作成に最低半期1週間を費やすから年間で2週間、80時間。新学期前にシラバスと半期分のおおまかな授業計画作成に1科目15時間かかるので4科目で半期60時間、年間120時間。これだけで200時間となる。あわせると年間の研究以外の労働時間は、840+200=1040時間となる。文部科学省の調査でも、大学教員の総職務時間中の研究時間の割合は46.5%で、50パーセント未満だった(参照)。

大学法人化は「こんなに国立大学はいるのか」という小泉首相の指示で加速した(参照)。国立大学がつぶれたら、国の責任を問う前にまずは法人の長の責任、という法人法をつくった。あとは運営交付金査定のさじ加減で地方弱小国立大学を整理できる、という態勢ができあがった。したがって大学法人執行部はあちこちで効率化、競争、節約などを魔よけのように痙攣的に唱えている。そういう油断ならない状況下での裁量労働制導入交渉になる。あたらしい過半数代表の英知と活躍に期待がかかっている。
(花崎泰雄  2005.5.4)


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2005年03月11日

熊本大学教職員組合、裁量労働制の内容について大筋で合意成立

熊本大学教職員組合
 ∟●「赤煉瓦」No.34(2005.3.8)

【合意された労使協定書(案)の特徴】

【1】裁量労働制において時間外休日労働の割増賃金が支給される場合
 大学教員の労働は時間配分も含めて自らの裁量で行われます。しかし、講義、会議等については時間配分の裁量はありません。協定案ではこのような業務を拘束的業務と位置付け
*1日の拘束的業務が8時間を超えた場合には、その超えた時間について割増賃金を支給する。
*深夜および休日に拘束的業務を行った場合には割増賃金を支給する。
としました。何が拘束的業務か不明確な場合も多いでしょうが、時間配分の裁量権という観点から運用の中で個別に対応していく必要があります。なお、休日が振り替えられた場合には、休日労働にはなりませんが、事前に振替日を特定する必要があります。振替日を特定しないまま休日労働させた場合には、みなし労働時間は適用されず、実労働時間について割増賃金が支給されます。

【2】大学に出勤しない日の扱いについて
 裁量労働制について「みなし労働時間」が適用されるのは勤務した日についてです。出勤しない場合には欠勤となり「みなし労働時間」は適用されません。しかし、調査などのために学外で仕事する人も多いはずです。自宅で論文を書くという人もいるでしょう。これについて協定案では「全日を事業場外で勤務することを事前に届け出た場合」には「みなし労働時間」を適用するとしています。届は研修届の形で出すことになりますが、できる限り柔軟に扱うよう求めています。
 注意すべきは集中講義で熊本を離れる場合です。現在は熊大での勤務時間はその月の他の日に割り振っていますが、裁量労働制のため労働時間が1日8時間と決まってしまうのでそれは不可能です。この場合、その期間に応じた研修届を出してもらうことにより、熊本大学において8時間労働したものとみなされます。集中講義に出かけたときも、研究という熊本大学教員としての本来業務を行っているのですから。

【3】覚書に盛り込まれた事項
 労使協定とあわせて、運用の際の覚書を取り交わすことにしています。そこでは、①職場の安全衛生確保②技術職員等への配慮③深夜・休日の施設利用④会議時間の縮減の4項目が盛り込まれます。深夜・休日の拘束的業務には割増賃金が支払われますが、他方で教育研究上の事情で自主的に大学施設を利用することも可能です。

【この労使協定の効果と今後の問題】
この協定による効果としては
(1)教員の時間外手当支給の基準が明確になり、賃金不払い残業の蔓延する職場環境の改善の一歩となる。
(2)非常勤講師(集中講義を含む)の際の形式的な勤務割り振りの必要がなくなる。
(3)勤務時間をより実態に近づけて判断できることから、労災認定のための業務遂行性の判断が容易になる。
などが考えられます。

 今後の問題としては、入試手当を時間外手当の形で支給するという今のやり方と裁量労働制の矛盾があります。入試業務を担当しても所定労働日なら8時間とみなされ、休日なら休日給が支給されることになり負担に応じた手当にならないからです。これについては入試手当の新設で対応するのが望ましいと思います。また、拘束的業務の判断基準も検討課題です。教員の皆さんの声を聞きながら、皆が納得できる運用を目指す必要があります。


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2005年03月01日

大阪府立大学教職員組合、「裁量労働制の拙速な導入に反対します」

大阪府立大学教職員組合
 ∟●府大教ニュースNo490(2005.2.21発行)

府大教は、裁量労働制の拙速な導入に反対します

 四月を目前に控え、府立三大学の統合と公立大学法人化が近づいてきました。府大教は、勤務労働条件にかかわることについて、設置者と十分な協議が行えるよう、昨年の夏から、就業規則および細則にいたるまでの早期提示を求めていました。何度かの協議は行っているものの、多くの問題で協議待ちの状態が続いてます。しかし、法人化まで一ケ月あまりとなった今、就業規則の検討を、府大教およびその組合員は慎重に行っておく必要があります。
 最近になって設置者は、府大教に対して「裁量労働制」の導入を非公式に打診してきました。では、なぜ設置者は裁量労働制を導入したいのでしょうか。それは、自由な研究教育活動にともなう労働時間を労基法の原則通りに認めると、多額の残業手当請求が来ることを恐れているからです。
 しかし、この制度を導入するためには、労働者の過半数を代表するもの、または過半数代表組合と使用者とが、書面によるr労使協定」を締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。したがって、府大教は、残業手当請求権を教員が放棄するという性質を持つ「裁量労働制」を認めることが、本当に教員にとって利益になるのかどうかを、慎重に検討しています。
 また、「裁量労働制」を認めたうえでも、個々の教員への適用は、対象者に該当するかどうかの自己申告に任せればいいとの考え方もあるでしょう。しかし、いったん制度が導入されれば、様々な形での同意への圧力が予想されるだけに、本当にこの制度について十分理解した上で、教員に利益があり、その利益は不利益を上回りうるか否かが確認できるまでは、個々の教員の選択に任せてしまうことも問題があると考えます。
 年度末に向けてますます多忙のこととは思いますが、ぜひ一度、身近な皆様ともご意見の交換など行うなど、「裁量労働制」などについてご考察頂きますようお願いいたします。また、この資料をふまえた皆様のご意見を、書記局アンケートで再度調査いたします。本来このような意見聴取作業は法人が行うものですが、府大教では、一人でも多くの教職員のかたのご意見をお待ちしています。

 以下は、広島大学教職員組合が作成した資料です。国立大学法人とは状況が異なりますが、ご参考にして下さい。……


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2005年02月12日

熊本大学教職員組合、裁量労働制労使協定書使用者案問題点

熊本大学教職員組合
 ∟●「これでは賃金不払い残業合法化のためだけの裁量なき裁量労働制だ!」(「赤煉瓦」(No.33 2005.2.8)

これでは賃金不払い残業合法化のためだけの裁量なき裁量労働制だ!
裁量労働制労使協定書使用者案問題点

 大学教員の働きやすい労働条件作りのために裁量の拡大は欠かせません。昨年12月に裁量労働制に対する意見聴取が行われましたが、この制度に裁量の拡大を期待する教員の方も少なくないと思います。しかし、1月18日に組合に提示された裁量労働制労使協定書の使用者案は、その期待をまったく裏切るものです。使用者側の意向では、2月と3月に過半数代表者との協議を行い、4月1日から施行したいということですが、その協議のたたき台にすらなり得ない案です。
 このニュースでは先日の団体交渉報告会での報告に沿って、裁量労働制の枠組み、使用者案の問題点、労働者側から要求すべき事項について解説します。

【1】裁量労働制の制度的枠組み
 裁量労働制とは、労働者の裁量を拡大するための制度ではありません。業務の遂行方法と時間配分を労働者の裁量に委ねるのと引き替えに、使用者の労働時間管理の責任を緩和し、「みなし労働時間」を適用するための制度なのです。「みなし労働時間」を8時間と設定すれば、実労度時間が9時間であっても10時間であっても8時間労働したとしかみなされません。本来「みなし労働時間」は実労働時間に即して定めるべきですが、実際には実労働時間を下回る時間数しか設定されず、長時間労働をさせても時間外手当を支給しなくて良い制度として悪用されることが多いのです。熊大での使用者側の期待もまさにその点にあるようです。さて、裁量労働制の制度的枠組みを簡単に紹介します(詳しくは赤煉瓦23号をご覧ください)。

1.裁量労働制導入の基本的要件
(1) 業務の遂行方法および時間配分を労働者の裁量にゆだねること
(2) 業務が厚生労働省令等で示されたものであること
(3) 過半数組合・過半数代表者との労使協定に基づくこと
 大学教員は講義等の関係で時間配分の裁量があるとは認められず,対象業務になっていませんでした.しかし,法人化を前にして国大協の要請のもとに 「主に研究を行う」という条件付で対象業務に加えられたのです.なお,通達では助手については「専ら研究を行う」場合に適用できるとしています.

2.裁量労働制の効果
 労使協定では「みなし労働時間」を定めます。そして、所定労働日に労働した場合の労働時間については、実労働時間ではなく「みなし労働時間」を働いたものと扱われます。ただし、休日労働については「みなし労働時間」は適用できません。深夜(午後10時~午前5時)の労働も割増賃金の対象になります。緩和されてはいますが、使用者の労働時間管理の責任は残ります。

3.裁量労働制運用の条件
(1) 苦情処理制度 (2) 健康福祉確保措置
 裁量労働制は長時間労働の歯止めをなくし過労死さえ生みました。このような裁量労働制の濫用に対する歯止めとして、2003年の労基法改正の際に盛り込まれたものです。このとき、個別同意についても議論されましたが、附帯決議に検討の必要が盛り込まれたに止まりました。

【2】裁量労働制労使協定書使用者案の問題点
 上記の制度枠組みを念頭において、使用者案を検討すると以下のような問題が浮かび上がります。

1.労働者の裁量の範囲について
 使用者案は、「業務遂行に係る時間配分」を裁量として述べていますが、これは法の定める最低限の要件に過ぎません。しかも但書きとして「業務内容、職場規律及び勤務管理上必要な指示」については「理由を説明して、具体的指示を与える」としています。理由を説明されても納得できない場合の扱いはまったく触れられていません。これでは裁量を与えたことにはならず、法の基本的要件を満たしません。

2.職務専念義務について
 裁量労働制を適用される労働者も、就業規則により一般的な職務専念義務は適用されています。労使協定に盛り込む必要はありません。なお、使用者が裁量労働制を適用されている労働者に、職務に専念しなさいと指示したとしても、労働者から「今は休憩時間だ」と言われればそれまでです。休憩の取り方は時間配分の裁量に含まれるからです。

3.適用職員の範囲について
 使用者案では、附属学校教員であっても「主として研究に従事する」者であれば適用できるように読みとれます。これは厚生労働省の通達に明確に違反します。また、助手については「専ら研究に専念する」者にしか適用できないにもかかわらず、使用者案では講師以上の教員とまったく区別されていません。

4.「みなし労働時間」について  使用者案では8時間が提案されています。しかし、「みなし労働時間」は実態を踏まえて定めなくてはなりません。赤煉瓦23号で文部科学省による全国的な教員の勤務実態の調査結果を紹介し、教員一人当たりの労働時間は年間約2700時間とお伝えしました。労基法の求める時間外労働の制限を大きく越えて労働しているのは明らかです。なお、「みなし労働時間」と実労働時間の乖離は労基署の指導対象になります。

5.個別同意を必要とするとの規定が無い。
 教員の労働形態は多様です。①主に研究に従事するか否か、②講義や会議などの研究以外の業務が増大する中でどこまで時間配分の裁量を持っているのかという二つの基本的要件について、個別に判断する必要があります。しかもこの判断は本人にしかできないものです。個別同意は導入要件にはなっていませんが、このような教員労働の特殊性を考えれば個別同意は不可欠です。

6.90日前までに改正の意思を通告しなければ自動的に1年間延長する。
 裁量労働制はその濫用が社会的問題になった制度ですから、運用状況のチェックは不可欠です。自動更新規定は置くべきではありません。

 使用者案の特徴は、「裁量はできる限り少なく」「適用範囲はできる限り広く」「時間外労働は発生させない」というものです。これほど「裁量労働制を時間外割増賃金を支払わないですむ制度にする」という思惑を露骨に表した案はありません。これでは今後の労使協議のためのたたき台にすらなりません。教員人事専門委員会で案を検討したとのことですが、検討に費やした時間は事実上無駄になりました。赤煉瓦19号で「労働条件の決定を各種委員会に委ねるべきではない」と述べましたが、この主張の根拠となる具体例がまた一つ増えてしまいました。

【3】教員にとって働きやすい労働時間制度のために
 教員の労働には、自らの裁量の拡大が不可欠です。しかし、裁量の拡大に労使協定が必要なのではありません。就業規則・労働協約として裁量の範囲を定めればよいのです。労使協定が必要になるのは「みなし労働時間」を適用する場合です。現在の就業規則では教員の労働実態にふさわしい裁量権は殆ど規定されていませんので、裁量権の大幅な拡大の代償に「みなし労働時間」を適用してくれというのなら考慮に値するでしょう。


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2004年12月17日

熊本大学、大学教員の裁量労働制について

熊本大学教職員組合「赤煉瓦」(No.23 2004.12.8)

大学教員の裁量労働制について

 熊本大学でも、大学教員に対する専門業務型裁量労働制の検討が始まりました。検討は教員人事専門委員会で行うとされており、11月16日付で各部局に対し意見を求める文書が委員長名で送られています。しかし、文書に添えられた資料では、多くの大学で導入されている、大学教員にも裁量労働制が適用できるなどの表面的な事実のみで、部局内で検討するための客観的条件は提供されていません。今回の意見聴取(回答期限は12月10日)を委員会案の拠りどころとするのは許されないことです。
 また、教員人事専門委員会での検討は学長の諮問に対して行われることから、使用者案の検討に過ぎません。具体的な実施方法は過半数代表者との労使協定によって決められるのですから、委員会が使用者案を決定する立場に立つのであれば、過半数代表者との協議にも委員会が当事者として臨むべきです。
 さて、このニュースでは裁量労働制はどういう制度なのか、それが大学教員の望む労働条件作りに有効なのかを検討します。裁量労働制導入の是非について学内審議の参考になれば幸いです。……


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2004年11月12日

岡山大学、秋から裁量労働制へ

岡山大学職員組合
 ∟●組合だより(76号)

秋から裁量労働制へ

岡山大学職員組合組織部

 かねてから検討されてきた裁量労働制が、10月から実施される見通しとなりました。裁量労働制は「業務の性質上、業務遂行の手段及び時間配分の決定等について本人の裁量に委ねるものとし、その決定に関し、具体的指示を与えないもの」です。「授業時間がおおむね5割に満たない」大学教員に適用が可能になり、岡山大学でも教員の労働実態により適合した制度として導入に向けて検討されてきました。

みなし労働時間8時間

 今回実施予定のものは,医療に携わる教員を除くすべての岡山大学常勤教員(教授、助教授、講師、助手)が適用対象になります。適用教員については
①実労働時間によらず「みなし労働時間」を8時間とする。したがって、8時間以上働いても時間外手当は出ない。
②休日と深夜(午後10時~午前5時)は裁量労働制の適用外なので、時間外手当が出るが、そのためには部局長の許可が必要(許可がなければ時間外手当は出ない)。
③出勤する義務はあるので、出勤簿への押印は毎日しなければならない。
④健康と福祉の確保のため、適用教員は勤務時間と健康状態を「勤務状況報告書」に記録し、毎月部局長に提出しなくてはならない。

 ①について,多くの教員が8時間以上働いている実態を考えると「みなし労働時間8時間」というのは不満がありますが、8時間以上を設定すると時間外手当が発生し大学の財政を圧迫すること、および従来から時間外手当は教員には支払われてこなかつたこと、を考慮して認められたものです。
 ②と③は現行制度と変わりありません。

過重労働防止のための健康管理チェック
 ①は裁量労働制の導入に伴って新たに加わった手間です。裁量労働制を悪用して超勤手当を払わずに長時間労働させる企業があり、過重労働をまねくおそれがあるため、厚生労働省・労働基準監督署は裁量労働制を適用する職場の従業員の健康管理を従来より厳しく使用者に要求しています。
 このため裁量労働制を採り入れる以上、④は省略することができません。せっかく実情に合う制度を導入しても、教員にとって煩雑な手間のかかるものであっては何のための導入か分かりません。④の趣旨を活かしつつ,いかに簡便で使い勝手のよいものにするかが問題でした。

勤務時間の厳密管理は趣旨でない
 ある大学では、出勤時刻・退勤時刻・勤務時間すべてを記入させる報告書が作られていますが、これでは面倒すぎます。勤務時間だけを記入する方式を採つている大学もあります。
 しかし、大学にとつて必要なのは過重労働による健康障害の防止であって、教員の勤務時間を厳密に管理することではないはずです。このような観点から岡山大学では、8時間を超える勤務をした日だけ勤務時間を記入する、別紙のような「勤務状況報告書」とすることになりました。
 労基法の制約の下で、大学教員の働き方に最も相応しい形を求めたものとして、評価したいと考えています。


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