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2004年12月03日

ノーベル賞受賞者白川英樹氏、「学術研究としての大学と社会の接点を求めて」 地道な研究、必要不可欠

ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「21世紀の創造」(2)名古屋

東京読売新聞(2004/12/02)

■科学フォーラム名古屋 「科学と社会の接点を求めて」
 ◆科学の役割、可能性無限
 ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「21世紀の創造」の科学フォーラム名古屋が名古屋市の中京大学で、「科学と社会の接点を求めて」をテーマに開かれた。化学賞受賞者のリヒャルト・エルンスト(スイス・チューリヒ連邦工科大名誉教授)、田中耕一(島津製作所フェロー)、野依良治(理化学研究所理事長)、白川英樹(筑波大名誉教授)の四氏が基調講演を行い、社会の発展と科学のあり方について、活発に意見を交わした。……



【基調講演】「学術研究としての大学と社会の接点を求めて」 白川英樹氏(2000年化学賞)  
 ◆地道な研究、必要不可欠
 私が小学校の低学年だった第二次大戦の末期、東京大学の近くにあった祖父母の家に預けられたことがある。東大には何ともいかめしいビルが並び、近寄りがたい印象を受けた。
 俗世間を離れ、芸術を楽しむ人々が集まる場所を「象牙(ぞうげ)の塔」という。研究者が閉じこもる大学もその名で呼ばれた。
 研究成果が社会に大きな影響を与えるようになり学者の責任は強まった。象牙の塔を出て、社会に説明する任務が課せられるようになった。だが高度な説明は理解してもらいにくい。
 私が現役で大学にいた時代は、企業や市民との接点はなかった。研究者の助けを必要としている中小企業の方との会話で、「大学に相談したいが、手がかりがない」と困っていたのを覚えている。
 今や大学を象牙の塔と呼ぶことはない。今年四月には国立大学が八十九の大学法人に変わった。大学が生み出す特許などの知的財産で経済を活性化させるのが国策になっている。ほとんどの大学に産学連携の窓口がある。その気があれば、相談に乗ってもらったり、技術を供与してもらうことも容易になった。
 役に立つという観点でみると、大学もずいぶん頑張っている。役に立つという尺度は今や重要で、政府は経済発展に役立つ研究開発に投資を重点化している。
 しかし、すぐには役に立たない研究も重要だ。こうした基礎研究を行うべき大学が、法人化をきっかけに役立ちそうな研究ばかりにまい進する危険性を感じるのは私だけだろうか。
 ワトソンとクリック、そしてウィルキンスは、DNAの二重らせん構造を見つけたとき、それが人類の役に立つかどうかを意識していたとは思わない。
 一九五八年以来、キーリングとワーフはハワイのマウナロア天文台で二酸化炭素濃度の測定を続けてきた。これが刺激となって南極の氷に閉じこめられた空気から二酸化炭素濃度の歴史が調べられ、地球温暖化の貴重なデータとなるとは考えていなかっただろう。
 誰からも干渉されない研究、長年にわたる基礎研究は、重点化という発想とはかけ離れているが、人類のためには必須だ。
 科学者が自分の研究を地道に説明して社会に知らせることは、研究行為に次ぐ大切さがある。そして基礎研究にも研究予算が行きわたることを強く願いたい。

Posted by 管理者 : 掲載日時 2004年12月03日 01:41 | コメント (0) | トラックバック (0)
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