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 カテゴリー 大学教職員に関する労働判例

2004年05月07日

[判例] 東京女子医科大学(退職強要)事件

原告 一部認容 一部棄却〔控訴〕

 最近の大学関連の労働判例を掲載します。以下,この判例のソースは,すべて「労働判例」(No.865)2004年5月1日号によるものです。なお,東京地裁判決文全文は,同誌に掲載。

東京女子医科大学(退職強要)事件
東京地裁 2003年7月15日判決

[平12(ワ)27357号 損害賠償請求]
一部認容 一部棄却〔控訴〕

判   決

原告          ○○○○
原告訴訟代理人弁護士  伊藤 幹郎
同           鴨田 哲朗
同           三竹 厚行
同           菊地 哲也

被告          学校法人東京女子医科大学
同代表者理事      乙山 二郎
被告          ○○ ○○
被告両名訴訟代理人弁護士  石井 成一
同           小田木 毅
同           森脇 純夫
同           佐藤りえ子
同           山田 敏幸
同           岡田 理樹
同           長崎 真実
同           小玉伸一郎
同           柏原 智行

主   文

1 被告らは,原告に対して,連帯して450万円及びこれに対する被告学校法人東京女子医科大学については平成12年12月30日から支払済みまで,被告○○○○については同月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求は,いずれも棄却する。
3 訴訟費用については,原告及び被告学校法人東京女子医科大学に生じた費用の各40分の1を被告学校法人東京女子医科大学の負担とし,原告及び被告○○○○に生じた費用の各6分の1を被告○○○○の負担とし,その余の費用全部を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

東京地方裁判所民事第19部
裁判官 渡邉 弘


[事件と裁判所決定の概要](以下,「労働判例」200.5.1(No.865)57〜58頁より抜粋)

(1)事件の概要
 本件は,被告大学医学部の助教授であった原告が,被告大学の被告教授等による退職強要行為により退職を余儀なくされたと主張して,被告大学および被告教授に対して債務不履行(職場整備義務違反)または不法行為に基づく損害賠償請求を行った事案である。
 原告は,被告大学において昭和50年に脳神経外科の助教授に昇任した後,退職するまで25年間助教授を務めた。
 昭和63年と平成4年に被告大学脳神経外科の主任教授選考が実施され,原告はいずれにも応募したが選考から外れた。平成10年の主任教授選考は全国公募とされ,原告や被告教授を含む5名が立候補した。選考委員会はそのうち3名を主任教授会に推薦することとし,業績選考および面接選考が行われたが,原告は業績評価・面接評価・総合評価ともにいずれも5名中4位の評価であり最終候補者に残ることはできず,被告教授が主任教授に就任した。また,平成10年11月から翌年にかけては大学付属病院脳神経外科部長(教授)選考が行われ,原告を含む4名が立候補したが,原告は選から漏れた。
 被告教授は,平成10年10月,主任教授に就任してすぐの脳神経外科職員会議において,スタッフの大改造を考えており定年までとどまる必要はないから自覚のある者は身の振り方を考えるべきとする旨の書面を配布し,原告はこの文書の対象は自分のことだと認識した。被告教授は,原告の同じ出身大学の1年後輩に当たり,原告と一緒に仕事をしていくのはかなりつらいという思いを持っていた。同年12月の医局忘年会でも,被告教授は,
スタッフの中にお荷物的存在の者がいるので死に体で教室に残り生き恥をさらすより英断を願うという内容の書面を配布し,同様の趣旨のスピーチも行った。原告はこの文書の対象者は自分であると感じ,学長やその他の教授もこの文書を読んで対象者は原告であると察し,学長は後日,被告教授に対して注意をした。その2日後の定例職員会議では,被告教授が原告を批判する発言を行い原告と被告教授の口論となった。
 原告は,平成12年4月3日,被告大学学長に対して,職場ハラスメントを退職理由として,同年5月末付で退職する旨の退職届を提出した。学長や他の教授はこれを慰留したが,結局辞職するに至った。
 そこで原告は,被告大学には雇用契約に基づき公正で平等な処遇をする義務を負うもので原告を教授に昇格させる義務があったと主張し,教授昇格差別による差額賞金562万2600円,教授昇格されなかったことに対する慰謝料1000万円を,被告教授による退職強要行為は労働契約上の債務不履行(職場環境整備義務違反)または不法行為に当たると主張して,退職強要行為により受給できなかった企業年金5555万9400円,退職金額1779万2434円,給与額6500万5100円,それから退職強要行為による慰謝料3000万円,弁護士費用1000万円を求めた。

(2)判断のポイント
 争点は,第1に教授昇格差別の有無,第2に嫌がらせないし退職強要行為の有無である。
 第1の争点につき判決は,大学教員の人事における自治も憲法の保障する大学の自治の範囲内にあり,学問の高度の専門性の要請から主任敦授会による高度の裁量権が認められるが,裁量権の行使につき濫用・逸脱があれば違法と評価されるとしたうえで,本件については,いずれも規程・内規に従って専門的な見地から多角的な検討内容に沿って客観的な選考が行われたものでその過程に被告大学の裁量権の濫用・逸脱は認められない等として,原告の主張を退けた。
 第2の争点については,被告教授は原告および関係者に認識されることを承知のうえで忘年会における文書配布などの行動をとったものであり,古くからの知己をも含む衆人環視の下でことさらに侮辱的な表現を用いて原告の名誉を毀損する態様の行為は許容される限界を逸脱したものであり,原告に精神的苦痛を与えるだけでなく医師または教育者としての評価を下げうるもので多大な損害を与え得る違法性の高い行為であるとして,不法行為による損害賠償義務を負うとした。
 また,被告教授の行為は,原告の上司として部下である原告の行為の問題点を指摘して指導監督し退職勧奨するもので,少なくとも外観上は職務執行と同一な外形を有する行為であるとして,被告大学は民法715条により,被告教授の行為による原告の精神的苦痛に対する慰謝料として400万円,弁護士費用として50万円,合計450万円を被告教授と連帯して賠償義務を負うものとされた。

(3)参考判例
 退職強要に関する事例として,労働契約上使用者は労働者がその意に反して退職することがないよう職場環境整備義務を負うとして,定年まで勤務する意思のあった者を退職強要・嫌がらせによって自己都合退職に追い込んだことが当該配慮義務に反し債務不履行ないし不法行為を構成するとして損害賠償義務が認められたエフピコ事件(水戸地下妻支判平11.6.15労判763号7頁)等がある。

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1.大学教具の人手における自治は憲法の保障する大学の自治の範囲内にあり,学問の高度の専門性から選考に高度の裁量権が認められるが,裁量権の行使について濫用・逸脱があれば違法と評価されるとされた例
2.25年間医学部助教授を務めた原告の教授昇格差別の有無につき,かかる量権の濫用・逸脱は謎められないとされた例
3.上司である被告教授による文書配布やスピーチによる原告に対する嫌がらせ・退犠強要行為につき,衆人環視の下でことさらに侮辱的な表現を用いた名誉毀損行為で違法性の高いものであるとして,不法行為による損害賠償責任が認められた例
4.被告教授の上記行為は少なくとも外観上は職務執行と同一な外形を有する行為であるとして,使用者責任(民法715条)に基づき被告大学が連帯して450万円の損害賠償責任を負うとされた例


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2004年03月08日

[判例] 関西医科大学研修医過労死損害賠償事件

大阪地裁(2001年2月25日)原告勝訴

 最近の大学関連の労働判例を掲載します。この事件は,関西医科大学附属病院耳鼻咽喉科の臨床研修医が死亡したことに関し,その相続人である原告が,死亡は被告大学付属病院の安全配慮義務違反による過労死が原因であるとして,被告(関西医科大学)に対し,債務不履行に基づく損害賠償(含遅延損害金)を請求をした事案です。このソースは,労働事件判例集による。
H13. 2.25 大阪地裁 平成11(ワ)4723等 関西医科大学損害賠償事件

主   文

1 被告は,原告Aに対し,金6766万2426円及びこれに対する平成11年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告Bに対し,金6766万2426円及びこれに対する平成11年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを4分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は第1,2項に限り仮に執行することができる。

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 なお,同事件では損害賠償裁判とともに,死亡した研修医の賃金は「最低賃金法所定の最低賃金を下回る給与額」であったとして,原告両親が被告に対し,最低賃金額とAが受給した金額の差額及びこれに対する遅延損害金の支払いを請求した裁判も行われた(下記の事件)。この裁判も原告勝訴。
H13. 8.29 大阪地裁堺支部 平成12(ワ)326等 関西医科大学賃金請求事件

大阪地裁 平成11(ワ)4723等 関西医科大学損害賠償事件(H13. 2.25)
2 争点(2)(被告は安全配慮義務に違反したか。)−判決文の一部抜粋−

 …しかるに,被告は,研修時間を管理するなどして研修が研修医の健康に害を及ぼさないようにする措置を講じることは一切せず(甲2),また,被告病院における研修開始時に健康診断を行うことはなく,また,研修中に被告病院のJ医師はCが数秒ほど胸を手で押さえて静止していたのを目撃し異変を感じたことがあったにもかかわらず,そのことが耳鼻咽喉科の研修責任者らに対して報告されたことはなく,またCに対して精密検査を行うなどの措置もとられていないことからすれば,被告は,研修医に対する健康管理に対して細心の注意を払うことができる態勢すら作っていなかったと認められる。
 したがって,被告は,Cに対する安全配慮義務を怠ったというべきであり,そして,被告が,この安全配慮義務を履行していれば,Cの死亡は回避できたと考えられるから,被告の安全配慮義務違反とCの死亡との間には因果関係があるというべきである。なお,仮に万が一,Cの死因がブルガダ症候群に基づく突発性心室細動による突然死であったとしても,研修時間等の適切な管理などが行われていれば,突発性心室細動の発生を防止できたと考えられるから,被告の安全配慮義務が否定されることはない。よって,被告は,原告らに対して,安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う。
 被告は,Cの死亡は,被告において,その予兆さえ発見できなかったものであり,これを予見し回避する措置をとる前提を欠き,予見できなかったと主張するが,長時間の研修が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,研修医の心身の健康を損なう危険のあることを,医療法人である被告は十分認識していたはずであり,そうである以上,被告は,本来,被告病院で研修を行う研修医全員に対して,当該研修医の健康が現に害されているか否かとは関わりなく,上記安全配慮義務を負っているのである。そして,被告は研修の実施主体であるから,上記不履行が何らかの不可抗力的な障害に基づくとは認められず,その不履行について被告が無過失であるということもできない。さらに,本件においては,J医師はCが数秒ほど胸を手で押さえて静止していたのを目撃していたのであるから,被告が研修医の健康管理に対して細心の注意を払えるような態勢を作っていれば,被告もCの異常に気が付くことができたと認められるのであるから,被告が,Cの死亡の予兆さえ発見できなかったとしても,そのこと自体,被告の責に帰すべき事情であって,そのことを理由に,被告が安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負わないということはできない。
(3) 被告は,。辰蓮ごに国家試験も通り,医師免許を取得しているのであるから,自己の心身の状況は自ら管理する能力を十分有しているはずであるし,そうすることが期待されていること,⊃感攅失匹蓮ご動脈の一部が閉塞し,血液が流れなくなった部分の心筋が壊死に陥る心臓疾患であるが,胸部に激痛を伴うのが一般で,早期に適切な治療を施せば,ほとんどの場合死の結果を回避することができ,発症後まもなく死亡(突然死)することは考え難いことを理由に,Cにも過失があると主張する。
 しかし,被告病院における研修によって研修医の健康状態を悪化させない等の配慮を行う第1次的な義務は,研修医を指導監督し研修医の健康に配慮すべき義務を負う被告にあると考えられること,Cの前記研修の実態からすれば,研修の合間にCが自発的に診察を受けることを容易に期待することはできないこと,研修医という立場上,真面目に研修に取り組んでいたCが,研修を休んで診察を受けることを期待することは,上記被告が負う義務に照らすと,酷に過ぎることからするとからすると,上記,療世鬚發辰董ぃ辰鵬畆困あったということはできない。また,前記1(2)ウ(死亡時の状況)からすれば,Cは,救いを求める間もなく急死したと推認されるから,被告の上記△亮臘イ郎陵僂垢襪海箸できない。
 したがって,被告の過失相殺の主張は採用することができない。

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2004年03月05日

[判例] 奈良県立医科大学事件

最高裁(2002年10月10日決定)上告棄却

最近の大学関連の労働判例を掲載します。以下,この判例のソースは,すべて「労働判例」(No.839)2003年3月1日号によるものです。なお,最高裁判決文,および大阪高裁判決全文は,同誌に掲載。
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最高裁一小 平成14年10月10日決定
平成14年(オ)1026号 損害賠償 上告 棄却,平14年(受)1057号 上告受理申立 不受理
(二審=大阪高裁 平14.1.29判決 一審=大阪地裁 平12.10.11判決)

決    定

上告人兼申立人      ○○ ○○
同訴訟代理人弁護士    段林 和江
                 渡辺 和恵
                 高瀬久美子
                 養父 知美

被上告人兼相手方     ○○ ○○
被上告人兼相手方     奈良県
同代表者知事       丙川 一郎

 上記当事者間の大阪高等裁判所平成12年(ネ)第3856号,第3857号損害賠償請求事件について,同裁判所が平成14年1月29日に言い渡した判決に対し,上告人兼申立人から上告及び上告受理の申立てがあった。よって,当裁判所は,次のとおり決定する。

主    文

 本件上告を棄却する。
 本件を上告審として受理しない。
 上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。

理    由

1 上告について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,違憲をいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。
2 上告受理申立てについて
本件申立ての理由によれば,本件は,民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

平成14年10月10日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 町田
裁判官 藤井 正雄
裁判官 深澤 武久
裁判官 横尾 和子

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[事件と裁判所決定の概要](以下,「労働判例」2003.3.1(No.839)5〜8ページより抜粋)

(1)事件の概要
 上告人兼申立人(一審原告・控訴人)召蓮じ立医科大学に助手として勤務する女性である。原告の勤務する「教室」(医学部の組織構成・管理運営の基本単位)において教室主任である教授が退任したため後任教授を選任することとなったが,公募,選考の結果,被上告人(一審被告・被控訴人)Ylが就任した。この選考をめぐり,召中心となり助手・講師の有志が選考委員長に公募条件などの再考や再公募を求める旨の要望書を提出し,原告が学長を訪れYlが適任でないなどの理由から再公募を求めるなどしたため,これが就任後のYlの知るところとなり,両者間に軋轢が生じた。
 召蓮な神10年,平成5年9月から10年3月までの間に,Ylから数々の嫌がらせを受け,人格的利益を侵害されたとして,次の,らΔ旅坩戮砲弔い董Ylに対しては民法の不法行為に基づいて,被上告人(一審被告・被控訴人)Y2県に対しては国家賠償法1条等に基づいて,慰謝料その他の損害賠償の支払いを求める訴え等を起こした。すなわち,´召紡个垢觚Φ翹験押塀伉ニ験押す堝梓道襦じ胸匍杆室の鍵・原子吸光装置の管理,第二研究室の干渉・侵害,研究費の不当配分,実験用動物購入をめぐる嫌がらせ,学生実習の指導に関する嫌がらせ・中傷),学内講師推薦をめぐる嫌がらせ,専門外の他大学教員公募への応募を迫り大学から追い出そうとする嫌がらせ,さ找房萋世亡悗垢觀がらせ,ヂ抄擬と召隆屬亮屬梁濕擇鬚瓩阿詒韜鄰羹,θ鷯鏘亶峪娵鷆繁験欧砲弔い討任△襦
 本件の争点は,1)Ylの召紡个垢訃綉嫌がらせ行為の有無,2)Ylの不法行為責任の存否,3)Y2県の国家賠償法による責任の存否,4)Y2県の職場環境配慮義務不履行責任の存否,5)時効の成否,6)損害の有無,である。
 本件は,県立大学教員という公務員にかかわる事案であるため,職務を行うについて行われた行為については,国家賠償法が適用になるが(同法1条),公務員が職務外において私人としてなした行為については同法の適用はなく民法の不法行為が適用になる。国賠法1条では,国家賠償には,公務員が,その職務を行うについて,故意または過失によって,適法に,他人に損害を与えることが必要である。公務員の裁量権の範囲内の行為は,違法とはならないが,判例は,行為の違法性は,行為が客観的に正当性を欠くことを意味すると解している。また,公務員が不正な動機・目的によって裁量権を行使した場合も,裁量権の濫用として違法となるとしている。一審判決,控訴審判決ともこのような判断枠組みに基づいて判断を行っている。

(2)一審判決の概要  −略−

(3)控訴審判決の概要と本決定のポイント
 本決定の原審である控訴審判決は,まず,召蓮に楫錣典型的なアカデミック・ハラスメントの例であることを強調するが,認定したところからすれば,そのような把握は必ずしも相当でなく,本件は公務員たる地位を有する県立大学の教室員に対し,休暇届,出張届,職務専念義務等の厳格な励行を求める教室主任と,それに従うのをよしとしない教室員との継続的な対立の事例であるとしたうえで,しかしながら,それが召Ylの個人的な確執に由来するものであっても,Ylが教室管理者として権力的な立場にある着である以上,場合によってYlの行為が違法な公権力の行使と評価される場合があり得るし,また場合によってはYlの不法行為責任が生じる余地もあるのは明らかであるとし,召主張するYlの個々の行為について,公権力の行使にあたる公務員の行為としての違法性ないし不法行為上の違法性を,争点に沿いながら判断するとしている。
 アカデミック・ハラスメントは,社会運動として主張されているものであり,独自の法理論が形成されているわけではないが,その対象となる個々の行為は,いじめ・嫌がらせの問題と同様に,民法の不法行為や国家賠償法などの既存の法理の適用により違法性や責任が判断されるものである。
 控訴審判決は,このような見解のもとに本件事案を検討し,召亮臘イ砲弔い動貎拡酬茲違法性を否定したYlの各行為について判断を維持・補強するとともに,一審判決が違法性を認めた行為についても,θ鷯鏘亶峪娵鷆繁験欧亮臘イ鮟き,すべて違法性を否定した。すなわち,平成7年6月第二研究室内の召了篳を段ボール箱に入れて移動させた点については,すでに平成6年の教室会議において留学生の専属スペースを第二研究室の前室にすることが決定され召發海譴鯲讃気靴討い燭發里任△襪海箸鯒定し,召良垪濟にこれを行ったことの当否は別として,これを違法な嫌がらせとまではいうことができないとした。また,仝Φ翹験押文Φ翦颪良堙配分)の主張についても,講座研究費の配分については原則的に当該教室の自主的な決定に委ねられていると解され,特に合理性を欠くものでない限り第一次的には当該研究室の決定を尊重するべきであり,召砲いてこれに対する異議を述べた形跡がないことなどの事情を考慮すると,講座研究費を出勤状況に応じて配分することを決定したことが嫌がらせであるとは認められないとした。さらに,専門外の他大学教員公募への応募を迫り大学から追い出そうとする嫌がらせの主張についても,Ylが召砲弔い涜召龍擬式と異なる扱いをしたと認めるべき証拠はなく,公募書類の開示はYlの職務であり,現実に応募をするかしないかについては全面的に教室員の自由に委ねられており,これを違法とまでは認めることはできないとした。
 しかし,θ鷯鏘亶峪娵鷆繁験欧亮臘イ砲弔い討蓮Ylが召A短期大学における兼業承認申請への押印を拒否したことは,Ylの嫌がらせとみるのが相当であり,兼業承認は公権力を行使するYlの職務上の行為といえ,当該行為は国家賠償法上の違法行為であるとして,一審判決の判断を維持した。
 控訴審判決は,争点4)のY2県の職場環境配慮義務不履行責任の存否と,同5)の時効の成否についても一審判決と同様に解した。争点6)の損害については,Ylの兼業申請押印拒否の経過および影響,これに至るまでの召梁弍等本件における諸般の事情を考慮し,慰謝料として10万円をもって相当と思慮するとし(弁護士費用1万円),一審判決の5分の1とした。
 最高裁の本決定は,兼業妨害についてのみ違法性を認めた控訴審判決に対する召両綛陲上告理由に当たらないとして棄却し,上告受理の申立てを受理しないとした。

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2004年02月24日

[判例] 芝浦工業大学(定年引下げ)事件

 東京地裁2003年5月27日判決
 一部却下、一部棄却〔控訴〕

最近の大学関連の労働判例を掲載します。以下,この判例のソースは,すべて「労判」(No.859)2004年2月1日号によるものです。定年引き下げ事件についての東京地裁の判断です。なお,判決文全文は,同誌に掲載。
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平13年(ワ)22969号 定年年齢確認請求

判    決

原告  A(ほか20名)
原告ら21名
訴訟代理人弁護士 宮里 邦雄
    同        古田 典子
被告  学校法人芝浦工業大学
代表者理事      甲野 太郎
訴訟代理人弁護士 水島 正明
            宮里 邦雄

主    文

1 原告A以外の原告らの本件訴えをいずれも却下する。
2 原告Aの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告ら各自の負担とする。

[この判例の性格](以下,「労働判例」2004.2.1(No.859)51〜52ページより引用)
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1.確認の訴えは,確認を求める者の権利または地位に法律上の危険・不安を除去する具体的な必要が現存していなければならないから,当該定年となる日が極めて間近に迫ったり,あるいは当該定年に達した後に,地位の存否の確認,退職金を含む賃金の支払いを請求する等の具体的な必要がない限り,定年となる年齢の確認の利益がないものとして,確認請求が原告1名を除き却下された例

2.新たな就業規則の作成または変更によって労働者の既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒むことは許されないとされた例

3.前記の合理性の有無は,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代価措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合または他の従業員の対応,同種事項に関するわが国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきとされた例

4.就業規則による大学教員の定年年齢の72歳または70歳から65歳への漸次引下げは,既得の権利を消滅,変更させるものではないが,在職継続による賃金支払いへの事実上の期待への違背,退職金の計算基礎の変更を伴うものであり,実質的な不利益は,賃金という労働者にとって重要な労働条件に関するものであるから,そのような不利益を労働者に法的に受忍させるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合につき,その効力を生じるものとされた例

5.被告大学の財政状況は必ずしも安定した状態とはいえず,高齢教員の人件費の負担削減の必要性は相当高いものと認められること,就業規則の施行に伴って実施された退職金加給なども代価措置として不十分とはいえないこと,原告に生じる不利益は小さくないけれども,既得権の侵害とはいえず,合理的な期待の違背にとどまるものであって,賃金水準も,工学系の私立単科大学と比べて著しく見劣りするものではないことから,就業規則による定年年齢の引下げは,その不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容であるとされた例

(l)事件の概要
 本件は,原告Aら21名の大学教員が,平成13年4月1日から改訂された被告大学(以下,大学)の就業規則による定年年齢の引下げが無効であるとして,主位的請求として,各自の雇用契約締結日当日の就業規則が定めた定年年齢を内容とする雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,予備的請求として,平成15年度末で定年退職扱いとなる原告Aが,同年4月以降の貸金支払いを求めたものである。
 平成2年に改正された大学の就業規則によれば,教育職員の定年年齢については,施行日以降の新規採用者については一律65歳とし,既往の教職員のうち,昭和46年6月2日から平成2年3月31日までに採用された者は70歳,それ以前に採用された者は72歳,また55歳を超えて採用される大学教員について67歳とするものであったが,平成13年に就業規則が改正され,教育職員の定年年齢につき,施行日以降の新規採用者を65歳とし,既往の教職員については,平成13年から,従来の定年年齢を毎年1歳ずつ引き下げて,平成19年度に一律65歳とするものとされ,これにより,平成13年度末には,全教職員の過半数が65歳定年となっていた。
 本件の争点は,仝狭陲蕕法ぐ貭蠅猟蠻年齢までの雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する利益が存するか,∧神13年就業規則の制定・施行による定年年齢の変更は,就業規則の不利益変更として無効となるかである。

(2)判断のポイント
1)争点,砲弔い董ヽ稜Г料覆┐蓮こ稜Г陵益,すなわち確認を求める者の権利または地位に法律上の危険・不安を除去する具体的な必要が現存していなければならないところ,定年制を前提とする雇用契約は,法律上,労働者に定年年齢までの雇用継続を法的に保障するものではないから,定年となる年齢の確認を求める訴えは,当該定年(または変更された定年)に達した後に,地位の存否の確認,賃金(退職金を含む)支払いを請求する等の具体的な必要がない限り,確認の利益はない。A以外の原告については,定年となる日が極めて間近に迫っているとか,各自の当該定年日以降の地位確認,賃金支払いを請求する具体的な必要があると認める証拠がないから,その訴えは確認の利益の利益がなく,いずれも不適法であるとして却下されたが,原告Aについては,本件口頭弁論終結から1か月以内に定年となる日が迫っており,当該日以降の地位確認,貸金支払いを請求する具休的な必要があるとして,確認請求の利益が認められた。
 2)争点△砲弔い董)榿酬茲蓮な儿垢気譴觸業規則が合理的なものであれば,適用に反対する労働者をも拘束するという従来の裁判例の枠組みに従いながら,本件における就業規則の変更が合理的と判断した。具体的には,Aは定年引下げにより1786万円余の差額貸金が生じるなど,被る不利益は小さくないが,これは既得権の侵害ではなく,合理的期待の違背にすぎないこと,大学における教員の年齢アンバランスの解消による組織の活性化が必要かつやむを得ないものであること,国公立大学の定年は65歳であり,他の私立大学でも,定年を65歳に引き下げる例が多いこと,また平成13年就業規則では,定年実施まで1年7か月の猶予期間を置いたのち,7年かけて1年に1歳ずつ段階的に引き下げることにより,定年引下げの適用を受ける者の選択をする熟慮機会を確保しており,引下げ後の年齢それ自体および引下げ方は相当なものであること,J神13年就業規則の施行によって実施された退職金加給措置(引下げられた年数に対し,年10%を加給),新優遇制度(定年引下げ対象者が65歳の新定年以前に早期退職する場合,65歳までの年数に7%を乗じた割合の加給を行う措置),シニア教職員制(学校長・事務局長が推薦し,理事長が採用を決定した70歳以下の者がシニア教授等として採用される制度)も,定年引下げによる退職後の雇用継続を補充する機能を有していること,と鏐陲帆塙腓箸蓮つ蠻引下げにつき,合意には至らなかったものの,被告は,定年引下げを定める就業規則の制定に向けて,適切な手続きを踏んでいることから,定年引下げは,その不利益を労働者に法的に受忍させるだけの高度の必要性に基づいた合理的なものであって,原告Aについて,その効力を生じるものである。

(3)参考判例
 本判決は,理系単科大学の教貝というやや特殊の事案であるが,定年年齢の一方的引下げを内容とする就業規則の不利益変更の効力が合理的とされたことの影響は小さいものではないであろう。 本件と同様に,就業規則の一方的変更により,定年年齢を63歳から60歳に引き下げられた大阪府精神薄弱者コロニー事業団事件(大阪地堺支判平7.7.12労判682号64頁)では,変更については,高度の必要性を欠き,従業員にかなりの不利益をもたらすもので,合理性を欠き,無効と判断されている。

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定年制の導入や定年年齢の引き下げ事件に関わる大学教員の判例は,以下を参照。

労働条件に関わる判例「定年制・再雇用関係」
「日本大学(定年・本訴)事件」東京地裁判決(2002年12月25日)

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2003年10月17日

(資料:判例) 日本大学(定年・本訴)事件

東京地裁判決(2002年12月25日) 一部認容 一部却下[控訴]

「労働判例」No.845, 2003.6.1,33〜34頁より。
(事件の概要)
 本件は,大学教授である原告が,満70歳まで定年が延長されるとの慣例が事実たる慣習として労働契約の内容となっていると主張して,被告大学に対し,労働契約上の権利を有することの確認を求めるとともに,賃金および賞与の支払請求したものである。
 原告は,昭和○○年○月○日に出生し,法学部専任講師として雇用され,平成13年1月当時,大学院法学研究科および法学部教授の地位にあった。大学法学部教職員に適用される就業規則には,「教員は,満65歳に達した日をもって定年とする」(第26条)が,「特段の事由により必要と認めるとき」などの場合には,「理事会の議を経て,これを延長することができる」(同27条)と規定されていた。
 平成12年10月19日に開催された法学部教授会は,原告の定年を2年間延長する内申手続を採ることを議決し,大学に対しその旨を内申した。理事会は,平成13年2月2日,原告の定年延長を審議し,これを認めないとの議決をした。
 本件の仮処分決定は,本件定年延長扱いが事実たる慣習として成立していたとして理事会の議決を無効とし,1年間の貸金仮払いを認容した(仮処分 東京地裁平成2001年7月25日決定)。

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日本大学(定年・本訴)事件
(東京地裁 平成14年12月25日判決)
平13(ワ)17071号 地位確認等請求

主文

1 原告と被告は,原告が,被告の設置する日本大学法学部の教授である地位を有することを確認する。
2 被告は,原告に対し,○○万○○円及びこれに対する平成14年12月10日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,平成14年12月から本判決確定日まで毎月23日限り○○万○○円ずつを支払え。
4 被告は,原告に対し,平成15年1月から本判決確定日まで毎年3月15日に○○万○○円ずつ,毎年6月15日に○○万○○円ずつ,毎年12月5日に○○万○○円ずつをそれぞれ支払え。
5 原告のその余の請求に係る訴えをいずれも却下する。
6 訴訟費用は,全体を5分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
7 この判決は,第2項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。

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(参考判例)
 大学数負の定年制については,定年後の再雇用に関する明治大学事件(東京地判平元.3.31労判539号49頁),工学院大学事件(東京地判平元.7.10労判43号40頁),愛知医科大学事件(名古屋地決平4.11.10労判627号60頁)などがある(いずれも,定年延長の効力が否定されている)。
 また,本件のように,65歳定年を教授会議決により定年延長を認めるとの運用が事実たる慣習として認めた法政大学事件(東京地決昭62.8.19労判508号73頁〔要旨〕)があるが,同事件では,定年延長に自ら手続きをとらなかったことを理由として,定年延長が否定されている。これに対し,長崎総合科学大学事件(長崎地決平5.7.28労判637号11頁)では,定年後の再採用人事につき,常務理事会が教授会の決定を尊重して,再採用を決定するとの慣行が確立されていないと判断されている。

同事件東京地裁の判決文全文は,「労働判例」No.845, 2003.6.1,34〜43頁を参照のこと。

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2003年10月14日

(資料:判例) 旭川大学解雇(雇止め)無効確認請求事件

最高裁判決(2002年10月24日)−棄却

(事件の概要)
 本件は,旭川大学において,1984年度から期間1年の労働契約を更新して外国人語学教員として勤務してきた教員が雇止めの通知を受けたこと対して,その無効を主張し,その無効確認を求めた事案である。
 一審判決では,本件労働契約が期間の定めのない労働契約に転化し,またはこれと同視されるべき状態になっていたということはできないと判断した上で,本件雇止めには「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」があるものと解することが相当であり,権利濫用あるいは信義則違反として無効となるものとは言えないとして,控訴人の訴えを棄却した。
  控訴人は一審が「社会通念上必要とされく客観的合理性」の解釈を誤っているとして,札幌高裁に控訴。しかし,控訴審でも,2001年1月31日に棄却され,同年4月6日に最高裁に上告した。

 (上告理由書における主張)
)楔杙澆瓩砲蓮げ鮓曚亡悗垢詼〕の適用または類推適用されるべきであって,特に上告人において,雇用継続に対する合理的な期待があるといえること。
∨楔杙澆瓩砲蓮ぜ匆馗滅鮎總蠹とされる客観的合理的理由の存在が必要であって,特に専ら学校経営上の都合というならば,いわゆる整理解雇の法理又は類推適用によって,客観的合理的理由が存在しなければならないこと。
8軍覆僻獣任必要とした場合に,本件はその客観的合理的理由が存在しないこと。

 これに対して,最高裁は2002年10月24日,上告の棄却を決定した。その内容は,「<主文>本件は上告を棄却する。本件を上告審として受理しない。上告費用は上告人兼申立人の負担とする。<理由>1.(上告について)民事事件について最高裁判所に上告することが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,理由の不備・食違いをいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。2.(上告受理申立について)本件申立の理由によれば,本件は民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない」というもの。

(北海道私大教連の見解)「道私教組第66回定期大会」(2003年9月27日)議案書より

 民訴法312条1項は「上告は判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反であることを理由とするときにすることができる」というもので,解雇規制4原則など憲法27条(労働の権利の保障)との関連で審議されるべきものである。したがって,今次決定は労働法の改悪とともに司法の反動化を示すものといわざるをえない。

旭川大学解雇無効確認請求控訴事件 札幌高裁判決(平成13年1月31日) ≫
雇止め事件の主要判例はこちら ≫

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