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 カテゴリー 2020年07月

2020年07月31日

【特集】私立大学における労働問題

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■雑誌『労働法律旬報』(2020年7月下旬号)特集「私立大学における労働問題」が発行されました。

■『労働法律旬報』第1964号(2020年7月下旬号)
特集「私立大学における労働問題」
(http://www.junposha.com/book/b524101.html)
発行所:旬報社
発行日:2020年7月25日
ISBN:4910209640708
定価:2,000円+税

■目次:
【特集】私立大学における労働問題
・大学に科学者の新たなコミュニティの形成を(豊川義明)
・大学教員の配転―追手門学院大学(配転)事件・大阪地判平27.11.18(河村学)
・大学教員による育児休業の取得―学校法人近畿大学(講師・昇給等)事件・大阪地判平31.4.24(吉岡孝太郎)
・学部廃止を理由とする整理解雇―大乗淑徳学園事件・東京地判令元.5.23(佐々木亮)
・大学教員の懲戒解雇―追手門学院大学(懲戒解雇)事件・大阪地判令2.3.25(城塚健之)
・私立大学教授の定年後の再雇用―学校法人南山学園(南山大学)事件・名古屋地判令元.7.30(横井優太)
【労働判例】追手門学院大学(懲戒解雇)事件・大阪地裁判決(令2.3.25)
など


2020年07月22日

奈良学園大学解雇事件地裁判決、勝利「声明」

奈良学園大学教職員組合

本日奈良地裁において、奈良学園大学の学部廃止に伴う解雇が無効である等の判決が下されました。提訴以来3年にもわたる長らくのご支援を各方面よりいただくことができました。お礼を申し上げます。以下に奈良地裁判決を受けての声明を公表させていただきます。

2020年7月21日

声 明

1 判決の趣旨

 奈良地方裁判所(裁判長島岡大雄、裁判官千葉沙織、裁判官佐々木健詞)は、本日、奈良学園大学の教授ら7名が平成29年3月末で解雇・雇止めされた事件について、教授ら7名のうち5名に対する解雇が違法・無効であったとして、学校法人奈良学園に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、平成29年4月以降の未払賃金・賞与として総額1億1000万円以上を支払うよう命ずる判決を下した。なお、定年後再雇用であった2名については雇止めを有効とした。

2 本件整理解雇・雇止めに至る経緯

 原告らは、学校法人奈良学園が運営する奈良学園大学(旧・奈良産業大学)の教授、准教授、講師であった。

学校法人奈良学園は、平成23年頃、学部の再編を計画し、人間教育学部、保健医療学部及び従来のビジネス学部・情報学部の後継学部としての現代社会学部を新たに設置することを計画した。しかし、平成25年8月時点で現代社会学部の設置申請が取り下げられると、学校法人奈良学園は、ビジネス学部・情報学部教授会への事前の説明に反して、両学部について学生募集を停止し、平成29年3月末までに両学部所属の教員ら全員を転職又は退職させようとした。

この方針に反対した原告らは、平成26年2月に労働組合を結成した後、奈労連一般労組にも加盟し、奈良学園大学において大学教員として雇用を継続することを求めてきた。

しかし、学校法人奈良学園は、現代社会学部に代わる社会科学系の学部(第3の学部)の設置を一旦は検討したものの、その後、不合理な理由でその設置を凍結・延期し、組合が求めた「教育・研究センター(仮称)」の設置を真摯に検討せずに、大学教員として原告らの雇用を継続するための努力をしないまま、最終的には、平成29年3月末、労働組合員を含む教員らを解雇・雇止めにした。

3 判決の意義及び内容

本判決は、学部再編を理由とする解雇について、整理解雇法理を適用し、人員削減の必要性は高かったとはいえず、解雇回避努力を尽くしたものといえないとして、解雇を無効としたものである。少子化等による経営悪化を口実に全国の大学で安易な統廃合が行われる中、学校法人に対して教員らの雇用継続について責任ある対応を迫るものとして、大きな意義がある。

すなわち、本判決は、①人員削減の必要性については、ビジネス学部・情報学部の募集停止により学生らがほとんどいなくなったため教員が過員状態になったとはいえ、被告は資産超過の状態にあって、解雇しなければ経営破綻するといったひっ迫した財政状態ではなかったと判示した。また、②解雇回避努力については、原告らを人間教育学部や保健医療学部に異動させる努力を尽くしていないことや、総人件費の削減に向けた努力をしていないと判示した。さらに、③人選の合理性については、一応は選考基準が制定されてはいるものの、これを公正に適用したものとは言えないと判示した。また、④手続の相当性についても、組合と協議を十分に尽くしたものとは言えないと判示した。

学校法人奈良学園は、本判決を重く受け止め、原告らを直ちに大学教員として復職させ、本件解雇・雇止めをめぐる紛争を全面的に解決するべきである。

なお、本判決は、教授らのうち定年後再雇用であった2名については、有期雇用が更新される合理的期待があったものと認めつつも、人員削減の必要性があるなか有期雇用の労働者を優先的に雇止めすることも合理性があるとしたが、この点は遺憾である。

4 原告らの要求と決意

 学校法人奈良学園は、本判決を真摯に受け止め、控訴をすることなく、原告らを大学教員として奈良学園大学に復職させ、解雇・雇止めをめぐる紛争を全面的に解決し、奈良学園大学が本来の大学としての役割を果たすことができるようにすべきである。私たちは、本件の全面的な解決に向けて、引き続き奮闘する決意を表明する。

2020年7月21日    

原告団 弁護団 奈労連一般労組 関西私大教連
 

奈良学園大学不当解雇事件地裁判決、教員多すぎる」と大学解雇 判決「1億2000万円支払え」

ABCニュース(2020/07/21)

 奈良学園大の解雇事案は,学部の改組転換によって解雇されたのではなく、学部を完全につぶして全く違う新学部つくり、原告たちは職種限定で雇用されていたので新学部に移さないという理由で解雇するという事案でした。

「教員が多すぎる」という理由で解雇されたのは不当だと、奈良学園大学の教授らが訴えた裁判で、奈良地裁が一部を認める判決を言い渡しました。

訴えを起こしていたのは、奈良学園大学を解雇されたビジネス学部と情報学部の教授ら7人です。大学は2014年に2つの学部を統合し、新しい学部を設置する計画を立てましたが、計画が頓挫し、学生の募集を停止。その結果、「教員が過剰になった」として7人を解雇しました。21日の判決で「大学の経営破綻のおそれはなく、整理解雇を回避する努力義務があった」として、5人の解雇を無効とし、未払いの給与など約1億2000万円を支払うよう大学側に命じました。一方で、定年退職後に再雇用されていた2人については、訴えが認められませんでした。


2020年07月17日

札幌国際大学解雇事件、「かくて私は教授を『クビ』になった」 地方大学の窮状を語る

Newsweek(2020年7月9日)

札幌国際大学を「懲戒解雇」された経緯と、経営難が続く地方大学が抱える問題とは>

勤めていた大学から「懲戒解雇」を申し渡された。北海道は札幌にある札幌国際大学という、今年で創立51年目になる小さな私大だ。地元の人たちには前身の静修短期大学という名前のほうが今でも通りがいいかもしれない。

こういう地方の私大のご多分に漏れず近年は定員割れが続き、わらにもすがる起死回生の策ということだったのだろうか、2019年度から外国人留学生を大量に入れるようになった。

ところが、その入れ方がずさんで、大学で学べるだけの日本語の能力の目安として留学生受け入れの条件になっている「N2」という日本語能力試験の基準をクリアしていない学生をたくさん入れてしまった。しかも、留学生を抱えた大学に課されている在学中の在籍管理──勉学面のみならず、一定時間以上のバイトをしていないか、など生活面含め──の義務の履行もいろいろ怪しげなまま、といった難儀な実態が昨年春の新学期早々から発覚。

これを何とか是正しようとあれこれ学内で当時の城後豊学長以下、同僚有志たちと対策を講じて頑張ったのだが、経営側がそれを察知して学長を解任しようと画策、暮れには議事録も明らかにしないまま新しい学長の選任を強行してしまった。

もうこれ以上内部での事態改善が求められないと判断した城後学長が、今年に入ってから入国管理局や文部科学省など外部の関係諸機関に実情を知らせ、同時に報道機関などにも協力を求めた結果、3月末に事態がいよいよ表沙汰になったという経緯が背景の舞台装置。経緯は3月31日付の毎日新聞や北海道新聞などに詳しい。

事実上解任された城後学長が3月31日に北海道庁で行った記者会見の場に同席していた、というのが私の「懲戒解雇」の理由の1つだ。その他、都合4点の理由がもっともらしく挙げられ「本学の関係者全体の名誉、組織運営の健全性を損なう行為」だから、と理由付けされていたが、要は「おまえ、前学長と一緒になって留学生を入れようとする経営側のやり方に盾突いて邪魔していただろう、けしからん」というだけのことだった。

「懲戒解雇」に当たるまっとうな理由も理屈も何も見当たらない代物でした、というお粗末さだ。とはいえ、売られたけんかは買わなきゃ損、という性格ゆえ、即刻けんか支度に掛かり、地位保全の仮処分などできる限りの法的措置を講じて全力で交戦中、というのが現時点での状況である。

どうしてこういうワヤなことになったのか。それは今後の法廷で明らかにされてゆくだろうし、その都度、できる限り世間の皆さまの目に触れるような機会をつくってゆくつもりだが、「グローバル化」の掛け声に流され留学生を考えなしに導き入れた結果、こういう地方の零細私大が抱える現状に関する個別具体の「リアル」は言葉にされず、大文字の言葉だけが飛び交う空中戦で「大学」問題は「処理」されてゆく。

「自己責任」の正義任せに大学の淘汰が叫ばれ、大都市圏の大規模大学だけが生き残り、地元に根差した小さな教育の場は国公立・私立を問わず枯れてゆくばかり。事は単に、北海道の片隅の小さな私大のやらかしたワヤ、というだけではない。最後に、その「どうして」を解く際の大事なカギになるだろう事実を少しだけ。

・今年からこの大学の理事会に「嶋●和●」という名前が新たに加わっていること。
・この御仁は以前から経営戦略会議で留学生受け入れの「アドバイス」をしており、天下り斡旋事件で有名な元文科省事務次官の前川喜平氏の片腕とされた人物であること。

現場からは、ひとまず以上です。北海道、今年の夏は肌寒いです。

2020年07月08日

大分大学、学長“独裁化”で教授会と内紛…学長の任期上限を撤廃、ルール無視し人事強行

Business Journal(2020年7月6日)

大分大学、学長“独裁化”で教授会と内紛…学長の任期上限を撤廃、ルール無視し人事強行

文=田中圭太郎/ジャーナリスト

 国立大学法人大分大学では、学部長人事や教授採用などをめぐり、北野正剛学長と教授会が対立。教員OBも異議を唱えるなど、混乱が起きている。

 昨年8月には経済学部長の選考をめぐり、学長に意見として上げる候補者を学部の要項にもとづいて教授会が選んだにもかかわらず、学長が無視して学部長を決めた。批判の声が上がると「第三者委員会」が「要項は大学規程に抵触する」と教授会を悪者にして、要項自体が撤廃された。

 また昨年9月の医学部の教授採用では、教授会が選んだ候補者を学長が覆し、必要な手続きも経ずに別の人物を採用した。教授会によって選ばれていた候補者は、大分県弁護士会に人権救済の申し立てをしている。

 これらの問題の背景には、北野学長を中心とした執行部の専制にある――。そう指摘するのは、大学の混乱を受けて、教員OBらが昨年12月に立ち上げた「大分大学のガバナンスを考える市民の会」の関係者だ。関係者が「学問の自由と大学の自治が危機的な状況にある」と危惧する大分大学で、何が起きているのかを取材した。

学長がルールを無視して教授選考

 大分大学医学部の准教授だった50代の男性が今年1月、大学を退職した。男性は前任の教授が退官した約1年9カ月前から、准教授兼大学附属病院の放射線科部長として、研究や学生の教育、医局や病院の放射線部の運営に関わっていた人物。医学部の教授候補者選定委員会の選考、教授審査委員会の投票を経て、昨年9月の人事会議で次期教授候補者に決定していた。

 ところが、いつの間にか北野学長が別の人物を候補者に選んだために、教授になれなくなってしまったのだ。

 大分大学の教員選考規程では、教員の任用は「人事会議の審議に基づく部門長の申出により、教育研究評議会の審議を経て、学長が行う」となっており、最終的な任用権限は学長にある。しかし、教員の選考過程に学長が関与することは想定されていないし、認められてもいない。

 にもかかわらず、北野学長は昨年11月の医学部教授会に、別の人物を教授に任命することを通知。10月に就任したばかりの医学部長は、同月にメールによる人事会議を開いて、学長が選んだ人物を教授候補者として教育研究評議会に推薦する方針と、期日までに回答がなければ異議なしとして取り扱うことを通知。メールで会議を開いたことにして、9月の医学部人事会議の決定を覆したのだ。

 元准教授は今年1月、医学部人事会議による教授候補者の決定を学長が覆したのはアカデミック・ハラスメントであり、人権を不当に侵害する行為に該当するとして、大分県弁護士会に人権救済を申し立てた。

 北野学長は九州大学医学部出身で、大分大学医学部の教授や副学部長などを務め、2011年に学長に就任。元准教授は大分大学に合併する前の大分医科大学出身で、最終的に教授に選ばれた人物は九州大学出身だった。教員OBの一人は教授選考の問題は「学閥争いが影響したのではないか」と指摘しており、医療関係者からも「やりすぎではないか」との声が聞こえてくる。

経済学部長の選考をめぐる混乱

 ところが、北野学長が介入したのは医学部の人事だけではなかった昨年8月、経済学部では学部長を選考するため、教授会で選挙を実施して、候補者を選んだ。しかし、北野学長は候補者の名前を聞くことを拒否したのだ。

 大学の規程では学長が新しい学部長を任命することになっている。その規程のもとで経済学部では要項を定めて、学長に意見として上げる推薦候補を、教授会が選ぶことになっていた。教授会が選挙の結果選んだ候補者の名前を聞くように要請したが、北野学長は聞き入れず、候補者ではなかった高見博之氏を学部長に決定した。

 すると大学執行部は、経済学部の一連の行為が「大学の規程に触れるおそれがある」などとして、一方的に「第三者委員会」を設置。委員会は昨年12月、「学部の要項とその運用は大学規程に抵触する」と答申した。教授会が選んだ候補者の名前を聞くことを北野学長が拒否した理由は明らかにされない一方で、教授会だけが悪者扱いされた。

 答申を受けて、経済学部は今年1月、学部長の高見氏のもとで、教授会の選挙で学部長候補者を選ぶことを定めた要項を廃止する。今後は学長が教授会の意見に関わらず、学部長を決められるようになってしまったのだ。

 この状況に、大分大学の教員OBらが異を唱えた。昨年12月に「大分大学のガバナンスを考える市民の会」を結成。経済学部長選考をめぐる経緯については「ルールを無視した学長が、ルールを守るよう要請した学部長及び学部を非難した」と批判した。医学部の教授選考についても問題視し、「学長による権限の行き過ぎた行使を監視する」として、記者会見などで学長の独裁に警鐘を鳴らしている。

学長の任期上限と意向投票がないのは国立では2大学だけ

 北野学長の任期は、昨年10月から3期目に入った。国立大学法人でありながら、これほど強い権限を手にしている背景には、2015年の学校教育法の改正がある。改正前の第93条は、「重要な事項を審議するため、教授会をおかなければならない」とされていた。それが改正法では、教授会は学長が決定を行うに当たり「意見を述べる組織」に格下げされた。

 とはいえ、法改正後も教授会の意見が尊重されている大学は当然ながらある。しかし大分大学ではこの年、学長の再任については、任期の上限と教職員による意向投票を撤廃した。つまり、学長は自分の息がかかった執行部体制が続く限り、いつまでも続けられることになった。全国の国立大学法人で学長の再任上限と意向投票をともに撤廃しているのは、大分大学と弘前大学だけだ。

 その頃から北野学長は、他の学部でも学部長を自ら指名するようになった。2016年に新たに設置した福祉健康科学部では、設置準備をリードしていた教授がいたにもかかわらず、北野学長が別の教授を学部長に指名した。ところが、この学部長に「研究費を不正使用している」との疑惑が持ち上がる。2018年12月に内部告発があり、調査の結果、出張費を5年余りにわたって約110万円不正に受給していたことが判明。この元学部長は、去年3月に停職10カ月の懲戒処分を受けている。

 経済学部では学部長の任期は1期2年で2期までとされていたが、経済学部の学部長選考に関する要項を撤廃した際、学部長の任期の上限も撤廃された。教授会は、学部長の選考に一切関われなくなってしまったのだ。撤廃された学部長選考に関する要項は「北野学長が従来の慣行を変えようとする中で、一定の歯止めをかけるためのものだった」と経済学部の教員OBは振り返る。

「学部長を選考する際に、教授会の意見を聞くという要項があれば、学部の発言が一定程度は確保されるだろうと思っていました。しかし、学部長選考をきっかけに、経済学部は完全に学長に屈服させられた状態になってしまいました」

「第三者委員会」の公平性に疑問

 経済学部長選考の問題は、大学としては幕引きをした形だが、先述したように北野学長が教授会の意見を聞かなかったことなど、疑問点は残っている。加えて、教員OBらが疑問視するのは、調査をした「第三者委員会」の公平性だ。

 第三者委員会のメンバーには、経済学部同窓会の会長代行が任命されていた。ところが、経済学部の同窓会会長は、理事の一人である石川公一氏が務めている。しかも石川氏は法務・コンプライアンス担当の理事でもある。

 石川氏は元大分県職員で、大分県教育委員会教育長や大分県副知事などの要職を歴任した。大分大学では2010年から2016年3月まで監事を務めた後、顧問を経て、2016年10月に非常勤理事に就任。翌年1月から常勤の理事となった。企業でいえば監査役にあたる監事から理事に就任するのは、国立大学法人では極めて珍しいケースだろう。

 市民の会が設立される前に存在した退職教員の会は、「同窓会は大学と無関係ではなく、しかも、同窓会会長は法務担当の理事であり、この委員の中立性には疑問がある」として、同窓会会長代行の委員を変えるように大学に要請した。しかし、大学側は「人選に問題はない」として応じなかった。教員OBは、次のように憤る。

「同窓会長であり理事である人物の意向が、同窓会長代行に反映される可能性があれば、第三者委員会とは言えないのではないでしょうか。大学執行部は教授会が悪者にして、教授会の選挙で学部長を選ぶ要項を廃止することで幕引きしたつもりでしょうが、到底納得ができません」

混乱の影響は学生にも

 さらに、経済学部長選考の影響は、学生にも及んだ。昨年11月、学生有志を名乗る匿名の人物が、学部長選考を批判する文書を高見氏に送った。すると高見氏は、大学の一斉送信システムを使って学部生1200人全員に「手続きに則り適正に学部長に就任した」「自主的、主体的に実名で主張を展開していただくよう『学者』『教育者』として付言させていただく」という趣旨のメールを送信したのだ。

 学生に対して高圧的ともいえる高見氏の行為は教授会で問題視され、結局、高見氏は学生向け説明会を開いて謝罪した。しかし、北野学長は高見氏のメールを問題視しない考えを示している。

 また大分大学は6月30日、医学部にメディカル・イノベーション学科を新たに開設する構想を発表した。3年後の開設を目指している。しかし、大学広報によると「学内での合意形成はこれから」だという。大学関係者からは「大学内での検討をほとんど経ずに新学科の構想が発表された」と戸惑う声も出ている。

 大分大学の混乱は、学校教育法改正など、国が進めてきた大学のガバナンス改革の延長線上にある。その弊害として、独裁化が進んだケースともいえる。教員OBの一人は「強い危機感を持っている」として、次のように話している。

「大分大学はいま急速に変化しています。学長が自由にすべてを決められるようになってしまいましたが、本当にこのままでいいのでしょうか。学問の自由と大学の自治を守るためには、いま声を上げていかなければならないと思っています」

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)


2020年07月06日

梅光学院大特任教授、不当な雇い止め 損害賠償求め提訴

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2020年07月04日

札幌国際大学懲戒解雇事件 大学の健全化を求めた言動を理由に懲戒解雇

毎日新聞(2020年6月30日)


2020年07月03日

北大学長解任 長期混乱の説明足りぬ

道新(2020/07/03)

 萩生田光一文部科学相が、北大の名和豊春学長を解任した。

 大学職員らを過度に叱責(しっせき)するなどの不適切な行為を重ねたのが理由とされる。国立大が2004年度に法人化されて以降、学長の解任は初のケースだ。

 名和氏は問題が表面化した直後から休職し、1年半にわたって学長不在という異常事態が続いている。にもかかわらず、北大側が対外的な説明を十分にしてこなかったのは納得できない。

 解任を受けた記者会見を経ても「内部で何があったのか」という疑問は残されたままだ。

 北大は問題が長期化した経緯を含め混乱の原因を明らかにし、再発防止に努めてもらいたい。

 北大によると、名和氏は学長に就任した2017年以降、職員らに過度な叱責や威圧的な言動を重ね、特定業者のために再入札を求めるなど不適切な行為を重ねた。

 これを受け北大の学長選考会議が文科相に名和氏の解任を申し立てた。文科相は調査の上、「(国立大学の)役員たるに適しない」との理由で解任を決めた。

 ただ、名和氏の行為が解任に十分相当するかの具体的根拠は示されず、処分が適正かは判断が難しい。名和氏と大学側との間でどんないきさつがあったのかも、詳しく知りたいところだ。

 名和氏は不適切な行為を否定し、「処分は不当だ」として、文科相に対する審査請求や国を相手取った処分取り消しの訴訟を起こす構えだ。

 だが、処分理由に対する反論は明確さを欠き、疑問は残る。名和氏にも説明責任はあるだろう。

 一連の混乱が学内外に及ぼした影響は小さくはない。

 新型コロナウイルスの感染拡大が、大学の授業や入試日程に影響を及ぼしている。在籍する学生や受験生らに、大学の現状や今後を不安視する向きは多かろう。

 そうした中で、大学の役員らが内部の混乱を長引かせるのでは、信頼を得ることは難しい。まずは学生らの不安を解消し、学問に落ち着いて打ち込める環境を整えるべきだ。

 北大の学内規定は、学長欠員の場合は速やかに次期学長選挙を行うと定めている。大学側は年内に行う意向を示したが、不在の長期化を考えれば、早期の決着が望ましい。

 今回のような問題の再発防止を徹底し、地域の拠点的研究・教育機関としての責任を果たしてもらいたい。


2020年07月02日

京大iPS研の元非常勤職員、懲戒解雇の無効求め提訴へ

朝日新聞(2020/07/02)

 京都大iPS細胞研究所(山中伸弥所長)を懲戒解雇された50代の元非常勤職員が、解雇処分の取り消しを求める訴えを3日にも京都地裁に起こすことがわかった。代理人弁護士は「理由のない懲戒解雇を受けた」と主張している。

 京大は、元職員が勤務していた研究室の教授のメールを無断で見たり、機密書類を持ち出したりしたことなどが、大学の秩序・風紀を乱す行為を禁じた規則に違反したとして、3月31日付で懲戒解雇処分にした。

 一方、元職員の代理人弁護士によると、処分理由の記載が抽象的だったため、京大に詳細な日時や内容を求めたが、回答が得られなかった。訴訟では、京大側に処分理由に該当した行為を具体的に特定させた上で、事実の有無や、懲戒処分にあたりうるかを争う方針。

 元職員は、2007年度から1年間の雇用契約更新を繰り返し、19年4月に雇用期間の定めのない契約に変わった。17年から執拗(しつよう)な退職勧奨の嫌がらせを受けていたとしている。訴訟では100万円の慰謝料も求める。

 元職員は「労働者が提訴するのは費用や転職の面でハードルが高いが、このような問題は京大だけではないと思う。iPS細胞は人類の希望を大きく担うもので、辞めさせられた人間が申し上げるのはおかしいが、iPS細胞の研究については応援してほしい」と話している。


懲戒解雇の京大iPS研元職員、パワハラで大学提訴へ 慰謝料など求め

毎日新聞(2020年7月2日)

 懲戒解雇された京都大iPS細胞研究所(京都市左京区)元職員の50代女性が、男性教授からパワハラを受け続けた末に理由なく解雇されたとして、京大に地位確認や慰謝料など約530万円の支払いを求め、3日にも京都地裁に提訴する。

 代理人の弁護士によると、女性は2007年4月から同研究所に勤務し、男性教授の研究室に勤めていた。17年2月以降、教授から「何で辞めへんの」「居座ってどうするん」などと繰り返し退職を迫られた。女性は20年3月、「教授の機密情報が記載されたメールを無断で閲覧した」などとして懲戒解雇された。

 女性は処分歴はなく、解雇の理由も「どのメールの件を問題にしているのか全く分からない」と主張。5月には処分の理由を説明するよう京大に文書で求めたが、明確な回答はなかったという。代理人の弁護士は「大学側が圧力をかけたが辞めなかったので処分を利用した。不当な解雇だ」と主張。一方、京大は「訴えの内容が分からないので、コメントすることはない」としている。