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 カテゴリー 奨学金政策

2016年03月31日

奨学金受けた大学生 5割超

NHK(3月30日)

全国の大学生や大学院生の生活状況について、「日本学生支援機構」が調べたところ、昨年度大学生が支払った授業料は平均で91万円余りと調査を始めて以降最も高くなり、奨学金を受けた大学生は51%と2人に1人に上っていることが分かりました。
日本学生支援機構は大学生や大学院生などを対象に2年に1度、生活状況について調査していて、今回は4万5500人余りの学生が昨年度の支出や収入について回答しました。
それによりますと、大学生では、昨年度1年間に使ったお金は平均で186万2100円で、前回の調査に比べて1万8000円減少しました。全体の6割以上の119万5300円は「学費」が占めていて、なかでも「授業料」は91万6000円に上り調査を始めた昭和43年以降最も高くなりました。
また、大学生の収入は、197万1400円で、前回の調査のときより2万5900円少なくなりました。保護者からの仕送りなどは減る傾向が続くなか、奨学金を受けた大学生は51%と、2人に1人に上りました。
奨学金を受ける大学生の割合は、平成8年度は21%ほどでしたが、その後、ほぼ一貫して増え続け、平成22年度以降は50%ほどでほぼ横ばいになっています。
奨学金を巡っては、卒業後に返済が滞る人が多いのが課題になっていて、文部科学省は、年収に応じて返済額を決める新たな制度の導入に向けて、対応を進めています。

2016年03月30日

給付型奨学金を創設=無利子も拡充-安倍首相

時事通信(2016/03/29)

 安倍晋三首相は29日夕、2016年度予算の成立を受け、首相官邸で記者会見した。大学生らを対象にした国の奨学金制度について、首相は「本当に厳しい状況にある子どもたちには、返還が要らなくなる給付型の支援によって、しっかり手を差し伸べる」と述べ、給付型奨学金を創設する考えを表明した。今夏の参院選から選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられる見込みのため、若者支援拡充をアピールする狙いがありそうだ。
 首相は「家庭の経済事情に関係なく、希望すれば、誰もが大学にも専修学校にも進学できるようにしなければならない」と強調。給付型奨学金に関し、首相は25日の国会答弁で「全面的に否定的なことを言ったことはない」と含みを持たせていたが、会見ではより踏み込んだ。
 国の奨学金制度は文部科学省所管の独立行政法人「日本学生支援機構」が運用。返済が必要な通常の奨学金には無利子型と有利子型がある。首相は「可能な限り速やかに、必要とする全ての子どもたちが利子のない奨学金を受けられるようにする」と明言。返済についても卒業後の所得に応じて軽減措置を講じる方針を示した。

2016年03月25日

奨学金の年間返済額、所得の9%に 文科省会議

日経(2016/3/24)

 奨学金の毎月の返済額を大学卒業後の所得に連動させる新制度について、文部科学省の有識者会議は24日、年間返済額を所得の9%とすることなどを決めた。2017年春に大学や短大などに入学する新規貸与者らが対象となり、卒業後の所得はマイナンバーを使って把握する。

 新制度は日本学生支援機構で無利子奨学金を利用する学生から先行導入する。返済額の下限は月2千円か3千円かで議論が続いていたが、より負担を軽減する狙いで2千円に決まった。所得に対する年間の返済額の割合は9%とした。

 会議で示されたイメージによると、4年間で計約260万円を借りた学生の場合、新制度での毎月の返済額は年収144万円まで2千円、400万円で1万3500円、600万円で2万3500円などと、年収から算出した所得に応じて増える。

 現行の制度では毎月の返済額が固定される。学生は定額の返済方式を選ぶこともできる。年収300万円以下の場合は申請によって返済を通算10年まで猶予できるとした。


2016年03月15日

所得連動型奨学金 首相、来年4月の導入表明

東京新聞(2016年3月14日)

 参院予算委員会は十四日午前、「社会保障・国民生活」をテーマに集中審議を行った。安倍晋三首相は大学生らが在学中に受けた奨学金について、卒業後の所得に応じて柔軟に月々の返還額を決める「所得連動返還型奨学金制度」を二〇一七年四月の入学者分から導入する方針を表明した。
 首相は「子どもたちの未来が家庭の経済状況で左右されてはならない。希望すれば誰もが大学に進学できる環境を整えたい」と述べた。しかし、返済の必要がない給付型奨学金の導入は「財源の確保や対象者の選定など、さらに検討が必要だ」と慎重な考えを示した。
 所得連動返還型奨学金をめぐっては、文部科学省の有識者会議が二月、月々の最低返還額は二千~三千円で、一七年度から新規で無利子の第一種奨学金を借りる学生を対象に導入する案を了承している。
 首相は、子どもを保育所に入れられなかった母親らが保育制度の充実を求めて政府に提出した署名について「子どもを産み育てる若い家族の環境を配慮に満ちたものにしなければならないとあらためて思った」と説明。安倍政権が推進した待機児童解消の取り組みを上回るペースで、保育所の入所希望者が増えたと説明し「今後も待機児童ゼロに向けて万全を期したい」と述べた。
 改憲については「二十一世紀の日本の理想の姿を私たち自身の手で描いていく精神こそ、日本の未来を切り開いていく」と意欲を重ねて表明。国会発議に関し「与党のみならず、多くの党の支持をいただかなければならない」と述べ、改憲を目指す野党と連携する考えを示した。

2016年03月03日

深刻化する「奨学金」返済問題 まさに貧困ビジネス化

東京国家公務員・独立行政法人労働組合共闘会

深刻化する「奨学金」返済問題 まさに貧困ビジネス化
強引な返済計画、延滞金、財産差し押さ、追いつめられる若者

 「毎月3万円、235回払い、払えますね」「はい」、「2回守れなかったら、一括返済ですよ。それが出来なかったら財産差し押さえですよ。いいですね」「はい」、裁判官と被告のわずか数分のやり取りで裁判終了。「奨学金返済訴訟」では、いつもこんなやり取りだそうです。
 貧困化が進む中で、親が子の学費を払えなく、今大学生の半数が「奨学金」(有利子)を利用しているそうです。しかし卒業後正社員になれず、非正規・低賃金を余儀なくされ、奨学金の返済が滞る中、「日本学生支援機構」は容赦なく返済を求める訴訟を起こしているとの事です。2012年度では6193件の訴訟、その8年前の約100倍に達しています。「日本学生支援機構」の2014年度の利息収入は約370億円、延滞金収入は約40億円、まさに「貧困ビジネス」と化しています。根本原因は労働者の賃金の低下、若者の不安定雇用とワーキングプアーの拡大、大学の運営費交付金の削減(運営費交付金は2004年度の1兆2,415億円から2016年度1兆945億円。12年間で1,470億円の削減されました)と授業料の値上げです。ちなみに日本政策金融公庫の発表(2月23日発表「教育費負担の実態調査」)よれば、高校入学から大学卒業までに1人当たり899万4000円の教育費が必要との事です。
 1月16日の東京国公春闘討論集会では、都大教の参加者から大学生の実情が話され、「教育費問題は第二の賃金闘争と位置付けるつもりで取り組みを強化してほしい」との訴えがありました。東京国公は都大教、私大教連、私教連の仲間とも共同して、この春闘も大いに奮闘します。


2016年03月02日

奨学金返済「結婚や家購入の足かせ」 若者の約3割回答

朝日新聞(2016年3月1日)

 大学時代などに奨学金を借りた若い世代の4割が、返済を「苦しい」と感じていることが、労働者福祉中央協議会が29日に公表した調査でわかった。また、2~3割は、返済が結婚や出産、家を買うときのあしかせと感じているという。

 昨年7~8月、奨学金返済の実態を把握するために労働組合員ら1万7981人を対象にアンケートした。74・2%にあたる1万3342人が回答。このうち3割が奨学金を借りていた。

 不況などのために奨学金を借りる人が多かった34歳以下(2061人)に絞って返済の負担感を聞くと、「少し」「かなり」を合わせて「苦しい」との回答が39・0%だった。非正規労働者に限ると、56・0%に上った。

 卒業後の生活設計への影響では、結婚について「影響している」と答えたのは、「大いに」「やや」を合わせて31・6%。持ち家取得に対しては27・1%、仕事や就職先の選択は25・2%、子育ては23・9%、出産が21・0%だった。いずれも悪影響とみられ、借金があることで「結婚など考えられない」という記述もあったという。

 借入総額が500万円以上の正規労働者と、200万円以上の非正規労働者のうち、それぞれ約5割が結婚に「影響した」と回答した。

 29日に記者会見した同協議会の花井圭子事務局長は「(国は)公教育への支出を増やし、大学授業料を安くするべきだ」と話した。

 134万人(2015年度)が利用する日本学生支援機構の奨学金は、返済者の約半数が年収300万円以下。14年度末時点の未返済者は全体で32万8千人に上った。


2016年02月24日

青森、返還免除型奨学金を新設へ 1人最大100万円

朝日新聞(2016年2月23日)

 経済的事情で進学を諦める子どもをなくそうと、県は2016年度から返還免除型の奨学金制度を新設する。大学進学の際、最大で1人当たり100万円を無利子で貸与する。大学卒業後、1年以内に県内に居住・就業し、3年間経過すると返還を免除する。

 家庭福祉対策教育支援貸し付け事業費補助として1億1569万円を新年度予算案に計上した。貸し付けの対象は、生活保護世帯か市町村民税非課税世帯で、翌年に大学(短大、専門学校を除く)に進学を予定している現役の高等専門学校生か高校生。既卒者は含まれない。また、学校の成績が5段階評定で平均4・0以上(ひとり親、生活困窮者対象学習講習会参加者、児童養護施設入所者の場合は平均3・5以上)という条件もある。

 100人以内を予定し、応募者が多数の場合は、貸し付けの必要性を考慮して決める。貸与額は10万円単位で最大100万円、無利子。返還は、在学中は猶予され、卒業後2年目から最長8年間で分割する。返還免除については、公務員は除外。転勤したり勤めている会社が倒産したりするなど免除条件を満たせなくなった場合には、個別に対応するとしている。他の奨学金制度との併用も可能。窓口は県育英奨学会が担う予定だ。県こどもみらい課によると、返還免除型の奨学金で100万円を貸与するのは全国初という。

 県は今年度中に「県子どもの貧困対策推進計画」を策定する予定で、奨学金制度創設もその一環。県内の生活保護世帯の大学等進学率は19・5%(13年3月)で、全国の32・9%(同)を大幅に下回っている。


2016年02月14日

奨学金が卒業後、5年在住すれば返還免除 宇都宮市が募集開始

東京新聞(2016年2月13日)

 宇都宮市は、大学や短大、専修学校(専門学校)に進学する人を対象にした奨学金「返還免除型育英修学資金」の貸し付け希望者を募集している。卒業後、市内に五年間暮らせば、市が奨学金の返還を求めない制度。定住人口の確保策を充実させる。
 支給額は一カ月当たり二万円。四年制大学なら計九十六万円になる。留年時には支給が停止されるが、進級すれば再開される。返還は「最終学校を卒業後の四月から」とし、大学院の在籍中は猶予される。
 対象は、四月の入学者十人程度。市内在住で、成績の評定が五段階で平均四・〇以上が条件。小論文、面接などで選考する。学校を卒業後、一年以内に市内に住み始める必要がある。
 市は、二〇一三年十二月に市民から寄付された一億円と、一五年度予算の一億円を合わせた計二億円で「市育英基金」を設置。市の担当者は「定住してもらうには、学校の卒業時に住むことを選んでもらうことが大事。学ぶ意欲が強くあるが、経済的理由で修学が困難な人の手助けをしたい」としている。
 募集は今月二十九日まで。県の奨学金との併用はできないが、市の返還型奨学金や、日本学生支援機構の奨学金との併用はできる。

奨学金返済、全額肩代わり…県内3年就職が条件

読売新聞(2016年02月13日)

 鹿児島県は、日本学生支援機構の奨学金を無利子で借りている県出身者が大学卒業後に県の基幹産業で最低3年間就職することを条件に、奨学金の返済を全額肩代わりする制度を設ける。

 毎年100人を募集する計画で、今春の就職者から対象とする。新年度一般会計当初予算案に関連費2億円を計上した。

 発表によると、教育の機会均等と、農林水産、IT、観光といった県の基幹産業を担う人材の確保が目的。都道府県レベルで同様の制度を設ける動きが始まっているが、県教委は、全額を肩代わりするのは珍しいとしている。

 県教委によると、制度は基金を設けて運用し、毎年4億円ずつを積み立てていく。市町村、経済団体にも協力を求めており、毎年、県が2億円、市町村と経済団体が計2億円を出資していくことを想定している。

 申し込みの機会は高校3年生時と、大学3年生時の2回設け、県、市町村、経済団体でつくる選考委員会で審査する。選考されても実際に条件となる産業に就職しないと対象外となる。2016年度に限っては、大学4年生も申し込める。

 日本学生支援機構の奨学金を無利子で借りるには家庭の経済的事情に加え、成績が優秀であることなどが条件。4年間の貸与金額は最高で計300万円を超える人もいる。

 今回の制度で就業条件を最低3年間としたのは、3年間働いた場合、離職率が低いからだという。

 伊藤知事は12日の記者会見で、「社会的な公正や貧富の差の是正を図るには教育の機会を確保することが大切。財政的な制約によって大学へ進めないことがないような社会をつくりたい」と述べた。


2016年02月09日

奨学金の返還額下限、月2000~3000円 所得連動制度で骨子案

日経(2016/2/5)

 奨学金の月々の返還額を卒業後の所得に連動させる新制度を巡り、文部科学省の有識者会議は5日、返還額の下限を月2千~3千円とする骨子案をまとめた。年間の返還額は所得の9%か10%とする方針で、今後どちらかに決める。年収300万円以下であれば申請によって返還を最長10年間猶予できるとした。

 文科省は週明けからパブリックコメント(意見公募)を行い、3月末までに報告書をまとめる。

 新制度の「所得連動返還型奨学金」は、2017年春に大学・短大などに入学する学生から対象となる。日本学生支援機構の無利子奨学金の利用者から先行して導入し、希望者は今年4月から在籍する学校を通じて申し込む。卒業後の年収はマイナンバーを使って把握する。

 骨子案のシミュレーションでは、返還額を所得の9%に設定した場合、一人世帯で年収200万円なら月4300円、年収300万円なら月8500円と試算している。

 現行制度の返還月額は借りた額に応じて固定されており、無利子奨学金を借りた大学生の場合、9230~1万4400円。年収が300万円以下なら返還が猶予されるが、安定的な収入を得られない非正規雇用の若者が増えるなか、負担が重いとの指摘が出ていた。


2015年11月26日

奨学金返還支援へ基金 徳島県、12月補正17億円

徳島新聞(2015/11/25)

 徳島県は25日、2015年度一般会計補正予算案を発表した。補正額は16億9522万円で、12月補正としては最近10年間で2番目に少ない。県内企業に就職する大学生らの奨学金返還を肩代わりし地元定着を促す奨学金返還支援基金の創設や、9月の関東・東北豪雨を受けた災害予防対策の強化が柱となっている。補正後の一般会計は累計4914億7781万円(前年同期4946億9733万円)。県議会12月定例会に提案する。

 奨学金返還の助成対象は、県の成長産業分野として雇用創出や経済波及効果が期待される<1>製造業<2>情報サービス業<3>農林漁業-の県内事業所への就職を希望する理工、情報、農学分野などの学生。

 正規職員として3年以上就業した場合、日本学生支援機構などから借り入れた奨学金返還総額の2分の1(上限100万円)か3分の1(同70万円)を、就業4年目から5年間にわたり分割で肩代わりする。

 初年度は助成候補200人を募る。このうち100人は17年春卒業予定の大学生・大学院生と高専生。残る100人は16年度大学進学予定の県内の高校生・特別支援学校生ら。高校生のうちから助成候補に位置付け、大学卒業後の県外流出を防ぐのが狙い。

 支援基金に2億円を積み立て、このうち2千万円は企業などの寄付金を充てる。県は、地方創生の県版総合戦略期間中(19年度末まで)に最大10億円まで基金を積み増し、計千人を支援対象とする計画。

 災害予防対策を含む台風・豪雨に備える県土強靱(きょうじん)化事業には総額6億6480万円を盛り込んだ。河川浸水予防緊急対策として、勝浦川や鮎喰川など16河川の40キロを対象に流水を阻害する樹木や堆積物の調査、撤去を行う。海部川などの堆積砂利の撤去も進める。

 このほか、徳島赤十字病院日帰り手術センター(仮称)などの整備支援費1億1426万円を計上。マイナンバー制度に関する中小企業向けの支援に200万円を盛り込んだ。

 歳入は国庫支出金(3億6666万円)や基金からの繰入金(5億9426万円)、県債(1億6900万円)などで賄う。


奨学金、借入総額は平均301.8万円 - 保護者調査

マイナビニュース(2015/11/25)

日本労働組合総連合会は20日、「大学生・院生の保護者の教育費負担に関する調査」の結果を発表した。期間は10月6日~10月8日。対象は大学生または大学院生の父母1,000名。

大学の年間授業料、平均103.6万円

大学在学中の費用を聞いたところ、「年間の授業料(施設維持費・実習費など含む)」は「100万円~125万円未満」(29.0%)が最多だった。以降、「50万円~75万円未満」(28.2%)、「75万円~100万円未満」(12.2%)が上位にあがった。「0円」・「不明」を除いた平均額は103.6万円だった。

学校種別の平均額は、「国公立」は67.5万円、「私立文系」が103.8万円、「私立理系(医歯薬除く)」が133.0万円、「私立 医・歯・薬学」が204.6万円となった。

「奨学金を利用しているか」を聞くと、31.7%が「利用している」、68.3%が「利用していない」と回答した。世帯年収別に利用割合をみると、世帯年収が下がるにつれ利用率は高くなり、「200万円~400万円未満」の層が61.5%で最多となった。


奨学金を利用している人に対して、「卒業までの借入総額(予定額)」を聞いたところ、最多は200万円~250万円未満」(30.5%)。平均額(不明を除いて算出)は301.8万円となった。

「奨学金のタイプを提示し、どの程度望ましいか」を聞くと、76.3%で「無利子の奨学金」が最多に。次いで、「給付型(返済義務がない)の奨学金」(73.6%)、「地元に就職した場合、 返済(全部または一部)が免除される奨学金」(61.2%)と続いた。

「家庭の所得と教育・大学進学の関係について」の内容を提示し、自身の気持ち・考えにあてはまるものを選択してもらった。「そう思う」(「非常にそう思う」と「ややそう思う」の合計) の割合が最多となった項目は「高所得世帯の子どものほうが、大学までの教育環境に恵まれていると思う」(91.4%)だった。次いで、「子どもを大学で学ばせるための費用は高いと思う」(90.3%)、「所得の高低にかかわらず同水準の教育を受けられるようにするべきだと思う」(81.0%)となった。


2015年11月22日

奨学金の改善求める、返済に苦しむ若者が全道集会

道新(2015/11/20)

 奨学金の返済に苦しむ若者を救おうと、奨学金制度の改善を求める全道集会が19日、札幌市中央区の「TKP札幌ビジネスセンター赤れんが前」で開かれた。

 連合北海道と北海道労働者福祉協議会が主催した。大学生が利用する奨学金は返済が必要な貸与型が多く、雇用情勢の悪化で卒業後の返済が滞り、訴訟を起こされるケースが増えている。

 パネルディスカッションでは、弁護士らが学費の高騰や家計の苦しさから学生が奨学金を利用せざるを得ない現状を報告した。北星学園大3年の大野慶(けい)さん(21)は「貧困を生み出す社会の仕組みを変えなければならない」と訴えた。会場では返済が不要な給付型奨学金の創設を国に求める署名集めも行われた。(久保田昌子)


2015年10月07日

貸与型奨学金を利用予定の高校生9割が「返済に不安」

フォルサ [2015/10/06]

神奈川大学は、高校生・既卒生・大学生500名および高校生・既卒生・大学生の子を持つ親500名を対象に、「奨学金と給費生制度に関する意識調査2015」を実施した。調査は7月31日~8月6日にかけて行い、1,000名の有効サンプルを集計した。

親の8割が「大学進学・大学関連の費用が家計を圧迫」

高校生・大学生の子を持つ親に、大学進学とお金に関する状況や考えを尋ねたところ、「大学進学または大学関連の費用が家計を圧迫している」に、「あてはまる(計)」と回答した割合は78.0%だった。

「大学進学で親元を離れたときの経済的負担は重い」は80.0%、「金銭的事情での大学進学断念は社会にとって損失」は88.0%がそれぞれ「あてはまる(計)」と回答している。

次に、高校生・大学生に対し、大学進学とお金に関する状況や考えについて聞いた。「自分が大学に進学する(した)ことで、家族への経済的負担が大きくないか心配」に「あてはまる(計)」と回答した割合は82.2%だった。高校生は38.5%が「金銭的事情を考えると"大学進学を断念すべきなのでは"と思う」と答えている。

大学生に対し、大学進学後、学費や生活費を稼ぐためのアルバイトで、学業が疎かになったことがあるか尋ねると、58.0%が「あてはまる(計)」と回答した。また「金銭的事情を考えると"将来的に大学中退を選択することもあり得る"と思う」に21.5%が「あてはまる(計)」と回答している。

高校生・大学生の7割が「奨学金制度」に関心がある

高校生・大学生を対象に「奨学金制度」に関心があるか尋ねたところ、70.6%が「はい」と回答した。高校生に対し、「大学進学時、奨学金制度を利用する予定か」と聞くと43.4%が「はい」と答えており、これから奨学金を利用する予定である子どもは少なくないことがわかった。

貸与型奨学金について「貸与型奨学金を利用したら、卒業後に返済していけるかどうか不安か」と聞くと、「はい」と回答した割合は78.4%だった。奨学金制度を利用する予定と回答した高校生では89.6%が「はい」と回答している。貸与型奨学金をきちんと返済できるか、懸念する子どもは多いようだ。

7割が「給付型奨学金を利用できるチャンスの拡大を望む」

一方、貸与型奨学金とは異なる給付型奨学金(大学卒業後、返済の必要がない奨学金)という制度もある。貸与型ではなく、給付型の奨学金を利用できるチャンスが拡大することを望むか尋ねると、72.4%が「はい」と答えた。

給付型の奨学金制度のひとつに、入学試験の成績が優秀だった者などに、一定額の学費を給付するなどの対応を行う「給費生制度」がある。高校生・大学生にこの制度について知っているか聞くと、「知っている」は24.8%にとどまった。給費生を採用する試験を実施している大学に関心があるか尋ねると、52.6%が「はい」と回答した。

高校生・大学生に、給費生制度は、経済格差による教育格差を縮めるか聞くと、「そう思う(計)」は70.0%だった。「給費生制度は、志の高い学生の未来を創る」「給費生制度は、優秀な学生の可能性を広げる」の同意率も80.0%、「給費生制度は、もっと普及させていくべきだ」の同意率も84.2%と高くなっている。


2015年10月03日

奨学金返還にマイナンバー 年収に連動、文科省検討

日経新聞(2015/10/2)

 日本学生支援機構による奨学金制度をめぐり、文部科学省は2日までに、マイナンバーを使って年収を把握し、返還額を柔軟に変える「所得連動返還型奨学金」の導入に向けた検討を始めた。有識者会議で年度内に報告を取りまとめ、2017年度の大学進学者から導入を目指すが、プライバシー確保などが課題だ。

 12年度に始まった現行制度では、年収300万円以下だと返還を猶予。総務省の07年度調査で、大学などを卒業した30~50代の約3割が300万円を下回っていたことから、返還が進まず、債権管理コストがかさむ懸念が指摘されている。

 また、300万円を超えると、急に一定額の返還が求められるため、借りた側からも負担が大きいとの声が出ていた。

 文科省は、マイナンバーを使い、被貸与者の年収を把握。一定の年収を上回った段階で返還が始まり、年収の増加に応じて返還額も増える制度を想定している。

 現在は被貸与者から毎年、納税証明書を郵送してもらい、年収を把握しているが、マイナンバーの活用で事務作業の軽減が図れるという。〔共同〕


2015年08月05日

奨学金返還を手助け 未来人材育成基金を開設

日本海新聞(2015年8月4日)

 鳥取県は3日、県内の特定職域に就職を目指す若者の奨学金返還を手助けする「県未来人材育成基金」を開設した。民間からの寄付金1割、県の出資9割の割合で創設し、規模は2億円。助成対象は、県内の製造業やIT企業、薬剤師の分野に就職する35歳以下の高専生、大学生ら。最大で奨学金返還額の半額を助成する。

 県と民間の出資による奨学金返還助成の基金の創設は全国初。IT企業など県内で人材確保が難しい職種を目指す人材に、無利子の奨学金は返還額の半額、有利子は4分の1を助成。年間150人の活用を見込む。

 同日、県庁で基金開設式があり、県情報産業協会と県薬剤師会、山陰合同銀行、鳥取銀行がそれぞれ、平井伸治知事に寄付金を手渡した。同基金の民間からの寄付目標は2千万円で、9月末までに目標額の達成を目指す。

 平井知事は「地方経済を上昇気流に乗せるには人材確保が不可欠。基金は県外から人材を獲得するツールになる」と話した。

 助成制度は、既卒者は本年度、新卒者は来年度から活用できる。開設式での意見交換では、出席者から県外の学生らに周知を図る必要性が指摘された。


2015年07月02日

給付型奨学金を来年募集 県外進学者を支援 県議会一般質問 

琉球新報WEBニュース(2015年7月1日)

 県議会6月定例会は1日午前、一般質問3日目の質疑が始まった。県外大学へ進学する県出身学生を対象に生活費などを支援する「給付型奨学金」について、翁長雄志知事は「来年から給付型も入れようと思う。現状に合わせてやっていきたい」と述べ、来年度から新たに導入する考えを示した。県教育庁教育支援課は2016年度に募集を開始し、17年度の大学入学者から支給できるよう調整を進めている。 米軍キャンプ瑞慶覧の西普天間住宅地区跡地で進む国際医療拠点構想で、沖縄自動車道の北中城インターチェンジ(IC)から西普天間に直結するアクセス道路を導入する提案に関し、謝花喜一郎企画部長は「想定していなかった絵だが、関係部局と意見を重ねる必要があると思う」と県の担当部局で議論する考えを示した。
 さらに、末吉幸満土木建築部長は「県道宜野湾北中城線と北中城ICを直結させることでアクセス向上が図れる。しかし、密集市街地を通り、普天間高校も通る。普天間地区のまちづくりを勘案しながら対応していきたい」と述べ、利点と課題を踏まえて検討する方針を説明した。以上、呉屋宏氏(無所属)への答弁。

2015年06月16日

地方大学生に奨学金、地元就職で返還が実質免除も 人口減少対策 斎藤剛史

産経ニュース(2015.6.15)

少子化や人口減少のなかで、地方の衰退が問題になっています。「地方創生」の一環として、政府が地方大学の活性化による地域振興を図ろうとしていることは、以前に当コーナーで紹介しました。その具体策の一つとして、地方大学に進学する学生や、地域活性化につながる特定分野の勉強を大学などでしようとしている学生に対して、地元企業などに就職した場合、返還の全部または一部が免除される奨学金が2016(平成28)年度から創設されることになりました。地元で進学して就職したいという学生にとっては、福音となりそうです。

少子化とともに地方の人口減少の大きな理由の一つが、大学進学や就職を契機とする若者の都市部への流出です。このため政府は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の中に、自県大学進学者の割合を平均36%、新規学卒者の県内就職の割合を平均80%にするという目標を定め、地元大学などに進学し、卒業後も地元企業に就職するという学生を増やすことにしました。この方策の一つが、国の地方創生予算による「奨学金を活用した大学生等の地方定着」事業(以下、地方創生枠奨学金)です。

具体的には、都道府県や市町村などの地方自治体が「基金設置団体」を設置し、企業や団体などの地元産業界と協議のうえ、地方経済の先導役となる産業や戦略的に振興する産業を定めます。さらに、地元の大学・短大・大学院・高専・専門学校へ進学する学生、または地元産業の振興に役立つ特定分野などを大学などで学ぼうとする学生に対して、地方創生枠奨学金を支給します。地方創生枠奨学金の最大の特徴は、大学等卒業後に地元企業などに就職した人には、奨学金返還の全部または一部を基金設置団体が支援するため、実質的に奨学金を返還しなくても済むことです。文部科学省の説明によると、地方創生枠奨学金は大学等への新規入学者だけでなく、2年生以上の大学等在学者でも利用できることになっています。

地方創生枠奨学金の支給対象者は、都道府県ごとに毎年度上限100人です。ただし、奨学金自体は独立行政法人・日本学生支援機構の第一種奨学金(無利子)を活用することになっているため、学校の成績や家庭の所得などが、第一種奨学金の資格基準をクリアしていることが条件となります。現在、第一種奨学金の貸与月額は大学の場合、一律3万円、または自宅通学生が国公立4万5,000円 ・私立5万4,000円、自宅外通学生が国公立5万1,000円・私立6万4,000円 です。地方創生枠奨学金の募集は来年3月から始まる予定ですが、詳細はこれから各都道府県などが設置する「基金設置団体」によって決められます。

大学などに進学したいけれど、経済的に余裕がなく、奨学金を借りても返還できる自信がないという人、さらに生まれ育った地元で進学して就職したいという人にとって、地方創生枠奨学金は大きな力になるかもしれません。都道府県や市町村など地元自治体の動きに注意しておいたほうがよいでしょう。


2014年11月27日

大学院生の奨学金借入、「500万円以上」が25%

朝日新聞(2014年11月26日)

 大学院生の4割以上が奨学金を借り、その4分の1近い利用者の借入金総額は500万円以上。院生による自治会などの連合体「全国大学院生協議会」が26日発表した調査で、そんな苦しい現状がわかった。利用者の75%が返済に不安を抱えているといい、奨学金が経済的支援ではなく、事実上の「借金」として重荷になっている。

 調査は今年6~8月、全国の国公私立大82校の千人を対象に実施した。

 奨学金の借入残高があるのは428人で、うち500万円以上が24・7%。1千万円以上も3%いた。最も多かった金額幅は「100万円以上200万円未満」で22・9%。返済に対する不安の有無では、「かなりある」が43・0%、「多少」が31・7%で、合わせて74・7%に上った。

 将来への懸念を複数回答で聞くと、「生活費・研究費の工面」が57・1%、「就職状況」が55・2%でいずれも半数を超えた。研究時間が十分確保できない理由(複数回答)については、「アルバイト」が25・5%で最も多かった。生活費や研究費をまかなうため、研究時間を削ってでもアルバイトせざるを得ない大学院生もいた。

 自由記述では、「1千万円の借金を背負って将来の見通しが立たない」「授業料納入が困難で休学措置をとった」など厳しい現状を訴える声が寄せられた。


2014年09月08日

奨学金、借りすぎご注意

読売新聞(2014年09月01日)

滞納957億円・「借金」認識を

 学費の負担増などで奨学金を借りる学生が増える一方で、卒業後に返済が滞るケースが問題化している。

 奨学金は多くが貸し付け型で、有利子のものもあるなど、あくまで「借金」だ。返済のリスクを把握し、必要以上の借り入れは避けたい。

■多くは貸し付け型

 高校、短大、大学などに進学したくても、親の収入や貯蓄だけでは学費を賄えない場合、多くは国や大学の奨学金、民間の教育ローンなどに頼ることになる。奨学金では、各大学が支給する返済不要の「給付型」もあるが、多くの学生は貸し付け型を利用している。

 公的な奨学金は、高校生には各都道府県が、短大生や大学生などには国の奨学金貸与事業を行う日本学生支援機構(旧日本育英会)が貸与している。無担保で借りられ、民間ローンに比べ利息も低めだ。このため、「経済的に厳しい家庭にとって借りやすい面がある」(同機構の谷江徹司奨学総務課長)という。

 同機構の奨学金には、無利子の「第1種」と、有利子の「第2種」がある。それぞれ選考があり、第1種の方が成績面や親の年収に関する基準が厳しい。貸与月額は第1種(私立大学の場合)で3万円、5万4000円、6万4000円。第2種(公立と私立とも)で3万、5万、8万、10万、12万円となっており、この中から選ぶ。このほか、入学時の一時金として貸す「入学時特別増額貸与奨学金」(最大50万円、有利子)もある。

 返済の際に上乗せされる利子は卒業月(貸与終了月)に決まり、今年3月卒業の場合、金利は年0・82%(固定方式の場合)だ。

■大学生2.6人に1人

 学費が上昇傾向にある一方、世帯収入は長期的に低迷していることなどから、奨学金を借りる学生の数は右肩上がりだ。2013年度の同機構の利用者(大学、短大、大学院、高等専門学校などの合計)は第1種で約43万人、第2種で約91万人。大学生に限ると、2・6人に1人が借りている計算だ。

 一方、卒業しても就職先が見つからないなどの理由で、返済を滞納する人が後を絶たない。今年3月末時点の滞納者は約1割にあたる約33万人、滞納額は957億円に上っている。

 仮に第2種奨学金を月5万円、4年間借りると総額は240万円。本人は卒業と同時に、これを負債として抱えることになる。年利を0・82%とし、平均的な15年返済で試算すると、毎月約1万4200円を180回払っていかねばならない。決して軽くない負担だ。

 奨学金アドバイザーの久米忠史さんは「他の借り入れに比べ金利などの条件が良いだけで、奨学金も借金に変わりはない。返済に十分留意して借りる必要がある」と話す。

 もし返済が滞ればどうなるか。3か月以上滞納が続いた場合、個人信用情報機関に登録され、クレジットカードの利用が制限されたり、住宅ローンが組めなくなったりする恐れもある。同機構の谷江さんは「借りる前に本当に必要な額かどうか、将来設計も見据えながらきちんと考えて」と話す。

■減額・猶予も

 同機構で奨学金を借り、今春に大学などを卒業(貸与終了)した人の多くは、10月から返済が始まる。「定職に就けなかった」「低収入で生活が苦しい」といった人には、返済の減額・猶予の制度がある。基準年収が目安(給与所得者で300万円)を下回るなど一定の条件を満たすことが必要だ。

 減額は、例えば月1万円の返済が難しくても5000円なら払えるという場合、月の返済額を半分にして期間を延長する。猶予は、返済期限を最長で通算10年先延ばしする。ただし、いずれも返済総額は変わらない。(武田泰介)

大学独自の制度も 早慶、首都圏以外の学生向け

 多くの大学は、独自の奨学金制度を持っている。

 例えば、早稲田大学は学内奨学金が約100種類ある。その中の一つ、2009年に新設した「めざせ!都の西北奨学金」は、首都圏以外の高校出身者が入学前に申し込む「給付型」の奨学金だ。年40万円、4年で総額160万円を支給し、卒業後も返済不要だ。高校の成績や父母の収入などを基に選考し、来春入学者は約1200人の枠を予定。10~11月と1月の2回にわたって申請を受け付ける。

 早大同様、各大学は返済不要の給付型をはじめ、様々な奨学金を用意している。学生支援機構のサイトでは、こうした大学独自の奨学金をまとめて紹介するページを設けている。全国の国公私立大・短大合わせて約650校の制度が一覧表になっており、それぞれ貸与額や条件、募集人数などが確認できる。

 ファイナンシャルプランナーの藤川太さんは「あまり知られていないが、受験生や父母にとっては貴重な情報。活用しない手はない」と話す。志望する大学に経済面のサポートがどれだけあるか、受験前に調べておくのに役立ちそうだ。


2014年08月31日

社説[無利子奨学金拡大]給付型導入につなげよ

沖縄タイムス(2014年8月29日)

 家庭の教育費負担の軽減を図るため、大学生や専門学校生への奨学金の無利子枠が拡大される。文部科学省が、来年度概算要求に必要経費を盛り込む。

 かつて日本育英会と呼ばれていた日本学生支援機構が、大学生らに貸与している奨学金の無利子枠が3万人分増え47万1千人になる。有利子枠は1万8千人減らし93万9千人。トータルでは141万人が利用できる。

 内訳は有利子が66・6%、無利子が33・4%。文科省は「有利子から無利子へ」の流れを加速させたいとする。

 日本では、これら貸与型の奨学金が主流である。先輩からの返還金を後輩の奨学金に充て、将来にわたって多くの学生を支援していく仕組みを取っているからだ。

 貸与型とは別に返済義務のない奨学金が給付型である。

 子供の貧困問題が深刻化する中、世代を超えて貧困が連鎖するのを断ち切ろうと政府が作る「子供の貧困対策大綱」の当初案には、大学や専門学校で給付型奨学金の創設を目指すとの文言が盛り込まれていた。最終的には、財源のめどが立たないとして給付型には踏み込んでいない。

 文科省も給付型奨学金の導入を、財務省の抵抗で断念している。

 奨学金は、今や大学生の2人に1人が利用する、なくてはならない制度である。進学を後押しするものとして定着する一方、就職難や非正規雇用といった卒業後の収入の問題から、返済に苦しむ人も増えている。

    ■    ■

 日本の貸与型奨学金は、大学を卒業すると正社員になって、賃金は年々アップし、簡単には解雇されないという雇用システムを前提に成り立っている。

 学生たちも借りる時は、就職したらすぐに返せると思ったに違いない。

 文科省が今月公表した学校基本調査によると、この春大学を卒業した学生の就職率は69・8%(非正規雇用含む)。非正規にアルバイト、進学も就職もしていない人を合計した「安定的な雇用に就いていない人」の割合は18・6%だった。

 借りたものを返すのは当たり前で、自己責任という声もある。だが社会人になった途端の三桁の「ローン」は、若い世代には重い。まして収入が不安定で低ければ生活すら維持できない。返せないうちに延滞金が膨らめば、それこそ人生を左右する。

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 安いと思われている国立大学でも、年間の授業料は約54万円、入学料の約28万円を足すと、初年度は80万円余りが必要になる。学費が高いため借りざるを得ない状況があることにも目を向けてほしい。

 経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、日本は教育への公的支出が低いと言われ何年もたつ。特に「幼稚園と大学で私費負担の割合が高い」と指摘されている。

 意欲と能力にあふれる若者が返済の不安から、利用をためらうようになったのでは奨学金の意味がない。 

 無利子枠の拡充から、さらに一歩踏み込んで給付型の導入に結びつけるべきだ。


2014年08月12日

奨学金訴訟、100倍に 8年で急増 借り手困窮/機構、回収強化

朝日新聞(2014年8月10日)

 奨学金を返さないとして、訴えられる人が急増している。貸した側の日本学生支援機構(旧日本育英会)が2012年度に起こした訴訟は6193件で、8年前の100倍を超えた。借り手の貧困に加え、機構側の回収の強化が背景にある。国も、返済制度の改善に乗り出した。

 「どうしていいかわからず、怖かった」。札幌市の20代女性は2月、機構から訴えられた。大学時代に借りた奨学金約240万円のうち、未返済の約170万円を求められた。

 2007年の卒業後に就職し、返済を始めた。出産のために休職したが、子どもを預ける場所が見つからずに復職を断念。さらに夫の勤める会社が倒産した。11年9月、困窮を理由に返済猶予を機構に申請。認められたが、その後、毎年必要な猶予の更新手続きをしなかったとして、翌年10月から延滞扱いにされていた。

 「100万円か150万円を一括で払わないと、訴訟です」「あなたの話は聞けません。今のままなら(訴訟に)負けますよ」

 女性は提訴される直前、機構側に、そう言われた。

 だが、弁護士に相談して機構に返済猶予を改めて申請すると、困窮状態にあると認められて提訴はあっさり取り下げられ、延滞金も不要となった。女性は「自分だけでは動けなかった。支払いが猶予されなかったら、生活がどうなっていたか……」と振り返る。

 猶予の申請時、更新手続きの説明を受けたかははっきり覚えていないが、「訴訟前に改めて教えてくれれば、弁護士に相談せずにすんだのに」と思う。

 昨春提訴された名古屋市の50代男性は、20代のおいが奨学金約190万円を借りた際に保証人となった。おいが返していない約170万円を求められた。

 おいは発達障害で会話が不自由。卒業後に就職したが、まもなくうつになって仕事を辞めた。返済猶予の対象となる生活保護受給者だが、病気などのせいで、自分では猶予を申請できなかった。男性は司法書士の助言で提訴後に返済猶予を申請し、認められた。

 この問題に取り組む池田賢太弁護士(札幌弁護士会)は2人の例とは別に、「猶予が認められるはずなのに、提訴されて返済続行の和解案を受け入れてしまう『泣き寝入り』事例がある」と指摘。返済を続けても延滞金に充てられて元金が減らない例や、自己破産する例もあると話す。

 ■延滞33万人 機構「猶予制度を周知」

 日本学生支援機構は、約131万人に、計1兆815億円の奨学金を貸し付けている(2012年度)。無利子で月5万4千円を借りると、4年間で計約260万円。15年の完済計画ならば、毎月の返済額は約1万4千円になる。有利子の年利は7月現在で0・79%(利率固定方式)だ。

 ただ、就職難などを背景に延滞額は年々増加。12年度末時点の延滞は33万人で計925億円に上る。3カ月以上の延滞者を抽出して調べた結果、8割が年収300万円未満だった。

 機構は、09年の民主党政権による事業仕分けなどで、債権回収の甘さを指摘された。このため、債権回収会社に業務を委託し、回収を強化した。まずは延滞者に電話で催促。3カ月以上の延滞者の情報は、加盟している個人信用情報機関「全国銀行個人信用情報センター」に提供する。クレジットカードやローンの利用が制限される恐れがあるが、返済終了から5年後に削除される。12年度末までに2万件以上を登録した。

 9カ月以上の延滞者には事前通告の上、裁判所を通じて支払いを求める督促状を送付。異議申し立てがあれば提訴する。機構の担当者は「今後も猶予制度の一層の周知に努めたい」と話す。奨学金問題対策全国会議共同代表の大内裕和・中京大学教授(教育社会学)は「返済猶予や減額制度をわかりやすく説明し、提訴は本当に必要な相手に限るべきだ」と指摘する。(佐藤恵子)

 ■年収連動の返済制度 文科省、18年度返済開始から

 文部科学省の検討会は先月、年収額に応じて返済月額が変わる「所得連動返還型奨学金」の導入を提言した。現在も年収300万円以下なら返済を先延ばしできるが、さらに幅広く、経済力に応じて、月々の返済額が減らせるように弾力化する。担当者は「所得に合わせた返済制度は世界的な流れ。これまでがおかしかった」と説明する。

 2016年に国民全員に番号を割り振る共通番号(マイナンバー)制度の運用が始まると、行政側は納税の状況や会社が提供する従業員の給料などが把握できる。文科省はこれを利用し、18年度に返済を始める人から対象にする考えだ。また、現在は全体の3割に満たない無利子型を増やし、返す必要がない「給付型」の創設も議論する。(高浜行人)

 ■奨学金返済に関する現行の救済制度

 <返済の猶予> 年収300万円以下(自営業などは所得200万円以下)を目安に最長10年を猶予。災害や傷病、生活保護受給などの場合、猶予期限はなし。産休や育休中も猶予される。毎年の更新手続きが必要。

 <返済月額の減額> 経済困窮や災害、傷病などの場合、一定期間は毎月の返済額を半額に。毎年の更新手続きで最長10年。このほか、死亡や心身の障害によって返済できなくなった場合、状況に応じて全額または一部を免除。


2014年07月29日

返済不要の奨学金「創設検討を」 文科省有識者会議が提言

日経新聞(2014/7/28)

 大学生向けの奨学金制度のあり方を議論してきた文部科学省の有識者会議(主査・小林雅之東京大教授)は28日、国としては導入していない返済不要の「給付型奨学金」について、「将来的には創設に向けての検討も進めていくべきだ」とする提言をまとめた。

 国の現行の奨学金は全て大学卒業後に返済する「貸与型」で、給付型を設けていないのは先進国では異例。経済的に困窮する世帯の子供の大学進学率が比較的低いことから、提言は「家庭の経済的状況が進路選択に大きな影響を与えている」と給付型の必要性を訴えた。

 最大の課題は財源で、試算では対象者を成績優秀で経済的に厳しい学生(約6万3千人)に限った場合で年380億円かかる。主査の小林教授は「将来的には生活保護の受給世帯減少や労働力向上などの効果が見込める。課題は多いが議論を進めるべきだ」と話した。

 一方、貸与型の奨学金を卒業後に返済できない人が約33万人いる問題を受け、より返済しやすいよう卒業後の年収に応じて毎月の返済額が変わる制度の新設も提言した。同省は2018年度からの導入を目指し、システム改修費などを15年度予算の概算要求に盛り込む。


2014年07月28日

大学生・奨学金、「返済を所得に連動」導入 18年度以降

毎日新聞(2014年07月25日)

 ◇16年開始予定の「マイナンバー制度」活用

 文部科学省は、大学生向けの奨学金制度について、卒業後の年収に応じ返還月額を変える「所得連動返還型」を新たに導入する方針を決めた。豪州など海外では導入されているが日本では初。景気や雇用状況を踏まえて柔軟に対応できるのが特徴で、2016年開始予定の「マイナンバー制度」を活用し、所得状況を把握しながら運用する計画。来年度予算の概算要求で実態調査費や導入へ向けたシステム改修費を盛り込み、18年度からの導入を目指す。

 国の奨学金事業は独立行政法人「日本学生支援機構」が担っている。同機構によると、貸与型奨学金の利用学生は今年度、無利子、有利子合わせ約140万人。貸与額は月12万?3万円で年間平均額は約80万円。卒業後20年以内で完済する。

 無利子で4年間計約260万円を借りて15年間で完済する場合、返済月額は約1万5000円。現行では、年収300万円以下だと返還猶予制度があるが、300万円超だと、返還月額は固定されたまま。返還できないと年5%の延滞金がかかる。不況の影響などで返還できない人も多く、延滞額は925億円(12年度末)に上る。

 所得連動型は、年収が減れば返還月額が減る仕組みで負担軽減になる。さらに少額でも返済につなげて未返還金を減らす狙いもある。

 導入には各人の所得情報が必要になるためマイナンバー制度を活用する。国民全員に社会保障と税の共通番号を割り当てる同制度は16年から運用開始予定。これを踏まえ、新奨学金の導入は18年度を目指す。

 来年度は、返還を求める年収の下限額や年収に対応した各返還月額を検討・設定するために、奨学金利用者の実態を調査する。【三木陽介】


2014年07月12日

給付型奨学金の創設目指す 「子供の貧困」大綱案

共同通信(2014/07/11)

 経済的事情などで満足な教育や生活支援を受けられない子供のために、政府が必要な施策をまとめた「子供の貧困対策」の大綱案が11日、明らかになった。大学や専門学校で学ぶ場合に、給付型の奨学金創設を目指すと明記。学校をプラットホーム(拠点)と位置付け、福祉との連携や親の就労支援も盛り込んだ。今月下旬に閣議決定する。

 子供の貧困をめぐっては、進学や就職を諦め、大人になってからも深刻な影響が続くとの問題点が指摘されている。

 大綱案は「生まれ育った環境に左右されず、世代を超えて貧困が連鎖しないよう」に対策の必要性を強調している。


2014年06月16日

奨学金返済問題でホットライン開設 きょう全国一斉

東京新聞(2014年6月15日)

 低収入で奨学金の返済に苦しむ人のため、弁護士らでつくる奨学金問題対策全国会議は十五日、全国一斉の電話相談ホットラインを開設する。学費高騰に加え、卒業後も非正規労働者となるなどで奨学金を返せない人が急増している。全国会議は「相談者の救済を図りながら制度改善に向けて活動したい」としている。
 全国会議によると、大学生の二人に一人は何らかの奨学金を利用し、三人に一人は日本学生支援機構の奨学金を利用。しかし、支援機構の返済延滞者は二〇一二年度末で約三十三万四千人、延滞額も約九百二十五億円に上った。これに伴い利用者が返済を迫られて裁判で訴えられたり、重い延滞金が課せられるなど社会問題となっている。
 ホットラインに寄せられた相談には弁護士、司法書士、支援団体職員らが対応する。電話番号はナビダイヤル(0570)000551。受付時間は十五日午前十時から午後五時まで。

2014年05月22日

学生支援機構、奨学金返済の訴え取り下げ 札幌の女性、猶予手続き

北海道新聞(2014/05/21 06:00)

 日本学生支援機構(旧日本育英会、横浜市)は、奨学金の返済が滞った札幌市の20代女性に返済を求め、札幌地裁に訴訟を起こしたが、20日の口頭弁論で訴えを取り下げた。女性が訴訟を機に、経済的困窮を理由とした返済猶予制度の手続きを行い、認められたため。女性は代理人を通じて「(訴える前に)機構は、滞納の理由を聞いたり、返済方法の話し合いに応じたりしてほしかった」とコメントした。

 訴状などによると、機構は2003年7月から07年3月にかけ、この女性に月額5万3千円を貸与した。女性は07年10月に返済を開始したが、12年10月から滞納したため、機構は返済期限がきていない分も含めた貸与残額約170万円を一括返済するよう、札幌簡裁に督促を申し立てた。今年2月に通常の訴訟に移行した。

 女性の代理人である北海道奨学金問題対策弁護団によると、機構には奨学生が災害や傷病で経済的に困窮した場合などに、過去にさかのぼって返済を猶予する規定がある。この女性は一度、出産退職などによる経済困難を理由に返済を猶予された後、その更新手続きをしなかったところ、機構から返済の確認などがないまま訴えられた。その後、女性があらためて返済猶予を申請したところ、12年10月から今年9月までの貸与額の返済猶予が認められたという。


2014年05月16日

破産免責でも構わず延滞金つけて猛烈回収する日本学生支援機構、内部記録に不実記載の疑い

My News Japan

破産免責でも構わず延滞金つけて猛烈回収する日本学生支援機構、内部記録に不実記載の疑い

三宅勝久(05/15 2014)

 官製学生ローン「日本学生支援機構」による非道な回収がまた発覚した。多重債務に陥り自己破産・免責決定を受けた北海道の女性に対し、多額の延滞金をつけて「一括で払え」と裁判を起こしてきた。女性は「奨学金」を借りているとは知らず、破産の債権者リストにも載せていなかった。後に知ったところでは、自分が高校生のときに、子(自分)の名義で親が借りており、途中で返済に行き詰まっていた。民法の規定によれば、こういう場合、通常は免責になる。しかし学生支援機構は裁判の中で「意図的に債権者届けをしなかった。免責にならない」と頑強に主張。はたして判決は、女性の全面勝訴となった。そして機構が証拠提出した内部記録に、事実無根の記載がされている疑いが濃厚となった。カネの亡者と化した日本学生支援機構の手口をお知らせする。(判決文はPDFダウンロード可)

【Digest】
◇雪の日にやってきた債権回収会社
◇延滞金にこだわる日本学生支援機構
◇自力ではじめた裁判
◇手書きの準備書面
◇破産法253条1項
◇奨学金業務システムに疑問
◇自力で裁判やって全面勝訴の快挙
◇雪の日にやってきた債権回収会社

 北海道在住の女性Aさん(30歳代)の自宅に突然見知らぬ男が訪ねてきたのは2010年2月、雪の降る寒い日のことだった。コートを羽織った男は債権回収会社の社員だった。

 A子さんが高校在学中に借りた日本育英会(日本学生支援機構)の「奨学金」が返済できていない。延滞金と併せて払ってほしい――男はそういう趣旨のことを言った。

 元金26万円に延滞金10数万円。併せて40万円近くの借金があるという。寝耳に水の話だったので、A子さんは正直に言った。

 「奨学金のことは知りませんでした」

 親に確かめて事情が判明した。15年前、A子さんが高校に入学したとき、子どもの名義を使って、親が「奨学金」を借りていた。通学の交通費にあてるためである。借りた金額は3年間で48万円。返済は月々4000円あまりを9年かけて返す計画で、これも親がやるつもりだった。だが4年ほど払った後、2004年9月以降、払えなくなってしまった。後述するとおり、家庭内の問題や多額の借金に追われるうちに「奨学金」どころではなくなり、すっかり忘れられていた。

 その払い残しが、時間を置いて延滞金とともにA子さんに回ってきたのだ。

 債権回収会社の男に対してA子さんは、「知らなかった」という事実とともに、こうも伝えた。

 「2007年に自己破産しているんです」

 自己破産――A子さんにとっては辛い過去だった。父母は幼いときに離婚し、母親に引き取られた。やがて再婚したが、養父となった男はギャンブルにのめり込み、多額の借金をつくって家族を不安に陥れた。母親とともに、A子さんは借金の肩代わりをさせられた。

 高校を卒業すると母親は離婚し、A子さんも養父と離縁した。肩代わりした借金は、消費者金融などに500万円以上。A子さんは働き始めた..


2014年04月15日

「奨学金」返還緩和策に重大な欠陥発覚 機関保証団体「日本国際教育支援協会」通じて300万円+延滞金10%一括請求の野蛮

My News Japan(04/12 2014)

 「奨学金」とは名ばかりで実態は悪質な学生ローンではないか――高まる批判を受け、独立行政法人日本学生支援機構は4月1日から新たな「返還緩和策」を採用した。①返還猶予制度の延長(5年→10年)、②延滞金利率の引き下げ(10%→5%)などである。ところがその一方で、返還猶予が受けられるはずの債権を、「日本国際教育支援協会」(井上正幸理事長)という機関保証を担う団体に移し、同協会を通じて数百万円の一括請求といった過酷な取り立てがなされていることがわかった。別団体なのだから支援機構の返還緩和策など関係ない、耳をそろえて返せ――そういわんばかりの乱暴な手口だ。大学卒業後2年足らずで支援協会から300万円以上の一括請求を受けて途方に暮れるTさん(24歳・無職)の例を報告する。
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【Digest】
◇「奨学金」は「学生ローン」と文科相
◇日本国際教育支援協会
◇困窮状態のところに「300万円一括で払え」
◇「機関保証」の落とし穴
◇同居していた支援機構と支援協会
◇分割案も「2回滞納で一括請求」の重大リスク
◇「奨学金」は「学生ローン」と文科相

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 3月19日の衆議院文部科学委員会でのことだった。日本学生支援機構による過酷な回収を問題視する宮本岳志・衆議院議員(共産)と下村博文・文部科学大臣の間で次のようなやりとりが交わされた。

 宮本岳志・衆議院議員 ……現状の(日本学生支援)機構の奨学金制度にはまだまだ改善すべき問題点が存在する、こういう問題意識は共有していただいているというふうに考えてよろしいですね。
 下村博文・文部科学大臣 これは宮本委員もおっしゃったように、奨学金とは名ばかりの学生ローンだと私は思います。ぜひ本来の奨学金制度にできるだけ早く充実、移管をしていく必要があるというふうに認識しております。

 「奨学金とは名ばかりの学生ローンだと私は思います」――教育の機会均等を確保するための制度だといいながら、訴訟を乱発して高額の延滞金をむしり取る。日本学生支援機構が抱える矛盾は、とうとう文部科学大臣をして「学生ローン」だと答弁させるところまできた。そして4月1日、ようやくあらたな返還緩和策が導入された。緩和策の柱は2つ。
 
①年収300万円以下の利用者を支払猶予の対象とし、期間を従来の最大5年から10年に延長する。
②延滞金を従来の年利10%から同5%に引き下げる(ただし過去に発生した延滞金は10%のまま)。

 延滞金・利息を廃止し、返還猶予は無期限に適用すべきだと考える筆者にとっては不十分だが、それでも一歩前進だ。特に①の「支払い猶予」の改善は効果が期待できる。有効に使えば多くの人が当面の苦境を脱出できるはずだ。返還猶予の間は延滞金や利息がつかない。債権管理回収会社(サービサー)の取り立てに悩むこともなければ裁判を起こされる心配もない。 

 文部科学省の吉田大輔・高等教育局長の答弁によれば、役所の年収証明があれば過去にさかのぼって返還猶予を適用(遡及適用)することもできるという。この答弁どおりに現場が対応するのであれば、支払いが滞ったことで延滞金や利息を加算されている場合でも、返還猶予の遡及適用によってその額が減ることになる。また、収入が乏しいにもかかわらず繰り上げ一括請求されている場合でも、過去にさかのぼって返還猶予を適用することで本来の分割返還に戻るはずだ。

 もっとも、実際そのようにうまくいくかどうかはまだわからない。返還緩和策が有効に機能するのか注視していく必要があるだろう。

 それでも、少なくとも当分は裁判を乱発するようなことはなくなるのではないか。筆者はやや楽観的となった。

◇日本国際教育支援協会

 ところがすぐに、こうした観測が甘かったことに気がついた。支払い猶予の延長も延滞金利率の低減も関係なく、300万円もの金を一括で請求された例を耳にしたのだ。被害者は都内在住のTさん(24歳)である。支払猶予制度が延長されたのに、なぜそんな乱暴なことができるのか。疑問を抱きながらTさんの話を聞くうち、一つの団体の名前が浮かんできた。

 「日本国際学生支援協会」という公益財団法人である。300万円の一括請求をしてきたのは「日本学生支援機」ではなく、この財団法人だった。機関保証を担う団体である。機関保証については後述するとして、まずTさんが「奨学金」を借りる経緯から、順を追って説明したい。

 Tさんは関東の出身で、京都の同志社大学に進学した。文学部で哲学を学び2011年に卒業した。現在求職中である。

 下宿して大学に通うためには、授業料と生活費で少なくとも年間100万円は必要だった。入学金と授業料など大学に払う費用だけで4年間で400万円近くに達した。親からの仕送りはほとんどなかっため、日本学生支援機構から教育資金を借りた。月額6万5000円、4年間で約300万円だ。成績優秀者に割り当てられる無利子の1種だった。

 このほかに大学の授業料免除も受けた。67万2000円の授業料が半額になった。本来なら計3年分受けられたはずなのだが、結局1年分だけで終わった。成績は達していたのに予算削減で採用にならなかったのだ。資産運用の失敗で20億円以上を損失したことが原因らしいと聞いて憤りを覚えた。

 月額6万5000円の「奨学金」だけでは当然不足である。足らない資金を補うため、早朝の時間を使ってセブンイレブンでアルバイトをした。オーナーはひどいパワハラをする男だった。気にいらないことがあると容赦なく罵声を浴びせた。胸倉をつかみ、タバコの煙を吐きかけた。苦痛だったが、授業と両立できるような仕事はほかになかった。

 就職活動の季節がやってきた。厳しかった。...……


2013年10月11日

狂った日本の奨学金制度、大学卒業のために「720万円の借金(利子付き)」を背負うのは自己責任?

BLOGOS(2013年10月10日)

奨学金問題、最近話題になっていますね。当事者である大学2年生のTさんを取材させていただくことができました。

卒業時に720万円の借金

Tさんは現在大学2年生。都内の大学に通っています。奨学金を利用して、毎月12万円の支援を受けています。諸事情で大学に5年間通うことになったので、12万円×12ヶ月×5年で、計720万円の「支援」を受けることのなっています。彼が利用しているのは無利子の奨学金ではないため、この額に利子が加算されることになります。

卒業時に720万円の借金を背負わせるって、クレイジーすぎやしないでしょうか。しかも利子付き。ぼくは幸い親に学費を出してもらいましたが、自分がそういう状況にあると考えると、リアルにゾッとします。

今は社会人5年目ですが、まだ返済終わってないでしょうね…。毎月5万円返しても144ヶ月、つまり12年ですから(実際には利子があるので、これ以上の期間になります)。

毎月12万円というと結構な額に聞こえますが、このくらいの額は、学費と生活費ですぐに消えてしまいます。特に苦しいのは、勉強のために本を買ったり、イベントに参加するお金まで制限されてしまうことだ、と漏らします。

「本当は都内のイベントとかに参加したいんですけど、郊外に住んでいるのもあって、交通費とか厳しいんですよ。食費も削りながらギリギリで生活しています」

就職に関しても不安があると語ります。話にある通り、奨学金に苦しむ人は、ブラック企業に搾取されやすいのかもしれませんね…。

「ぼくが通っている大学は偏差値がそれほど高くないので、大企業に入ることも難しそうです。会社を選ばなければ就職はできると思いますが、借金があるので、それこそブラック企業でも我慢して働くことになってしまうかもしれません…。将来は途上国関連の仕事をしたいのですが、借金を返すために、選択肢が狭まることが怖いですね」

増えつづける借金を考えると、大学を辞めるという選択肢も浮かび上がってきます。

「今、大学を辞めれば借金は200万円以上少なくて済むんです。就職も不安ですし、自分で稼ぐ力を付けて、いっそ大学を辞めてしまうのが合理的なのかもしれない、と思い始めてきました。もちろんせっかく入った大学なので、卒業したいという思いは強いのですが…。」

話の中で、彼が「こんなんじゃ少子化は解決できないですよね」と漏らしていたのが、まさに、という感じで印象的です。確かに、借金が720万円ある状態では、結婚をする、子育てをするという発想にはなりにくいでしょう。

「奨学金が返せない」のは自己責任なのか?

早速ツイッターでは、「いくらの借金ができるかなどを加味して奨学金は受けるものではないのでしょうか?それをせずに借りたのなら借りた側の責任だと思います」といった主旨のリプライも届いています。

これ、どうなんでしょうね。少なくともTさんの場合は、そもそも「借金をしなければ大学に進学できない」という経済状況のようでした。となると、「いくらの借金ができるかなどを加味して奨学金は受けるものではないのでしょうか?」という論理が正しいとしたら、Tさんは大学進学をそもそも諦めざるをえない、という結論になりかねません。

生まれ落ちた家庭の経済環境は選べませんから、人によっては、自己責任ではないのに、教育の道が断たれることになってしまいます。ぼくはたまたま家庭がそれなりに裕福だったから大学に行けましたが、場合によっては行けなかった、ということです。そういう社会は嫌ですけどねぇ。機会の平等というやつです。

また、「返せると思って借りたけれど、雇用情勢が悪くて返すのが難しくなった」というケースもあるでしょう。「就職できないお前が悪い!」と自己責任を押しつける向きもあるのでしょうけれど、それは流石に酷だと思います。景気が悪いことまで自己責任にするのは無茶な論理です。

NHKの報道によれば現在奨学金の返済を滞納しているのは33万人に上るそうです。長期的には、MOOCのような教育コストを下げるテクノロジーが解決策になるのでしょうけれど、今まさに困っている人に関しては、どのような解決策がありえるのか…話を聞いていて暗鬱な気分になりました。studygiftとかlumniのような、コミュニティ型の支援サービスがうまく補完できればいいですが、これもお金が集まる人とそうでない人の差が出るでしょうしねぇ…。

奨学金問題、引きつづき取材をしていきたいと思います。関連サイト、記事も挙げておきます。

2013年07月23日

全大教第45回定期大会特別決議、「高等教育漸進的無償化条項の具体化と奨学金の給付制への移行と充実を」

全大教
 ∟●全大教第45回定期大会特別決議

全大教第45回定期大会特別決議
高等教育漸進的無償化条項の具体化と、奨学金の給付制への移行と充実を

 子どもの貧困率は 15.7%(20 歳未満;2009 年)、ひとり親世帯等の貧困率は 50.8%(同年)であり、こうした状況からおこる貧困の連鎖を断ち切ることが、社会にとっての大きな課題です。子どもの貧困対策法が 6 月 19 日、国会で成立しました。同法では、学習機会に関する指標を毎年調査・公表し、教育および教育費に関する支援を行なっていくという基本的施策が盛り込まれています。
 日本の、教育費の公財政支出の対 GDP 割合は OECD 加盟国のなかで、最低レベルの 3.6%です(2010 年)。2010 年からようやく始まった高校授業料実質無償化は、政権交代によって所得制限の導入の議論が蒸し返されている状況です。
 高等教育についての無償化の議論は立ち遅れていましたが、2012年 9 月、政府はようやく国際人権規約 A 規約 13 条(b)(c)項の留保撤回を表明し、国連に通告をしました。私たちの長年の要望が実現した、非常に大きな前進です。今後は、この条項の実質化の実現が必要です。
 そもそも、国民が高等教育を含む教育を受ける権利を等しく有しているのは、教育が公共的な営みであり、国民に広く教育を行き渡らせることが公益にかなうものであるという考えに基づいています。しかるに近年、新自由主義の高まりとともに、高等教育の受益者負担論が広がり、学習者の利益追求が教育の目的であるかの如き言説と、それにもとづく施策が展開されてきています。こうした考え、施策は、社会の構成員の相互扶助の観念の衰退、社会秩序の崩壊を招きかねないものです。教育をあくまで公的なものとして位置づけた上で、それにふさわしい規模の公財政支出と、公正な配分がなされなければなりません。
 現在、学生数の 7割が学ぶ私立大学や、公立大学を含むすべての大学において無償化が実現していくための施策を求めます。その中にあって、国立大学の授業料は、「私立大学と比較して低い」ことを理由に、長年にわたって引き上げられてきました。現在は、現行の授業料学を前提とした運営費交付金の措置の下、授業料を低く設定することは困難な状況です。高等教育の漸進的無償化の考えに立ち、授業料不徴収が可能となるよう、運営費交付金の引き上げを国に求めます。
 大学・高等教育機関で学ぶ学生は、18歳超の年齢に達しています。社会の中で自立して生活をしていく年齢期を学習に充てることによって、そこでのさらなる学習成果が社会に還元されるべく努力をしています。その意味で、授業料の不徴収とはべつに、奨学金の充実が欠かせない課題です。公的奨学金に給付制が導入されず、また「教育ローン」ともいうべき有利子の奨学金の比率が増え続けているのが現状です。学ぶ意志をもったすべての国民が教育を受けることができるよう、公的奨学金のすべてを給付制とすることを求めます。

 私たちは、大学・高等教育機関が、公的な責務をもつ社会の中で重要な機関であることをあらためて認識し、そこで学び卒業する若者とすべての国民が、その成果を社会に還元していけるよう、日々の大学運営、教育・研究活動を行なっていきます。

以上、決議します。

2013 年 7月 14日
全国大学高専教職員組合第 45回定期大会

2013年07月18日

日弁連、奨学金制度の充実を求める意見書

日弁連
 ∟●奨学金制度の充実を求める意見書

奨学金制度の充実を求める意見書

2013年(平成25年)6月20日
日本弁護士連合会

第1 意見の趣旨
 当連合会は,子どものおかれた経済状況にかかわらず,全ての子どもに等しく教育を受ける権利を保障するため,高等教育の無償化を求めつつ,国及び独立行政法人日本学生支援機構に対し,奨学金制度の充実を求めるべく,以下のとおり意見を述べる。
1 国は,高等教育に対する給付型奨学金制度を速やかに導入し,かつ拡充すべきである。
2 国は,全ての貸与型奨学金につき,利息及び延滞金の付加をやめるべきである。
3 国は,全ての貸与型奨学金につき,個人保証の徴求をやめるべきである。
4 国は,返還期限の猶予,返還免除等,返済困難な者に対する救済制度の拡充を図るべきである。
5 独立行政法人日本学生支援機構は,返済困難な者を救済するために返還期限の猶予,返還免除等各種制度の柔軟な運用をすべきである。

第2 意見の理由
1 奨学金返済の問題
 近時,大学の学費高騰と雇用環境の悪化による家計収入の低下により,奨学金制度利用者は年々増加している。
 現在,大学学部生(昼間)の約50%が何らかの奨学金制度を利用しており,約3人に1人が独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)の奨学金を利用しているが,奨学金制度利用者が増加する一方で,返済金の延滞者の増加も問題となっている。
 機構のデータによると,機構の貸与型奨学金の2011年度末での延滞額は876億円,延滞者数は33万人にのぼり,3か月以上延滞している者のうち,46%は非正規労働者ないし職のない者であり,年収300万円未満の者が83.4%にものぼっている。他方,機構は,増加する延滞者に対し,支払督促申立ての増加,債権回収業者への回収業務委託,信用情報機関への延滞者の登2 録など,返済金の回収強化を図っている。
 学費の高騰に伴う借入額の増加と雇用環境の悪化等により奨学金を返したくても返せない人たちが増加している一方で,機構による返済金回収強化策が進められている結果,自分の力ではどうすることもできず奨学金返済に苦しむ人が増加している。
 当連合会が本年2月に実施した,「全国一斉奨学金返済問題ホットライン」でも,非正規雇用のため収入が減って奨学金の返済が苦しい,延滞金が高すぎるため返済が困難である,就職が決まらず返済できそうにない,就職は決まったが将来返済できるか不安である,といった相談が寄せられた。
 また,機構からの奨学金の借入れには,親族の個人保証または機関保証が必要であるところ,個人保証の場合には,連帯保証人である親などが返済を負担せざるを得ないことも多く,高齢になった親が限られた年金から奨学金を返済していることもある。主債務者が支払不能の状態にあっても,保証人への影響を考えて債務整理を躊躇する者もあり,必要な救済を拒む要因ともなっている。
 奨学金は本来,若者の人生の可能性を広げるためのものであるが,現在の奨学金返済を巡る問題は,逆に若者の人生にハンディを負わせる結果となっており,さらに,これから奨学金を借りようとする学生にとっても,上記のような問題を目の当たりにして,自分も返せないかもしれないという将来に対する不安となり,奨学金制度を利用することを躊躇し,進学自体を諦める事態をも招いている。

2 奨学金制度の理念
 生まれ育った環境にかかわらず,子どもが成長し,発達する権利を実現するには,子どもの成長・発達は社会全体で支えるべきである。子どもの教育にかかる費用を家庭,個人の負担としてしまうと,親の経済力という子ども自身の意思や能力と関係のない要素によって子どもの教育機会が左右される不条理な結果を生む。
 子どもの教育にかかる費用は,子どもの教育を受ける権利(憲法第26条),親の経済力により教育機会を差別されない平等原則(憲法第14条),教育への権利(子どもの権利条約第28条)の観点から,個人ではなく社会全体で負担するという理念に基づき,諸制度を構築する必要がある。
 また,子どもの教育には,社会の担い手を育てるという意義もあり,子どもの教育にかかる費用は,社会を維持発展させるための必要な費用という点からも社会全体が負担すべきである。

3 現行の奨学金制度
 我が国の奨学金制度のほとんどが貸与型であり,その中でも最も大きな割合を占めている機構の奨学金は全てが貸与型であり,しかもその約70%が有利子であって,利子及び延滞金の負担が利用者に重くのしかかっている。
 ともと機構の有利子奨学金は,補完的な措置であり,財政が好転した場合には廃止を含めて検討することとされていたが,財源の多くを民間資金に頼る有利子奨学金はその後拡大を続け,現在では,無利子と有利子の事業予算の割合は1:3になっている。延滞金自体の利率も大きく,年10%の延滞金が発生するため,返しても返しても元金が減らず,逆に延滞金が膨らみ続けるケースも少なくない。
 奨学金制度利用時には,利用者の将来の仕事や収入は分からないから,貸与型の奨学金においては,返済困難に陥るリスクはもともと制度に内在するものである。加えて,非正規労働等の不安定・低賃金労働の拡大は,卒業しても奨学金を返済できなくなるリスクを拡大させている。この点,機構の奨学金制度にも,返還期限の猶予,返還免除等,返済困難者に対する救済制度が一応は存する。
 しかし,それらの利用条件等は極めて厳しく,運用上も様々な制限があるため,実際には実効性がない。例えば,収入が少ないことによる返還期限の猶予は最長5年までしか認められない。
 また,返還期限の猶予,返還免除等を利用するには,運用上,既に発生している延滞金を解消することが必要であり,そのような運用は,非公表の「内規」と呼ばれる基準によってなされている。
 制度上,本人が死亡した場合や精神若しくは身体の障害により,労働能力を喪失又は労働能力に高度の制限を有し返済ができなくなったときには,願出により返済を免除できることとなっているが,精神の障害により免除されるのが具体的にどのような場合かといった運用基準があいまいで不明確であるなど,実態に即した適切な運用がされているかは疑問である。
 そもそも各救済制度の周知が不十分であり,返済が困難になった人に,必要な救済制度の情報が行き届かない問題もある。
 このように,機構の奨学金は,返済の負担が大きくなっているばかりか,返済困難に陥った者に対する救済手段は,制度内容と共にその運用面においても十分に機能しているとは言い難く,その結果,返したくても返せない返済困難者が,長年にわたり無理な返済を強いられる事態を招いており,回収の強化が,それに更に追い打ちをかけている。本来,子どもの未来の可能性のために存在すべき奨学金制度が,逆に利用者の人生の大きな負担となっている。
 奨学金制度が本来の機能を果たし,親の経済的条件に左右されず子どもに教育機会の平等を確保するためには,奨学金制度の抜本的見直しと救済制度の早急な充実が必要である。

4 あるべき奨学金制度
(1) 高等教育の無償化
 教育費用は社会全体で負担すべきとの理念に照らせば,そもそも高等教育は無償化すべきである。
 政府も,2012年9月11日,国際人権社会権規約13条2の(b)(c)項「中等教育および高等教育の漸進的無償化」条項の留保を撤回しており,高等教育無償化は,国際社会に対する我が国の責務でもある。
(2) 給付型奨学金の創設
 先述のように,我が国の奨学金制度はほとんどが貸与型であり,機構の奨学金は全てが貸与型であり,利用者は将来の返済困難という予想困難なリスクを引き受けなければ,これを利用することができない。
 この返済義務が上記のような返済に伴う諸問題を発生させ,奨学金制度利用者を苦しめると共に,利用を考えている者に対する萎縮効果をも生じさせている。
 また,将来自己の負担で借りた奨学金を返済するということは,結局教育費を自己負担することに帰し,教育費を社会全体で負担すべきとの上記理念にも反することとなる。よって,奨学金制度は返済義務のない給付型を原則とすべきである。
 OECD加盟国中,大学の学費が有償であるにもかかわらずほとんどを貸与型奨学金に頼っているのは,日本だけである。これは,我が国の奨学金制度の最も根本的な問題であり,給付型奨学金の創設と拡充は喫緊の課題である。なお,近時,給付型奨学金制度の導入が政府で検討されているが,高校無償化に所得制限を導入することで浮いた予算を給付型奨学金の財源に充てようとするなど,教育予算内での配分の問題の域を出ていない。
 我が国の高等教育への公財政支出の対GDP比は,OECD加盟国中最下位であり,OECD平均の半分以下である。しっかりとした予算の裏付けのる給付型奨学金制度の導入を目指すべきである。
(3) 貸与型奨学金の無利子化と延滞金の廃止
 もっとも,大学の学費が高騰している昨今,学費の全てを給付型奨学金で賄うには多くの財源が必要となるため,即時全面的に給付型奨学金のみに移行するのは事実上困難であるかもしれない。給付型奨学金制度を充実させた上で,それでも不足する学費を補うために貸与型の奨学金制度が必要な場合には,あくまで給付型奨学金を補完するものとして位置付け,利用者の負担をできる限り少なくすべきである。
 現在我が国では,貸与型の中でも有利子のものが大きな割合を占めているが,返済期間が長期に及ぶこととも相まって,利子は奨学金制度利用者の大きな負担となっている。また,理念的にも,利子までを自己負担とすることは教育費の社会負担という奨学金制度の理念と相容れない。
 よって,貸与型奨学金は無利子とすべきである。
 同様の趣旨から,利用者の過大な負担となっている延滞金も付加すべきではない。この点,文部科学省は,早ければ2014年度から延滞金利を最高年5%程度に引き下げる方針を固めた。
 しかし,そもそも貸与型奨学金は,債務者の返済能力に応じた与信によって貸し付けるものではなく,ペナルティとして延滞金を課すこと自体に根拠がない。
 よって,延滞金利を引き下げるといった表面的な対策ではなく,そもそも延滞金の付加自体をやめるべきである。
(4) 個人保証の禁止
 当連合会は,個人保証による被害が深刻なことから,民法改正作業において個人保証を禁止すべきとの意見書を出しており(2012年1月20日付け「保証制度の抜本的改正を求める意見書」),その趣旨は,貸与型奨学金にも及ぶものである。殊に,与信がない貸付という奨学金制度の性格に照らすと,本来借主の経済的信用を補完すべき個人保証を徴求することは矛盾である。
 さらに保証人自体にも与信があるわけではなく,資力に乏しくても保証人になった親が高齢になるまで長期にわたり保証債務の負担を負うという現状は,奨学金制度の理念からかけ離れたものである。奨学金制度の利用には所得制限があり,制度利用者本人の将来の仕事や収入が分からない状態で貸与を受けること,返済期間も長期にわたることからすれば,利用者が返済困難に陥る危険は相当のものであり,貸与型の奨学金に個人保証を付すことは,通常の保証以上に保証人に大きな負担を課すものである。
 よって,全ての貸与型奨学金につき,個人保証の徴求をやめるべきである。
(5) 返済困難者の救済制度の充実と柔軟な運用
 貸与型奨学金については,その後の返済についても適切な救済制度の確立が不可欠である。貸与型奨学金は,債務者の返済能力ではなく,学びたいという希望に応じて貸し付ける点で,一般金融ローンとは大きく異なる。
 すなわち,債務者への与信によって貸し付けるものではない。 奨学金を借りる者は,将来どのような職に就き,どの程度の収入を得ることになるか分からない進学時に借りるのであり,将来返済困難に陥る危険は,もともと制度内に内在している。
 したがって,返済が苦しくなった者に対しては,自己責任として返済を強要するのではなく,返済能力に応じた返済ができるようにするなど,柔軟な救済制度を設け,実施すべきである。
 そのためには,返済が困難な者に対して,返還期限の猶予,返還免除等を幅広く認めることができるよう,適用要件を緩和するとともに明確化し,必要な者は誰でも容易かつ簡潔に救済制度が利用できるような制度設計,運用が必要である。さらには,そもそも延滞という事態が発生しないよう,返済者の所得に応じて返済額を設定する所得連動型の返済プランの導入等も検討されるべきである。
 なお,これらの救済制度は,今後,貸与型の奨学金を利用する者に対してだけでなく,既に貸与を受けている者についても遡って適用すべきである。

5 まとめ
 以上のように,奨学金は親の経済力に左右されず,学びたい子ども全てに教育を受ける機会を保障するための重要な制度であり,貧困の格差拡大が問題となっている昨今では,貧困家庭の子どもが将来貧困層に陥るという貧困の連鎖を断ち切るためにも,その重要性はますます増している。
 それにもかかわらず,我が国の奨学金制度は現状に十分対応できておらず,子どもの教育を受ける権利は危機に瀕している。
 よって,奨学金制度の本来の理念を守り,その機能が十分に発揮できるよう,上記のような奨学金制度の充実を望むものである。


2013年07月02日

27歳で返済1000万円、膨らむ奨学金 貧困の連鎖

毎日新聞(2013年06月20日北海道朝刊)

「高支持率」のウラで:検証・安倍政権/5 27歳で返済1000万円

 ◇膨らむ奨学金、貧困の連鎖

 「このままでは返済額が金利を含めて1000万円を超す。月五、六万円返して20年かかる」。北海道内の私立大から北海道大大学院に2011年春に進学した修士課程2年の男子学生(27)は、膨らんだ奨学金に肩を落とした。大学で月10万円、大学院で18万円借りた。将来を考えると気持ちがふさぎ、ここ数年は体調がすぐれず慢性胃炎を患っている。

 母子家庭のため、家計に余裕がないのは分かっていた。母には頼れず、アルバイトをして生活費を稼いできた。「私がいくら努力しても解決できる問題ではない」と声を落とした。

 大学院で専攻する社会学の研究テーマは「奨学金返済者の生活について」。奨学金を借りた学生がどう返済しているのか生活実態を探るのが狙いだ。だが、半年間の休学を含めて大学院在学3年目となり、2年間の奨学金は秋からもらえなくなる。取りあえず返済を猶予してもらうため再度休学し、将来のことをじっくり考え直すしかない。

 学生らが利用する日本学生支援機構の奨学金の貸与総額は年々増えて1兆円を超す。比例して返済の滞納も増え、裁判所への支払い督促申し立ては11年度に1万件を突破した。就職できても非正規雇用で、しかも低賃金の現実が返済の厳しさに拍車をかけている。経済的な理由で進学を諦める若者も多い。

 国に子どもの貧困対策を求め、若者たちが5月18日に東京都渋谷区の代々木公園に集まった。あしなが育英会などが呼びかけたもので、デモ行進しながら「子どもの貧困をなくせ」と叫んだ。

 札幌大2年の上口赳司(たけし)さん(19)も初めてデモに参加した。小学1年で母親を病気で亡くし、中学3年で父親の会社が倒産。父は幸い再就職先が見つかったが、上口さんは高校時代から奨学金の世話になり、今はあしなが育英会と学生支援機構合わせて月12万円を借りている。

 与野党の国会議員は貧困家庭の子どもも健やかに育つ環境を整え、教育の機会均等と就労支援を図るため、子どもの貧困対策法案を今国会に提出し、19日成立した。

 上口さんには、昨年あったあしなが育英会の集いで高校2年の女子高生が「ゲームクリエーターになりたい。卒業後は専門学校で勉強したい」と夢あふれる表情で語ったのが忘れられない。しかし、専門学校の学費が払えるだろうか。自分と同じように、高校3年になると進学すべきか悩むだろう。そのつらさが痛いほど分かる。

 上口さんは7月2日の誕生日で20歳になり、選挙権を持つ。貧困対策を進める法案が成立したが、若者の苦しい境遇はどこまで変わるか分からない。初めての1票は「子どもの貧困に国を挙げて取り組もうとする人に投票したい」と考えている。【千々部一好】

■ことば
 ◇日本の奨学金

 日本学生支援機構の奨学金利用者は2011年度時点で129万人いる。現在の奨学金は無利子の「第1種」と年利が最高3%の「第2種」があり、第2種が全体の7割を超す。滞納者は全体の約1割で、3カ月滞納すれば延滞料10%が加算され、クレジットカードなどが利用できなくなる。大学の学費が安い欧州や、給付型奨学金が充実している米国と異なり、日本は私費負担が原則だ。


2010年04月22日

奨学金延滞者、年収300万以下80%強 日本学生支援機構調べ

日本学生支援機構
 ∟●平成20年度奨学金の延滞者に関する属性調査結果の公表について

 日本学生支援機構は16日、「奨学金の延滞者に関する属性調査」の結果を発表した。2008年12月時点で奨学金の返還を6カ月以上延滞している人のうち、80%強が年収300万円以下と回答している。また、延滞者の中で正社員の割合は30.8%にとどまり、残りはアルバイトや無職などが占めている。……


2010年04月12日

奨学金「返したくても返せない」 滞納者は31万人に

http://sankei.jp.msn.com/life/education/100411/edc1004111004001-n1.htm

 日本学生支援機構によると、平成20年度の奨学金の滞納者は計31万人で、滞納金の総額は723億円に上っている。機構では、正規の返済猶予手続きをせず滞納を続ける場合には延滞金を課したり、個人名を公表したりするなどの措置を講じているが、それでも滞納者は4年前より6万1千人増えている。「返したくても返せない」という人も多い。……

奨学金返済「半額」、最長10年の救済措置

http://sankei.jp.msn.com/life/education/100411/edc1004111000000-n1.htm

 大学生や大学院生らに対する奨学金の貸与事業を実施している文部科学省所管の独立行政法人「日本学生支援機構」は、経済的に困窮して奨学金返済が困難になった人に対し、最長10年間、返済金を半額に軽減する方針を固めた。来年1月から実施する。不況のため失業したり、給料が大幅に下がるなどしたりしたため、奨学金返済に困る社会人が急増していることから“救済”に乗り出した。……