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2019年04月13日

非常勤講師をクビにする方法

首都圏大学非常勤講師組合『控室』第95号(2019年4月1日)http://hijokin.web.fc2.com/

非常勤講師をクビにする方法

明治学院大学教養教育センター教授 寄川条路
(よりかわ じょうじ・yorikawa@gmail.com)

1 非常勤講師の解雇
「ヘボン先生(仮名)は、授業態度に問題があるのでクビにします。」
 主任の提案は、非常勤講師の雇止めだったので、教授会ですんなりと承認されてしまった。どんな問題があったのかはわからないが、主任に逆らう者はいない。反対意見でも述べようものなら、つぎの標的にされてしまうので、みんな押し黙っている。
 非常勤講師には、「おまえはクビだ」とは言わないで、「来年度は、先生の科目は開講されないので、お願いできなくなりました」と、上手に伝える。
 勤続10年でクビを切られたヘボン先生は、労働基準監督署に相談はしたものの、それ以上のことはしなかった。後日、「事件」が公になってはじめて、雇止めのいきさつを知ったという。

2 明治学院大学事件
 大学当局が教授に無断で授業を録音し、告発した教授を解雇した「明治学院大学事件」。東京地裁での解雇無効判決にいたるまでの、事件の全貌を明らかにする本が公刊された。他人事ではないので、寄川条路編『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』(法律文化社)を手にとって読んでほしい。
 裁判で明らかになったのは、明治学院大学では、慣例的に授業が盗聴され、録音されていたことだった。大学を告発して解雇された教授のほかに、非常勤講師も授業を盗聴され雇止めにされていた。この件は、まだ知られていないので、ここではじめて公にする。

3 科目の削減と教員の削減
 クビになったのは、いずれも教養科目の担当者で、「明学★人気授業ランキング」で1位のシノロ先生(仮名)と2位のヘボン先生だった。二人とも、授業を休んで海外の学会に行くほど研究熱心だったが、学生のあいだでは、楽に単位が取れる先生で有名だった。
 そんな折、2018年問題をまえにして、大学執行部は、学生定員を15パーセントも増やしながら、開講科目を20パーセントも減らす方針を決定した。
 大学の方針は、専門科目はそのままにして、教養科目だけを減らすものだった。そのときは、非常勤講師を削減する話だろうと思って、教養部にさえ反対する者はいなかった。

4 大学による授業の盗聴
 教養科目は自由に選択できるので、「楽単科目」に学生が集中する。学期のはじめ、職員が教室を回って出席者を数えているが、教務担当の教員も加わって、教室の中を見て回るようになった。授業について、学生からクレームが寄せられたそうだ。
 明治学院大学では、学生のために「クレーム用紙」まで作って、積極的に、苦情や要望を書いてもらっている。あるとき、ヘボン先生の授業について、「学生の私語で先生の声が聞こえません」という、匿名の投書があった。
 そこで、教務担当の教員と職員が、ヘボン先生に事情を説明し、同意を得たうえで何度か授業を聴講させてもらったが、その後も授業に改善が見られなかったので、やむなく雇止めにいたったのだという。
 ところが、当のヘボン先生によれば、学生からクレームを受けたことはなく、教務担当の教員にも職員にも一度も会ったことはないという。「私は授業には自信がありました」というのが、研究熱心なヘボン先生のことばで、それまで授業が盗聴され調査されていたことなど何一つ知らなかった。

5 大学による教員の管理
 学期末には、学生による「授業評価」が行われる。あくまでも授業の評価なのであって、教員の評価ではないはずだが、実際には、人事評価の資料として使われている。
 明治学院大学では、「みんなのキャンパス」という授業評価のウェブサイトも監視しているが、たまたま見つけたという「学生と思われる者」の書き込みは、職員の自作自演だった。
 手書きのはずのクレーム用紙が、パソコンで書かれていたこともあった。ファイルのデータを調べたところ、「作成者」は職員だった。「宮崎大学セクハラ教員解雇事件」のように、学生のクレームは職員がねつ造したものだった。
 「リベラルな大学」に見えても、大学の方針を批判することは許されない。教科書の検閲はもちろん、プリント教材の事前確認から配布禁止まで、大学当局による管理運営は徹底している。
 採点済みのテストは、学生の個人情報を保護するためシュレッダー用の箱に入れるのだが、回収された用紙は、授業内容の調査のため倉庫に保管され、しっかりチェックされていた。
 大学では、これらをすべて「校務」と呼んでいる。いずれも組織的で計画的な犯行なのだが、不法行為に関与しているのは、執行部の指示や命令に従うまじめな教職員だ。理事の学部長は、裁判では、「授業の無断録音は許されるべきではない」と証言していたが、同じ人物が「のぞき」の常習者でもあった。

6 クビになったら非常勤講師組合へ
 さて、「事件」が大学界に広く知れ渡ったので、件のヘボン先生も、雇止めのいきさつを知るにいたった。「訴えることはできるかもしれないけれど、私は研究に専念したいので」。こう言ってくれる先生は、クビを切りやすい。
 クビになったら黙ってないで、すぐに非常勤講師組合に相談しよう。

2019年03月04日

明治学院大学事件、日本の大学界の病弊を象徴する大事件

日本の大学界の病弊を象徴する大事件

日本の大学界の病弊を象徴する大事件
――「明治学院大学事件」の裁判記録――

寄川条路

寄川条路編、小林節・丹羽徹・志田陽子・太期宗平著
『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』A5判・96頁・926円、法律文化社、978-4-589-03977-4

 大学当局が教授に無断で授業を録音し、無断録音を告発した教授を解雇した「明治学院大学事件」。東京地裁による解雇無効判決にいたるまでの、事件の概要、裁判所への法学者による意見書、判決文およびその解説を収めた全実録が刊行された。「日本の大学界の病弊を象徴する大事件」(小林節氏談)とも呼ばれ、学問の自由、教育の自由、表現の自由の根幹を揺るがした裁判の記録である。
 裁判の結果が報じられたとき、本件は、「リベラルな大学」での特異な出来事と受け止められたが、実際のところは、現在の日本の大学界に広く蔓延している病状の一例にすぎない。明治学院大学のように授業の盗聴や録音を無断で行っている大学もあれば、授業の撮影や録画を行っている大学もある。このような日本の大学の現状を知ってもらうために、裁判記録を公刊することにした。
 本書には、裁判所に提出された法学者の意見書と、それを受けて裁判所が下した判決書が収められている。
 まず、憲法学の大御所である小林節は、「学問の自由」という観点からその理念を歴史的に概観し、つぎに、教育法の権威である丹羽徹は、「教育の自由」という観点から強固な法理論を構築し、そして、表現法について第一線で活躍している志田陽子は、「表現の自由」という観点から事件を緻密に検証している。さらに、判決文は、裁判所の承諾を得たうえで公表し、担当弁護士の太期宗平が的確な解説を加えている。
 本書は、「明治学院大学事件」の裁判記録であるが、日本の大学界全体の教訓として必要不可欠なものであるとの指摘を受けて公刊された。編者としては、この本によって日本の大学の現状を知ってもらい、「学問・教育・表見の自由」を考えるきっかけにしてもらえればと思っている。
 なお、本書は、シリーズ「学問の自由」の第1号である。「明治学院大学事件」の裁判記録である本号に続いて、第2号として、法学者・教育学者・倫理学者など、大学関係者による論説集が予定されている。(よりかわ・じょうじ=明治学院大学教授、哲学・倫理学専攻)
★こばやし・せつ=慶應義塾大学名誉教授・弁護士、憲法学専攻。
★にわ・とおる=龍谷大学法学部教授、憲法学・教育法専攻。
★しだ・ようこ=武蔵野美術大学造形学部教授、憲法学・言論法専攻。
★だいご・そうへい=ベリーベスト法律事務所パートナー弁護士。


2019年01月31日

実況中継「明治学院大学事件」

実況中継「明治学院大学事件」『情況』2019年冬号)

実況中継「明治学院大学事件」

寄川条路

「先生がどのような発言を学生にしているのかを調査する必要がありました。そこで、教職員が直接聞くこととなり、聞き逃す可能性があったので録音したのです。」(大学当局)

 1 「明治学院大学事件」とは何か

 明治学院大学事件とは、大学当局が教授に無断で授業を録音し、無断録音を告発した教授を解雇した事件のことである。この事件はその後、大学における学問・教育・表現の自由の根幹を揺るがす大事件となり、裁判所によって大学当局による教授の解雇は無効であるとの判決が下されるに至った。このたび、判決までの事件の概要を伝えるブックレット『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』(法律文化社、2018年)が刊行されたので、その後の状況について報告しておきたい。

 2 組織を守るための授業録音と教科書検閲

 まず、事件の概要を説明しておく。
 2016年12月、大学の違法行為を告発したために解雇された教授が、地位確認を求めて東京地方裁判所に提訴した。訴えによると、明治学院大学は、授業を盗聴され秘密録音されたことを告発した教授を懲戒解雇していた。大学の組織的な違法行為を告発して解雇されたのは、教養科目の倫理学を担当する教授で、大学当局が教授の授業を盗聴して秘密録音し、授業の録音テープを本人に無断で使用していた。
 大学当局によれば、明治学院大学では授業の盗聴が「慣例」として行われており、今回の秘密録音も大学組織を守るために行ったとのこと。この点について副学長はつぎのように語っている。「組織を守るための一つの手段として録音が必要だったわけですから、何も問題ないです」。
 教養科目を担当する別の教員もまた、授業を盗聴されたうえ「職務態度に問題がある」との理由で解雇されていた。
 明治学院大学では、授業を調査するための盗聴ばかりか、大学の教育理念であるキリスト教主義を批判しないように、授業で使う教科書を検閲したり、学生の答案用紙を抜き取って検閲したり、プリント教材を事前に検閲して配付を禁止したりしていた。
 「大学の慣例では、授業もテストも公開されていますので」というのが、当局の主張だ。
 ところが、教授が大学当局による授業の無断録音を公表すると、大学側は「名誉を毀損された」との理由で教授を解雇してきた。そこで、解雇された教授が裁判所に地位確認の訴えを起こしたので、授業を秘密録音して教員を解雇した「目黒高校事件」(1965年)と同様、学問・教育・表現の自由をめぐって争われることになったのである。
 では、事件の詳細を見ていこう。

 3 明治学院大学「授業盗聴」事件の詳細

 2015年4月、春学期1回目の授業を聞くため横浜キャンパスでもっとも大きな720教室に200人の学生が集まっていた。そこに、授業を調査するように指示された職員がこっそりと忍び込んでいく。教授が話し始めると、職員はあらかじめ用意していたスマホを使って教授の発言を録音する。授業が終わると、職員はスマホの録音データをICレコーダーにダビングして、これを調査委員会に手渡すのである。
 調査委員は録音を聞き、テープ起こしされた反訳を読んだうえで、調査対象の教授を呼び出して尋問する。授業の録音があることは隠したまま、教授に対し、「授業の中で、大学の方針に反対すると語っていたのか」と、詰問していく。その後、調査委員長が尋問の結果を教授会に報告して、その教授を処分するのである。これが明治学院大学の伝統的なやり方である。
 大学当局は、法に触れないぎりぎりのところで盗聴行為を繰り返して秘密録音をする。日本の法律では、民事では、盗聴も秘密録音も違法行為とはならないので禁止されてはいないし罰せられることもない。このあたりは顧問弁護士がしっかりしていて、大学執行部や調査委員会に事前に指示を出しておく。
 慣例的に授業の盗聴を行っている明治学院大学では、法的な対応にはぬかりがない。たとえ盗聴行為や秘密録音がばれたとしても、裁判にでもならなければけっして事実を認めることはないし、ましてや録音者や録音資料を開示することもしない。「録音について説明する必要も開示する義務もない」というのが、大学当局の見解だ。
 2015年12月、明治学院大学は、授業の中で大学の運営方針を批判していたとして教授を厳重注意する。本当は懲戒処分にしたかったのだが、大学を批判した程度で懲戒処分にすると裁判で負けるという顧問弁護士のアドバイスに従って、とりあえずは注意したことにして、つぎの機会に確実に解雇できるように注意を重ねていく。明治学院大学ではこれを「がれき集め」と呼んでいる。
 ところが、ここから予期せぬ方向へと話は展開していく。厳重注意がなされたので、授業を無断録音された教授は、録音テープを使用した調査委員長の名前を公表して大学当局を告発する。教室に忍び込んで録音していた者を特定して訴えようとしたのである。
 大学の不正行為を知った学生は、手分けをして情報収集に出かけていく。調査委員長のところに行った学生によると、「大学の方針に反対する教員が複数いて、教授もその一人だったから、授業を録音した」のだという。学生は調査委員長のことばを録音していた。
 大学当局による授業の盗聴と秘密録音が学生たちのあいだにも知れ渡ると、大学は開き直って、授業の録音は正当なものであると言い逃れをしてきた。にもかかわらず、調査委員長があたかも不正行為にかかわったかのごとき告発をしたので、大学側は当該の教授に訂正と謝罪をさせようとしてきたが、あわてて火消しに走ったため、逆に、学生たちが教授を支援したり、大学を非難したりするに至り、事態は炎上した。
 教授が行ったアンケート調査によると、多くの学生が大学の盗聴行為を「犯罪」だと非難していた。この調査結果を教授が公表しようとすると、ついには理事会が出てきて、2016年10月になって録音行為を告発した教授を懲戒解雇したのである。
 ところが、懲戒解雇はハードルが高いので裁判では認められないという顧問弁護士からの助言もあり、ハードルの低い普通解雇を抱き合わせにして、教授を解雇することした。普通解雇の理由は何もなかったから、いつのまにか、明治学院大学のキリスト教主義を批判する不適切な教員ということになっていた。
 理事会は、まずは解雇しておけばよいだろうと考えて、たとえ裁判になっても、どうせ民事だから金さえ払えば済むものと予想していた。ここが、明治学院大学の浅はかなところだ。
 顧問弁護士と相談した副学長は、「定年までの賃金の半分を支払えばよいから、8000万円から9000万円くらい、解雇が無効だとしても、1億円から1億数千万円の和解金を支払えば済む」と豪語していた。こんな生々しい話もしっかり録音されていて、資産が1000億円を超える明治学院らしい話になってきた。
 弁護士にはよく知られた話だが、明治学院には「前科」があって、2010年にも不当解雇裁判で敗訴しており、解雇した職員に数千万円の解決金を支払っていた。
 さて、2016年10月、解雇された教授が東京地裁に地位確認の労働審判を申し立てたところ、労使双方からなる労働審判委員会は、すぐさま解雇を無効として教授の復職を提案したが、大学側が拒否したため和解は不成立となった。そこで、2016年12月、教授が東京地裁に地位確認を求めて提訴したのである。
 原告と被告の双方から数回にわたって書面が提出されたのち、原告1名と事件にかかわった被告3名の証人尋問があり、その後、和解協議に入った。2018年4月、東京地裁は、解雇の撤回と無断録音の謝罪を和解案として提示するものの、大学側が謝罪を拒否したので和解は不成立となる。そしてついに、2018年6月28日、解雇は違法であるとの判決が下ったのである。

 4 明治学院大学「教員解雇」事件の判決

 「明治学院大学事件」の判決文は、つぎのとおりである。
 1 原告が被告に対して労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
 2 被告は、原告に対し、33万2714円及びこれに対する平成28年10月23日から支払い済みまで年5%の割合による金員を支払え。
 3 被告は、原告に対し、平成28年11月22日からこの判決の確定の日まで、毎月22日限り、69万8700円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済まで年5%の割合による金員を支払え。
 4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
  訴訟費用は、これを14分し、その5を原告の負担とし、その余は、被告の負担とする。
 判決内容を簡単に解説すると、1は解雇無効なので教授の地位を認め、2と3で賃金を認めたが、4の慰謝料は認めないというもので、5の裁判費用の負担割合からわかるように、原告の7割勝訴である。
 結論としては、大学による解雇は労働契約法の解雇権を濫用したものだから無効であり、教授の地位と賃金は認めたものの、授業の無断録音は教授の人格権を侵害するものとまではいえないから慰謝料は認めない、というものだった。
 まず、懲戒解雇について見ると、大学は教授の四つの行為(①録音に関与した教員の氏名を公表したこと、②教授会の謝罪要請に応じなかったこと、③無断録音について学生にアンケート調査をしたこと、④調査結果を公表しようとしたこと)について、就業規則の懲戒事由に該当すると主張していた。裁判所は、①と②について、教授にも落ち度があるとして就業規則への該当性は認めたものの、大学が録音行為について何ら説明していないこと、教授会の要請が教授の認識に反する見解を表明させるものであることから、懲戒解雇には該当しないと判断した。
 つぎに、普通解雇について見ると、大学は教授の授業における言動やキリスト教を批判する教科書を解雇理由として主張したが、裁判所は、教授の言動もそれほど重大なものではなく意見聴取もされていないし、教科書のキリスト教批判も風刺と理解できるから普通解雇には該当しないと判断した。
 そして、慰謝料請求について見ると、教授は無断で授業を録音されたから人格権が侵害されたと主張したが、大学が録音したのは1回目の授業で行われたガイダンス部分であったから、研究や教育の具体的な内容を把握するためのものではないし、録音は大学の管理運営のための権限の範囲内において行われたから適法だという。以上の理由から、裁判所は、授業の無断録音は、教育基本法の不当な支配には当たらず、教授の研究活動を侵害し自由な教育の機会を奪うものではないと判断した。
 判決の意義としては、大学当局に反対の意見を表明した教授の解雇について、裁判所が大学教授に憲法23条の教授の自由が保障されていることを重視して、解雇を無効と判断した点は評価できる。大学の組織運営に対する反対意見を表明したり、大学が標榜する教育理念を批判したりしただけで解雇するといった不寛容を許さないという意味がある。しかしながら、裁判所が一般論として教授に断ることなく授業を録音することは不法行為を構成すると認めながらも、本件では録音がおもに初回授業のガイダンスであった点を重視するあまり慰謝料請求を否定した点に不満が残った。

 5 「明治学院大学事件」の現在

 2018年7月、被告の明治学院大学は、東京地裁の判決を不服として東京高裁に控訴した。ついで、原告の教授も慰謝料の支払いを求めて東京高裁に控訴した。こうして、双方が控訴した結果、本件はひきつづき高裁にて審理されることになった。2018年12月現在も係争中であり、近々、裁判所から和解案の提示があり、場合によっては和解協議に入り、場合によっては判決が下されることになっている。
 これまでのところ、労働審判では復職の提案がなされ、地方裁判所では解雇無効の判決が下されたので、教授の2連勝なのだが、高等裁判所ではどうなるのか、そして最高裁判所ではどうなるのか、まだまだ予断を許さないので、これからも裁判を注視していきたい。
 裁判記録は裁判所で閲覧することができるが、それとは別に、裁判記録の出版も始まった。第1弾『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』(法律文化社、2018年)を読むと、事件の全貌がわかるので、ぜひ参照されたい。東京地裁による解雇無効判決に至るまでの事件の概要、法学者による意見書、判決文およびその解説を収めた全実録である。つづいて、法学者の論文集や大学側の証言集などの刊行が予定されている。

 最後に、明治学院大学の最新情報をお届けしたい。
 理事会は、学生定員を15パーセントも増加する決定をしたにもかかわらず、教養科目の担当教員は20パーセントも削減する方針を打ち出してきた。大学当局は、これに合わせて、授業態度が悪いといって言語文化論の講師を解雇し、大学を批判したといって倫理学の教授を解雇した。解雇されたのは、学生による「人気授業ランキング」で1位と2位の教員であった。
 人件費の削減に貢献したセンター長と主任教授は、その功績によって副学長と学部長に昇格し、いつのまにかキリスト信者にもなって理事会のメンバーに抜擢された。その後、大学内で日常的に横行している「非公式の懲罰や私刑や制裁」を告発した、哲学の教授も解雇された。
 明治学院大学のニュースメディア「明学プレス」によると、「大学を追われた教授は多数いる」とのこと。つぎに首を切られるのはだれだろうか。教授たちはひたすら自らの保身だけを考え、首を縮めて声を押し殺している。
 理事会のほうは、浮いたお金でキャンパスを移転し、新学部にスポーツ学科まで作ってキリスト教を宣伝するのだそうだ。だが、キャンパス移転の説明会も、一部の人間の利得だけで動いていて、しかも内容が幼稚で杜撰すぎ、この大学は何から何まで人間の思惑だけで動いているのが露見しただけだったという。学内には憤慨している教員もたくさんいるようだから、その声もしだいに大きくなってくるのだろう。
(よりかわ じょうじ・明治学院大学教授)

プロフィール
寄川条路(よりかわ・じょうじ)
1961年、福岡県生まれ。ボーフム大学大学院修了、文学博士。現在、明治学院大学教養教育センター教授。専攻は哲学・倫理学。著書に『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』(法律文化社、2018年)、『ヘーゲル――人と思想』(晃洋書房、2018年)、筆名(紀川しのろ)で『教養部しのろ教授の大学入門』(ナカニシヤ出版、2014年)など。


2019年01月07日

貴方は「明治学院大学事件」をご存じだろうか?――学問の自由のために!

貴方は「明治学院大学事件」をご存じだろうか?――学問の自由のために!

貴方は「明治学院大学事件」をご存じだろうか?――学問の自由のために!

合澤 清(ちきゅう座会員)

「ちきゅう座」(2019年1月7日)http://chikyuza.net/archives/90363

『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』寄川条路編(法律文化社)
 年末に読んだこの本に強いショックを受けた。
 この事件のことは、「東京新聞」(2017年1月7日付)の記事で一応知ってはいた。しかし、詳しい経緯までは全く知らなかったのは不明の至りである。
 以下、ネットで調べた「東京新聞」の記事を引用・紹介する。

 「授業を無断録音された上、懲戒解雇されたのは不当などとして、明治学院大(東京都港区)の元教授寄川条路さん(55)が、同大を運営する学校法人「明治学院」に教授としての地位確認と、慰謝料など約1,370万円を求める訴訟を東京地裁に起こした……。
 訴えなどによると、寄川さんは一般教養で倫理学を担当。2015年4月の授業で、大学の運営方針を批判したことなどを理由に、同12月に大学側から厳重注意を受けた。大学側は、授業の録音を聞いて寄川さんの批判を知ったと認めたため、寄川さんは学生が何らかの情報を知っているかもしれないと推測。テスト用紙の余白に、大学側の教授の名前を挙げ「録音テープを渡した人を探している」と印刷し、呼び掛けた。これに対し大学側は、その教授が録音に関わった印象を与え、名誉毀損に当たるなどとして昨年10月に懲戒解雇した。
 寄川さんは「大学側が授業を録音したのは、表現の自由や学問の自由の侵害だ」と主張。労働審判を申し立てたが解決に至らず、訴訟に移行した。大学側は審判で職員による録音を認めた上で「録音したのは実質的には授業でなく、(年度初めに授業方針を説明する)ガイダンス。授業内容を根拠としての解雇ではない」と説明していた。
 同大広報課は、本紙の取材に「懲戒処分は手続きに沿って適正に判断した。個別案件についてはコメントできない」としている。」

 ネット上で調べた限り、この「学問の自由」にかかわる「重大な事件」を取り上げたのが、この「東京新聞」と「上智新聞」だけだった(?)ようなのは、なんとも情けない。大学の授業に「検閲」が入ったといっても過言ではない大変な事件である。
 そうでなくとも今日の大学では、学生の自由な自治活動は認めず、全てが大学当局による認可制度のうえにのみ行われるように仕向けられている。完全な管理・監視体制である。
 これで「自由な学問」「自由な教育」「大学の自治」などありうるはずがない。
 教員採用も、その人の学問の実績や教養の高さなどで諮るのではなく、その人物が如何に現体制(引いては大学当局)に協力的であるかによって決められるのが実情である。
 こういう輩から教わる学生は哀れなものだ。詰まるところ「大政翼賛教育」が施されるのは必定であろう。
 昨今の学生気質が、学問などどうでもよくて、ただ就職のためだけに学校に通っている(大学の専門学校化)といわれるのも、無理からぬことである。
 文科省、その管轄下の大学、そしてそこで教える者も教わる者も、腐りきっている。かくて日本という国は、凋落の一途をたどることになる。
 今年は、「東大闘争」から節目の50年を迎える。1月19日に多くの犠牲者を出しつつ、残念ながら陥落した「安田砦」の攻防戦を改めて思い起こす。
 あの深刻な闘いは何だったのか、われわれはその後に何を残しえたのだろうか? 大学への管理強化という負の遺産だけだったのか……。

<この事件のあらましと現状>

 明治学院大学という名前のキリスト教系大学からそれまで受けていた印象は、リベラルなものであった。確か、詩人の島崎藤村が本学の出身者であることは有名である。
 そして「建学の精神」として次のことが謳われている。

 「建学の精神として「キリスト教主義教育」を掲げ、キリスト教による人格教育を実践している。
 また、教育の理念として "Do for Others"(他者への貢献)を掲げている。これは、新約聖書の "Do for others what you want them to do for you." という部分から引用されたもので、創設者であるヘボンの信念をよく表す言葉とされている。」

 つまり「汝が欲するところを人に施せ」というのがその基本精神であるという。
 ところが、このイメージが今回の事件で一変した。
 裁判で明らかになったことでは、「明治学院大学では、慣例として授業の盗聴が行われており、今回の秘密録音も大学組織を守るために行ったとのこと」だ。「また、同大学では、大学の権威やキリスト教主義を批判しないように、授業で使用する教科書を検閲したり、教材プリントを事前にチェックしたりしていた。さらに、学生の答案用紙を抜き取って検閲したり、インターネット上の書き込みを調査したりしていた」(本書「まえがき」)
 なんだか「うすら寒く」ならないだろうか。これではまるっきりナチの体制下、スターリン体制下、あるいは戦前・戦中の軍部の支配下に置かれているのと同様ではないか。
 まさか寄川教授が「盗聴」を欲し、「自由な学問と教育の放棄」を欲していたわけではあるまい。ということは、人が欲しないことを人に強要するということに「建学の精神」を変えたのであろうか?
 どうもこの「建学の精神」と、これら「授業盗聴」などの常態化とは相反しているとしか言いようがない。
 本書の「まえがき」から事件の概要を時系列に述べる。詳細は、直接本書に当たって頂きたい。

 2015. 4:大学当局が教授に無断で授業を盗聴し録音
 2015.12:授業で大学を批判したとして教授を厳重注意/授業を無断録音された教授が大学当局を告発
 2016.10:大学当局は告発した教授を懲戒解雇/解雇された教授が地位確認の労働審判を申立
 2016.12:裁判所は解雇を無効として教授の復職を提案。和解不成立。/解雇された教授が地位確認の訴えを提起
 2018. 4:裁判所は解雇の撤回と無断録音の謝罪を提案。和解不成立。
 2018. 6:裁判所は解雇について無効であると判決

 ここに明らかなように、これは大学当局の「解雇権の濫用であり、無効である」ことは明白である。にもかかわらず、寄川教授は、今日に至るも復職は認められていない。
 「上智新聞」(2017年2月1日)は、係争中の寄川条路氏の身分を「教授」として、「元」を付けていない。賢明である。
 「上智新聞」の記者が公平を期すためにつけたあとがき(記者の目)を引用する。

 「事態の詳細は司法の場で問われるべき問題であり、本紙が口を出せることではない。ツイッターを見れば、明治学院大学の学生から「教授の言い分や新聞の論調は一面的だ」等の批判もあるようだ。
 だが学問の自由という観点から言えば、大学側が無断で講義を録音していたという一点のみでも、紙幅を割いて追うべき理由としては十分だ。」

 これもまことに賢明な判断である。われわれとしても、「学問の自由」「教育の自由」「大学の自治」を守るために、是非この闘いを支援していかなければならないのではないだろうか。


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2018年12月20日

「大学における<学問・教育・表現の自由>を問う」

「明治学院大学事件」が「法律学の活きた教材」として紹介されました。
http://www.accessjournal.jp/modules/weblog/details.php?blog_id=8803

<書評>『大学における<学問・教育・表現の自由>を問う』(法律文化社)

明治学院大学教授が大学側に授業中に無断録音されていたことを知り抗議したところ、目を付けられ、その後、授業で使用していた教科書や授業内容がキリスト教を批判しているなどとして解雇されたことに端を発する「授業無断録音訴訟」。その経緯と、本年6月28日の一審判決の詳細については、本紙で報じたことがある。

本書の編著者は、まさにこの裁判の原告であった寄川条路・教養教育センター教授(56。右写真)。事件の概要、判決文およびその解説に加え、憲法学者3人が寄稿している。憲法学の小林節・慶應義塾大学名誉教授が「学問の自由」の観点から、教育法の権威である丹羽徹・龍谷大学教授が「教育の自由」の観点から、そして志田陽子・武蔵野美術大学教授が「表現の自由」の観点から、それぞれ事件を検証している。

事件が起きたのは、特定秘密保護法が成立(2014年)した数ヵ月後だ。学問と表現の自由が最大限、保障されるべき大学内で起きた盗聴事件と、その結末について、本書はコンパクトにまとまっている。法律学の活きた教材にも使えそうだ。


2018年11月08日

明治学院大学解雇事件、無効判決にいたるまでの事件の全貌を明らかにする図書が刊行

『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』(法律文化社、2018年)

寄川条路編、小林節・丹羽徹・志田陽子・太期宗平著
『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』(法律文化社、2018年)

大学当局が教授に無断で講義を録音し、告発した教授を解雇した「明治学院大学事件」。東京地裁による解雇無効判決にいたるまでの、事件の全貌を明らかにする。事件の概要、裁判所への法学者による意見書、判決文の解説を収録。本来「学問・教育・表現の自由」が保障されるはずの大学界への教訓として公刊。

目 次
序 章 盗聴される授業、解雇される教員 寄川条路(明治学院大学教授)
第1章 学問の自由、大学の自治、信教の自由 小林節(慶應義塾大学名誉教授・弁護士)
第2章 私立大学における教育の自由 丹羽徹(龍谷大学法学部教授)
第3章 懲戒における適正手続の観点から見た解雇の有効性 志田陽子(武蔵野美術大学造形学部教授)
第4章 「明治学院大学事件」判決の主文 東京地方裁判所
第5章 「明治学院大学事件」判決の解説 太期宗平(ベリーベスト法律事務所パートナー弁護士)
終 章 「明治学院大学事件」についてのよくある質問Q&A 寄川条路

2018年09月26日

明治学院大学解雇事件、学園側控訴状の公開

控訴状(2018年7月10日)
http://university.main.jp/blog/bunsyo/20180710hikokukoso.pdf

2018年07月14日

明治学院大学、授業無断録音に抗議した教授の解雇は「無効」判決(東京地裁)

『アクセスジャーナル』(2018年7月12日)

明治学院大学―授業無断録音に抗議した教授の解雇は「無効」判決(東京地裁)

山岡俊介

 本紙で今年2月20日に取り上げた、明治学院大学教授が大学側に授業中に無断録音されていたことを知り抗議したところ、目を付けられ、その後、授業で使用していた教科書や授業内容がキリスト教を批判しているなどとして解雇されたことに端を発する「授業無断録音訴訟」につき、6月28日に一審判決が出ていた。
 もっとも、大手マスコミで報じたのは唯一、「東京新聞」のみのようだ。
 7月3日、原告の教授側が司法記者クラブで記者会見まで開いたにも拘わらずだ。
 この訴訟、いくら教授も雇われとはいえ、授業に関して自由に研究や発言する「学問の自由」(憲法23条)が保障されないようではとんでもないということで本紙は注目していた。
 何しろ、明治学院大学(東京都港区。経営は「明治学院」)では、授業の盗聴が慣例として行われているという。大学の権威、キリスト教主義を批判していないかなど授業を担う教授らをチェックするためで、授業で使う教科書や教材の検閲も同様だという。
 そんななか、授業中に無断録音されたことに倫理学担当の寄川条路教授(横写真。56)が抗議したところ、15年12月、大学から「厳重注意」に。それを告発したところ、16年10月、今度は懲戒解雇されたという。
 そこで寄川氏は東京地裁に地位確認の労働審判を申し立て。
 16年12月、地裁は解雇は無効として寄川氏の復職を提案したが、大学側が拒否したことから提訴して争われていた。
 東京地裁は6月28日、解雇権の濫用だとして、教授としての地位確認と賃金の支払いを命じた。
 もっとも、この一審判決、(1)無断録音に関与したと思われる教員の氏名を公開したこと、(2)教授会の要請に応じなかったことに寄川氏も落ち度があると認定。しかしながら、教授会の要請が原告の認識に反するような見解を表明させるものであるなど、原告にも酌むべき事情があるとして、解雇は相当でないと判断した。
 また、寄川氏は無断録音は学問の自由を侵害する違法なものなどとして、損害賠償請求も行っていたが、これに対し一審判決は、録音対象の大半は授業ではなくガイダンス部分だったとして、これを認めなかった。
 一方、大学側は「解雇は録音を告発したことが理由ではない」「(東京地裁判決は)録音の対象は、初回授業におけるガイダンスの部分で講義ではなく、大学の管理運営のための権限の範囲内において適法に行われた、と判示された」としている。
 こうした見解の相違から、大学側も原告側も控訴する方針。
 なお、寄川氏、代理人の太期宗平弁護士と共に記者会見に同席した小林節慶應大学名誉教授は、「学者は個性的で、それをお互いに許容し合って、歴史のなかで評価が定まって来るもの。個性を尊重しない多数決で押さえ込もうということが日本中で起きている」と懸念を表明した。
 学問の自由がどこまで守られるか、控訴審の行方にも要注目だ。


2018年07月08日

盗聴告発教授の解雇は「無効」、改めて問われる明学の体質

『日刊ゲンダイ』(2018年7月4日)

盗聴告発教授の解雇は「無効」 改めて問われる明学の体質

 明治学院大学が揺れている。大学当局が教授に無断で授業を録音し、それを告発した教授が解雇され、その無効を争った裁判の判決が先月28日に下された。東京地裁は「教授の解雇は無効である」と判断した。
 3日、原告の寄川条路教授と太期宗平弁護士、法学者の小林節慶大名誉教授が司法記者クラブで会見を行った。
 寄川教授の担当は倫理学。盗聴が行われたのは、2015年4月の授業で、300人の学生を相手に行われたものだった。
 寄川教授によると明治学院大学では大学組織を守るために、授業の盗聴が慣例として行われており、今回とは別の教員も授業を盗聴されて解雇されたという。
 大学に批判的な教員を選別して盗聴している可能性が高い。小林氏はこう言う。
「学者は個性的で、それをお互いに許容し合って、歴史のなかで評価が定まってくるもの。個性を尊重しない多数決で押さえ込もうということが日本中で起きている」
 大学側は判決について同日付の文書で、解雇理由は録音を告発したことではなく、原告の「不適切な言動」と説明。具体的な内容については、係争中の事柄につきコメントを控えるとし、控訴を予定している。
 学問の自由がどこまで守られるのか注目が集まる。


明治学院大、元教授の解雇「無効」 東京地裁判決 授業無断録音訴訟

■東京新聞(2018年7月4日)

明治学院大 元教授の解雇「無効」 東京地裁判決 授業無断録音訴訟

 授業を無断録音され、懲戒解雇されたのは不当として、明治学院大学(東京都港区)の元教授寄川条路(よりかわじょうじ)さん(56)が、教授としての地位確認などを求めた訴訟で、東京地裁(江原健志裁判長)は、同大を運営する学校法人明治学院に解雇無効を命じる判決を言い渡した。授業の録音については違法性を認めなかった。3日、記者会見した寄川さんは「無断録音は客観的事実なのに違法性を認めないのは筋が通らない」と述べた。判決言い渡しは6月28日。
 訴えなどによると、寄川さんは同大の教授だった2015年、授業で大学の運営方針を批判したことなどを理由に大学側から厳重注意を受けた。大学側が授業の録音を聞いて寄川さんの批判を知ったと認めたため、寄川さんは教授名を挙げて「録音テープを渡した人を探している」とテスト用紙の余白に印刷し、学生に情報提供を呼び掛けた。
 大学側は、その教授が録音にかかわった印象を与え、名誉毀損に当たるなどとして、16年に寄川さんを懲戒解雇。寄川さんは「授業の無断録音は表現の自由や学問の自由の侵害だ」と訴えていた。
 江原裁判長は判決理由で、授業での寄川さんの態度が不適切だったと認定したが、解雇は「客観的に合理的な理由を欠く」として無効と結論付けた。一方、録音した授業は年度初めのガイダンスで、講義ではなかったなどと判断、「大学の管理運営のための権限の範囲内」と指摘した。双方が控訴する方針。


2018年07月06日

大学の方針を批判、明治学院大教授の「解雇」は無効…東京地裁

弁護士ドットコム
 ∟●大学の方針を批判、明治学院大教授の「解雇」は無効…東京地裁

明治学院大で、倫理学を担当していた寄川条路教授が、不当な解雇をされたとして、大学を運営する学校法人「明治学院」(東京都・港区)を相手取り、教授としての地位確認や賃金の支払いなどを求めていた訴訟で、東京地裁(江原健志裁判長)は、解雇は無効とする判決を下した。判決は6月28日付。

寄川さんと代理人弁護士らが7月3日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いて、明らかにした。寄川さんは「地位確認が認められて、ホッとしている」と心境を打ち明けた。一方で、大学側は、判決を不服として、控訴する方針を示している。

●解雇権濫用で「無効」に
判決によると、大学側は2015年4月、寄川さんに断りを入れず、授業のガイダンスなどを録音。さらに同年12月、寄川さんが、大学の方針を批判していたとして、厳重注意とした。寄川さんは授業の中で、特定の教員の名前をあげて、無断録音に関する情報提供を学生たちに呼びかけた。大学側は2016年10月、寄川さんを懲戒解雇とした。

東京地裁の江原裁判長は、原告に、教職員や学生に対する不適切な言動や、大学の方針に反する言動があったことは認めながらも、「職務上の義務に反したとまでいえない」「酌むべき事情があった」と判断。大学による解雇権の濫用だとして、教授としての地位確認と賃金の支払いを命じた。

寄川さんは、大学側による授業の録音行為を「教授の人格権」(学問の自由)を侵害するものとして、慰謝料をもとめていた。こちらについては、江原裁判長は「録音対象は、講義そのものではなく、ガイダンス部分だった」「録音は不当な目的や動機によるものではない」として棄却した。

明治学院大は、弁護士ドットコムニュースの取材に「解雇は録音を告発したことを理由にされたものではない」「(東京地裁で)録音の対象は、初回授業におけるガイダンスの部分であって講義そのものではなく、大学の管理運営のための権限の範囲内において適法におこなわれた、と判示された」などと回答した。今後、控訴する予定としている。


明治学院大学不当解雇事件、東京地裁・勝訴判決(2018年6月28日)主文

東京地裁・判決(2018年6月28日)主文

「明治学院大学事件」の判決(主文)

 大学当局が教授に無断で授業を録音し、無断録音を告発した教授を解雇した「明治学院大学事件」。学問の自由、教育の自由、表現の自由の根幹を揺るがした事件の判決が出ました。以下は判決の主文です。

1 原告が被告に対して労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、33万2714円及びこれに対する平成28年10月23日から支払い済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告に対し、平成28年11月22日からこの判決の確定の日まで、毎月22日限り、69万8700円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済まで年5%の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを14分し、その5を原告の負担とし、その余は、被告の負担とする。


2018年06月29日

明治学院大学解雇事件、勝訴判決を受け7月3日記者会見

記者会見のお知らせ

大学当局が教授に無断で授業を録音し、無断録音を告発した教授を解雇した「明治学院大学事件」。学問の自由、教育の自由、表現の自由の根幹を揺るがした大事件の判決が出ましたので、本件に詳しい憲法学者・小林節慶應義塾大学名誉教授をお招きして、記者会見を開催いたします。

日 時:2018年7月3日(火)15時30分~16時10分
場 所:東京地裁・司法記者クラブ

登壇者:
1.原 告・寄川条路(明治学院大学教授)「明治学院大学事件の概要」
2.弁護士・太期宗平(ベリーベスト法律事務所)「裁判と判決の概要」
3.法学者・小林 節(慶應義塾大学名誉教授)「明治学院大学事件の意義」

概 要:2018年6月28日、東京地方裁判所は、大学当局による教授の解雇は無効である、との判決を下した。


2018年06月28日

明治学院大学解雇事件、東京地裁判決(2018年6月28日)勝訴!

祝 勝訴!

速報 2018年6月28日,東京地裁にて,明治学院大学解雇事件について判決がありました。

原告の勝訴とのことです!

詳細は後ほど。

2018年04月09日

明治学院大学、授業盗聴・教科書検閲・理事会乗っ取り いま大学で何が起きているのか?

『紙の爆弾』(2018年4月号)

授業盗聴・教科書検閲・理事会乗っ取り
いま大学で何が起きているのか?

タケナカ・シゲル(著述業・編集者)

「これはセクハラなのではありませんか?」と、法廷に女性弁護士の声がひびいた。問題にされた発言とは、こんなものだ。
「そこの色白の彼女、先生は色白が好きです。あとで一緒に帰りますね」
 この発言を女性弁護士に質されたのは、一昨年に明治学院大学(東京都港区)を懲戒解雇された、寄川条路元教授である。ここに紹介する公判は、寄川元教授の地位確認裁判の証人調べのシーンだ。証言に立った山下篤教務課長によれば、寄川元教授は新学期の最初の授業で「先生は7月に病気になりますから」「海外にいます」などと、7月の最終講義を休講にすることを学生たちに告げたというのだ。セクハラまがいの発言に仮病による休講の予告……。どうやら問題のありそうな元教授だが、取材をしてみると、真相はまったく別のところにあった。
 冒頭のセクハラまがいの発言は、じつは講義への集中をうながすための注意喚起で、不特定多数の学生に向けたものだった。色白の女子学生に語りかけたものではなかったのだ。7月に病気になるという休講宣言も、じつは課題未提出者にたいする救済措置だ。課題提出者にとってのみ、休講となるものだったのである。第1回の授業で元教授は、就活などで出欠が悪くても救済措置を講じると伝えたにすぎない。
 それではなぜ冒頭のような誤解を、被告側弁護人に生じさせたのか。いや、そもそもなぜ、授業で元教授がしゃべったことが問題にされ、懲戒解雇という私立大学では極めて珍しい事態に至ったのだろう。講義内容が教室外に漏れたのは、録音による以外にないはずだ。事実そうであった。
 おどろいたことに、大学の教職員の手で寄川元教授の授業の盗聴が行なわれたのだ。その真相を究明しようとして学生に情報提供を呼びかけたところ、懲戒処分の理由にされたのである。
 大学側が問題視しているのは些細なことばかりだが、講義の根幹にかかわのものもある。明治学院大学(横浜の教養教育センター)では大教室授業の問題点が指摘されていた。学生の私語で講義に集中できないというものだ。そこで大教室の授業を300人に制限しようとしたところ、寄川元教授がこれに反対したのである。寄川元教授の担当課目は、共通科目の倫理学である。受講生はトータル1,200人ほどで、元教授は学内外で人気教授として知られている。明学の卒業生が非公式サイトとして運営している「明学LIFE」から紹介記事を引用してみよう。
「明治学院大学でもっとも知名度が高い、倫理学を担当している寄川条路先生をご紹介します」「寄川先生は学内でもっとも人気のある先生です」「倫理学とは捉え方によってはどんな見方もできる学問です。寄川先生の授業では、日々の生活に潜む事象を俯瞰的に見てみる授業だった気がします」
 この記事は救済措置のレポート提出にもふれて、就活で出席できない学生への配慮に感謝が述べられている。
「話し方も優しさに溢れていて、授業の内容がすんなり耳に入ってくる」
 ややバイアスがかかっているとはいえ、寄川元教授が人気講師であることに間違いはないだろう。単に人気講師というだけではなく、彼は和辻賞(日本倫理学会)を受けるなど、ヘーゲル研究の第一人者のひとりである。著書や論文の業績も多い。「紀川しのろ」という筆名で日本随筆家協会賞を受賞している随筆家でもある。

 受講生300人限定をめぐる攻防

 500人をこえる大人数でも授業を切りまわせる人気教授にとって、300人限定は、来る者は拒まずという信念を侵されたに等しい。しかし、その反対意見は封殺された。受講生制限に例外は許されないとセンター長から通告された寄川元教授は、思いきった対抗措置に出る。学生向けのプリントに「抽選に漏れた人たちは、私にではなく教務課に抗議してください」と書き添え、教務課との軋轢が生まれた。
 そして極めつけは、教科書の内容が解雇理由になっていることだ。およそ焚書と呼ばれる行為でなくて、これが何であろうか。処分は懲戒解雇とはべつに一般解雇というかたちで補強されているが、その理由が教科書採用していた『教養部しのろ教授の大学入門』(ナカニシヤ出版)なのである。同書では架空の平成学院大学を舞台にユーモラスに大学が語られ、読者が大学を知るには格好の書だ。掛け値なしにおもしろい本だが、ミッション・スクールを「人間動物園」に例えたくだりが問題にされた。
 公判では「先生はこの大学にきて5年になりますが、その前は13年間、愛知の幼稚園の園長をしていました」と授業で話したことも問題にされた。事実は愛知大学の法学部教授である。公判で「原告は、(幼稚園の先生だと)学生にウソをついたのですか?」と被告側弁護人に問われた寄川元教授は「(弁護士)先生、講義は事実を述べる場ではないんです」と答えて、傍聴席を笑わせた。おそらくここに、この懲戒処分事件の本質の一端が顕われている。というのも、冒頭の弁護人の「誤解」がじつは、ためにする「曲解」であるからだ。人気講師の講義をこころよく思わない、派閥的な組織の意志がそこに働いているのではないだろうか。自身も停年延長を恣意的に拒否され、地位保全の裁判闘争を行なっている浅野健一・同志社大学教授は公判を傍聴して「嫉妬ですよ、研究者特有の。人気のある研究者を陥れようとする陰謀です」と感想を述べていた。
 組織の一員でありながら、個人事業主としての側面をもつ研究者たちの競争意識は、しばしば醜い嫉妬として顕れる。派閥をつくっては保身し、ライバルを追い落とそうとする。それは明治学院大学に限ったことではない。
 それにしても、講義内容の盗聴と教科書の検閲である。思想・表現の自由を、大学がみずから掘り崩したのだ。そして明らかに意識的な「誤解(曲解)」をもって、懲戒解雇という処分が行なわれたのだ。これまで大学の教員はハレンチ犯罪で逮捕されない限り、処分は受けない存在だと考えられてきた。それがリベラルアーツの教養主義がほんらい持っている、学問の自由・独立という精神の礎であるからだ。
 ところが調べてみると、大学を舞台にした解雇事件やパワハラ、ガバナンスをめぐる紛争は少なくない。札幌学院大学の片山一義教授が主宰する情報サイト「全国国公私立大学の事件情報」には、おびただしい数の不当解雇や権利侵害事件が掲載されている。その根っこにあるのは大学経営の危機であろう。18歳人口がいく度目かの減少に転じる2018年、2020年問題(入試改革)に備えて、各大学が人員削減につとめてきた。その基調は、人文科目の削減と理系科目の統合・新設である。
 明治学院大学においては2016年に教員の20%削減が発表され、非常勤講師の雇い止めが行なわれきた。人文系のカリキュラムを削る代わりに、人間環境学部という新学部の準備が進んでいるのだ。これで解雇の背景がわかった。この解雇は最初から計画されたものだったのだ。寄川元教授の解雇に積極的だった黒川貞生センター長が、まさに体育の教員として、副学長とともに新学部設置の先頭に立っているのだから。スポーツ学科を擁する新学部設置のためにこそ、寄川元教授が狙い撃ちにされたのだ。事実、現代思想系の教員が二人雇い止めになっている。
 かように、リベラルアーツと学問の独立が危機に瀕する事態が頻発している。そして文部科学省官僚の天下りがそれに拍車をかける。

 豪腕文科官僚の天下り

 城西大学(兄弟校に城西国際大学・城西短期大学を併設)は、大蔵大臣を歴任した水田三喜男元代議士が創設した学校法人である。年輩の方なら憶えておられるかもしれない、おでこに大きなコブがあった政治家だ。埼玉県坂戸市と千葉県東金市にキャンパスを持ち、薬学部を擁する総合大学として、グループ全体で14,000人の学生が学ぶ。
 その城西大学グループの理事に元文科省事務次官・小野元之氏が就任したのは、2012年のことだった。大学側にも天下り官僚をふところに抱えることで、監督省庁である文部科学省との関係を良好に保つ思惑はあったのだろう。ところが、小野理事は経歴にたがわない辣腕ぶりを発揮するのだ。
 まず文部科学省の学校運営調査を「査察」と言いなし、理事たちに「このままでは補助金が出なくなる」「解散もありうる」と吹聴することで危機感を煽る。そして2016年11月30日の理事会において緊急動議を出し、水田宗子理事長(三喜男氏の次女)が辞任を強いられたのである。その動議の中身がすごい。理事会の席で、小野理事は水田理事長を口をきわめて批判したという。すなわち、水田理事長が連日のように学長や副学長、教職員を怒鳴り上げ、叫び、暴れているというのだ。彼女は真っ向からこれを否定している。いずれ公判廷で事実関係が明らかになるはずだ。
 さらに小野理事は「大変失礼でございますが、いわゆる認知症にかかっておられるのではないか」と理事会で発言したという。この発言は名誉毀損事件として訴訟になっている。まだある。夏のアメリカ出張は私的な「カラ出張」であり、業務上横領にあたるというのだ。事実はふたりの息子が、それぞれ城西大学の姉妹校であるUCLAと南カリフォルニア大の要職にあり、業務上の会合だったと元理事長は主張している。けっきょく、名誉ある辞任をすれば理事職と教授職および大学院長の地位は継続されるという約束で、水田理事長はやむなく辞任した。
 ところが、この約束は反故にされる。小野理事は文科省の後輩である北村幸久秘書室長を事務局長に抜擢するいっぽう、会計調査委員会を設置した。そして調査結果が出る前に、北村事務局長のマスコミ向け記者会見が行なわれ、水田元理事長による「不正経理事件」は衆目の知るところとなった。水田元理事長はすべての役職を解かれ、研究室も封鎖された。計画的なクーデターらしく、打つ手は徹底している。
 だが会計調査委員会は理事会で決議されたわけではなく、人選も小野理事の人脈である。秘書室長でありながら、水田理事長を追放する立場になった北村事務局長は、二重の意味で裏切ったことになる。水田理事長の解任に反対した理事は追放され、追放劇に与した教職員には論功行賞が行なわれた。たとえば水田元理事長のスケジュールを管理していた女性秘書は、メールアカウント等のデータを持ったまま連絡を断ち、のちに生涯教育センター所長に抜擢された。27年間も信頼で結ばれていた元理事長を裏切ったのだ。ほかにも元理事長を支えてきた多くの人材が異動や退職を強いられた。
 寄附行為(学校法人の定款)に理事会での解任動議が馴染まないとはいえ、クーデターそのものが悪いわけではないだろう。問題はその中身であり、解任理由が正当かどうかである。解任理由のひとつに、水田清子名誉理事(宗子氏の母親)への退職金1億6,800万円が高すぎるというものがある。たしかに大企業の役員なみに高額だが、理事会で決裁した過程があるので、学園を私物化したとの批判は当たらないだろう。前理事長には三喜男氏が亡くなったあと、学園の混乱をおさめて短期大学と城西国際大学の創建に寄与した功績がある。学園に私財をつぎ込んできたことを考えればと、理事会が決裁したのだろう。裁判の争点と経過は『奪われた学園』(水田宗子・幻冬舎)に詳しい。
 現在、名誉毀損事件のほかに教授職としての地位保全仮処分申し立て、理事長代理(小野元之氏)に対する地位の不存在確認請求など、「水田事件」では四つの裁判が行なわれている。解任させられた武富紘人元事務局長も、退職強要の損害賠償で訴訟中だ。ゼミ生や卒業生を中心に「水田先生を支える会」がつくられ、水田宗子元理事長が比較ジェンダー論などフェミニズムの研究者でもあることから、上野千鶴子(ウィメンズアクションネットワーク理事長)らも支援の輪をひろげている。

 文科官僚による私学の乗っ取り

 城西大学の事例は文部科学省が組織として謀った事実はなくとも、官僚組織の持っている自己増殖の本能と理解するべきだろう。たとえば警察庁においては、暴力団犯罪や左翼運動が全盛期だった昭和40年代の28万人体制の規模を、平成の今におよぶまで維持しようとしている。
 悪い意味で城西大学が文科省官僚にとっての成功例なら、失敗の例もある。山口県下関市にある梅光学院大学では、改革のために天下りした文科官僚が独走のすえに、組織を崩壊させているのだ。
 かつてはお嬢さま学校として知られていた梅光学院は、2001年に男女共学となり、2012年から改革に取り組んできた。270人の定員にたいして、入学者が170人台まで落ちた時期もある。その背景には下関市と海峡を隔てた北九州市の人口減、それに加えて北九州市西部に学術研究都市(早大・九州工業大・北九州大・福岡大など)が充実したこともあげられる。そこで、学部の統合による合理化と学費値下げという相反する経営努力を、経費の削減や教職員のボーナスのカットなどで実現した。さらに地元の高校をまわる地道な営業努力、就職率のアップなどで定員を確保してきた。そして改革の切り札として、元文科省官僚の本間政雄氏を理事長に迎え、ガバナンスの強化をはかったのだ。本間氏は京都大学の副学長、立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)で財務担当を務めた経歴を持つ。関東学院大学(横浜市)では常務理事から理事長になろうとして、このときは逆に排斥されている。
 ところが「定員割れを解消した改革の成功が仇になった」と、一昨年に雇い止めになった菅孝行元特任教授(劇作家)は語る。菅氏自身、改革派に誘われての就任であったが、教授会への出馬も「守旧派」「抵抗勢力」と対抗させられるためだったという。
 本間理事長・樋口紀子学長・只木徹統括本部長を中心とする執行部は、反対意見をのべる教職員に退職を強要し、多くの教職員が学園を去っていった。その結果、教職課程設置に不可欠の資格をもった教員が不足し、文科省から教職課程を1年間凍結される羽目に。残業代の未払い、あるいは中学高校における無資格教員の発覚、授業が成立しないなど醜聞が相次ぎ、国会の文教委員会でも問題にされた。大学院の指導教員を退職させたために、大学院の存続も危ぶまれる状態だという。
 このような事態に、教員や同窓生を中心に「梅光の未来を考える会」が地域ごとに結成され、現役の学生たちも声を挙げはじめている。雇い止めとなった矢本浩司特任准教授の裁判(地裁で地位保全の決定)をはじめ、給与減額をめぐり10人の教職員が提訴した裁判では、赤字を言い訳にしている執行部が役職を兼務することで手当を受け取っていることが明らかになった。裁判で膿が出されるのを期待したい。
 今回ふれた3校以外にも、問題を抱えている大学は少なくない。文科官僚ではなく、共産党員が独裁的に行政を仕切り、経営の危機を招いてしまった立命館大学。なんと、キャンパス内に交番をつくってしまった同志社大学。
 元大学職員の田所敏夫氏の著書『暗黒時代の大学』(鹿砦社)には、今の大学が抱える危機が現場の視点で解き明かされている。人づくりを使命とする最高学府には、教育・研究の原点に立ち返ってもらいたいものだ。


2018年02月21日

明治学院、「いじめ対策せず」元高校女生徒に続き―大学でも「盗聴」に抗議する教授を懲戒解雇し提訴されていた

『アクセスジャーナル』(2018年2月20日)

「いじめ対策せず」元高校女生徒に続き―大学でも「盗聴」に抗議する教授を懲戒解雇し提訴されていた「明治学院」

山岡俊介

 「明治学院」(東京都港区)といえば、ヘボン式ローマ字で知られるアメリカ人宣教師ヘボン博士夫妻が開いた私塾が源流。150年以上の歴史を誇り、わが国最古のミッションスクール。

 そんな博愛精神を説く由緒正しい学校法人傘下の「明治学院東村山高等学校」(東京都東村山市)の女生徒(当時)が、いじめに会っていると訴えたにも拘わらずキチンと対策をしてくれなかったとして校長を相手取り、提訴したことは以前、本紙でお伝えしたが、同じく傘下の「明治学院大学」(東京都港区)でも、懲戒解雇された教授が、地位確認と約1372万円の慰謝料を求めて提訴していたことはわかったので報じる。

 この訴訟、大学側が教授の授業中に無断で教室に立ち入り"秘密録音"した内容を根拠に懲戒解雇しており、「大学自治」「学問の自由」「信教の自由」にも関わる重大な点が問われているのだが、なぜか大手マスコミではまったくというほど報じられていない。

 もっとも、すでに16年12月に提訴され、今年1月25日には証人尋問が行われ、いよいよ一審判決が迫っている。

 原告は愛知大学法学部教授を経て、10年4月から明治学院大学へ移籍、教養教育センターの教授として16年9月まで、教養科目の「倫理学」を教えていた寄川条路氏(56)。

 訴状などによれば、被告が懲戒の最大の理由にあげたのは、授業の無断録音の事実を知った原告が誰が録音したか、またその録音を聞かせて欲しいと要求したが拒否されたことから、止む無く授業で配るレポート用紙の欄外に情報提供を求める書き込みをした点。

 また、原告の授業は生徒に大人気だったところ、学校側が一方的に300名に履修制限したことから、その是非と理由を問う質問を、生徒向けの授業評価アンケートの質問内容に加えたこと。それから、授業で用いた原告の著書のなかに、キリスト教主義に批判的な内容が一部含まれていたことも懲戒理由としてあげられている。

 読者のなかには、原告が政治的発言を行う者だったからではないかと推測する方もいるかも知れないが、原告はそんなことはなく、上記のような行為をしたに過ぎない。

 ところが、被告側は授業の盗聴は今回に限らず、以前から大学組織を守るために「慣例」として認められていると、「違法行為」と抗議する原告に言い放っていたという。

 そして、盗聴に限らず、以前から大学の権威やキリスト教主義を批判しないように、授業で使う教科書を検閲したり、教材を事前に検閲し配布禁止にしたりしていた。また、原告に限らず、以前にも些細と思われる理由で懲戒解雇された事例があるそうだ。

 横に、会員制情報誌『ベルダ』に寄稿した慶應大名誉教授で弁護士の小林節氏の記事(17年10月号)を転載しておいたが、同氏もいうように、教授は大学と契約した授業に関して自由に研究や発言する「学問の自由」(憲法23条)が保障されている。そして、教授の使う教科書を「検閲」するのも、まして「盗聴」など論外というか「違法行為」のはずだ。

 実際、16年10月、寄川氏が労働審判の申し立てを東京地裁に行なったところ、同年12月、解雇は無効として地裁は寄川氏を復職させるように明治学院を説得。ところが拒否したことから本訴訟に移行している。

 かつては東大ポポロ事件のように、大学構内に警官を入れることさえ大学の「学問の自由」と「自治」を犯すとして大問題になったのに、いつしか警官導入は当たり前に。本来、大学側の「盗聴」行為と聞けば大学内外から大きな批判の声が起きて当然とも思うのだがそれもなく、報道もなく、原告がほとんど孤立している状況は世も末というべき。

 遅ればせながら、今後の判決など注視したい。

2018年01月23日

授業を無断録音し教授を解雇した明治学院大学の犯罪

■紙の爆弾(2017年2月7日)

授業を無断録音し教授を解雇した明治学院大学の犯罪

浅野健一

 東京都港区白金台にある明治学院大学(明学大、松原康雄学長)といえば、日本最古のミッションスクールで、いまでは「SEALDs」が誕生したリベラルな学風で知られるが、この大学で教職員がある教授の講義を無断録音して、教授が教室で大学批判をしたとして懲戒解雇し、教授側が東京地裁に地位確認の裁判を起こすという紛争が起きている。
 筆者も3年前、理解不能の理由で定年延長を拒否されて同志社大学から完全追放され、京都地裁で地位確認訴訟を起こしており、今年3月1日に判決が言い渡される。一方、文部科学省の元高等教育局長が早稲田大学教授に天下りした問題も発覚した。明学大事案をきっかけとして、「大学教授」のあり方を考えたい。

 大学ぐるみで隠し録り、盗聴
 1月7日付の東京新聞に〈無断録音「学問の自由侵害」解雇の元教授、明治学院を提訴〉という記事が載った。このニュースは他紙には出ていない。同記事によると、授業を秘密録音(盗聴)されたことを告発して解雇されたのは倫理学を担当する寄川条路・明学大教養教育センター教授(55歳)だ。
 寄川氏は昨年12月28日、明学大を運営する学校法人明治学院に教授としての地位確認と、慰謝料など約1,370万円を求める訴訟を東京地裁に起こした。
 訴状などによると、寄川氏は2015年4月の講義で、大学の運営方針を批判したことなどを理由に、同12月に大学側から厳重注意を受けた。大学側は、授業の録音を聞いて寄川氏の批判を知ったと認めたため、寄川氏は学生が何らかの情報を知っているかもしれないと推測。テスト用紙の余白に大学側の教授の名前を挙げ「録音テープを渡した人を探している」と印刷し、呼び掛けた。これに対し大学側は、その教授が録音に関わった印象を与え、名誉毀損に当たるなどとして昨年10月17日付で懲戒解雇した。
 寄川氏は文学博士で、『ヘーゲル哲学入門』や『初期ヘーゲル哲学の軌跡』などの著書があり、「紀川しのろ」の筆名で随筆家としても知られ、和辻賞(日本倫理学会)、日本随筆家協会賞などを受賞している。14年10月には、東京都内の古書店でドイツの哲学者ヘーゲルの自筆書き込み本を発見し話題になった。
 寄川氏は同年10月28日、東京地裁に労働審判の申立を行なった。12月8日に地裁は「解雇は無効だから復職を勧める」とし、復職させるよう大学側を説得したが、大学側は「復職ではなく金銭解決を望む」と表明、寄川氏は「金銭解決ではなく復職」と要望したため、地位確認訴訟に移行することになった。
 大学側は労働審判で秘密録音の事実を認めた。寄川氏の授業を盗聴したのは教養教育センター長の黒川貞生教授で、実際に授業を録音したのは、大学によれば「教職員」とのことで特定されていない。
 授業を録音していたのは大学の方針を批判している教員を処分するためで、録音テープを使用していたのは、調査委員長の嶋田彩司教授(元センター長)。解雇理由は「懲戒解雇と普通解雇」の二つがある。懲戒解雇の理由は「授業の秘密録音が行われていたことを、関与した教員の名前を挙げて告発した行為。授業で学生に公表し、学内の人権委員会、教授会、教員組合に、学外の裁判所、マスコミ、文部科学省などに、通知したこと」など。普通解雇の理由は、「授業の内容と教科書の内容が大学の権威とキリスト教主義を批判しているから」だとされた。
 東京新聞の記事によると、大学側は労働審判で職員による録音を認めたうえで「録音したのは実質的には授業でなく、(年度初めの)ガイダンス。授業内容を根拠としての解雇ではない」と説明した。

 授業の盗聴は教育の自由の侵害
 これに対し、寄川氏は「授業の盗聴や秘密録音、録音テープの無断使用は不法行為である」「授業や教科書の検閲は、表現の自由、学問の自由、教育の自由の侵害である」と主張している。
 寄川教授はこう訴えている。
〈副学長によれば、明治学院大学では、授業の盗聴が「慣例」として行なわれており、今回の秘密録音も大学組織を守るために行ったとのことだ。同大学では、大学の権威やキリスト教主義を批判しないように、授業で使われる教科書や配付される資料を事前に検閲したり、提出された学生の答案用紙を無断で抜き取って検閲したりしていた。今回の事件については、授業を秘密録音して教員を解雇した「目黒高校事件」と同様、表現の自由、学問の自由、教育の自由をめぐって、これから本裁判で争われることになる。
 なお、明治学院大学は今年(15年)、教養教育センターの教員と科目の20パーセント削減を決めていた。〉
 寄川氏はメディア関係者へ送ったメールに、次のような〈小論「盗聴される大学の授業」〉を付けた(要約・抜粋)。
〈相手に知られることなく無断で会話や電話を録音する「秘密録音」が社会に急速に広がっている。(中略)大学の授業も例外ではない。熱心な学生が復習のために授業を録音するのではない。休んだ学生のために録音するのでもない。そうではなく、教授が何を話しているのかをチェックするために、大学が授業を録音するのだ。
 大学では、教室にこっそり忍び込んで、学生に気づかれないように授業を録音して、教員を処分するための証拠に仕立て上げる。録音資料は本人のいないところで使用し、だれが録音したのかはわからないように隠しとおす。
 先生たちは、自分の授業が録音され、ほかの先生たちに聞かれているのではないかと、おびえながら授業を進めていく。教員同士の信頼関係はくずれ、そこに学生たちも巻き込まれていく。(中略)
 大学の講義を盗聴しても、秘密録音しても、録音テープをかってに使用しても、何とも思わない大学教授の集団が、体制に順応し、組織を守り、規則に従い、国家に奉仕する、そうした模範的な青年を作り上げていく。標的とされるのはまずは思想系の教員で、哲学や倫理学を担当する教員が大学から排除される。空いたポストに実務経験者が学長推薦で採用され、就職のための教育を施す。実務教育に馴らされた学生たちは、飼育されて去勢され、りっぱな大人となって社会へ送り出されていく。異様な光景を見た若い先生は別の大学に移っていき、ベテランの先生はうつ病で辞めていく。こころの病で休んでいる先生は大学にも多い。
 かつて、授業の盗聴をめぐって裁判があった。録音資料をもとに教員を解雇した学校は違法ではないと主張し、解雇された教員は違法だと主張した。裁判所の判決は、教員の同意なく授業を録音することは適切な手段ではなく、そのようなことをすれば、「教育の自由の空気」が失われ、「教員の授業における自由および自主性」も損なわれるから、不当な支配に当たるというものだった。
 まっとうな判決だが、ことは法律の問題だけではないだろう。(中略)
 いつだれがどこで自分の声を録音しているのかわからない。大学のキャンパスからは、雑談や世間話をする声が消えてしまった。教室とは盗聴とか秘密録音とかをするところではなく、安心して教員と学生が自由に議論のできる場でなければならない。〉
 寄川氏の解雇理由には、彼が教科書にしていた紀川のしろ著『教養部しのろ教授の大学入門』(ナカニシヤ出版、2014年)も挙げられ、大学側は、「大学一般、明治学院大学、キリスト教主義への愚弄」などを問題にしている。
 この本では、平成学院大学(仮名)での教養科目を教える教授の1年がユーモラスに描かれている。無意味な教授会、大学の教員採用人事のいい加減さ、大学紀要の実態がリアルに描かれている。本の帯には「大学で教えるためには国家資格も教員免許もいらない。大学の先生になるための採用試験もなければ、教育実習もない」などとある。あとがきには、「世間の常識は大学では通用せず、大学の常識は世間では非常識となる」とあった。受験生や保護者が、日本の大学がどういうところかを知るには最適の本だ。

 名前も名乗らない明学大広報課長
 東京新聞の記事では、明学大広報課は「懲戒処分は手続きに沿って適正に判断した。個別案件についてはコメントできない」としている。私は1月16日、同広報課に電話したところ、「ソメカワ」という職員が対応した。彼女は、「(寄川氏の件は)係争中の案件なのでお答えできない。個別の案件の取材には応じられないということだ」と取材を拒否した。
 彼女は電話の最初に名前を名乗ったが、「大学の見解を広報課が伝えているので、私の名前、役職は言えない」と言い張った。「いまどき、広報課スタッフが氏名を言わないのは官庁にもない。課長などの管理職に代わってほしい」と私が言うと、「私が広報課長だ」と言った。そこで、広報課長の姓名を確認するため総務課に電話した。アオヤマと名のった課長は「取材なら、広報課にすべて任せる。広報課が判断したことについて何も言えない。私の氏名も言えない」と述べた。大学の総務課によると、私に対応したのは染川真由美・広報課長と青山尚史総務課長(元教務課長)だ。
 寄川氏は1月24日、私の取材に次のように述べた。
「大学側がいう『その教授が録音に関わった印象を与え、名誉毀損に当たる』とする教授は、調査委員会委員長の嶋田彩司教授です。録音者は教務課職員か黒川センター長と思われるが、特定されていません。録音が確認できているのは、全15回のうちの第1回目の授業。大学側は、1回目の授業を『通常の授業』ではなく『授業ガイダンス』と呼んでいます。1回目の授業で行なわれたのは、大学の授業の運営方針(=履修者制限)への批判です。556人収容の大教室なので教職員がいても気付かず、実際、教室の中に職員らしき人がいたことがあります。教室のドアの向こう側で教務課職員がスマホを操作していたことや、教授会を教務課職員が盗聴していたこともあります」
 寄川氏がこの事案を知らせた団体、組織の反応については、こう話した。
「学内の人権委員会、教授会、教員組合は取り上げない。朝日新聞と読売新聞は電話取材。東京新聞は面談取材。文科省は反応なしでした。メディアで報道したのは、私が知るかぎり、東京新聞・中日新聞だけです」
 寄川氏は「言いたいことは多々あるが、代理人の弁護士と相談したところ、裁判が終わるまでは、情報は大学側にも伝わるため、できるだけ公開しないほうがよいということなので、しばらくがまんしている。裁判が終わってから、存分に表現したい」と言っている。確かに、裁判になると、どんな組織も自己防衛のために何でもやってくる。裁判に勝つことが何より大事なので、賢明な判断だと思う。
 東京新聞以外の報道機関がこの事案を報道しないのはおかしい。新聞社にとって大学は重要な広告収入源などで、記事にしないのではないかと疑ってしまう。

 「日本最古のミッションスクール」で盗聴
 明治学院はヘボン式ローマ字で知られるジェームス・カーティス・ヘボンが1863年横浜に開いた「ヘボン塾」を起源として「キリスト教主義教育」を掲げ、教育の理念を「Do for Others」(他者への貢献)としている。
 明学大の寄川氏に対する解雇攻撃と被告・明治学院の言動は常軌を逸している。弾圧された側が授業で学生に無断録音の事実を公表し、大学内外に事案を伝えるのは当然だ。解雇理由が「大学の権威とキリスト教主義を批判しているから」というのは、大学とキリスト教主義の自殺行為だろう。教員の授業を盗聴した者が処分を受けるのならわかるが、「授業を盗聴され秘密録音されたことを大学に告発した」教授が懲戒解雇されるというのは理不尽だ。
 中山弘正・明学大名誉教授(元明治学院学院院長、経済学)は「大学が教員の教室で話したことを録音するなどということは、あってはならない。退職して13年もたつので、この件については何も知らないが、私がいた時には、そういうことは一度もなかった」と話している。
 中山氏は1995年6月に、明治学院の戦争責任を告白した。学校法人明治学院はこの告白文を入れた『心に刻む 敗戦50年・明治学院の自己検証』を発行、その冒頭にこう書いている。
〈日本国の敗戦50周年に当たり、明治学院が先の戦争に加担したことの罪を、主よ、何よりもあなたの前に告白し、同時に、朝鮮・中国をはじめ諸外国の人々のまえに謝罪します。また、そのことを、戦後公にしてこなかったことの責任をもあわせて告白し、謝罪します。〉
 また、この告白文には、戦時中に国策に協力した「日本基督教団」の〈「統理」冨田満牧師は自らも伊勢神宮を参拝したり、朝鮮のキリスト者を平壌神社に参拝させたりしました(1938年)〉という指摘や、〈1939年、明治学院学院長に就任した矢野貫城氏は、宮城遥拝、靖国神社参拝、御真影の奉戴等々に大変積極的に取り組みました〉という記述があった。最後に告白は、海外に軍隊を派遣し始め、「殉国」の思想が現代的装いをもって、じわじわと日本社会のなかに浸透していると指摘し、この邪悪なる時代に対処する力を備えるよう訴えている。
 明学大がいまやるべきは、教員の「監視」ではなく、戦前を取り戻そうとする邪悪な安倍政治への批判ではないか。

 「御用組合」は不適切用語と非難した同志社大学
 寄川氏の事案と、同志社大学(水谷誠理事長)が私を不当解雇した手口には共通点が多い。同大も「キリスト教主義教育」を掲げている。
 私は22年間、共同通信に勤めたあと、1994年から同大の大学院と学部でジャーナリズム論を教えた。14年3月末の「定年不延長」(同大では65歳が定年だが、大学院教授は70歳まで定年が1年ごと自動的に延長される)をめぐり、京都地裁において裁判中だ。
 私の場合は大学執行部との紛争ではなく、大学院社会学研究科メディア学専攻・社会学部メディア学科の同僚教員6人(渡辺武達名誉教授、小黒純・竹内長武・佐伯順子・池田謙一各大学院教授、河崎吉紀・学部准教授)と冨田安信社会学研究科長・社会学部長(当時。産業関係学教授)が共謀した闇討ちだった。この7人を背後で支えたのが、対米隷従で安倍首相に近い村田晃嗣学長(15年11月の学長選挙で敗北、現在法学部教授)らだ。
 小黒氏らは13年8月から地位裁判の代理人弁護士らと相談しながら私の追放作戦を進めた。小黒・竹内・佐伯・池田各氏は13年10月30日の社会学研究科委員会で私が退席したあと、私を"不良教授"と非難した「浅野教授 定年延長 審議資料」と題した怪文書を配布した。怪文書は、私が学生向けの講義要項に、〈大学院教授としての品位にかける表現 例「ペンとカメラを持った米国工作員」「労務屋」「企業メディア"用心棒"学者」「デマ」など〉の〈不適切用語〉を使ったと非難した。
 私は地位確認裁判とは別に、この4人と黒幕の渡辺氏を相手取って、京都地裁に名誉毀損・損害賠償訴訟を提起した。この「怪文書」5人裁判の証人尋問が1月12日に京都地裁で開かれ、原告の私と渡辺・小黒両氏が証言した。渡辺氏は「(浅野の定年延長について)全く関心がなく、何も関与していない」と証言した。
 小黒教授は主尋問では、私に対するヘイトスピーチをなめらかに述べたが、原告側弁護士による反対尋問では、人が変わったように言葉を見つけるのに必死だった。「博士後期課程の教授でないあなたに、浅野教授の業績を云々する資格があるのか」という質問には、「謙虚に答えなければなりませんが、……あると思う、ということにしておきましょう」と答えた。学生に労務を強制したという陳述書(16年12月20日=地位裁判結審の日に提出)の記載について、「何人の学生から聞いたのか」という問いには、「覚えていない」などと答えた。
 小黒氏は「(原告の支援者で)タドコロと名乗る人物が、私に対し『あなたは人の首を切って平気なんですね』と脅迫した。何らかの危害が加わられるのではないかと、恐怖にさらされ怖かった」「原告は、多数の学生を引き連れて佐伯教授を取り囲んだ」などと証言をしたが、ウソである。また「原告が職場にいることで教員は常時強いストレスにさらされ、長く続く恐怖感によって突発性難聴などを発症した。私は帯状疱疹に罹った」とも証言した。私が「菌」だというのだ。裁判は4月13日の次回期日で結審する。
 大学教授の地位は国会議員、法曹人、ジャーナリストなどと同様、簡単に剥奪されてはならない。私の恩師である白井厚・慶應義塾大学経済学部名誉教授(社会思想史)は14年1月の同大での「ドイツ古典哲学の教えるところによると、大学の教授というのは全面的な自由を持ってなければならないということだ。それは自由な発言をすることによって、優れた教授の優れた研究が生まれるからである」と話している。


明治学院大学解雇事件、新聞報道集

無断録音「学問の自由侵害」 解雇の元教授、明治学院を提訴

■「東京新聞」(2017年1月7日)

 授業を無断録音された上、懲戒解雇されたのは不当などとして、明治学院大(東京都港区)の元教授寄川条路さん(55)が、同大を運営する学校法人「明治学院」に教授としての地位確認と、慰謝料など約1,370万円を求める訴訟を東京地裁に起こしたことが、関係者への取材で分かった。
 訴えなどによると、寄川さんは一般教養で倫理学を担当。2015年4月の授業で、大学の運営方針を批判したことなどを理由に、同12月に大学側から厳重注意を受けた。大学側は、授業の録音を聞いて寄川さんの批判を知ったと認めたため、寄川さんは学生が何らかの情報を知っているかもしれないと推測。テスト用紙の余白に、大学側の教授の名前を挙げ「録音テープを渡した人を探している」と印刷し、呼び掛けた。これに対し大学側は、その教授が録音に関わった印象を与え、名誉毀損に当たるなどとして昨年10月に懲戒解雇した。
 寄川さんは「大学側が授業を録音したのは、表現の自由や学問の自由の侵害だ」と主張。労働審判を申し立てたが解決に至らず、訴訟に移行した。大学側は審判で職員による録音を認めた上で「録音したのは実質的には授業でなく、(年度初めに授業方針を説明する)ガイダンス。授業内容を根拠としての解雇ではない」と説明していた。
 同大広報課は、本紙の取材に「懲戒処分は手続きに沿って適正に判断した。個別案件についてはコメントできない」としている。

揺らぐ学問の自由、「盗聴」告発の明治学院教授

■「上智新聞」(2017年2月1日)

 2016年の学長選任規則改正による学長選挙の廃止を受け、本紙1月号は「問われる『大学の自治』」と題した記事を掲載した。
 機を同じくして、東京新聞1月7日朝刊に「『無断録音 学問の自由侵害』」という記事が掲載された。明治学院大学の寄川条路教授が、講義の無断録音及び懲戒解雇は不当だとして学校法人「明治学院」に対し、地位確認や慰謝料などを求める訴訟を起こしたという内容だ。「学問の自由の侵害だ」とコメントを出している寄川教授に対し、本紙が独自に取材した。
 寄川教授は以前から、講義の受講上限人数などをめぐり大学側と対立していた。大学側は学期初め講義を無断で録音し、教員の処分を検討する会議で使用していたという。寄川教授が秘密録音を「組織的な盗聴」だと関係者の名前とともに告発し、学生に情報提供を呼びかけると、大学側は名誉毀損だとして同教授を懲戒解雇。また教科書や講義内容が大学の理念にそぐわず教員不適格だとして、普通解雇を重ねて行ってきたという。寄川教授は「懲戒解雇だけでは、判例などから不当と判断されやすいため、より確実に解雇したいのだろう」と推測する。
 大学側は労働審判で録音の事実を認めながらも、録音したのは学期初回のガイダンスであり、解雇理由に講義内容は関係ないと主張。復職を求める寄川教授と金銭解決を目指す大学側とで決着がつかず、訴訟へと至った。現在も係争中で、寄川教授は今後訴訟の経過に応じて順次情報を公開する予定だという。
 寄川教授は「言論と表現の自由が保障されるべきなのは大学に限った話ではない」としながらも「講義の盗聴は教員のみならず学生たちの間にも不信感を招く。信頼関係を確立すべき教育の場では最も不適切な行為だ」と語る。また、学生に向けて「大学は何を言いたいか、何を聞きたいかを自分で考えることができる場。それを大事にしてほしいが、今行われているのはそうした場の破壊にほかならない」と大学の価値とその危機に目を向ける重要さを訴えた。(矢部新・成田一貴)
※寄川条路氏は学校法人明治学院と地位確認係争中であるため「明治学院大学教授」と表記しました。

 記者の目
 事態の詳細は司法の場で問われるべき問題であり、本紙が口を出せることではない。ツイッターを見れば、明治学院大学の学生から「教授の言い分や新聞の論調は一面的だ」等の批判もあるようだ。
 だが学問の自由という観点から言えば、大学側が無断で講義を録音していたという一点のみでも、紙幅を割いて追うべき理由としては十分だ。


学問の自由と信教の自由を弁(わきま)えない大学

■VERDAD, Oct. 2017

学問の自由と信教の自由を弁(わきま)えない大学

慶應義塾大学名誉教授
弁護士
小林 節

 明治学院大学の寄川条路教授(倫理学担当)が懲戒解雇された。理由は、同教授が、大学の教育方針と大学の設立母体であるキリスト教派の教義に批判的だからだそうである。その決定のために、大学は、同教授の教科書の内容を確認し、さらに、同教授の年度初回のオリエンテイション講義を無断で録音してその内容を確認したのことである。

 私は、かつて日本とアメリカの大学で学んで憲法学者になり、その後、日本とアメリカ等の大学で教授として働いた大学人として、この話に接した時、その信じ難い内容を、俄(にわか)には理解できなかった。

 人間は、文明を持つ特異な存在として、この地球上に君臨して来た。この世には、天変地異から人間関係や病気に至るまで、あらゆる出来事に因果関係がある。そして、人々を幸福にする因果関係を発見・増進し、逆に人々を不幸にする因果関係を発見・減殺しようと努力して来たのが、人類文明の歴史である。

 この、あらゆる事象の因果関係を追究する自由を「学問の自由」と言い、これは全ての人間に保障された人権である。しかし、高度の文明を生きる近代以降の人類は、職業としての学問に人生を懸けた人々が権力による弾圧と誘惑を逃れて学問の自由を享受する場としての「学問の自治」を確立した。

 だから、大学において、教授は、担当科目として大学と契約した科目に関する限り、その研究・教育の対象・方法・発展に関する自由を憲法23条により保障されており、教授の自由は、法に触れない限り、歴史の中で学問的評価以外により裁かれることはない。

 だから、大学当局が、教授の教科書を「検閲」したのも論外であるが、されに、教室に不法侵入して講義を録音するという違法行為まで犯して、それが「大学の方針に反する」など評価して、その地位を奪うことは論外である。

 教授という地位で採用された学者には、大学の方針に合わせて学説を曲げて講義をする義務などない。寄川博士の学説に反対な者には、それを批判する学問表現の自由が許されているだけで、そういう討論を経て発展して行くのが学問である。

 さらに。宗教団体が設立したいわゆるミッション系大学における学問の自由について、この際、言及しておきたい。

 まず、ある教団がその博愛主義と経済力の故に大学を設立した例は多い。そこでは、教団の人々が国家に対して大学設立の認可を申請し、その認可が下りた瞬間に、教団とは別人格の大学(学校法人)が生まれたのである。つまり、それは大学であり宗教団体ではないということである。

 大学において「宗教」が語られる場合、それは哲学、歴史学、民族学、社会学等の科学の対象として語られるもので、信仰・布教の一環として語られてはいけないのである。そこでは、学者として教授が、様々な宗教・宗派を科学の対象として批判的に論評する学問の自由が保障されている。

 だから、宗派内の日曜学校の説教師ではあるまいし、大学の一教授が学説として特定の宗派の教義に批判的であるからといってその地位を奪うなどという発想自体が大学人として論外である。これも、学説には学説批判で対応するのが大学人としてのマナーである。

 まるで、単なる人間的な好き嫌いに起因するパワハラを見ているようで、情け無い。

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2017年01月18日

明治学院大学事件、盗聴される授業 検閲される教科書

■寄川条路「盗聴される大学の授業」

相手に知られることなく無断で会話や電話を録音する「秘密録音」が社会に急速に広がっている。「クローズアップ現代」で特集された「広がる〈秘密録音〉社会」が、いまでは、会社や家庭を超えて学校にまで入ってきた。

大学の授業も例外ではない。熱心な学生が復習のために授業を録音するのではない。休んだ学生のために録音するのでもない。そうではなく、教授が何を話しているのかをチェックするために、大学が授業を録音するのだ。

大学では、教室にこっそり忍び込んで、学生に気づかれないように授業を録音して、教員を処分するための証拠に仕立て上げる。録音資料は本人のいないところで使用し、だれが録音したのかはわからないように隠しとおす。

先生たちは、自分の授業が録音され、ほかの先生たちに聞かれているのではないかと、おびえながら授業を進めていく。教員同士の信頼関係はくずれ、そこに学生たちも巻き込まれていく。

特定秘密保護法に反対して声を上げた学生たちがいた。安全保障法案に反対して国会を包囲した学生たちがいた。「シールズ」が誕生した、まさに同じ大学で、授業が盗聴され、録音資料が使い回されている。

大学の講義を盗聴しても、秘密録音しても、録音テープをかってに使用しても、何とも思わない大学教授の集団が、体制に順応し、組織を守り、規則に従い、国家に奉仕する、そうした模範的な青年を作り上げていく。

標的とされるのはまずは思想系の教員で、哲学や倫理学を担当する教員が大学から排除される。空いたポストに実務経験者が学長推薦で採用され、就職のための教育を施す。

実務教育に馴らされた学生たちは、飼育されて去勢され、りっぱな大人となって社会へ送り出されていく。異様な光景を見た若い先生は別の大学に移っていき、ベテランの先生はうつ病で辞めていく。こころの病で休んでいる先生は大学にも多い。

かつて、授業の盗聴をめぐって裁判があった。録音資料をもとに教員を解雇した学校は違法ではないと主張し、解雇された教員は違法だと主張した。裁判所の判決は、教員の同意なく授業を録音することは適切な手段ではなく、そのようなことをすれば、「教育の自由の空気」が失われ、「教員の授業における自由および自主性」も損なわれるから、不当な支配に当たるというものだった。

まっとうな判決だが、ことは法律の問題だけではないだろう。

授業を盗聴しても秘密録音しても、録音資料を無断で使用しても、まったくかまわないと開き直る大学人もいる。だが、信頼関係を確立すべき教育の場では、授業を隠れて録音するようなことはやめるべきだ。

いつだれがどこで自分の声を録音しているのかわからない。大学のキャンパスからは、雑談や世間話をする声が消えてしまった。教室とは盗聴とか秘密録音とかをするところではなく、安心して教員と学生が自由に議論のできる場でなければならない。

寄川条路