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2015年12月16日

大学評価学会、「無償教育の漸進的導入」原則違反の国立大学授業料値上げをもたらす財務省方針に抗議する声明

大学評価学会
 ∟●「無償教育の漸進的(ぜんしんてき)導入」原則違反の国立大学授業料値上げをもたらす財務省方針に抗議する声明

「無償教育の漸進的(ぜんしんてき)導入」原則違反の国立大学授業料値上げをもたらす財務省方針に抗議する声明

2015年12月13日 大学評価学会理事会

 新聞等の報道によれば、2015年12月1日、文部科学省は現在約54万円(年間)の国立大学授業料(全国86校)について、2031年度には93万円程度に上がるという試算を公表した(衆議院文部科学委員会の閉会中審査)。これは、財務省の「国立大学への国の支出を大幅に削減する/減収分は大学が自己収入で賄う」という方針を財政制度等審議会(分科会)が了承した(10月26日)ことによる。減額分をすべて授業料で賄うとすれば2016年度から毎年「2万5千円」、15年間で「約40万円」の値上げが必要という。現在でも入学金や学費が支払えず大学進学を断念する者や、入学しても授業料の支払いのために長時間のアルバイトを余儀なくされたり、卒業後も多額な奨学金の借金を抱えて不安を抱えている者が少なくない。この値上げ案は、現実的に国民の高等教育を受ける権利を奪うものとなる。

 最高法規である日本国憲法第26条は「教育を受ける権利」の保障を規定し、教育基本法は「経済的地位による教育上の差別禁止」および「教育の機会均等」を明記している。くわえて、日本政府は、2012年9月11日、国際人権A(社会権)規約の第13条第2項(b)(c)に係る留保を撤回した。それ以降、外務省ウェブサイトにもあるように、日本国はこの条約の定めに拘束される立場にある(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/tuukoku_120911.html)。すなわち、「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」(第2項(c))についても、これを「誠実に遵守する」義務を有している(日本国憲法第98条第2項)。

 大学評価学会(2004年設立)の初代共同代表であった田中昌人(故人・京都大学名誉教授)は、『日本の高学費をどうするか』という書を2005年に世に問うた。多くの関係団体が留保撤回を強く主張し、国連からも促されて、日本政府はようやく留保の撤回を行った。「無償教育の漸進的導入」(無償教育に少しずつ近づけていく)原則にかかわって、特に「授業料無償化」に関しては、立法的・行政的措置がとられるとともに、司法的にも問われるべきであるとされている(田中秀佳「国際人権法における教育の漸進的無償化 : 日本政府による社会権規約13条2項への留保撤回の意義」『日本教育法学会年報』43号、2014)。留保撤回後に、条約締約国として日本政府に求められているのは、まずもって「授業料無償化のためのアクションプランの策定」である。にもかかわらず、日本政府は「無償教育の漸進的導入」原則に基づく立法的・行政的措置を放棄し、授業料の減額化に取り組んでいない。そればかりか、「授業料値上げ」に帰結する今回の財務省方針は、同原則に背く内容である。公私立大学の学費値上げや学ぶ権利・進学機会を奪う事態のさらなる拡大にも繋がり、日本国憲法および教育基本法にも反する。仮に、このまま国立大学の授業料値上げ(国による授業料標準額の値上げ、各国立大学法人による値上げ)が強行されるとしたならば、留保撤回時に行われた過去の授業料等値上げとは異なって、明確な条約違反である。

 今回の財務省方針に反対する声明や基盤的経費拡充の要望書が国立大学協会(2015年10月27日)、国公私立大学代表連名(同年11月18日)、各国立大学からも相次いでいる(学長にとどまらず、地方財界人や首長、著名人を含む)。高学費に依存する文教政策や大学法人経営のありようは、留保撤回とともに見直され、計画的に「無償教育の漸進的導入」(学費減免措置の拡大、給付型奨学金の創設、教育ローンにおける所得連動返還制の拡充などを含む)、とりわけ「授業料減額化」「授業料無償化」が国公私立を問わずに進められねばならない。留保撤回を契機として、大学関係者は学生・地域関係者・国民などとともに、政府に対して「無償教育の漸進的導入」原則にふさわしい予算の増額や政策の転換を求めていくべきである。若者の学ぶ権利・発達の権利を侵害すれば、日本社会の未来を危うくすることになろう。

 大学評価学会理事会は、「無償教育の漸進的導入」原則違反の国立大学授業料値上げをもたらす財務省方針に強く抗議する。

【これまでに公表した声明】大学評価学会HPにて入手可能 http://www.unive.jp/
○2012年3月2日/大学評価学会 国際人権A規約第13 条問題特別委員会:「韓国-米国-日本」が連帯した大学学費問題に関する3月2日公表の声明 (日本語、英語)
○2014年1月22日/大学評価学会 国際人権A規約第13 条問題特別委員会:「無償教育の漸進的導入」原則に反する私立大学授業料の値上げ方針に抗議する声明」(日本語)
【これまでに公刊した書籍】インターネットにて学会事務局または書店から購入可能
○大学評価学会編『高等教育における「無償教育の漸進的導入」:授業料半額化への日韓の動向と連帯』(シリーズ本第6巻)晃洋書房、2013年。
○細川孝編『「無償教育の漸進的導入」と大学界改革』晃洋書房、2014年。
【これまでに発表したポスター】
○日永龍彦ほか:「無償教育の漸進的導入」原則にそくした大学等の在り方(2014.9.12-14.)http://www.unive.jp/
○WATANABE Akio, et al.: Impact of an international legal norm of "the progressive introduction of free education" on secondary/higher education policy in Japan(2015.10.15.)
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/90002882.pdf 


2015年06月20日

大学評価学会、声明「『安全保障関連法案』の撤回を求めます」

大学評価学会
 ∟●声明「『安全保障関連法案』の撤回を求めます」

大学評価学会の代表理事等有志は「安全保障関連法案」の撤回を求めます

2015年6月19日

 大学評価学会(以下、学会)は2004年3月に発足して以降、日本の大学(高等教育)の発展を願うとともに、学生(若者)と大学教職員の発達保障を願って、大学評価に関する学術的な営みを続けてきました(大学評価学会設立大会「大学評価京都宣言=もう一つの『大学評価』宣言」http://www.unive.jp/)。国会では現在、「安全保障関連法案」に関する審議が行われていますが、わたしたちの学会の立脚点からしてこの法案の内容および審議は大きな問題を有していると考えます。そこで、以下のような見解を表明し、日本の社会の民主的な発展と日本の大学(高等教育)の社会的な責任の発揮に向けた営みを続けていく決意を表明します。

 安全保障は軍事的なパワーに依るべきではなく、市民社会の合意にもとづいて平和的な手段によって実現されるべきものです。しかるに現在、政府によってめざされている安全保障は軍事力に依拠するものであり、国際的に緊張感をいっそう高めるものです。第2次世界大戦の反省にたって、日本国憲法は、その前文で「・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と宣言し、また第9条は「・・・武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と明記しました。日本国憲法は、戦後の国際社会において先駆的な役割を果たしてきました。それは、ノーベル平和賞の候補にあがるほど画期的な意味を有しているものです。

 基本的な人権の一つである学習権(教育権)は、平和な社会でこそ可能になるものです。第2次世界大戦後の日本がさまざまな課題を抱えつつも発展をとげてきた原動力の一つは、教育の力に他ならないと考えます。これからの日本社会の発展にとっても、教育は引き続き大きな力を発揮すると考えます。その際に、日本国憲法の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」非戦・平和の精神は、重要な指針を与えてくれるものと確信します。

 ところが、政府が提案する「安全保障関連法案」が立脚するのは、以上のようなこととは全く異なります。学問の自由や教育の自由は大きく制約され、軍事(戦争)のための学問に資することを求められかねません。この動きは、特定秘密保護法制定以来すでに軍産学共同(協同)による研究・教育への圧迫として顕在化しています。さらには、多様な国籍をもち、思想信条や信仰の異なる人々が「学問の自由」の下に集う(国立)大学に対して、式典等での国旗掲揚・国歌斉唱を強く要請する事態にまで至っています。わたしたちの研究や教育は、真理の探究、平和で民主的な社会、国際理解の実現をめざしたものであり、政府が提案する「安全保障関連法案」が目ざすものとは根本的に異なります。

 わたしたちは高等教育機関において教育や研究に携わっています。70年以前の日本の社会は、未来ある若者たちを戦場に送り、戦死者として迎えたことを想起しなければなりません。「安全保障関連法制」が実現されれば、わたしたちの身近にいる学生たち、若者たちが戦場に銃をとって向かい、戦死者として弔われることとなる恐れさえあるのです。

 以上のようなことから、わたしたち代表理事等有志は学問の自由・教育の自由、そして未来ある若者の発達保障、さらには21世紀の平和で持続可能な国際社会の発展に向けて、政府が提案する「安全保障関連法案」に反対するとともに、会期延長は行わず法案を速やかに撤回し廃案とすることを強く求めるものです。

【植田健男(代表理事)/重本直利(代表理事)/井上千一(副代表理事)/岡山茂(副 代表理事)/日永龍彦(副代表理事)/渡部昭男(事務局長)/細川孝(事務局次長)】

2014年01月27日

大学評価学会国際人権A規約第13条問題特別委員会、「無償教育の漸進的導入」原則に反する私立大学授業料の値上げ方針に抗議する声明

大学評価学会
 ∟●「無償教育の漸進的導入」原則に反する私立大学授業料の値上げ方針に抗議する声明

「無償教育の漸進的導入」原則に反する私立大学授業料の値上げ方針に抗議する声明


2014年1月23日 大学評価学会国際人権A規約第13条問題特別委員会


 新聞等の報道によれば、少なくない私立大学が 2014 年 4 月から授業料を値上げするという。「教育環境の充実」が理由とされているようだが、春からの「消費税率の引き上げ」も大きく影響していることは明らかである。したがって、個別大学の責任のみに帰することはできないが、実は条約違反に繋がる重大事態であり、本委員会は厳しく抗議する。

 日本政府は、1979年に国際人権A社会権)規約を批准したにもかかわらず、第13条第2項(b)(c)を留保してきた。すなわち、「無償教育の漸進的導入」(少しずつ無償に近づけていくこと)に係る中等教育および高等教育の箇所である。本委員会のメンバーであった田中昌人(故人・京都大学名誉教授)は『日本の高学費をどうするか』という書を 2005年に世に問い、多くの関係団体が留保撤回を強く主張してきた。国連からも促され、日本政府は 2012年9月11日、留保撤回を行った。したがって、それ以降、外務省ウェブサイト(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/tuukoku_120911.html)にも記載されているように、日本は「無償教育の漸進的導入」原則に拘束される立場となっている。有名私学を含む今回の値上げ方針は、留保時に行われた過去の値上げ措置とは異なり、条約違反に繋がる重大事態と言わざるを得ない。

 高学費に依存する文教政策や大学法人経営のありようは、留保撤回とともに見直され、計画的に「無償教育の漸進的導入」が進められなければならない。留保撤回を契機として、大学関係者は学生・国民とともに、政府に対して「無償教育の漸進的導入」原則にふさわしい予算の増額や政策の転換を求めていくべきである。本委員会は、すでに 2012年3月2日、高等教育予算のGDP比率1.2%OECD 平均)への拡大、給与型奨学金の復活、授業料の半額化などを求める声明を公表している(学会 HP http://www.unive.jp/)。

 ところで、日本と同様に高学費であったお隣の韓国では、国民の運動に押されて「学費負担の軽減」が総選挙や首長選挙、大統領選挙の公約となり、現に登録金の半額化・減額化、給与型の国家奨学金の開始、国の教育予算の増加などが進んでいる(大学評価学会『高等教育における「無償教育の漸進的導入」―授業料半額化への日韓の動向と連帯―』2013年、など)。OECD 諸国の中で日本は、高等教育を含む教育機関への公的支出のGDP比率2010年)が韓国の4.8%にも劣る3.6%であり、なんと4年連続の最下位となっている。

 日本では、大学等進学率は 50%超で頭打ちとなっており、ここ数年は漸減傾向を示している。その背景に、高学費と厳しい家計の状況があることは明らかだ。「消費税率の引き上げ」は、家計にいっそうの負担を強いることとなり、進学機会を奪う事態の拡大にも繋がる。若者の学ぶ権利を侵害すれば、日本社会の未来を危うくすることになろう。

 私立大学は公教育を担う存在であり、日本においては大学生のうち 7 割以上が私立大学に学んでいる。このような点で、今回の私立大学の授業料値上げ表明は、個別大学の問題としてのみ受け止めることは出来ず、看過することはできない。留保撤回以降は、個々の学校法人にも「無償教育の漸進的導入」原則を尊重する大学経営が求められている。このことは大学自らが果たすべき社会的責任の一環でもあり、とりわけ巨額の内部留保を有する大手私立大学の社会的責任は重大であろう。

2013年12月06日

大学評価学会、「大学における教育・研究および評価に関連する声明」

大学評価学会
 ∟●大学における教育・研究および評価に関連する声明

大学における教育・研究および評価に関連する声明

2013 年 12 月 4 日 大学評価学会理事会


 大学評価学会は、日本における大学等(大学を含む高等教育機関)の発展を願って、学術団体としての立場から、以下の通り理事会声明を発表します。なお、1.については文部科学大臣宛てに抗議文を、2.については参議院議長および特別委員会宛てに要望書を、3.については関係の委員会宛に反対声明を、送付します。

1.「高校無償化廃止法案」の成立に対する抗議
 11 月 27 日の参議院本会議において、2014 年度から高校授業料の無償制を止め、所得制限を設けるという「高校無償化廃止法案」が可決されました。2010 年度から実現した高校授業料の実質無償化は、わずか 3 年で廃止されることとなりました。
 この「高校無償化廃止法案」のもつ問題点は少なくありませんが、見過ごすことができないのは、2012 年 9 月に日本政府が行った、国際人権規約 A(社会権)規約第 13 条に定める中等教育および高等教育における「無償教育の漸進的導入」に関する「留保」の撤回に逆行するということです。
 大学評価学会は 2004 年 3 月の設立以来、2006 年問題特別委員会(現在の国際人権 A 規約第 13 条特別委員会)を中心にして「無償教育の漸進的導入」を求める学問的探究と社会的なネットワークの構築に力を尽くしてきました。高校授業料の実質無償化に続いて、大学等における「無償教育の漸進的導入」が課題と認識し、学問的営みを続けてきました。
 高等学校等に学ぶ生徒たちに豊かな学びと、大学等へのスムーズな移行を保障していくことは、若者の発達にとって不可欠な課題です。中等教育、高等教育における教育条件を改善し、若者がこれからの社会の中心的な担い手として成長できるような大学づくりをめざす観点から、大学評価学会理事会は、「高校無償化廃止法案」の成立に抗議します。

2.「特定秘密保護法案」の廃案を求める要望
 11 月 26 日の衆議院本会議において、多くの問題点を有する「特定秘密保護法案」が可決されました。与党と幾つかの野党の「修正」を経て、本会議に上程されましたが、この「法案」に関しては、世論調査をみても「反対」が「賛成」を大きく上回っており、国民の民意とかけ離れたものとなっています。マスコミやジャーナリスト、弁護士、研究者などの反対の意見表明も相次いでいます。
 「法案」のもつ問題点は、大学等の評価の在り方とも無関係ではありません。真に意味のある評価には、「特定秘密」などない情報の公開・開示が不可欠です。また、研究分野や研究対象によっては、研究者本人の知らないうちに「処罰」の対象となりかねません。「処罰」の対象は、研究者本人にとどまらず、それを知りうるあらゆる人々、例えば、研究者の家族、研究室に所属する学生や卒業生、大学の情報処理関連の職員、研究機器・備品を納入する業者など、非常に多岐にわたる可能性があります。自律的な改善を図るための評価活動においてさえ特定秘密に該当する研究活動を取り上げることができず、同僚研究者による評価にさらされることさえありません。対象となる研究費を受け入れた場合には秘密裏に処理されることになり、学外から選任された監事や公認会計士の目に触れないようにせざるをえません。
 このように、「特定秘密保護法案」は学術の民主的な発展にとっても阻害要因となるものです。
 大学評価学会は、自主的・主体的な大学評価を通じて、日本の学術を発展せることを願って大学評価の研究を行っています。このような立場からして、大学評価学会理事会は、衆議院で可決された「特定秘密保護法案」はいったん廃案にし、改めて審議しなおすことを求めます。

3.大学における不安定雇用化をいっそう進める「研究開発力強化法改定案」に反対する
 11 月 27 日、衆議院文部科学委員会に「研究開発力強化法改定案」が提出されました。この「法案」は、有期雇用(期間の定めのある)研究者や教員などの雇用を無期雇用に転換する期間を、5 年から 10 年に延長しようとするものです。
 今年 4 月に施行された労働契約法の改定によって、有期雇用を 5 年間継続すれば無期雇用に転換できるルールがつくられました。実際には(企業だけでなく)いくつかの大学でもみられるように法の趣旨を逸脱した動きや脱法的な動きが広がっていますが、労働契約法の改定は積極的な意義をもっています。
 「研究開発力強化法改定案」は、この無期転換ルールを特例条項によって 10 年に延長しようとするものです。「高学歴ワーキングプア」の存在が広く知られるようになっているように、日本の大学や研究機関には、不安定雇用が増大しています。不安定雇用におかれた研究者は賃金等の労働条件が劣悪なだけでなく、さまざまなハラスメントの被害にあったり、短期の任期内で研究業績を量産することを目的とした「ゆがんだ」研究を強いられたりする深刻な問題が生じています。
 いま求められているのは、安定した雇用のもとで研究・教育に専念できる環境の整備です。そのことが日本の学術の発展につながり、ひいては真の意味で国際社会の発展にも寄与できると考えるものです。この点で、「研究開発力強化法改定案」は時代の要請に逆行するものでしかありません。
 大学においてだけでなく、社会的にも不安定雇用の問題は、若者の未来の希望を奪っており、日本社会の今後にとっても喫緊の課題です。「国際競争力強化」の名のもとに、不安定雇用を増大させていくことは、日本社会が直面する困難を増大させるだけです。豊かな教育環境のもとで学生たちが学び、人間らしく働くことのできる社会を実現していくことは、大学関係者の重要な社会的責任の一つです。その一環として、学生たちの教育に携わる者の雇用条件を充実させることは重要な課題です。
 以上のことから、大学評価学会理事会は、研究者や教員などの不安定雇用化をいっそう進める「研究開発力強化法改定案」に反対する立場を表明します。


2012年08月09日

大学の授業料半額化運動が進む韓国、大学評価学会が日韓シンポを8/31に開催

■大学評価学会
 ∟●大学の授業料半額化運動が進む韓国、大学評価学会が日韓シンポを8/31に開催

大学の授業料半額化運動が進む韓国 大学評価学会が日韓シンポを8/31開催

【ようやく国際社会の仲間入り】
 2012年2月、玄葉光一郎外務大臣は国際人権A規約(社会権規約)13条「教育に関する権利」の(b)(c)の「留保」撤回を表明しました。(b)は中等教育(中学、高校)、(c)は高等教育(大学等)についての「無償教育の漸進的導入」を定めたものです。日本政府が同規約を批准する際(1979年)に、賛同せず留保したことを、ようやく見直すものです。留保していた国のうち、ルワンダは2008年に撤回をし、残るは日本とマダガスカルの2国のみとなっていました(なお、アメリカは批准さえしていない)。
 これで日本も、「無償教育の漸進的導入」についてようやく国際社会の仲間入りをし、前進する足がかりができました。しかし、政府の具体策はまだ定かではありません。今こそ、この変化を実現していくための探究と運動が求められています。

【日本の高学費をどうするか】
 『日本の高学費をどうするか』は、大学評価学会の設立にもかかわった田中昌人氏(京都大学名誉教授)の遺著(新日本出版社、2005年)のタイトルです。大学の年間授業料は、1970年に国立で12,000円、私立平均で82,000円でした。それが現在、国立は53万円余り、私立平均は85万円余りにまで高騰しています。日本の高学費は世界一です。
 その背景には、公財政支出を抑制し、家計(私費)に依存するという人権軽視の「受益者負担」政策があります。進学を断念したり、中途退学することは、珍しくありません。また、世界では当たり前の給付制の奨学金は廃止され、有利子奨学金と称した「教育ローン」が若者に押しつけられているのです。
 教育基本法は「経済的地位」による教育上の差別を禁止し、「教育の機会均等」と「奨学の措置」を謳っていますが、日本において経済的な進学格差があることは周知のことです。

【韓国では授業料半額化の市民運動が】
 お隣の国、韓国でも昨年、『狂った授業料の国』という本が出されました。両国はともに、高等教育費の対GDP比が0.6%(2007年)とOECD加盟国で最下位にあります。その韓国で今、大学登録金(授業料を含む納付金)半額化の大運動が展開されているのです。市民活動家弁護士の朴元淳新市長が昨年誕生したソウル市では、市立大学の授業料の半額化が今年実現しました。また、韓国大学教授労組からは「登録金後払い制」といった興味深い提案もなされています。
 私たち大学評価学会では、2004年の設立以来、「無償教育の漸進的導入」について研究運動を進めてきました。今年の2月には韓国を訪問し、大学関係者や市民団体と交流しました。韓流ブームと言われますが、この面でも韓国から学ぶべきことは多いと思います。

【日韓連帯シンポジウムを8/31に開催】
 今回は韓国から関係者を招いて、「『無償教育の漸進的導入』に関する日韓(韓日)連帯シンポジウム」を開催します(龍谷大学社会科学研究所「大学評価・大学経営研究センター」共催)。韓国側からの二報告(大学登録金半額化の市民運動、大学教育への公的責任の強化策並びに登録金後払い制の提案)の他、日本からも大学教員(国庫助成に関する全国私立大学教授会連合)、教職組(日高教)、学生(京都府学連)が発言し、両国における取り組みの交流を行います(通訳有)。皆様方におかれましても、是非ご参加下さい。
 

シンポジウムは8月31日(金)13時から17時半まで、会場は龍谷大学アバンティ響都ホール(京都駅八条東口、アバンティビル9階)です。参加費は無料です。多数の市民の方々の参加をお持ちしています。問い合わせ先は、龍谷大学細川研究室、 電話・Fax:075(645)8634、e-mail:hosokawa@biz.ryukoku.ac.jpまでお願いします。

2012年03月05日

大学評価学会、「韓国-米国-日本」が連帯した大学学費問題に関する3月2日公表の声明について

大学評価学会
 ∟●「韓国-米国-日本」が連帯した大学学費問題に関する3月2日公表の声明について

「韓国-米国-日本」が連帯した大学学費問題に関する3月2日公表の声明について

 龍谷大学社会科学研究所の共同研究の一環として,大学評価学会のメンバー3名(望月・日永理事,渡部幹事)が韓国の大学事情の現地調査を行いました(2012年2月13-16日)。

 調査先の参与連帯(市民運動の全国センター)の話では,韓国では1980年の民主化運動を担った層が親世代になり,「大学授業料(韓国では登録金)半額化」が国民的課題になっているとのことでした。昨年の選挙で市民活動家の朴元淳弁護士が市長になったソウルでは,全国に先駆けて,ソウル市立大学の登録金を2012年度から半額化するそうです。加えて,韓国の大学教授労組では,「登録金の後払い制度」(卒業後に就職し一定の年収を得てから払う仕組み)の導入を提起していました。韓国では4月に予定されている総選挙においても,大学学費問題と高等教育への公的責任の明確化が重要な争点となっているということに,私ども調査団は大変驚かされるとともに勇気づけられました。

 訪韓の際に,参与連帯から訪問団に対して,大学学費問題で状況が似ている「韓国-米国-日本」で連帯した活動を展開していきたいとの申し入れがありました。2月末になって,3月2日に共同声明を公表したいとの呼びかけが参与連帯のアン・ジルゴン氏より急遽届きました。
 渡部が大学評価学会「国際人権A規約第13条問題特別委員会」の担当幹事であることから,学会の細川事務局長,特別委員会の重本委員長とも協議した上で,急ではありましたが渡部が声明文案を作成し,特別委員会として共同声明に参加することにしました。

詳細については3月10日開催予定の理事会にて報告いたします。
なお,3月2日に公表予定の声明文は以下の通りです。
【日本語】【英語】~添付データの通り
【韓国語】~翻訳を日本希望製作所経由で依頼しています。

【日本語Japanese】
 2004年に設立された私たち大学評価学会(日本)は,「国際人権A規約第13条問題特別委員会」を設けて「無償教育の漸進的導入」に係る活動を様々に展開してきた。

1)国際人権A規約第13条には,(a)義務教育は無償であるとともに,(b)中等教育及び(c)高等教育にあっても「無償教育の漸進的導入」に努めるべきことが明記されている。しかし,日本政府は,1979年の批准から今日に至るまで(b)(c)項を留保したままである。日本政府は国際人権A規約第13条(b)(c)項の留保をすみやかに撤回し,高等教育においても「無償教育の漸進的導入」を推進すべきである。

2)日本の高等教育予算はGDP比率0.6%に過ぎず,OECD参加国の中で韓国とともに最低レベルである(OECD資料2010年)。現在,大学授業料は国立校で約54万円,私立校で平均85万円であり,入学金や生活費等を合わせると一人年額100~200万円にもなっている。年収の低い家庭においては,大学進学を諦めたり,合格しても中途退学したり,アルバイトで授業に出られない学生が増えている。にもかかわらず,更なる大学学費の値上げと受益者負担の徹底が目論まれている。日本政府は,高等教育に果たす国の責任を明確にし,高等教育予算をまずはOECD国の平均であるGDP比率1.2%に上げるべきである。そして,授業料を思い切って半額に値下げし,給与型奨学金を復活するなどして,家庭の経済的地位にかかわりなく,学ぶ意思ある全ての者に大学の門戸を開き「学ぶ権利」を保障すべきである。

2012.3.2. 大学評価学会「国際人権A規約第13条問題特別委員会」


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2010年04月08日

国際人権A規約第13条の会・大学評価学会国際人権A規約第13条問題特別委員会、政府宛「国際人権A規約の第13条2項Cの留保撤回に関する要請書」

13条の会と大学評価学会特別委員会の要請行動
国際人権A規約第13条の会、内閣総理大臣鳩山由紀夫要請書
大学評価学会・国際人権A規約第13条問題特別委員会、国際人権A規約の第13条2項Cの留保撤回に関する要請書

13条の会と大学評価学会特別委員会が共同で要請行動を行いました

 2010年3月15日(月)、国際人権A規約第13条の会(13条の会)と大学評価学会・国際人権A規約第13条問題特別委員会(大学評価学会特別委員会)は、2団体で共同して、「高等教育における無償教育の漸進的導入」の問題で関係機関への要請行動を行いました。要請先は、内閣総理大臣と文部科学大臣であり、民主党幹事長室と文部科学大臣政務官を訪問し、要請文を手渡しました。
 民主党幹事長室では、文部科学省担当の広野ただし副幹事長が応対してくださり、約30分にわたって懇談しました。副幹事長からは、「財政的に困難な状況なもとで、まずは高校教育から実質的に無償化に着手したところである」「要請の趣旨は政府にしっかりとお伝えする」などの発言がありました。参加者は、「2010年度予算案では、高等教育予算を充実させていく展望が見えない」「若者を励ますような姿勢を明確に示してほしい」「学生や父母の経済的困難は深刻さを増しており、まったなしの状況である」などと述べ、「留保」の撤回と、高等教育予算の増額、「無償教育の漸進的導入」の推進を強く求めました。
 文部科学大臣への要請では、高井美穂政務官が対応してくださり、執務の合間の慌ただしい時間でしたが、約20分間懇談することができました。政務官からは、「給付型の奨学金を前向きに検討していきたい」「財政支出を増額していくためには、国民が納得してくれる高等教育の質が求められている」「外務省からは、中等教育に関する13条2項(b)のみ『留保』を撤回する案も出されているが、われわれとしては(c)を含め前向きに考えていきたい」などと、率直な見解が示されました。政務官との懇談では、限られた時間の中でしたが、高等教育のありようについても突っ込んだ意見交換が行われました。
 このほか、要請行動の合間に、文部科学省の記者クラブで記者会見を行い、マスコミ各社に対し、要請行動の趣旨と「高等教育における無償教育の漸進的導入」の重要性を伝えました。参加した記者からも質問が寄せられました。また、参議院文教科学委員会委員の藤谷光信議員を訪問し、懇談しました。
 ここで少し個人的な印象を、2点に限って述べさせていただきます。まず、今回の要請を通じて、新政権が誕生したとはいえ、そして、国際人権A規約第13条2項(b)(c)の「留保」撤回を公約した政党が国会で多数を占めているとはいえ、これを実現させるには、わたしたちの運動と研究が重要であるということを痛感したということです。
 そして、高学費政策を転換させ「無償教育の漸進的導入」を推進していくだけでなく、「競争的な教育」を転換させていく課題を正面に据えることの重要性です。受益者負担論と自己責任論は一体的なものであり、この両者を克服していくことが必要です。「お金をかけても学ばない人間がいる。だから、税金は使えない」がごとくの論調がありますが、子どもたち、若者が苦しんでいる現状を社会的に捉えることが大切です。教育を権利としてとらえるとともに、社会との関係でとらえていくことの重要性を改めて感じました。
 今回の要請行動には、13条の会から代表の三輪定宣さん(千葉大学名誉教授)、碓井敏正さん(京都橘大学)ほかが参加しました。大学評価学会特別委員会からは、特別委員会代表の重本直利さん(龍谷大学)ほかが参加しました。
 要請行動が実現するに際しては、水岡俊一参議院議員および種田豊秘書のご協力を得ました。記して御礼申し上げます。      (文責:細川孝(13条の会運営委員会代表))

* 以下は、2団体の要請文です。川端達夫文部科学大臣宛の文書も同じ内容です。

2010年3月15日

内閣総理大臣 鳩山由紀夫 様

国際人権A規約第13条の会     
代表 三輪 定宣(千葉大学名誉教授)
碓井 敏正(京都橘大学教授)

要請

 第174国会の施政方針演説(1月29日)で鳩山由紀夫首相は、「……すべての意志ある若者が教育を受けられるよう、高校の実質無償化を開始します。国際人権規約における高等教育の段階的な無償化条項についても、その留保撤回を具体的な目標とし、教育の格差をなくすための検討を進めます。……」と述べられました。わたしたちは、今回の首相の発言を全面的に支持し、これを心より歓迎いたします。
 ぜひ本国会において、国際人権規約A規約(社会権規約)第13条2項(b)(c)の「特に、無償教育の漸進的な導入により」により拘束されない権利に関する「留保」を撤回することを求めるものです。そして、「無償教育の漸進的導入」のための施策を推進されることを求めます。

1.2009年8月の衆議院選挙で示された民意
 この間の急激な経済状況の悪化のもとで、格差・貧困問題はよりいっそう深刻化し、「構造改革」の矛盾は誰の目にも明らかとなりました。先に行われた総選挙では、これまでの政治のあり方に反省を求める民意が明確に示され、民主党を中心とする政権の発足につながりました。選挙の争点となり、国民から大きな期待が寄せられたのが、教育政策であります。政権発足後、政府は後期中等教育(高校教育)の無償化に着手されたのです。

2.国際社会から見直しを迫られる「留保」
 日本政府は、1979年に国際人権規約A規約(社会権規約)を批准する際に、上記の通り「留保」を宣言しました。この審議の際には「留保については諸般の動向をみて検討すること」が、そして1984年7月には「諸般の動向をみて留保の解除を検討すること」が、いずれも全会派によって附帯決議されています。
 以来30年間にわたって日本政府は「留保」を続けるだけでなく、「無償教育の漸進的導入」の理念に逆行する「有償教育の急進的高騰」を進めてきました。このようなもとで、国際社会からは、「留保」の撤回を求められるところとなっていることは周知の事実です。 
 しかしながら、昨年12月に国連の社会権規約委員会に提出された「政府報告書」では、「留保」撤回の意思は示されておりません。国連人権理事会の理事国として、そして日本国憲法をもつ国として、早急に是正されなければならないと考えるものです。

3.21世紀の市民社会にとって不可欠な「無償教育の漸進的導入」
 21世紀の社会は「知識基盤社会」であると言われます。一握りの優秀な人間をつくりだし、その者たちが社会を牽引していくのは、「知識基盤社会」ではありません。市民誰もが豊かな知識を有し、科学的な知識にもとづきながら社会的、人類的な諸課題に連帯して取り組んでいけるような社会が期待されているのです。
 「知識基盤社会」を実現するためには、高等教育までを含め、誰もが安心して学べるよう学習権を保障していくことが欠かせません。このことは国際人権A規約第13条の精神とも合致するものです。21世紀の豊かな市民社会を実現していく上で、高等教育までを含め「無償教育の漸進的導入」を総合的な施策のもとに、計画的に推進していくことが急務となっています。

以上

内閣総理大臣 鳩山由紀夫 殿

国際人権A規約の第13条2項Cの留保撤回に関する要請書

 
2010年3月15日
大学評価学会・国際人権A規約第13条問題
特別委員会代表 重本直利(龍谷大学)

要請趣旨(以下の大学という表記には研究機関、短期大学を含む)
2004年4月1日より、文部科学省によって認証された評価機関による大学評価が法的に義務づけられました。言うまでもなく大学評価は教育・研究のありように直結するものです。また、学問の自由、それに基礎づけられた大学の自治の根幹に関わるものです。認証評価機関による評価、その他の評価機関による外部評価を含め大学評価のあり方は、今後の大学の帰趨を決する大きな課題と言えます。この評価にあたって、まず何よりも問われるべきは、その基礎的条件(土台)としての高等教育予算の評価です。周知のようにGDPにしめる日本の高等教育予算は、OECD諸国にくらべ著しく劣っており、速やかにGDP 1.0%水準の確保が求められています。また、この高等教育予算の低さは、国公私立大学の授業料を平均すると世界一の高さになり、国民の教育負担はすでに限度を超えております。1966年12月に国連において採択された国際人権A規約第13条2項Cの「高等教育の漸進的無償化」について、日本国は依然として留保しています(なお同規約批准国中、他の留保国はマダカスカル一国のみです)。2001年における国連の「経済的、社会的および文化的権利に関する委員会の最終見解―日本―」では、日本政府に対して、この「高等教育の漸進的無償化」について、留保撤回に向けてとった具体的な措置を2006年6月30日までに報告することを求めました。しかし、昨年12月に国連の社会権規約委員会に提出された「政府報告書」では、「留保」撤回の意思は示されておりません。また、依然として日本政府および文部科学省はこのための具体的措置を講じておりません。
第174通常国会の施政方針演説(1月29日)で鳩山由紀夫首相は、「すべての意志ある若者が教育を受けられるよう、高校の実質無償化を開始します。国際人権規約における高等教育の段階的な無償化条項についても、その留保撤回を具体的な目標とし、教育の格差をなくすための検討を進めます」と述べました。大学の教育・研究の具体的営みおよびその評価は、大学の基礎的条件と密接不可分であります。すみやかに、国際人権A規約第13条2項Cの留保撤回および大学の教育・研究の基礎的条件の整備に向けた具体的な措置を講ずることを求めるものです。

要請内容
1)大学の教育・研究に資する高等教育予算のGDP比率が先進諸国水準を大きく下回っていることには、大学評価にあたっての基礎的条件が大きく損なわれていると言えます。早急に先進諸国並の水準を実現するよう求めます。具体的には、今後数年の間に、GDP比率1.0%の達成に向けての数値目標および年次達成目標を設け積極的に取り組んでもらいたい。
2)「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」(1966年12月国連総会採択)第13条2項Cの「高等教育における無償教育の漸進的導入」に対する日本政府の留保をすみやかに撤回し批准してもらいたい。
3)また、上記の留保撤回と批准の後、国公私立大学の現行納付金(入学金、授業料等)の「漸進的無償化」にむけての年次毎の数値目標が設定され、それが実現されるような行政上の具体的な措置を講ずることを求めます。

以上